ストーリー047 帝国領、その内地へ向けて
ストーリー047
二十四號手記 帝国領、その内地へ向けて
~予定を考えますと、急がねばならないのであります~
会議の日から4日後の5月12日、親しい仲間たちと共に自分、山田驍は新見駐屯地を後にした。特別休暇をもらった自分は、大和一郎氏の奥さんである大和若菜さんに会いに行くために、氏の故郷である東日本の遠野を目指す予定だ。一方、仲間たち、つまり小此木真凜、塚原醍醐、如月奏の3名は神戸、須磨の浜にある士官学校に編入学するために駐屯地を一時去ることになる。別々の目的だが、途中の神戸までは同じルートだし、出発日も一緒なので、共に出掛けることにした。
「タケル君、大丈夫なの?昨日も夜遅くまで頑張っていたんでしょ?」
真凜さんが心配して聞いてくる。
「まぁねぇ。朝から辛いよ。新しい能力開発に11時過ぎまでかかってね。帰って寝たのが1時過ぎだったかな。」
ともすれば、他の3人に遅れがちになりながら、自分はついてゆく。
「せっかくの機会だから、しっかり歩行訓練しないと、一向に基礎体力が皆に追いつかないわよ。」
爽やかな笑顔で言うものの、奏さんは厳しい。(泣)
「しょ、精進しますぅ。」
自分はしょぼくれた。
第11師団の本部がある津山からは汽車が出ているが、新見から津山は徒歩で行くしかない。約60㎞、東南東に物資輸送用の線路だけが延びている。貨物に紛れて移動したら楽だったが、訓練を兼ねているならば仕方ない。そう前向きに考えたかったが、体は思うほどついて来てはくれない。
若い女性2人、男性2人で、トレッキングみたいなもの。そう舐めてかかっていた。能力開発の緊張感が収まらなかったせいもあるが、昨晩は楽しみでなかなか寝付けなかったので、少し寝不足で調子が悪いまである。
「そういや、俺たちとは神戸まで一緒に移動して、その後、山田はどうするんだ?」
助け船みたいな感じで、塚原が聞いてくる。
「能島中将に明日か明後日にのどちらかで会いたいんだ。明後日、14日の夕刻には夜行列車で神戸を出発する予定だな。逆に皆はどうするつもり?」
「じゃあ、皆でついて行っちゃいましょうよ。私達だって3日後の入校式までは時間があるから。」
真凜さんは発想の自由度が高い。
「真凜ちゃんからしたら、親類の大の友達なんだしね。」
奏さんが関係性を再認識させる。よくよく考えなくても、確かにそう言う事になる。叔父さんと能島中将は同期の桜だった。
「奏さんだって、叔父さんの秘書みたいなものだから、お互いに『お世話になっております~』って感じになるじゃない?」
真凜さんが逆に奏さんのことを指摘した。
「そう言われてみれば、そうね。油断するところだったわ。ありがとう。」
そう言って、奏さんはにっこり笑った。
そんな感じで朗らかに歩いてはいるが、非常に忙しい予定実現のために歩行速度も速い。できれば明日、13日の早い時刻には神戸に着いておきたい・・・って自分の希望なのだが。一体今日は何km歩かねばならないのだろうか?とほほほほ・・・
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~異世界がっつり農家~
しばらく行くと、上石見のように破却された集落に到着した。豊永という名の集落で、第4大隊の人たちが農作業にあくせく精を出している。皆朝早くから元気に、楽しそうに作業している。生き生きと皆に指示している女性がいる。作業服というか、少し可愛らしい私服にも見えるが・・・つばの広い、こだわった形の麦わら帽子の下、縦巻きロールに目が囚われる。九条恵梨香大尉だ。
「あ、大和少佐!こんな朝から、行軍訓練ですか?」
手を振りながらこちらに近づいてくる。ちょうど休みたかったようですね。
「いえいえ。後の皆はクラスチェンジ大作戦です。僕はちょうど実家に急用が出来たんで、一緒についてきました。」
「そうですか。うちの隊からは誰も選ばれなかったので、つい忘れていました。すぐなんでしたっけ?士官学校への編入学。」
瀟洒なタオルで首筋の汗を拭きながら、皆を見渡した。如月さん以下、三名からするとかなりの上官だから、皆はビシッと敬礼、挨拶して整列した。
「入校式が3日後の予定ですね。」
「懐かしいなぁ。私は目立っていたから、学校じゃ目をつけられちゃって、滅茶苦茶扱かれましたけど。」
こうやって見ると、気のいいギャルみたいだな。やっぱりギャルに対して教師は厳しいのだ?!
「教官殿は厳しいんですか?何か曰くがありそうですね。」
「そおなんですよぉ。やっぱり五十嵐教官は厳しかったです。私を目の敵にしてきて。あんの禿げ頭!」
九条大尉は軽い私怨にギャグを混ぜ込んで言う。座った眼で虚空を見た。それを見て皆がケラケラ笑った。どんな教官なんだろうね?
「では、僕は田植えの頃には戻っていますので。頑張ってください。」
あまりいつまでも油を売ってはいられないので、先を急ぐことにする。
「いってらっしゃ~い。」
元気な九条大尉の声を背に歩き出す。
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~キャンプ・ファイヤー~
それから午前、午後とかなり頑張って、一日で全行程の2/3以上を踏破することに成功した。夕闇が迫るころ、自分たちは野営地を決めた。ちょうど津山盆地の中央に相当する平地、そこに一段高い丘がある。まばらに都合よく生える松や栗の木などの木々から察するに、人の手の入った里山だったのだろう。下土もからっとして心地よい。周囲に人のいる村落がないことで、盆地の中央一体は漆黒の闇だ。
遠く新見、真庭、津山からのみ、街の灯が見える状況だ。
やはりここは戦地なんだ、と一瞬感傷的になり、暗くなりかけた気持ちを一変してくれる素敵なものを見上げた。満天の星空だ。初夏の天の川が天蓋を覆いつくして、雄大に横たわっている。
ほえ~。これはこれは本当に素晴らしい!
「綺麗ね~。いつまでも見ていられるわ。」
そう言ったのは奏さんだった。皆が天体の神秘に吸い込まれた。
「今夜はこれを見上げながら寝るのも一興だな。」
塚原が粋なことを言う。
「じゃあ、テントから首だけ出して寝れるように設営しましょう。」
真凜さんも乗り気だ。皆で準備に取りかかる。
その後、持ってきたおにぎりを網の上で焼いて、夕食にした。外で食べると、こんな単純なものでもとてつもなくおいしい。グルメの真凜さんは、チーズやベーコンなども持ってきており、それも同じく焚火で焼いた。我ら男性2人にはとくに大絶賛だった。彼女は実家が洋食屋さんだからか、こんな食材についても良く知っている。まさに最高のキャンピングになってしまった。
食後のコーヒーを嗜みながら、再び満天の星空を見上げた。友と見上げる星空、なんだか懐かしい光景のように思ったが、今は思い出そうとするのはやめよう。先日の雨の日の夢など、色々な過去が気になってくる。
「そういえば、塚原、まじで悪いな。剣術指南、全部任せちゃって。」
独りで考え込まないように話し相手を作った。
「いいってことよ。大和少佐こと山田の代わりに女性陣、桃瀬大尉や九条大尉も来てくれるのさ。ずいぶん助かってるよ。」
以前は剣術に秀でた大和、塚原両名が剣術指南役として若い隊員の稽古を世話していた。だが今やその「大和」はいない。剣道初心者の山田は能力開発を理由に、剣術指南役をうまく逃げていた。塚原一人に負担がかかっていると思っていたので、安心した。
「タケル君はまずは私を倒さないといけないからね。」
真凜さんがニッと笑って横から口を挟む。実際その通りだった。自分自身は、ここ最近は真凜さんに稽古をつけてもらっているのだ。最弱王はこの優しそうな曹長殿と互角以上にわたり合えないと、次のステップに進めない。その真凜さんですら、「私、弱い方だから」というのだから、先は長い。
「能力でインチキしないと無双できない。」
そう言うと、皆が大爆笑した。
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~汽車ポッポ~
歩き疲れていたせいか、折角星空を見上げて眠るつもりが、一瞬で眠りについていたらしい。次の日の朝、塚原や真凜さんに相当に弄られた。やはり他の皆はがっつり鍛えられているらしい。1日に40㎞も荷物を背負って歩いたというのに、全くもって平然としている。うむ。とてつもない強兵だ。
横にいる真凜さんが「あれがデネブ、アルタイル、ベガ~。」とか歌いながら歩いている。あの歌、教えてあげたんだっけか。星空、堪能できて良かったねぇ。こちらは即死だったよ、とほほ。共有できなかったことに悔しさと情けなさを背負いながら歩きつつ、街がすぐ目の前まで迫っていることに気付いた。やっと辿り着いた。津山だ。賑やかな街並みを抜けて中央駅に着いた。
懐かしのSLが自分たちを待ってくれている。『かなた』ではとっくに観光地でしか見かけない代物だが、『こなた』では当然現役というか、むしろ最新鋭の文明の利器だ。乗客だけでなく、ただ単に見物に来ている人間も多そうだ。師団本部があるだけに、一般人も新見とは比較にならないぐらい多い。
「店も多いわね。非番の日は退屈しなさそうで羨ましいわね。」
「何でもありそうよ。第一連隊の人が羨ましいわ。」
女子たちは勝手なことを言っている。
それでもここもまだ戦地。子供や老人もいない、軍属が基本の人工的な街だ。
だからSLに乗車すると、にわかに心が躍った。
終点の神戸が戦地と内地(戦火の及んでない地域)の境界だ。
いよいよ本来の「日本帝国」を見ることが出来る。単なる休暇の態ではいるが、今まで戦地にしか居なかった自分にとって、この上ない大切な経験になるだろうと予想できる。
4人掛けのボックス席に皆で腰掛ける。一人どでかい奴がいるので、少し窮屈に感じるが、それも一興。自分の前には奏さん、横には真凜さんが座っていて、相変わらずおしゃべりに花を咲かせている。
ピーッ。
発車の汽笛が鳴る。うーん。何てノスタルジック。
ゆっくりと走り出す車体の揺れが堪らない。流れゆく美しい景色に誰もが見惚れる。様々に拡がる色とりどりな緑。
こんなに美しい国は世界に二つとあるまい。
その懐に抱かれるように、いつしか自分は微睡の中にあった。




