ストーリー045 なっちゃんに会ってきなさい
ストーリー045 第二十三號手記 なっちゃんに会ってきなさい
~みんな昇進、どんどん昇進~
昇進の辞令は、お祝いというか、お祭り騒ぎのような雰囲気になった。イエーイ。ウェーイ。そんな囃子声も聞こえてくる。隊内は陽気で現代っぽいノリに近づいているように感じる。普段は色んな規則や理念に縛られて怖い思いをしているんだから、こういう時ぐらいはいいのかも知れない。
本当に驚くことに、自分はトントン拍子で昇進していく。気付くと大隊長。千人の兵を率いる隊長だ。『かなた』の世界の古代史で、大将軍を目指して奮闘した少年がいた。その少年、李信がなかなか辿り着けなかった地位だ。そんなステージにわずか2ヶ月足らずで到達してしまった。英雄大和一郎の地盤は恐ろしい。
議題 士官の不足、その補充について
軽いお祭り騒ぎが収まったころを見計らって、藤堂少将は再び会議を再開した。彼は言う。
「師団内では人手不足が慢性的になっている。本来であれば、各部隊の隊長職をするだけでなく、作戦の立案や、様々な補助的業務を担当する士官がもっと必要である。だが、数々の戦闘で幾多の士官を失い、第11師団はそもそも人材が不足している。銃撃戦が戦場の中心となりつつある昨今、遠距離からの狙撃などで士官が命を落とす危険性はどんどん高くなることだろう。万が一隊長を失ったとしても、その後に戦闘を継続できるよう、隊長の代理を出来る、いわゆる副官が必要とされている。」
確かにこれまでの激戦で、士官の殉職者も次々と出ている惨状だった。
「でもですよ。士官学校の卒業生である新米の少尉たちが赴任するのを気長に待っていたら、津山盆地を占領されてしまいますよ。彼ら、来年の4月でしょ?そこまで待てません。」
そう言ったのは強面の蒲生少佐だ。
「それに経験の全くない新米の少尉たちが、我らが第11師団に大挙してやって来ても困ります。我ら第11師団の諸部隊も経験を積み、各隊員も自信をつけています。そんなところに新入りがやって来て威張るとなると、人間関係で軋轢を生みます。」
帝国特戦隊の近衛少佐もそんな懸念を述べる。藤堂少将の脇に座る黒髪ストレートの美人だ。下の名前の雪乃や冷徹な戦いぶりから、「雪女」のあだ名がついているんだったか。今や彼女は帝国特戦隊のエースの一人だ。今の意見からも分かるように、実は現場主義の熱い女性なのかも知れない。
「確かに未経験の隊長よりも、現場たたき上げの、しっかりした隊長がすぐにも欲しいと、誰もが願うところだ。」
藤堂少将はそれらの意見を纏めるようにして言う。
「乱暴かも知れませんが、下士官の最高位である曹長や准尉の階級にある人物をそのまま昇進させてはどうですか?」
我らが仲間、高梨大尉の意見だ。
そう言えば、この話とは関係ないけれど、高梨大尉をいつのまにか自分が追い越して、今や自分の部下になってしまった。変なことは考えないでおこう。上とか下とかない。単に管轄する範囲の問題だ。
「それでは現在の軍法を根本的に変えることになってしまいます。国会まで話が行ってしまいますよ。」
どうやら、その手の話に詳しい桃瀬大尉がそれを押し留めた。そのまま階級アップをすればいいと思った者はいるだろうか?
士官とは、インチキ士官の山田驍を除けば、皆士官学校を卒業している。曹長までの下士官と少尉からの士官の間にはこの士官学校という学歴が境目の川のように存在する。士官となるには、士官学校で、戦略、思想、科学・・・と数々の知識を叩き込まれ、軍を率いる人材として新たに生まれ変わる必要があるのだ。
一応第5大隊、第4中隊の中隊長である桃瀬大尉も自分の部下ということだ。だが、桃瀬大尉も最近自分の事をちょいちょい「タケル君」と呼んでいるので、真凜さんや奏さんと同じように、既に自分の正体を知っているのだろう。こうして親しい仲間たちから拡散するように、どんどん秘密が漏れているような・・・
「一応、根回しは出来ている感じなんだが、その曹長や准尉の階級にあるものの中から、昇進に値する功績を残している人物を軒並み士官学校に編入させる。彼らに短期間で士官としての教育を叩き込み、少尉として第11師団に戻すということでどうだ?名付けて『クラスチェンジ大作戦』」
おおお~。なんだ。元から考えてあるんじゃないかい。
藤堂少将肝いりの作戦、「クラスチェンジ大作戦」が今ここに発動した。ネーミングセンスはともかく、実に皆の納得のいく作戦だ。
既にリストアップまで済んでいる状況だった。回って来たリストを確認する。そのリストの中に、見知った名前を発見する。塚原醍醐曹長、小此木真凜曹長、如月奏准尉・・・おおお。親しい人達がぞろぞろと。そういえば、真凜さんは上石見・般若間の戦いでの多大な戦功が評価され、曹長に昇進していた。いかつい軍曹の肩書は発展解消だね。
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~編入。短期間とはどれくらい?~
「ところで、短期間とはどれくらいですか?」
誰もが思う疑問がどこからともなく出てきた。
「3ヶ月の予定とカリキュラムを組んでもらっている。来週、5月15日の編入・入学式でどうだ。8月には大量の士官を収穫することが出来るぞ。皆は間に合わせられそうか?」
そう、藤堂少将が答えつつ、逆に質問する。8月の収穫って、芋じゃないんだから、と笑ってしまった。
「すぐじゃないか。」「今抜けられると・・・」そんな本音も当然ながらある。周囲がざわついている。実働的な人員を手放して、本当に大丈夫なのだろうか?そう現場が騒いでいる。でも、これは本人たちにとっても、とても良い話だ。
「皆さん、お静かに。心配しないでください。」
少し眉をひそめて、近衛少佐がざわめきを押さえつける。近衛少佐が発言すると、皆は不思議と大人しくなる。
「どうしても必要な部署には、第1連隊から臨時要員を派遣しますので、どうか安心して対象者を送り出してあげてください。」
「いや、そんな。こちらで何とかしますよ。」
そんな感じで皆も大人しくなり、頑張ろうとするのだ。ちゃんと頑張っている人の発言には重みがある。
しかし、この忙しい中、急遽そんな大それたことを計画するなんて、藤堂少将の剛腕というかスピード感にも驚く。まぁ、下手したら帝国一の軍師かも知れない叔父さんも一枚噛んでいそうだ。叔父さんの顔を見ると、なんだか涼しげな顔をしている。やっぱりそうなんだな、策士が。策士なのに、芝居が下手過ぎて、バレバレで笑えてしまう。
あんなに頭が良くて、世界を見透かしているようなのに、まるっきりのお人好しで。
そんなアイツがあんなしょうもない事件で。
ぐあっ。
急に自分は頭痛を起こした。隣の席の士官が気にしてくれたが、自分は手で制した。これぐらい、もう、慣れた。やはり過去の因縁にはいずれケリをつけなければならないだろう。後悔したところで。誰かに何かを弁明したところで、死んでしまった親友は返ってこない。それが遠き世界『かなた』だろうと、この『こなた』だろうと。
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~山田驍としての決心~
会議は無事に終わり、三々五々、会議室から人々が去ってゆく。未だに会議室に残っている藤堂少将と叔父さんこと小此木大佐が談話している。日々の苦労話と昔話が混じっているのか、白い歯を見せながら談笑している。自分はそこにスッと近づいていった。相談したいことがあったのだ。そんな自分に藤堂少将が気付いた。
「大和少佐、ご苦労様。本当に少佐の力があっての全ての勝利さ。」
分厚い右手を差し出された。自分はその手を握り返して、言葉を返した。
「勿体ないお言葉です。私も、小此木大佐をはじめ、多くの方々に支えられて何とか能力を使いこなせました。」
「そうか、ヒロのやってきたことも無事に実を結んだ訳だ。よかった。」
少将の言葉からは叔父さんに対しての特別な親密さが感じられた。ヒロって。
「閣下と大佐はどのようなご関係でらっしゃるのですか?」
「あぁ、ヒロとは同期でね。ここまでも一緒に色々やって来たんだよ。」
それで腑に落ちる部分もあった。どことなく自由人で研究者みたいな叔父さんが軍隊の中でうまくやって来れた、その一因にはこの人の存在も大きいに違いない。
「そうだったんですね。叔父さんも太いパイプをお持ちだったんですね。」
そうジョークを言うと、少将は声をたてて豪快に笑った。傍らで、叔父さんは気まずそうに頬を搔いている。
「はっはっは。そうか。俺がコネクションか!違いねぇ。」
「勘弁してくれよ。タケル君」
と叔父さん。
「まぁ、それを言うなら、なっちゃんやブンちゃんも含まれるんだけどな。」
そう少将は付け足した。なんだか気さくな呼び名で呼んでいるけれど、どえらい人達なんだろうな、と思われる。
「タケル君、なんだか深刻そうな相談のようだね。真凜ちゃんと喧嘩でもしたのかい?」
叔父さんはすっとぼけたことを言う。
「違いますよ。仲良くやっています。」
「なんだ。じゃあ、特に何も問題ないじゃないか。心配したよ。」
「なんだ、じゃないですよ~。」
我々の肩の力の抜けた会話を聞いて、横の少将も興味津々だ。
「だから、そのことじゃなくて、ああ、真凜さんとも間接的に関係はあるんですけど、大和一郎氏の奥さんのことですよ。」
自分は少し声を落とした。周囲に人はいなくなったが、まだ気を付けないと。なるほど、そうか、と叔父さんも少将も頷いている。自分のことをあまり語らなかった、そんな大和隊長の性質もあって、彼が既婚者であることすら知るものは限りなく少ない。そのため現在、大和隊長になりすましている山田驍と小此木真凜曹長が付き合っているように見えても、誰も違和感を感じないわけだが・・・。
今のまま周囲を誤魔化し続けていて、それでよしとは決して思わない。自分は決着をつけなければならない。自分は頭の中でお二人に分かって貰えるよう、言葉を組み立てる。
「連邦の侵攻が落ち着いている今、しかないと思います。大和一郎氏の奥さんに会いに行きたいんです。奥さん含めて大和隊長の家族にも。そして少なくとも奥さんには本当のことを伝える気持ちでいます。」
本当に、1週間ほどかけて現場を手放すとすれば、今しかないと思った。先の2つの戦いで、我ら帝国第11師団と対峙している連邦の青海方面軍、第7、第6旅団は壊滅的な打撃を受けて、それぞれの拠点、横田、江府に息をひそめている現状だ。自分は当面の軍事行動はあり得ないと見た。
「そうだね。じゃあ特別休暇を許可しよう。そういうことでいいかな?」
少将がスパッと決断して言った。さすが、何でも速い。
「ありがとうございます。」
自分は目を輝かせてお礼を言ったに違いない。そして、そのままその場を去ろうとしたら、「あ~」と少将が何かを思い出しつつ
自分を呼び止めた。
「ついでに『なっちゃん』に会ってきなよ。途中、神戸にも寄るだろ?」
先ほどから皆愛称なので、誰が誰か分からない。まさかと思うが、
「『なっちゃん』って、幕僚総長の事なんでしょうか?」
「そうともさ。我らが帝国軍のトップ、国防大臣、幕僚総長、第7師団長と三つの顔を持つ能島夏実中将に会ってきなさい。もうじき、神戸港に彼女の乗る旗艦、金剛が到着するはずだ。本拠地である神戸ではしばらくの間滞在すると言っていたからな。ちょうどいい。」
「なっちゃんはね。三つの顔を持つだけあって、阿修羅のような女性なんだよ。」
叔父さんが妖怪話のノリで脅かしてくる。
「絶対にうそでしょ!」
「ばれたか。」
「バレますよ。」
「くっくっく。お前ら、本当にいいなぁ。」
藤堂少将は叔父さんと自分を見て、涙を流して笑った。




