↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/54

ストーリー042 帝国特戦隊(天王台の戦い⑤)

ストーリー042 帝国特戦隊(天王台の戦い⑤)



~見えない地響き~


 夕刻、少し風が凪いでいる。こういった時は何かが起こる前触れなのかも知れない。5月2日の午後4時ごろ、ついに帝国特戦隊が天王台の平地に姿を現した。2個大隊の約2000。それだけにとどまらず、帝国の第11師団、第4連隊の各部隊が前進し、連邦軍を包囲する形で陣を敷き直してきた。第6旅団の郭奕(かく・えき)准将は各隊に早急な対応を指示した。敵の大規模攻勢を予感したためだ。


挿絵(By みてみん)


 少しずつ展開し始める帝国軍側。松風山の落とす影が、平野の一部を黒く染め上げる。午後6時ごろ、ついに異変は起こる。


 それは日本という国特有の地震の如くと伝えられている。


 大地が震えた。


 無数の蹄が作り出す地響きが届いてくる。突如視界に真っ黒な戦国武者(?)の群れが出現する。ウォァ~~!!!ウォァ~~!!!力強い雄叫びに、連邦の歩兵たちは縮み上がった。慌てて銃兵や槍兵が前に出ようとするが、戦国武者は既に鎧の繋目が見える程に接近している。服装を分析する間もなく、途端に銃声が馬の上から放たれる。え?嘘だろう?大時代的な騎馬兵の群れだと思っていたら、予想外の銃撃だった。連邦兵の銃兵や指揮官らしき将校たちがバタバタと倒れ落ちる。混乱と悲鳴が前線に拡がり始めた。


 遅まきながら、双方から銃声や剣戟が飛び出す様相を呈したが、連邦の側にはまとまりがない。数分もすると連邦軍は崩れ始めた。馬上の帝国兵から、御剣・改(みつるぎ・かい)が斬り下ろされる。それは『かなた』の国の騎兵部隊が備えたサーベルとよく似ていた。鎧も防弾能力があるのか、連邦側の射撃精度が悪いのか、一向に帝国軍の騎馬を倒せない。馬上に色々と予備の武器を備えているので、接近戦になってからもしぶとい相手だった。


 流石は第11師団最強の精鋭部隊だ。最終防衛線である津山(つやま)から駆け付け、この戦いを左右しようとしている。


「本営を固めよ。今は守りに徹するのだ。」

 郭奕は指示を徹底する。


「無駄に動くな、神楽の上の陣地だけはしっかり守っておけ。」

 この時は、第7旅団の劉勝(りゅう・しょう)准将の指示も概ね一致していた。


 とにかく嵐が過ぎ去るのを待つように、守りに徹するしかない。被害は小さくなかったが、やがて帝国特戦隊は引いて行き、天王台に静寂が訪れた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~こちらから見た布陣~


 5月2日の夜は、打って変わって、夜間の動きがなかった。動いても効率的に活動すること自体が困難な状況だったはずだ。すっきりと五月晴れの朝を迎えた、5月3日。上石見・般若間の戦いが始まったころ、こちら、天王台では重苦しい睨み合いが続いていた。動きが全くないので、暇な劉勝が郭奕の元を訪れている。


 連邦軍側から見ると、帝国軍側の布陣はこちらをバカにしているようにすら見える。


「左右に各5000、中央に2000、合計1万2千で我らを少し下回るぐらいですか。」

 感情のない機械のように郭奕はカウントする。


「数がどうこうよりも、陣形がふざけていませんか?」


 中央がガラ隙で右翼、左翼にそれぞれ1個連隊がいる。まるで本体の小さな鳥か蝶が羽を広げたかのような布陣だ。おそらくは中央にいる帝国特戦隊をむしろ囮に使って両翼から挟み撃ちにするような意図が伺える。


「こちらが帝国特戦隊を恐れていることを見透かされてしまいましたな。」

 恥も外聞もなく言うあたりが、郭奕と言う男は変わっている。


「相手の意図を知りつつ、ツッコむんですか?」

 耳糞をほじくりながら劉勝が聞く。


「いえ。ここは待ちの一手ですね。相手が動かないと、良い手が浮かばない。」


「あ~。でも、こうしているうちに新見からの応援も来ちゃいますよ。」


 帝国軍の第3連隊、第1~3大隊の3000も天王台を目指して進軍中である。彼らが到着すると兵数も拮抗する上に、苦手意識のある帝国特戦隊もいるのだ。明らかに分が悪くなる。


「分かっています。その時が来たら、両旅団で帝国特戦隊を攻撃しましょう。合図は砲撃です。それまでは撃ちませんので。」


「了解しました。こちらもそれまで英気を養っていますよ。」

 そう言うと劉勝は自陣地へ戻ってゆく。


「まぁいい。第6旅団が困れば困るほど、第7旅団の別動隊、新見侵攻作戦が輝くというものだ。どうだろう?今頃新見は我が第7旅団に完全包囲されているだろうか、火の海になっているだろうか?早く戦況が知りたい。我が積極策がどのような結果を生んだのかが知りたい。」

 内心でワクワクしながら、劉勝はすまし顔をするのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~新見組を信じよう~


 帝国軍も連邦軍が動いてこず、自らも動けない状況で悶々としている中、首脳が帝国特戦隊の本営に集まった。場を仕切っているのは自らの大隊を率いて駆けつけた近衛雪乃(このえ・ゆきの)少佐だ。彼女は第11師団長である藤堂(とうどう)少将の代理のような立場でもある。西田、影山両大佐もいるが、モブおじさんと化している。


「どうしますか。このまま何も手を打たないのも手ですが。」

 近衛が話を振ってくる。


「敵の構えが頑強だ。昨日のように数の差を利用されて波状攻撃をかけられると、こちらは辛い。」


 モブ1影山が苦境を訴える。昨日、第2連隊はすぐに休息できたが、第4連隊は帝国特戦隊の援護をさせられて、午後遅くまで臨戦状態が続いていた。連隊長の影山にも疲れが見える。


「敵が諦めて撤退してくれればそれでよいが、それにしてはしぶとい。何かを待っているのか?」

 モブ2の西田が誰に問うでもなく疑問を投げかける。


「先ほどの情報では、第7旅団の別動隊が昨日5月2日に横田(よこた)を発ち、現在新見に向かう中途にあるとのことだ。それに賭けているのかも知れないな。新見を抜けば、こちらの背後を取れる。」

 影山は得られた情報を共有する。

 

「ちょっと待ってください。確か、新見の第3連隊からも一部援軍がこちらに来るんですよね。そうなると、新見にはたった2大隊分しか隊員が残らない計算ですよ。」

 西田は現状を分析するとともに不安げだ。


「そこを敵は好機と考え攻めて来ているのでしょう。でも、あちらは信じましょう。その2大隊、2000足らずでも勝算があると幕僚の小此木(おこのぎ)中佐が言っています。何か秘策があるのかも知れません。」


 近衛がそう言うのだが、皆はすっきりしない表情だった。


「秘策があるのはいいのですが、もしそれが不発だった場合にはどうしますか?」


 そう声を上げたのは高杉だった。そうだ、それは当然考えるべきことだ。


「その時は機動力のある我々が盆地に取って返します。無論、皆さんを見捨てる訳にもいきませんので、その動きは第3連隊からの援軍が到着してからにしようと思います。」


「そのような後手には回りたくないですな。」

 にやっと高杉が言う。


「『新見組』を信じましょう。」


 まぁ、それならば、と皆は帝国特戦隊に頼ることにした。山田驍やその仲間たちがいる第3連隊の第4、第5大隊に近衛少佐から変な呼称が付けられた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~もたらされた報~


 連邦軍、帝国軍双方、首脳部は考えを巡らせているのだが、実際にはなにも動けない。動けないまま一日が終わろうかとしている。5月の長い日がようやく傾き始めた頃、その報はもたらされた。


「大変です!特大の吉報です!本日午前、新見の第3連隊、2個大隊は飯森(いいもり)にて連邦軍の4個大隊と交戦、これを撃滅しました。」


「げ・・・撃滅?」


「はい。連邦軍はそのほとんどが壊滅状態で、多数の捕虜を残し、横田に潰走しました。」


「こちらの被害は?」


「全くと言っていいほどにありません。」


「新見組、大勝利だ。」「勝ったぞ。」「すげえええ。」「一体どんな手品だ。」「まじで神だ」「伝説だ!」「上石見・般若間の伝説だ。」「半数で相手を撃滅ですよ。」「なんじゃそりゃ~~。」「帝国軍、強過ぎ。」「俺はそこに怪物がいたと見るね。」「まさに国士無双。」「新見組の皆が無事でよかったわ。」「小此木真凜ちゃん、かわいい!おっぱいでかい!」「バリすげえええ。」「気持ちい。超気持ちいい。」「やばい、時代が変わる!」「おおお、俺は今、感動している。」「夢じゃないよな?」


 報を聞いて、様々に感動、祝福の声を上げる隊員達。


 機は熟した。


 彼らを見渡す近衛少佐にも笑みが浮かぶ。


「各隊に伝令、全軍、攻撃態勢!」


 一斉に帝国軍が動き始めた。


 決着へ向けて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。