ストーリー043 我が愚は李信の愚(天王台の戦い⑥)
ストーリー043 我が愚は李信の愚(天王台の戦い⑥)
帝国戦闘記録などより
~決定打~
一斉に天王台の全帝国軍が動き始めた。
決着へ向けて。
第4連隊は平地を真西へと進軍する。川を渡り、そのまま敵軍、第6旅団の本営付近を目指して直進する。帝国特戦隊はやや速度を落としつつも、南西方向、第7旅団が陣取る神楽の西半分辺りを目指して進軍している。第2連隊は神楽上をそのまま西へ進み、第7旅団を真っ先に攻撃する動きを見せる。ただ、台地は中央部が狭くなっており、そこに敵が待ち構えている。それでも帝国軍の勢いは凄まじい。定石など関係ないと言わんばかりに、狭い進路をどんどん突き進んでくる。
連邦軍の第6旅団、郭奕は合図ともとれる格好で第2連隊に照準を合わせて砲撃した。それは、帝国特戦隊を左右から挟撃する意図だったが、すでに第7旅団側が手いっぱいの状態だった。それは第2連隊の攻撃だけに留まらない。なんと、意図しない方向から、新手が攻撃を仕掛けてくるのだ。それは新見からやってきた第3連隊の援軍だった。彼らは、初日に劉勝ら第7旅団が進軍を断念した神楽のすぐ南を通る農道を、東から西に向かって進み、連邦軍第7旅団を南側から攻撃し始めたのだ。想定よりもかなり早い到着だったので、第7旅団は浮足立った。
「第3連隊所属、蒲生隊、推参!」
それはまさしく決定打となった。帝国特戦隊、第2連隊、援軍の蒲生隊、それらによる3方向からの包囲を恐れた第7旅団は後退を始める。折角陣取っていた高台ではあったが、逃げ場を失うよりはましである。最後の砦ともなる松風山を背に、守りを固める。
第7旅団の後退により突出した第6旅団が、今度は帝国特戦隊と第4連隊に2方面から攻められる形となった。一部の部隊に大きな被害が生じたが、火線を集中しつつ、こちらもじりじりと後退を始めた。
こうしてついに、連邦軍は松風山の麓に陣取る形で、帝国軍に完全に押し込まれた。
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~伝えられた大敗北~
帝国軍にやや遅れて、5月3日の宵の口にその「大敗北」は連邦軍の両旅団に伝えられた。
「嘘だ。そんなことが。項道栄が討ち死に。大隊長も2名戦死、2名が捕虜。組織全体が壊滅状態だと?なんだそれは、一体何が起こったというのだ?」
「はい。完全な伏兵にやられたようです。十分に哨戒しながら進軍していたようですが、全く意図していないところに敵兵が潜んでいたようです。飯森の中央辺りだそうです。」
伝令はさらに詳しく教えてくれた。
そんなことが・・・そんなことが・・・魂を抜かれたように、劉勝は彷徨う。隠し玉はなくなってしまった。どころか、今度はこちらがピンチに違いない。その危機感にはっとする。こうしては居れない。
「おい。誰か、馬を貸せ。」
なんだかんだ、この戦いが始まってから、結局のところ常に郭奕を精神的に頼ってしまっている。まるでこちらが小物のように思えてきて腹立たしい。馬に半分八つ当たりしながら、高速で郭奕のいる第6旅団の本陣を目指した。
・・・・
「そちらも情報は得ていますかな?」
劉勝は息を切らせてやってきてすぐ、郭奕に問う。
「あぁ、何だか大変なことになりましたな。このまま帝国軍が横田に進軍すれば、そこも落ちてしまいますな。」
郭奕は最悪の状況を事も無げに言う。
「ですので、我ら第7旅団はこの辺りでここを引き払うつもりです。」
「さすがにそれは困りますな。敵にこちらの動揺が伝わります。こちらはまだ何も失っておりません。今ここで引くなど、短慮とは言えませんか?」
「うちは、まともに戦える者のいない横田を抱えているのです。すぐさまその防衛に努めるべきでしょう。」
「拠点のひとつやふたつ、相手に渡しても大したことはないでしょう。あるいは第2旅団に出てきてもらって、横田を守備してもらうのは如何か?」
劉勝は考えた。既に人的に大きな被害を被っている。一般的な兵士もそうだが、第2旅団から借り受けている貴重な斥候、ヤマネコ達が帝国軍の捕虜にされてしまった。既に大きな借りを第2旅団に対して作っている。これ以上借りは作りたくないのだ。借り?貸し?そうだ、もう十分第6旅団に貸しは作っただろう。
「やはり横田に戻ります。私の見立てでは、この状況で良い星を上げることは困難を極めるでしょう。第6旅団にも撤退をお勧めします。」
肚が決まると、意外といい感じに論じることが出来るものだ。
「耳に痛いですが、確かに我らは不利な状況。逆転は厳しいようですね。」
やっと郭奕も折れてくれた様子だ。
こうして、天王台の戦いも決着がついた形となった。
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~私の犯した愚は~
上石見・般若間の戦いの結果は天王台の戦いに波及した。それは帝国軍側の士気を大いに上げ、逆に連邦軍側の戦意を完全に削ぐに十分だった。明けて5月4日、帝国軍は連邦軍の動きに着目した。第7旅団の全部隊が撤退を開始している模様だ。それに対して未だ第6旅団は現状のまま布陣を続けている。今回の戦いの起草者、第6旅団の郭奕准将が殿を務める様子だ。じきに第7旅団の全てが小松谷、奥田谷の二つの谷を使ってその姿を消した。
さて、敵に背を向けた時ほど無防備なものはない。そこを襲われるとたまったものではない。撤退は大変なのだ。ただ、それに関して郭奕は用意周到だった。帝国軍との間に色々とトラップを仕掛けたり、積極的に前進して銃撃してみたり、様々に手を打ってくる。そんななかで自らの部隊も少しずつ撤退させてゆく。帝国軍はうまく追撃を出来ずにトラップの撤去などに苦戦している。
それでも名高い帝国特戦隊がトラップを回避して遠回りに急襲すると、逃げ遅れた者達などが出始め、潰走し始めた。
「郭奕准将はおられるか?私は帝国特戦隊の近衛だ。私に会いたかったのだろう?いざ、尋常に勝負せよ!」
帝国特戦隊を恐れ、それでも一矢報いようとした郭奕を挑発する。近衛隊は郭奕の本陣に肉薄するところまで迫った。激しい銃撃戦と剣戟、所々弓矢も飛び交う中、近衛はほぼ先頭に立って郭奕を追い回した。美人に追い回されるのはハッピー過ぎてたまらないが、これはそう言った意味合いではないのだ。前頭葉に張り出した2本の角。彼女はドウジだ。今は絶対に関わりたくない。
1個中隊を完全にほぼスケープゴートにして、郭奕は奥田谷の脇に発見した細い山道をひたすら逃げに逃げた。物資もかなり放置した。火薬、糧食・・・そんなもの、もはや構っている状況ではない。とにかく自らの命優先に撤退せよ。全ての兵に命令を徹底して、その身ひとつで撤退する。ついには書きかけていた文書まで零れ落ちた。
・・・・
結局、帝国特戦隊は郭奕は取り逃した。欲を言えば首を挙げて大金星としたかったところだ。でも贅沢は言うまい。帝国軍はここでも見事に金星を挙げたのだ。周囲では戦いの後処理が始まっている。敵陣だった辺りを見て回っていた隊員が敵将のものと思われる書置きを拾って来て、近衛に見せた。おそらくは郭奕が書いたものではないだろうか?機密文書だと大変な価値のあるものだから、調べなければ。
連邦の言葉に堪能な者を呼んで、一緒に解読する。
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故事にこういう逸話もございます。戦国の末期、秦国の王、嬴政は宿敵の楚国を攻めるにあたり、二人の将軍に意見を求めました。若き将軍、李信は20万の兵で十分と答えました。これに対して宿将、王翦は60万の兵が必要でしょう、と答えました。秦王ははじめ、王翦の献策を臆病と笑い、李信の献策を採用しました。ですが李信はその20万の兵で楚国に敗れ、多大な兵を損じました。王翦の献策を秦王は改めて採用します。そして王翦は60万の兵で見事楚国を打ち破りました。
私の犯した愚はこの李信の犯した愚に他なりません。ただ私が李信と異なる点は、兵を損なわずにその事実を確認できたことにございます。改めて申し上げます。敵軍、帝国軍の第11師団は着実に力を蓄えております。今回の如く、同数の兵で彼らに勝利しようとすことは、最も危険な遊戯となりましょう。確実に彼らから勝利を勝ち取るには十分な兵力、兵站をもとにした大規模攻勢を必要としております。青海方面軍の主力8万、最低でも6万の兵力をもって、彼らに当たるべきです。それにより、完全に彼らを打ち滅ぼすことが可能でございます。
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書きかけの報告書の一部のようだ。機密文書というほどではないな。内容はざっくり言うと、負けた言い訳を綴ったものだった。でも彼、郭奕の献策が本当に認められ、青海方面軍が集中的に第11師団を攻撃してくる時が来るかもしれない。ちなみに、1個中隊は見殺しにされているが、この程度、連邦軍では兵の損失に入らないのかも知れない。
「見てもいいぞ。」
近衛は周囲の隊員達にも見せて、内容を教えてやった。
「すげええ。」「敵ながらかっこえええ。」「サラッと自己アピールをしていやがるな。」「でも、仮に自分が敵にこの文面を奪われたら恥ずかしくて仕方ないな。」「壮大な言い訳で草。」
反応は様々だった。
兎にも角にも、我々は勝利出来た。
「皆の活躍に感謝する。真庭に凱旋するぞ!撤収の準備!」「応!!」




