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ストーリー044 死にたがり将軍

ストーリー044 第二十二號手記 死にたがり将軍



~各現況報告~


 ここ、真庭(まにわ)駐屯地の会議室の黒板には本日の日付、明照5年5月8日が記載されている。


 会議室では、新見組の代表者として叔父さんこと小此木中佐が、天王台組の代表者として西田大佐が戦果報告をした。自分、大和一郎こと山田驍はじめ第11師団の士官たちのほとんどが一堂に会してその報告を聞いている。


 5月3日の上石見・般若(かみいわみ・はんにゃ)間の戦いの後、天王原(てんのうはら)の戦いに参戦していた部隊も無事に勝利をおさめて戻ってきた。その内容もここで聞くことが出来た。天王台組、大兵力を相手に大変な思いをしていたようである。


 一方、上石見・般若間の戦いで、第3連隊の我ら第4、第5大隊はほぼ無傷で帰還した。対して、敵、連邦の第7旅団の第7~第10大隊は壊滅状態だった。彼らは命からがら横田(よこた)に帰還したようだが、彼ら、第7旅団の第7~第10大隊の生還者だけではその防衛も困難と考えたようだ。討ち死にしたものも、帝国軍の捕虜となったものも多く、人員がかなり減少してしまった。それに、無事に帰還した者の中にもけが人が山のようにおり、救護を必要としている避難民に近い様相だという。このような有様を客観的に見たら、我々の一方的な攻勢が、本当に凄いことだと思えて来た。


 おそらく撤退した彼らは急遽、同じ旅団の残りの部隊に救援を要請したのだろう。5月4日、第7旅団の第1~第6大隊は天王原から撤退を開始し、5月7日ごろには横田に戻ったことが確認されている。


 天王原に侵攻してきた連邦軍の士気はダダ下がりで、第7旅団だけでなく、第6旅団の士気も下がったようである。実質的な兵数が減った以上に、士気の問題は重大だと思われる。中途半端な侵攻が裏目に出て、第6、第7各旅団は単体でなんとか拠点を防戦する状況へと成り下がってしまった。このようにして、上石見・般若間の戦いの結果が波及する形で、天王原の戦いでも、帝国軍は連邦軍に大きな打撃を与えることに成功した。そして今までの圧倒的不利、自信を失っていたのが嘘のようである。逆に帝国軍、第11師団を押し留める力は、もはや連邦軍の両旅団、第6、第7旅団から完全に失われたようにすら思われる。


 会議の合間の休憩に、まずは同じ第3連隊に所属する、強面の蒲生少佐に捕まって話をした。彼は第3連隊の中でも天王台組に加わって戦った部隊だ。彼は、「上石見・般若間の戦いのような見事な伏兵戦は見たことがない」そう興奮気味に褒めてくれた。バシバシしばかれて、腕がまだ痛い。


「大和大尉、握手してください。」


 更に、天王台組の緑髪の女性士官が呼び止めて来た。


「あなたは?」


「第2連隊、第1大隊の高槻(たかつき)、同じく大尉です。砲兵中隊を率いています。」


「おおっ。よろしくお願いします。でも何故私なんかに?」

 手を差し出しつつ、疑問を投げかけた。


「私たちは大尉に勇気を頂きました。もし大尉と新見組の方々の活躍がなければ、私たちも心が折れていました。」


「お、大げさじゃないですか?皆さんも、勇敢に戦ったのでしょう?」


「もちろんそうです。そうですが、それでも圧倒的な物量差は辛かったです。」


「私もそう思うよ。新見組の勝利がなければ、我々の勝利もなかった。失礼、同じく第2連隊、第1大隊の高杉だ。以後お見知りおきを。」


 長身で無造作ヘアーの上官が話に入って来た。階級章は三本線に星一つ。大隊長の高杉少佐のようだ。自分は階級章もちゃんと見れるようになってきた。自分も改めて挨拶する。


「自覚はないのですが、こうして皆さんが無事で何よりです。地味で女々しい話ですが、それが私が一番に希望していることなのです。」


「へええ。以前合同演習でご一緒した時と、何だか雰囲気が変わられたな。以前は剣の道一筋の『剛』な感じだったが。」


「そんなことないですよ。彼は常に皆の生還と帝国の命脈を繋いでいくことに心血を注いでいたはずです。だから・・・あ。」


「んん?彼?」


「あ、いえ。妙な能力を身につけたせいで、色々忘れてしまったことも多いんです。以前の僕、あ、いや、自分も言葉では伝えられなかったのですが、その思いは人一倍あったつもりです。」


 慌てて、身近な仲間たちと決めている設定で話をした・・・が鋭い高杉少佐は自分をずっと観察していた・・・気がする。(汗)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~死にたがり将軍~


 会議室の中央、自分のちょうど真向かいに、豪快に笑う威勢の良い男性が座っている。毛先の跳ねたはちみつ色の髪をかき上げ、周囲といろいろ論じている。少し大きく見える形の良い鼻が、どことなく若いライオンを彷彿とさせる。実年齢も意外と若いのかも知れないが、40代ぐらいの、脂の乗った貫禄も備わっている。階級章を見た。両端の線以外は無地の柄、その中央にぽつんと星一つ。二等兵・・・にもデザイン上は似ているが、そんな訳ない。少将・・・将軍!!彼こそがこの第11師団の師団長、藤堂孝典(とうどう・たかのり)少将だ。


挿絵(By みてみん)


「死にたがり将軍」「突撃将軍」などと不名誉なあだ名もいくつもぶら下げているが、先に話題に出てきた帝国特戦隊の元隊長でもあるからだ。師団長になってからも体を張って師団を率いる姿勢は変わっていない様子だ。群を抜いた猛将ぶりの英雄譚は本人を見てしまうと少しギャップを感じる。何だか、元気のいい生徒会長という感じの人で、とても親近感が沸くのだ。


 戦果報告が終わって、今度は今後の方針についての説明が始まろうとしている。少将直々に説明してくれるようだ。


「地図を見て欲しい。我々は今、この津山盆地に拠点を置いており、連邦軍・青海方面軍と対峙している。先ほどの戦果報告でも確認してもらった通り、そのうち第6、第7旅団の牙を折ることには成功した。」


挿絵(By みてみん)


 帝国の西部を切り取った地図が掲げられる。そこには三色に塗られたエリアが存在している。日向(ひむか)、岩国(いわくに)、青海(おうみ)、それぞれの県が異なった色でペインティングされている。九州島全域を行政下に置く日向県、その北半分、いや6割程度が黒道(こくどう)やそれと連結してしまった壱岐、対馬と共に紫色に塗り潰されている。そこは既に連邦軍・日向方面軍の支配地域だ。岩国県は瀬戸内海の島嶼部を除けば、その全てが黄色に塗り潰されている。連邦軍・岩国方面軍の支配地域だ。そして、能登半島や隠岐を除いた青海県の7割程度が水色に塗り潰されている。我らが対峙する連邦軍・青海方面軍の支配地域だ。


 青海方面軍の支配地域から飛び出すように3本の矢印が示されている。1本は北東、1本は真東、最後の1本は南東へその先が向かっている。南東へ向かう先は我らが第11師団の津山盆地だ。だが、その他は?


「見て欲しい。青海方面軍のうち南東の我ら第11師団を担当していたのはわずかに第6、第7旅団の2旅団だ。青海方面軍は全10旅団、10万の大軍だ。真東の鳥取要塞は帝国軍、第5、第10師団が守っているが、そこに第1旅団などの方面軍の主力、約5万がたびたび攻撃を仕掛けてくる。北東の能登には第2師団が各拠点を抑えて、粘り強く抵抗を続けている。ただ、物資の不足などに悩まされながら、敵の第3、第5、第8旅団の攻撃によってここ最近追い詰められつつある。」


 少将は一旦話を切る。兵数だけ見ればやや敵が上回る程度。だが、銃火器などの近代装備や爆薬など物資の充足度で言うと、圧倒的にこちらが不利な状況にある。皆が重々しく地図を見つめている。


「ただ、我々は諦めてはならない。青海方面軍は今このように多方面戦略を強いられている。それが彼らの弱みであり、逆に我々の強みでもある。だから、我々の今後の目標は、バラバラになった各師団と再び連携をとることだ。とくに、鳥取要塞の第5、第10師団は距離的にも近い。彼らと連携を取れないか模索していこう。良いアイデアは随時採用していくので、よろしく。」


 問題は間に山岳地帯があり、地理的に分断されている点だ。ただそれだって、色んな方法で解決できるはずだ。山岳地帯だって、もっと道を整備することで、人の行き来も可能になるだろうし。あるいは、自分の能力で大人数で空を飛んだらどうだ。その時に何故かそんなイメージが急に浮かんだ。


 それが後に、自分と仲間たちを無敵の兵団にしてゆくことになるのだが、その時にはまだぼんやりと考えているだけだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~新見組に辞令が下る~


 そういえば、本日の会議が始まってから気になっていることがあった。北条大佐の姿が見えないのだ。それで代わりに叔父さんこと小此木中佐がその代役をしているような感じだ。もともと副連隊長みたいなものだから、別段おかしくないとも言えるが。北条大佐といえば、上石見・般若間の戦いの最後、般若山麓の決戦でかなりの深手を負っていた。決戦後に治癒の処置も受けたし、その後もそれなりの治療も続けている様子だが、状況は良くないらしい。年齢的に高齢なことも、祟っているのかも知れない。


 そんな自分の思考を読んだかのように、現状が語られる。藤堂少将のトーンも低い。まるで、くたびれた会議の資料に落とされたインクの染みのように。


「皆もなんとなくは聞いてきたと思うが・・・今朝方、津山の療養所で北条大佐が旅立たれた。」


 ここかしこの机の表面を見ていたであろう皆の視線が一気に集中する。藤堂少将も、打ちひしがれた表情だった。日々覚悟していることではあるが、これが現実だ。


「黙とう。」


 今無事に生きていることに感謝しなければならない。幾多の英霊の犠牲があってのことだ。


「本当に、昇進というより、誰かが抜けた穴埋めのような話ばかりだが、致し方ない。英霊の遺志を継ぐつもりで任についてほしい。」


 自分は前任者の花山ともえ大尉のことを思い出していた。


「新たな第4連隊の長は小此木(おこのぎ)博文中佐改め大佐にお願いする。」


 第4連隊は新隊長のもと新たにスタートすることになった。不満の色は全くなさそうだ。拍手が沸いた。少将は補足する。


「ただ小此木大佐は引き続き、能力開発部など部隊指揮以外の仕事も多い。彼の代役として、連隊を指揮れる人物が必要だ。鞍馬少佐改め中佐、連隊の参謀、副連隊長として、小此木大佐を補助し、連隊を牽引してやってほしい。」

「次に米田少佐、改め中佐は鞍馬中佐の後釜として、第4大隊の大隊長に任命する。」

「大和大尉改め少佐、米田中佐の後釜として、第5大隊の大隊長に任命する。」


 それぞれの佐官達がお辞儀をする。そうだ、上石見・般若間の戦いが極めて高く評価されているので、ここかしこで昇進が相次いだという訳だ。叔父さんも、鞍馬さんも米田さんも皆1階級昇進している。目まぐるしい配置転換。


 あれ?今、自分も呼ばれていた?!

 気付くと拍手に包まれている。


「おめでとうございます!大和少佐、これからもよろしくお願いします。」


 近くにいた高槻大尉がガッツポーズをして、キラキラした目でこちらを見た。


 上石見・般若間の戦いから5日後、略式とはいえ、しっかりと祝われて、自分は大隊長に昇進した。


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