ストーリー051 今しかない!
ストーリー051
二十八號手記 今しかない!
~手首を決められ投げられた!~
真凜さんと一緒に海の見える高台を目指した。
これまで何度も、色々な状況で、色々な場所を二人で歩いてきた。特別な今日のこの散歩も、いつかそんな思い出コレクションの一つになるのかも知れない。
でも自分は何だかモヤモヤしている。
大和一郎氏の奥様に会いに行き、自分のことを告白する。
3か月間、真凜さんとも離れ離れになる。
帝国軍のトップ、能島中将に会い、帰化を願った。
いろんなことがあり過ぎて、頭が正直パンクしそうなのだ。
初夏の強い日差しが揺らめいて見える。とくに『こなた』に来てからはおしゃべりな自分だったが、今日は何を話していいのかもわからない。彼女もまた少し緊張した感じに見える。
気が付くと緩やかな坂を上り、異国情緒あふれる街並みにいる。今までも洋風の建物はそこかしこにあったが、ここは完全に欧州そのものを切り取って持ってきたかのような街だった。『かなた』の神戸と全く同じ、異人街とでも言おうか。そんな場所だった。まるで、拠り所のない心が、はるか遠い場所を放浪しているかのようだ。
道路脇にぶら下がるように、小さな公園がある。公園と言っても花壇と言い訳程度の木々、何組かのベンチがあるくつろぎスペースだ。ちょうど眼下に海も見える場所だ。景色がいい。そのひとつに真凜さんは腰かけ、トントンと自分の横のスペースを叩いた。座れってことね。彼女の隣に座ろうとしたら、なぜか手首を決められた!
えええ?
ふわっと投げられて、自分はベンチに叩きつけられ・・・
はしなかった。
弾力の良い、気持ちよい枕にドスっと落とされる。
悪戯娘の顔が形よく突き出した胸の間から覗いている。
・・・・
自分はいつのまにか、彼女の膝に頭を置いてベンチに横になっていた。
屈強な軍人らしい?!謎の必殺技。
世界一乱暴な膝枕だった。
でも・・・とっても心地いい。
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~彼女の家族は~
膝枕をしながら、自分の頭を撫でながら、彼女は言う。
「泣いてもいいよ。タケル君。だって、タケル君は外国よりも遠い所に来て、一人ぼっちなんだもの。同じ日本かも知れないけれど、それは遠いところ。それがタケル君が苦しんでいる全ての原因だから。」
日差しが優しく降り注ぐ。
自分の夢の国はここにある。
「ありがとう。確かに寂しいのかも知れない。所々思い出せない『かなた』の自分の事。でも、今とっても幸せだ。」
「本当に?無理して言ってない?」
「はあっ。勘も良さそうなのに、たまに鈍いな。」
「むーっ。そりゃ私、ちょくちょく宇宙人扱いされますわよ。」
変な顔をする彼女。
かわいい。
何だろうこの、ドキドキもリラックスもある矛盾は。
「ねぇ、何か話してよ。『こなた』のこと。」
「私の故郷・青海の事は話したわよね?じゃあ、今度は私の家族の事。」
彼女は語った。青海で洋食屋を営んでいる両親。年の離れた弟、妹の事。両親は青海に留まり、地球連邦の支配下に置かれている。一方、弟、妹は青海県の北部、能登半島に疎開している。そこには青海県の行政も避難していて、連邦に抵抗している。それを支えているのが、帝国軍の第2師団だ。まるで、追いやられた小国が半島の先で抵抗を続けているような状況だ。
「真凜さんのお父さんもそのシルバーヘアーなんだ。遺伝だね。」
「遺伝って子供が親に似る仕組みの事よね?そう。家族の中でも、私と弟はこの髪色だから、お父さんの影響強いわね。お母さんはもっと深い色のシルバーだから、ちょっと色が違うのよ。妹の珊瑚の髪色はお母さん譲りなの。」
彼女は、自らの頬を流れ落ちる艶やかな触覚部分を弄りながら言った。
「『かなた』の『サガエ』さんみたいな兄弟構成だよね?」
「あ~あの、前に書いてくれた奇抜な髪形の女の人の漫画ね?」
「そう、それ。」自分が手でその形を示すと、彼女はジト目になって、「誰がサガエさんか!」とツッコミを入れてくれた。頭をツンツンと突っつかれる。自然と二人に笑いが生じた。じわじわとくる笑いで、どんどん増幅する。彼女の膝が笑いで揺れている。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
~僕の家族は~
笑い涙を拭きながら、彼女が聞いてきた。
「タケル君のご家族は、ご両親と妹さんだったわね?」
「そうだね。会社員の父とパートもしている母、妹ももう働いているね。」
喪失していることも多い『かなた』の記憶だが、核家族のことは思い出せた。
「妹さんも、もう大人なのね・・・って普通そうか。うちが離れているから、感覚が変になるわね。」
「そうだね。1歳違いの妹だから、むしろ真凜さんの一つ上になるのか。結構しっかりしていて、引きこもったりしたことのある僕はいつも彼女に心配されていたかも知れないな。」
「お兄さん思いのいい妹さんなのね。素敵。」
「確かにね。元気にしているかな?まさか違う世界の住人になってしまうとは。」
そう言うと、自分自身で寂しくなった。その気持ちは彼女にも感染したようで、寂しそうに言う。
「本当。ご家族に、私も会いたかった。」
自分も夢想した。こんな素晴らしい女性を両親に合わせたら、両親は何と言うだろうか。きっと腰を抜かさんばかりに驚くのじゃないだろうか。母さんは頼りない息子が男を立てたことに涙流すかもしれない。妹がはしゃぐ光景も目に浮かんだ。
「皆きっと喜んだと思うよ。狂喜しただろうさ。」
そう言うと、彼女は自分の頭を再びなでながら、頬を赤めてコクっと頷いた。
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~告白~
初夏の長い日も西に傾き始める。
覚悟を決めて会いに行こう、大和若菜氏、大和隊長の奥さんに。夕暮れの駅に辿り着いてしまった。
-十六夜-
神戸・三宮駅発、東京行きの夜行列車だ。16時間かけて終点の東京に辿り着くことから名づけられたとも聞く。神戸、大坂、京都の西の3都市で夕刻に客を拾い、日本海側の路線を使って夜通し走り、坂東地方、すなわち東日本の各都市へと客を降ろす形態の夜行列車だ。
自分が目指す遠野は、『かなた』の日本国で言えば、(岩手県ではなく)北関東の群馬県あたりに相当する位置か。『かなた』の本州島よりやや大ぶりな『こなた』の本州島、そのど真ん中辺りということになる。終点の東京よりも何個か手前の停車駅になるから、到着は早朝になる。
「十六夜」は8番ホームか。」
チケットを確認しながら、自分はやや迷子気味に歩いている。
「あ、あれじゃない?」
真凜さんが見つけて指さしてくれた。
一番外側のホームにハリー・ノッタ-が学園に乗っていきそうな、あるいは銀河の星々に走って行ってしまいそうな、素敵な汽車が待機している。見惚れるほどの高級感、ノスタルジックな美しさに気分が爆上がりになる。
「いーなー、私も乗りたかったなー。それに、本来ならしっかりついて行ってあげたかった。」
彼女の気持ちはありがたかった。でも自分がしっかりしないと。
ホームには旅立つ人とそれを見送る人のグループがあちこちに見られる。窓から手を出して差し伸べる女性と、それと手を繋ぐ男性。にこやかな笑顔で握手を交わす、アタッシュを持つ紳士と手ぶらの紳士。母子連れとそれを見送る老夫婦。様々な別れの情景、人間ドラマがそこに生まれている。自分達もついにそこに加わってしまった。
オレンジ色の夕陽が差し込むホーム。自分は真凜さんと向き合った。東に向かう車列。西から差し込む夕日が、向き合った二人の顔にくっきりと陰影を刻む。やや彫りの深い優美な顔が自分を見てほほ笑んでいる。
なぜか、
その時に、
「今しかない」
自分の奥底から声が聞こえた気がした。
「小此木真凜さん。」
「はい?」
フルネームで呼ばれて驚く彼女。
「僕の、山田驍のそばに、いつまでもいて欲しい。」
はっとして、口元を抑えた彼女。
その答えは飛ばされて・・・
カツッ
彼女の靴先が、一歩前に出る。
そして
ガバッ
と抱き寄せられた。
自分も無心で抱き返す。
「いつまでも、タケル君のそばにいます。」
重ね合わせた肌から、その声が心地よい振動になって伝わってくる。その振動を心の臓に受け入れて、目を閉じる。
「ありがとう。」
自分の言葉に反応するように、お互いの腕により力が込められる。このまま無限の時間、こうしていたい。このぬくもりを感じながら、いつまでも、いつまでも、こうしていたい。そう思った。
カチリ!
やけに大きな音で、ホームの天井から釣られた時計の分針が真上を指す。
ピ~ッ。
出発を知らせる汽車の警笛が鳴る。
夢の時間は終わった。
18時ちょうど、緩やかに汽車が加速しながらホームを滑ってゆく。名残惜しく彼女を手放して、急ぎ汽車に飛び乗る。自分の席に急いで荷物を置き、その窓から、上半身を乗り出す勢いで突き出した。一心不乱に手を振った。それ以外に小洒落たお別れは思いつかない。「行ってきます!」そう叫んだが、機関の上げる雄叫び、車列の軋む音、人々の声にかき消されて聞こえそうもない。
だから諦める。
彼女が見えればそれでいい。
でもその彼女の姿も夕闇の陰影の中に消え、やがて駅も遠ざかっていく。スピードを上げる列車からは、灯り始めた街の灯が数多の星々のように広がって見える。自分はついに、『こなた』の地で暮らすことを決意した。もはや本当に彼方の地となってしまった自分のいた令和の日本国、世界『かなた』。自分の異世界転移は出会いと別れ、決意の連続だった。でも後悔はしていない。
皆の、二人の、いや自分の帝国のために旅立つ。
そして、何があろうと、自分という存在に決着をつける。




