ストーリー050 目指すべきもの
ストーリー050
二十七號手記 目指すべきもの
~議会に願いを~
-日本帝国の国籍を希望しております-
その願いを聞き、皆の視線が自分に集中するのが分かる。もちろん否定的なものではなく、「そうだよね」、「でもどうしようか」
そんな答えを探すような、一緒に考えてくれているような、各々の気持ちを乗せた視線だと思った。
ただ能島中将の視線と自分の視線がその中心でぶつかり合っていた。今までのにこやかな表情から一転、彼女の目はとても厳しい色を含んでいる。ここだけ双方向に無言の会話が行き来しているかのようだ。
「帰化を希望するという事?」
やがて中将は口を開いた。
「はい。その一縷の望みを閣下に託しに来ました。」
自分も独学でこちらの社会のことを日々学んできたが、日本帝国においては、将軍は全て投票で選ばれた政治家の側面を持っている。そしてその長、幕僚総長である能島中将は、国防大臣を兼務する立場にあるのだ。なので、間違いなく国政に携われる立場ではないかと踏んでいたのだ。
「かなり厳しい話よ。世論も味方につけて、それで法的な整備、新法の設立をしていくとしても、課題はたくさんあるわ。たくさんあり過ぎる。第一にあなたは今大和少佐として暮らしている。それが大和少佐の願いだとしても、本来は認められない事。そして第二に、あなたを異世界の日本から来た転移者と証明する物がない。ある者はあなたを連邦軍のスパイだと思う事でしょう。」
「スパイ?そんな事ある訳ないじゃないですか!前線に立って、どれだけ死にかけたことか、そう言いたいです。」
「私たちはタケル君の事を信じているわ。皆をその能力で見事に助けてくれた。でも、内地にいる一般の人達から見たら、ただ一度の作戦に参加した異邦人、それも後方支援の兵として。」
自分は何とも言いようのない寂しい気持ちになった。
沈黙が
その場を支配する。
が、やがてそれを割るように声が上がる。
「せやったら、もっともっと、皆と一緒に戦場を駆け抜けたらええ。もう誰もが認めざるを得ないぐらいの、とてつもない戦功を幾つもぶち上げればええ。ちゃうか?」
中将の隣から
村上少将だった。
皆の視線が卓上から引っ張り上げられた。
「そうよ。タケル君なら、もっともっと強くなれる。」「私が一緒だよ。」「最強を目指せ、山田。」
皆からも熱い声援が送られる。
けど、塚原、最強を目指せってなんだよ。少年漫画かよ!顔がにやけてしまった。
それが感染ったように、中将もふっと笑った。
「皆、仲間意識が素晴らしいわね。わかったわ。私が何とかします。」
翡翠色の魅惑の瞳の奥に、水面で照り返す陽の光のような輝きが躍る。
「ありがとうございます。」
自分は卓上に土下座する勢いで頭を下げた。
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~技術の事、社会の事、政治の事~
異世界転移者、山田の普段の生活、上石見・般若間の戦いについての話など、話も尽きなかったが、自分のいた『かなた』や転移の話などは、能島中将、村上少将の両将軍の興味を特に引く部分だった。
「そうなんだ。戦艦も完全に機関だけで航行する時代なの?うちの艦隊は意外と帆で走っているかも知れないわね。機関部分なんて節約しまくって、どケチに走っているからねぇ。」
能島中将の話す通り、確かに船の型式などは近代の幕開け、のような時代を感じさせる。
「話を聞いていると、うちらの100年後でも、そこまで進歩しとるかどうか?ちゅうぐらいの差を感じるなぁ。」
村上少将は逆に未来に思いを馳せているようなことを言う。
「私もタケル君の話に出てくる道具や仕組みとか、よく分からなくて、色々教えてもらっているので、ほんと話題が尽きないですよ。」
真凜さんがそう言うと、将軍たちはニマニマした。
「こんな美人がそばにいたら、絶対に裏切る訳ないわよね。」
「ある意味美人局やなあ。」
ジョークとしてスパイのノリが続いている。「つ、つつもたせ?!」自分も真凜さんも真っ赤な顔で目を白黒させている。確かにそう見えなくもないだろうが・・・。それはさて置き、関係を勘づかれて既に恥ずかしい。話を遠ざけよう。
「純粋な科学技術だけを見たら100年ぐらい差があるかも知れません。でも、社会構造や生活水準全般を見てみると、私のいた世界『かなた』の日本国と大差ないように思えます。精神的な面で言えば、むしろこちらの方が満たされています。」
自分は転移後の事を総括してそう言った。
「まあね。ヒロ君の定義でいえば『こなた』でいいんだっけ?こちらの日本の私たちは、楽しいことには何でも積極的だからね。悪く言えば欲望に忠実とも言えるけどね。ガミガミ規制したり、禁止する人も少ないし。」
悪戯っぽくも妖艶な中将が言うと、まるで女神様から許されている娯楽、みたいな響きに聞こえる。確かに、飲酒も水商売も博打も、大人が節度をもって嗜んでいる風土がある。それが活気に多面的な影響を与えているようにも思える。ギチギチと息詰まるような規制が存在しない。それはとても裕福なことだ。
「こんな戦時下にありながら、皆さん『こなた』のほうが、人間として活き活きと幸せそうで、羨ましい限りです。」
真凜さんと一緒に少しずつ垣間見た『こなた』の日常、都市の活気、人々の優しさ、そのもとになっているであろう懐の深さ。それを思った。
「山田君と皆の勝利のおかげで、世の中の空気も変わったものよ。それまでは結構ヤバ目だったわよ。」
侵略が始まって早2年になろうとしている。青海県には、地球連邦軍の青海方面軍が侵攻。現在、県の7割以上が支配下に組み込まれた。未だ手の及ばない県北部、能登半島には青海県の行政が帝国第2師団と共に逃げ落ちている。もともとの県庁所在地である青海市は放棄され、そこに連邦軍が進駐してくる。今や青海市は連邦の青海方面軍の本部が置かれる重要拠点へと成り代わり、そこを起点に、隣県である播磨県の北部、新見や真庭も侵攻対象となった。そのプレッシャーは確かに半端ないものだったろう。
我々はその目論見を先日完全に粉砕した様子だが、次の敵の一手はどうなることか?青海市に駐留している連邦の旅団が新たに出陣して攻めてくるかもしれない。中将はその状況を見て悲観的に言うが、絶対に違うと思う。人々の活気が証明している。この希望の灯を消したくはないと思う。
「青海は今、どうなっているのでしょうね?青海に残っている帝国市民のことが心配ではあります。」
奏さんが発言した。
「正しくは分からないの。でも、こちら(帝国)側に避難してきた人や連邦軍の捕虜の話なんかを聞くと、そこまで酷いことはされていないらしいから、少し安心。真凜さんや奏さんたちの家族も無事に生きてるはず。」
それを聞いて、女性二人は少しほっとした表情になっている。
「勉強したところによりますと、青海方面軍は他の県に進攻した連邦軍よりも人道的だと言われているそうですよね。」
「すごいじゃない、勉強。青海方面軍を指揮する執政官、バヤンは少数民族出身の官僚としては珍しく出世した人物だそうよね。それ故か、本人の性質か、彼の統治は日本人に対しても徹底した融和政策をとっていると言われる。占領下に捕らわれる日本人たちも大多数が無事に生きていることが確認されているわ。」
懐柔的な統治。占領下にある日本人たちにも不満の色は薄いようだ。
「それは裏を返せば大変な脅威でもありますね。占領が長引けば、そのまま連邦を受け入れる日本人も増えていくに違いないでしょうし。そうなれば、占領された地域はいずれ日本帝国から分離して行きかねません。」
「山田君、鋭い。鋭いなぁ。だから、青海に関しては時間との勝負の側面もあるのよね~。」
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~停戦を望む意見~
「山田君はこの後、大和氏の実家に行く予定やったな。」
村上少将がふと言ったことで話の流れが変わった。
「はい。確か遠野、坂東平野の中心にある街で、広大な穀倉地帯の中心地だそうですね。」
自分が目指す遠野は、『かなた』の日本国で言うところの、(岩手県ではなく)北関東の群馬県あたりに相当する位置だと確認している。『かなた』の本州島よりやや大ぶりな『こなた』の本州島、そのど真ん中辺りだ。どこまでも遠く広がる平野、それがその名の由来だそうだ。
「我が国は質、量ともに圧倒的に高い農業生産力を誇っているわ。最も重要なのが坂東平野。もともと農産物は近隣の島国や食料生産が追い付かない国々にも輸出されていたのよ。その有力な輸出先のひとつが他ならない『地球連邦』。開戦以降、当然ながら取引は停止しているわね。そしてその食料が西日本へ届けられ、兵糧に変わっている。そのおかげで戦争が続けられる訳だけどね。」
「厭戦派の人々の中には、輸出の損失のことを考えて、連邦とは早く停戦をすべき、という意見も存在するそうですね。その停戦の条件を知って、びっくりしました。現在連邦に実効支配されている『青海』、『岩国』、『日向』を差し出して講和をするのが良い、と言う人さえ存在するらしいですから。」
自分は再び、勉強の成果を発揮する。
「我々が、そして殉職した数多の仲間が今までやってきたことは一体何だったのか?そう思いますね。」
塚原も少し熱くなった。
「それを聞いたとき、正直私も怒りのせいか寝付けなかったわ。それに、皆は分かっていると思うけれど、そのような譲歩が外交上の流れをいい方向に持って行くことは決してないわ。」
意外と熱い帝国軍のトップだった。
結局会談は延びに延びて、昼過ぎまでかかってしまった。お昼まで頂き、辞去したのは午後2時近かった。甲板から帽子を振る能島、村上両将軍や出て来た隊員たちに見送られて港を後にする。
「やっぱり素晴らしい船だった。」
かつて造船所時代に金剛を見た塚原にとっては感慨深いことだろう。サラリーマン時代の話は先日聞いている。
港から中心街もほど近い。神戸、三宮の街中に戻ってきた。
「俺、武具屋とか見に行きたいし。また連絡するよ。」
爽やかな笑顔で塚原が去ってゆき、
「私、大佐に連絡とか兼ねて手紙を書くから、宿舎に戻ります。なんだかんだ言って、3か月で戻ってくるし、また宜しくね。」
意外と良い笑顔で奏さんも去ってゆき、
真凜さんと2人きりになった。
自分の夜行列車の出発は18時。それまで二人でどうぞ。そんな気の使われ方だったのだろう。
「少し歩きますか。」
真凜さんに誘われる。
「高台に上って、海でも見てみよう。」
自分たちは歩みを進めるのだった。




