ストーリー048 スキヤキ!
ストーリー048
二十五號手記 スキヤキ!
~『こなた』の神戸~
時代背景で言えば明治時代かもしれない。分かりやすく言えば、明治時代の撮影セットに自分が迷い込んだような感覚だった。ただ、人々の自由な熱気は『かなた』の、現代的な感覚とそう隔たったものではなかった。都市を動かす熱気、人々の幸せ、幸せを願う心。その全てが『かなた』の日本国となんら変わりなかった。自分は今、名前も大まかな位置関係も、そのまま共通している大都市、『こなた』の神戸に降り立ち、その中心街を歩いている。
通りを渡り終えたお爺さんが腰を叩いている。馬車を見てはしゃぐ子供、その子の手を必死で掴むお母さん。並んで歩く学生の群れ。髪色などはやはり色とりどりの印象だが、和洋折衷の人々の服装は歴史もののドラマ作品などで見る明治時代のものとほぼ変わりない。思えば、明照という元号もどこか明治と似ている。行き交う馬車、荷車、大荷物を運ぶ運搬業者たち。どこにでもある活気にあふれた日常。人々の顔は生気に満ちており、帝国が瑞々しい生命力を保っていることを教えてくれる。
「お兄さん。お兄さん。ごっつええニュースや。見てみい。第11師団、奇跡の勝利。『新たな英雄の誕生』や。3円80銭、残り少ないでぇ。」
道端で雑誌や新聞を売るおっちゃんのビジネストークに乗せられて、雑誌を買わされた。でも実際どう書かれているか本気で気になる。いわゆるエゴサーチだ。
「タケル君のお人好し。気を付けねーと、あかんわよ。」
真凜さんがインチキ関西弁で注意してくる。まぁまぁ、堪忍やで。
この中心街、三宮から、三人組の向かうべき士官学校、須磨の浜は馬車で南西に5㎞程行ったところだ。対して自分の目的地、能島中将のいるであろう神戸港は真南に1㎞かそこらだ。三人組は士官学校で手続きやら、宿舎への荷物の運び入れやら入学に向けて色々とすることがあるだろうし、時間も少しかかるだろう。自分がするべきことは取り急ぎ、能島中将との面会、そのアポイントを取ることかな、と思われる。すぐに終わるだろう。
それで皆とは一旦別れ、あとで士官学校に赴いて合流することにした。
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~ビッグな男との邂逅~
神戸の街は南北に狭い。南に下っていくと港はじきに見えてきた。軍港は?って探す必要もないぐらいデカデカと戦艦が並んでいる。大東亜戦争当時の巨大戦艦と比べて、かなり小ぶりで、かなり古い時代のものに見える。検問の衛兵は軍属の自分を遠目で既に見ていたのか、向こうから寄って来て滅茶苦茶愛想よく通してくれた。
さて、それら戦艦が横付けされているが、どれがその旗艦、「金剛」とやらなのか分からない。似たような型式の船が集結しているせいだろうか、どの船も一向に同じに見えて、見分けがつかない。帆船と汽船どちらでも行けるような型式。フリゲート艦とかなんとか・・・そんな奴か。そんなことを思い出しつつ、より注意深く観察していたら、側面のペイント画が特徴的な戦艦が目に入る。
ダイヤモンドを抱えた妖精女王ティターニアが左舷いっぱいに描かれた戦艦が停泊している。
ダイヤモンド・・・金剛石。これか?
それ以外の戦艦にはそのような目立ったグラフィティーはないようだ。自分は辺りをつけて、その戦艦に近寄って行った。ちょうど船のかけ梯子から、いかつい中年の将校が下りてくるところに出くわした。四角い、がっしりとした輪郭。おでこに刻まれた浅い皺は日焼けによるものか。浅黒い肌で、我慢強そうな唇を真一文字に結んでいる。いかにも海の男という風貌だ。年齢は、少なくとも自分よりは上だろう。ひょっとしたら中将と同じ船の人と思われるので、聞いてみることにする。
「こんにちは。私は第11師団の大和一郎と申します。能島中将にご挨拶に伺いたく参りました。まずはどなたにご連絡しましょう」
『こなた』の世界、日本帝国に来てまだ2ヶ月弱。軍属としての礼儀にかなっているのかも分からないが、賽の目は振らなければと頑張った。ところが将校の反応は予想外だった。
「おお、君が山田君か。」
この反応が来るということは、この人も叔父さんこと小此木大佐の「仲間」「一味?」と考えねばなるまい。
「はい。小此木大佐にはいつも大変お世話になっております。」
「ヒロから話は聞いてるで。能力開発とやらも、ものごっつぅ頑張っとるそうやないか。あ、申し遅れて、ほんまごめんな。村上文吾や。よろしゅう頼むわ。」
岩石のような手を差し出された。この方がブンちゃんこと村上少将か。
「宜しくお願いします。もし可能でしたらば、中将閣下に本日夕刻もしくは明日に少しお時間を頂くことなど、可能でしょうか。」
「せやな。こちらこそ待っとったで・・・なんやけど、なっちゃん、今日は鈴蘭台に登っているさかいなぁ・・・」
そう言って、村上少将は北にある山並み、六甲の山並みを仰ぎ見た。
鈴蘭台は神戸以東を守る帝国の最終防衛線として巨大な要塞が築かれている。その一部は山並みの南側、六甲側まで張り出している。トーチカのような白や灰色の軍事施設らしきものが山並に見受けられる。おそらく、下の神戸港と連動して陸軍の物資などを貯め込む基地にもなっているのだろう。勉強したところによると、近年、連邦の兵士を収監する、監獄も併設されているそうな。
「よし、明日の午前中。10時になったらまた来てくれや。なっちゃんには俺の方から伝えとくわ。」
「よろしくお願いいたします。」
「おう。」
彼は力強くのしのし歩いて、隣の戦艦のかけ梯子を登り、中に入っていった。改めてみると、やはり将軍の貫禄がある。艦隊を総指揮していてもおかしくない。偶然に邂逅した村上少将のおかげで、無事アポも取れたし、帰って皆と合流しようか。
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~保護者による士官学校参観~
梅雨の訪れの気配も遠く、五月のさわやかな風が須磨の浜から上がってくる。心地よい風が、換気のために少し開けられた窓から入ってくる。
自分は士官学校の教室など各施設を、スキンヘッドのおっさんに案内されている。彼は五十嵐少佐。この士官学校の主任教官だ。太い眉毛と濃い目の顔のパーツ、とんがり頭もスキンヘッドに似合っている。固太りで、あまり余分なものをつけている体系ではないが、「好物の明石焼きを食べ過ぎた」と言われる腹回りだけが、少し立派だった。今回のクラスチェンジ大作戦で、編入生たちの指導を任されることになったのも彼だ。
「小此木曹長と塚原曹長は大和少佐の部下たちでしたね。責任をもって指導させていただきますので、何卒ご安心ください。」
同じ階級とは思えない慇懃ぶりだ。こちらはなんだか保護者になったような気分だ。子供たち、もとい三人組とは先ほど宿舎で合流したので一緒に見学して回っている。
「こちらの施設では、普段は新米の士官を育成しているのですか?」
なかなか見学できる施設でもあるまいし、ここぞとばかりに質問してみる。
「ええ。先月、4月3日に第28期生が入校しました。まだほんのヒヨッ子です。彼らには1年かけて士官となるための教育をここで薫陶します。」
「それを編入生向けには3か月に圧縮している訳ですから、なかなか大変ですね。」
「確かにそうです。ただ、今までも少人数ですが、推薦を受けたものはこうして編入してきた歴史があります。心配はご無用です。」
まぁ、現場で叩き上げてきたのだから、免除される学科や実地訓練も多いだろう。そう思うことにした。おそらく、これから入学する三人衆にも十分乗り切れるだろう。一通り回り切ったのちに、少佐にお礼を言って学校を後にする。
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~異世界居酒屋・・・でなくスキヤキ屋~
皆を景気づけるため、飲みに誘った。一足先の入学祝いのつもりだ。三宮に戻り、程よい感じの居酒屋(?)の暖簾をくぐる。それとも和食の店だろうか。こぎれいな店の中は、それなりに客もいるが、全体的に上品な人々に見える。出てきた質の良い緑茶を啜りながら目を細めたが・・・
メニューを見てぶっ飛んだ。ここは神戸牛のすき焼きの店だった。『こなた』の世界でも高級ブランド牛に違いはないようで、お値段もお高い。女性二人は良いとして、そこの大柄な男はいったいどれだけ食べることやら。予想に違わぬ大食らいであることは、これまでの付き合いで知っていた。昨日のキャンピングの時にも、山のように食っていやがったな。
じっとりした目で塚原を見た。
「君、結構燃費悪い系だよね?ちょっと店を間違えたかな~?」
「あれ?隊長。私の剣術指南役の負担がどうこうと心配してくれていましたよね。」
ぐっ、昨日の会話をよく覚えていやがるし、それを持ち出してくる。記憶力を含めて頭がいいというのも厄介なものだ。奴はがしっとメニューを掴み取り、ふんふん鼻歌を歌いながら見ている。重量級の尻を上げる気は更々ないようだ。
「そうよね~。隊長はこれから大変な3か月を過ごす私たちを鼓舞するために、こんな素敵なお店に連れてきてくれたんですよね?」
横から奏さんが煽る。こんな時だけなんだ、みんなして「隊長」とか呼んで。だいたい自分は奏さんの隊長でも何でもないのだ。
「おごっちゃいますか?タケル隊長。」
奥様?真凜さんがにこにこと、背中を押してくる。自分が出費すると将来の夫婦の家計が・・・とかセコいことを考えない剛毅な性格だと思う。いやいや、自分がケチだったと後から反省した。塚原も奏さんも、もはや友達かも知れないが、いずれも大恩人だ。自分は入学祝を奮発して、皆に喜んでもらえて良かった。旅費が少し心配。足りる・・・よね。
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~買わされた雑誌でエゴサーチ~
スキヤキで幸せいっぱいな気分で宿舎へ戻って来た。三人衆が掛け合ってくれたことと、五十嵐少佐の好意もあって、自分も今晩は宿舎のゲストルームに泊まれることになった。そこに皆が押しかけてきて、だべっている。まるで会社の新人研修か何かのようで、とても楽しい時間だ。
ふと、真凜さんが思い出したように言った。
「そういえばさぁ、タケル君がお昼に街頭で売り付けられていた雑誌、読んだ?」
「忘れてたよ。この辺に入れたはずだ。」
自分は荷物を漁った。どことなく手作り感も漂う雑誌が荷物の合間から出てきた。幾つかの面白そうなコラムもあったが、まずは当然、11師団の話だ。
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「第11師団、奇跡の勝利。新たな英雄の誕生!」
先の5月3日、播磨県西部、上石見から般若山麓にかけての地域で、わが帝国第11師団の精鋭2000が連邦第7旅団の4000と交戦。帝国に圧倒的な勝利をもたらした。わが軍の損害は極めて軽微だったのに対して、敵軍は壊滅的な打撃を受け、旧青海県、横田に撤退した。わが軍の地の利を生かした伏兵戦によって、敵軍は満足な反撃をすることもできず撤退を余儀なくされた格好だ。全軍の指揮を補佐した鞍馬中佐はそう振り返る。
もともと士気の高かった敵軍第7旅団に慢心があったと評価する関係者もいる。本作戦の実質的な立案者である小此木博文大佐(作戦当時は中佐)だ。その慢心を突く戦い方として、今回の伏兵戦はベストな選択であったとも言及する。
そのような戦略的な勝利の中で、数々の英雄たちも誕生している。特筆すべきは、最終的な局面において一騎打ちに勝利した塚原曹長だ。彼は敵軍の大隊長、楊許昌少佐を一騎打ちにて下し、捕虜とすることに成功している。隊内からは彼のことを「国士無双」とあだ名して呼ぶものもいるが、誠に納得のいく話である。
それ以外にも今回の作戦においては女性隊員の活躍も目覚ましかった。30以上の敵兵を撃破、あるいは捕虜とした桃瀬大尉、敵暗殺部隊の特殊兵を捕虜とした九条大尉、敵軍大隊長を含め多くの捕虜獲得に貢献した小此木曹長(作戦当時は軍曹)などだ。彼女たちを見守り、その活躍を支えた面でも先の小此木大佐や大隊長の米田中佐(作戦当時は少佐)が評価されるのは当然のことである。
様々な才能の芽吹く第11師団、第4連隊に今後も期待したい。
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記事はここで終わっていた。
決して悪い内容ではなかったし、広報からの情報をしっかり纏めてくれていて分かりやすい。ただ、一部誤報もあった。また彼らの知り得ない、これ以外の多くの活躍も現場である戦場にはキラ星の如くあったのだ。
何とも言えない微妙な気持ちで、雑誌の紙面を見つめている。
「タケル君と私、全然紹介されていなかったね。」
憮然と奏さんが言う。奏さんと自分はお互いに情報担当、縁の下の力持ちという訳か。
「それですよ。本音を言うと残念の極みですよ。」
自分も正直に気持ちを吐露した。
「縁の下でしっかり頑張ってくれた人、いっぱいいたのにね。奏さんも、諜報部員の皆の活躍もすごかったよ。そして誰にも譲れないエースはもちろんタケル君だと思うわ。」
真凜さんが慰めてくれた。
「小此木中佐が描いて、その下地を山田が作り、その上で俺たちは戦った。戦えたと思う。だから皆の勝利だ。一番とか言われたこの俺が自信を持って言えることさ。」
塚原がフォローする。
「ありがとう。僕ら演出家も浮かばれるよ。」
「演出家って~」ツッコミが入りつつ皆で笑った。良き仲間たちに囲まれて、心が軽くなる。自分も、いつか、いろんな立場で頑張っている人々を評価してあげたいと思った。その時は、まだはっきりとは分からなかったが、いずれそんな小さなことの数々が、大きな流れとして歴史を変えていく予感がした。




