ストーリー049 異世界からの帰化希望者
ストーリー049
二十六號手記 異世界からの帰化希望者
~翌日の神戸港~
翌日、5月14日の神戸港も良い天気だった。早日も高くなった午前10時。水面は銀色の太陽光を照り返して淑女の絹のドレスの如く輝き、たなびいた。上から下から眩しい光を浴びて、その神々しいまでの美しさに目を細める。
自分の他には、小此木真凜、塚原醍醐、如月奏三人衆も着いてきた。女性陣はそつなく手土産の茶菓子なども持ってきている次第だ。
「ところでさぁ、なんで『水壁の女王』なの?」
着いてきた士官候補生たち、もとい自分にとってのプチ先生たち。歩きながら自分は他の三人に問いかけてみた。
「『トカラ列島沖の海戦』についてはタケル君は勉強しているわよね?」
逆に真凜先生が生徒タケルの学習状況を確認してきた
。
「うん。南洋艦隊が連邦軍の黄海艦隊を撃滅した歴史的な戦いだよね。」
「そうね。それによって連邦軍は制海権を失って、海上輸送や海からの帝国領への攻撃が全くできなくなったの。」
帝国側からの視点における海軍での有利と陸軍での不利、その均衡が両軍の均衡、泥沼の戦線を構築している。
「その南洋艦隊の随一の功労者が能島中将(当時は大佐)というわけね。」
奏先生も横から口を挟んでくる。
「それは分かるけど、その通り名みたいのが分からないんだ。まだ調べられていないだけかも知れないけれど。」
「ああ、『帝国戦闘記録』なら詳しいことが書いてあるかと思うよ。その時の状況、使われた能力なんかについても細かく記載されているからな。」
ついには醍醐大先生も参入する。
「そうと知ればより面白そうなんだけれど、もう間に合わないな。先にちょこっと教えてよ。『水壁』って何?」
「まぁ、後からちゃんと『戦闘記録』を読んでくれよな~。まぁ、そこだけは先に教えてしまうと、水を自在に操る彼女のもつ技というか、『能力』だな。まあ、弱い能力ならば、そこら中に能力保持者がいるんだけれど。」
「へ~~。その『能力』が勝敗を分ける程のものだったと。」
「それだけでもないけれど、一因ではある。」
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~色々とお知り合い~
なんやかんやと話しているうちに、お目当ての旗艦、金剛に近づいてきた。かけ梯子の袂に昨日の村上少将が待っているのを発見する。
「待っとったで。遠慮せんと上がってきいや。」
その声に招かれるがままにかけ梯子を登って、甲板に辿り着いた。
「少将閣下、我らの仲間内でもある小此木、塚原、如月の三名もご挨拶させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ええよって、おお・・・ヒロのところの奏ちゃんやないか。」
「お久しぶりです。うちのボスも相変わらずの感じですが、元気です。」
二人は既に既知の間柄のようだ。相変わらず・・・で伝わるんだ。
「はっはっは。研究職一色なんやろう。とするとそっちが真凜ちゃんか。」
少将は小此木の名から探り当てた様子だ。
「博文叔父の姪、真凜です。」
真凜さんが分かりやすく応じる。
「直接会うのは何年振りやろ。まだうちらがのんびりしてた頃、御父上のお店にも行ったことあるんや。まだ真凜ちゃん、高校生くらいやったかな。ごっつう別嬪さんになったやないか。」
「ありがとうございます。そう言えばいつだったか、叔父さんが沢山お友達を連れて来てくれて。閣下もいらっしゃったんですね。」
真凜さんは記憶を引っ張り出した。同期の仲の叔父さんと村上少将の事だから、そんなこともあったのか。なんだか親戚の叔父さんが増えたような感覚だ。少将が塚原曹長に目を向ける。
「塚原醍醐です。よ、よろしくお願いします。」
緊張してブルっている塚原を久々に見た。くくく。
「お会いできて光栄や。隊内が塚原君のうわさで持ちきりやで。けど、意外とスリムなんやな。もっとゴリゴリのいかついのを想像しとったわ。」
そう言われてみると、確かに上背はあるが細身の塚原はどちらかというとモデル体型だ。
「食べてもなかなか肉がつかない体質で。」
塚原は正直に悩みを打ち明ける。緊張も解けたようだ。
「筋肉つけようと思ったら、鶏肉や魚をしっかり喰うのがええ。よろしくな。」「よろしくお願いします。」
笑顔で大男同士が握手すると、なんだかアクション映画の好敵手同士みたいだなぁ。
「じゃ、船内のラウンジで話そうか。案内するわ。」
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~自分の意思は~
ラウンジに入るとボーイさんが紅茶を出してくれる。やっぱり遠洋航海とくれば、紅茶だよね。でも紅茶に手を付ける前に、真凜さんが手土産を村上少将に手渡した。
「おお、気ぃ使わせてしもて。ありがとう。」
少将も微笑む。こうやって落ち着いて見ると、少将は女性が「かわいい!」と言うような愛嬌ある風貌なのかも知れない。清潔感もある。
「もうすぐ、戻ってくるはずなんやけど・・・」
と少将が言いかけたところで、元気よくラウンジのドアが開いた。外の陽光を誘い込むように、ひとりの美しい女性が入ってきた。
「お待たせてして、申し訳ない。能島です。」
年齢不詳の、どことなくラテン風の香りのする美人に皆の目が釘付けになる。何というか、緑色の目にしても何にしても、説明しがたい魅惑を持っていると感じた。そのせいでテンプテーションを受けたのか、一瞬ぼーっとしてしまった。それは皆も同じようだったが、我に返った全員が一斉にがたっと席を立った。中将閣下の登場だった。
「失礼しました。山田です。」「小此木です。」「如月です。」「塚原です。」
コントみたいになってしまったので、改めてちゃんと挨拶する。
「そうでした。司令。皆からお土産ももらっています。」
先ほどの茶菓子を村上少将が差し出す。
「今日はカジュアルでいいわよ、ブンちゃん。皆も楽にして頂戴。皆家族みたいなもんだから。」
・・・・
「それにしても、皆がいっしょに来てくれて丁度よかったわ。山田君と皆が仲良く元気にしているのが分かってほっとした。」
そうにこやかに言って中将は皆を見渡す。
「なっちゃんも真凜ちゃんのことは覚えているやろ?」
村上少将が中将に話を振る。
「覚えているわ。確かお父様は青海でフレンチのお店を開いていたわね。真凜さんが学生の頃にお邪魔したかしら。」
「閣下もいらっしゃっていたのですね。光栄です。」
真凜さんが答える。
「おいしかったし、創意工夫もとても素晴らしかったわ。でも、本当に不思議な縁ね。その真凜さんを助けてくれたのが山田君な訳だから。」
「助けた部分もあり、助けられた部分もあり、なんとか一緒に帝国軍に帰還できました。あ、私は合流?参入?何と言っていいのか。それで、如月さんや塚原君にも日々助けられています。」
自分は仲間たちの事を披露する。
「大丈夫。ヒロ君から詳しく話は聞いているから。今のところはそれで行くしかないってことよね。でも、今後を考えると、いずれはキチンとするべきかもしれないわね。」
「以前、小此木中佐を含めて話した時に、『今の法律では、異世界転移者の身分についての取り決めが全くない』ということが問題だろうという事になりました。それで、大和中尉の立場をそのままお借りしているという状況なんです。」
「うんうん。とても難しい状況ね。でも何とかしてあげたいわね。ただ、本人としての意思を聞いておきたいわね。」
自分は振り返った。
大和中尉から「後を頼む」と言われた。
後継者になることを決めた。
後継者とは?
『こなた』で生きていく中で、欲しくなったものだってある。
菫色の目と一瞬目が合った。
異世界でひとりぼっちのままではいたくない。
欲しいのは本当の家族、仲間・・・
自分は、自分は。
「私は、転移してきたあの場所で、亡き大和隊長の声を聴きました。『私の代わりに生き抜いてほしい。皆を護ってやって欲しい。』オカルトなことかも知れません。死者の声を聴いたなんて話。大和隊長になりすますための作り話だ、なんていう人もいるでしょう。それでも本心から私は『こなた』の日本帝国の力になりたいのです。そしてそれは自分の為でもあります。」
真凜さんと再び目が合ってしまった。その目線に中将は気付いた様子だった。
真凜さんと自分の逃避行、日々の能力開発、訓練、農耕作業を共にした仲間たち。上石見・般若間の戦いを共に生き抜き、ここにいる。いつの間にか、第11師団が、皆が、自分の居場所になりつつある。そんな思いがこみ上げるが、続きが出てこない。
「いいわよ、続けて。」
優しく女王は促す。それですんなりと言葉が出た。
「私は日本帝国の国籍を希望しております。厚かましい願いではありますが、山田驍として、帝国の臣民となりたいと考えております。」




