ストーリー041 お互いの打てない手(天王台の戦い④)
ストーリー041
帝国戦闘記録などより お互いの打てない手(天王台の戦い④)
~朝日が昇って~
帝国軍がすべて高台に避難した形になり、連邦軍が下の平地を全て押さえる形になった。平地といっても、ここも海抜は400~500mある高台なので、5月に入ったとはいえ、冷涼な空気が流れて、朝もやが視野を遮っている。お互いに良く見えない視界に目を凝らして、相手の陣を確認している。
帝国軍の斥候の調べたところ、郭奕准将と、第7旅団の劉勝准将が揉めているところが目撃された、とのこと。「照明弾を逆手に取られた」と、劉勝が郭奕に苦言を呈しているらしい。ああ、その通りです。おかげで撤退のタイミングを掴めました。帝国軍陣営はほくそ笑んだ。でも、だからといってこれから第2ステージが始まるだけの事である。既に朝日が昇り、眩しい陽の光が徹夜明けの目に辛い。こんな状態で戦うの?人間たちは誰しもそう思うのだ。
敵も同じなのだろう。連邦軍はこちらを威嚇するかのように広大な陣を引き、圧迫してくる。だが、その動きは緩慢で、双眼鏡などで観察していると、怠けたり、何でもないところで転んだりしている兵士がいるのが丸見えである。
「辛いのはどちらも一緒ですね。」
高槻は妙にポカポカする手を御剣の柄を握って冷やす。眠いのだ。
「人間なんだ。寝て食って、普通にしていないと力が発揮できるわけもない。」
眠れなくて消耗する分、食べることで勝負。高杉は2個目のサバの缶詰をもりもり食べている。
「美味しそうですね、その缶詰。」
「たまに当たりがあるよな。中のサバがいい脂出してるんだ。」
「分かります。関サバに当たったかな~とか考えちゃいますよね。」
「今どき、関サバは入ってないだろ?」
「そっか、そうですよね。」
自分を納得させるように高槻は言う。
「残念ながら産地は取られてしまっているからな。」
高槻の納得を高杉が上書きした。そう。関サバの産地、北部九州、大分、佐伯辺りも既に連邦軍の筑紫方面軍の支配下だ。手に入る訳もない代物だ。侵略による影響は、こういった生活のいたるところに出てくる。日本列島をかつてのように再び取り返したい。帝国の悲願だ。
「一匹残らず、神州(日本列島)から駆逐してやります。連邦軍を。」
「その意気や良し。それでこそ国際的正義が全うされるというもの。でも目の前にうようよいるぞ。」
「大丈夫です。彼らも人間です。戦意をへし折り、帝国から本国へ追い返すだけです。」
「そのための武力を蓄え、奴らの戦意をいかにへし折るかだな。」
「はい。それで、本日の目標です。」
高槻は敵陣をを示して言う。
「交代で寝ます。そのための支援を我ら砲兵が行います。」
「ん?」
「ご覧ください。敵にも砲兵がいます。」
神楽の下の平地、連邦軍の大軍の中でもやや西寄りに郭奕率いる第6旅団の本営がある。それとほぼ同じ位置に砲門が幾つか並んでいる。
「撃ってくるか?」
「おそらくは。そして、こちらはそれで命を落としかねません。」
回復術師がいるとはいえ、即死級のダメージを食らっては、助けることは出来ない。『こなた』でも、砲撃の直撃は特に避けたい事態である。
「では、おちおち休んでもおれんのでは?」
「いえいえ。高地に逃れたことで、良いことがあります。裏側の斜面は絶対安全地帯です。」
「なるほどな。砲弾が飛び越えてゆくのか。」
高杉にもイメージが出来たようだ。
「それで、休むことが出来ます。もちろん白兵や銃兵の奇襲には注意すべきですが。」
「了解した。順番を決めて、休みを取らせよう。他部隊にも提案だ。」
こうして、対策はうまく講じられたようだ。
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~恐れることは同じ~
主力、第6旅団の郭奕准将と、応援部隊の第7旅団、劉勝准将は引き続き揉めている。「照明弾」の件は、珍しく郭奕が劉勝に頭を下げて片が付いた。次は、神楽の上に陣取った帝国軍の第2連隊の攻略についてだ。彼ら連邦軍が野蛮人扱いする帝国軍、第11師団の中で、彼らは珍しく砲兵を抱えている。しかも高地に、しかも稜線に隠れて、正確な位置すら把握できない。とてつもない脅威だ。
第7旅団の部隊は、夜戦でその砲撃を遺憾なく発揮され、手痛いダメージを食らっている。
「どうしますか?郭将軍?これでは寝るどころか、落ち着いて食事も摂れませんぞ。」
そう言われて、郭奕も渋い顔をすると思いきや、飄々としている。
「まぁ、確かに敵もなかなかにやりますな。ですが、私は読んでいます。彼らは、我々以上に強行軍で来ました。ですから、弾薬の持ち合わせもあまりない事でしょう。ですので、こうやってどてっぱらを晒していても、そうそう撃っては来ませんよ。むしろこちらが砲撃をするようなことがあれば、撃ち返してくるか、こちらの砲撃部隊が狙われることになるでしょうがね。」
クソッ
自信満々にそう返されると、それが正論のような気もしてくる。
「では、そのお言葉を信じまして、賭けに出ましょう。攻撃開始は1000時で宜しいですな?」
「ええ。台上に攻め上り、敵の砲兵部隊を確保もしくは撃滅しましょう。そして、帝国軍を台地から追い出して、今度は我らがこの台地を占領するのです。そうすれば、帝国特戦隊も恐るるに足りません。神楽を占領できなければ、・・・少しマズいですな。」
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~第6旅団の焦り~
5月2日、午前10時、連邦軍は神楽のやや東側を目標として、攻撃を開始する。非常に選抜された少数精鋭の攻撃で、帝国軍側は押され始める。既に台上の一部が敵に占拠されてしまった。そして、敵は更に、砲兵部隊である高杉隊の高槻らのもとを目指して攻めかけて来ている様子だ。だがそこに、郭奕の焦りも感じる。郭奕の青写真では、帝国特戦隊の到着する前に第2連隊、第4連隊のいずれかを壊滅、もしくは撤退させて、優位な戦いをそのまま継続するつもりであるのだ。この一戦にかける熱意は凄まじい。
「全軍、しっかりと働けよ。この名誉ある作戦に選ばれたことだけでも諸君らはエリートだ。命を賭けて歴史に名を遺せ!」
一方の劉勝には隠し玉がある。ちょうど今ぐらいの時刻だろうか?横田を出た別動隊が新見に向けて侵攻中である。項道栄率いる4000が新見を目指している。新見に残った兵数はわずかに1800。おそらくはひとたまりもないだろう。その後項道栄は、真庭に進んで帝国軍を分断するもよし、あるいは一気に第11師団の本拠地の津山を攻略するのも面白い。
「くっくっく。郭奕さんよ。謀はこんな狭い地図上だけでするものではないのだよ。」
劉勝はほくそ笑む。
「敵も必死で反撃してくることだろう。まだまだ挽回のチャンスはある。命を無駄にするな!」
そんなニュアンスで部下たちに指示を与えた。明らかに郭奕と温度差の違う指揮である。
帝国軍側からすると、その細かい違いに気付く余裕はなかった。とくに第6旅団からの選抜軍が恐ろしい気迫で迫ってくることについては肌で感じている。そちらに応対するのが精いっぱい。当然のことである。
「第4中隊、防ぎきれません。後退の指示をお願いします。」
「ダメだ、そこを抜かれると後背を突かれる可能性もある。休憩中の者たちも参戦させることになる。何のために選抜したと思っている。気迫を込めろ。」
どちらかというとへらへらしている高杉が珍しく怒っている。
「このままですと、我々砲兵部隊は大砲を放棄して逃げた方が良さそうですね。」
高槻が確認する。育った砲兵を簡単に死なせるわけにはいかない。高杉が言った通りだ。
「そうだな。だが待て。たまには本気を出さないと、こちらも体が鈍ってしまう。」
そう言うと、高槻は馬に跨る。手にした異様に長い剣。帝国軍内でも何人かが特殊兵装として申請して使用している。斬馬刀だ。これならば色々と凶悪な長物を装備している連邦軍の騎兵にも劣らないだろう。
「ハッ。」
騎兵の一団を引き連れると、高杉は混戦状態に陥っている第4中隊を救援する。
「だっ、大隊長が来て下さったぞ~!」
帝国軍側の士気がみるみる回復してゆく。
「皆、我に続け。敵の左側から切り崩す。」「応!」
ヒュン!!
まるで鎌鼬のように広大な切断面が連邦軍の騎兵を襲う。
「グギャッ」
襲い来る第2の騎兵の鉾の柄の部分を高杉の斬馬刀が叩きつける。
「ワァアアア~」
騎兵は落馬する。
高杉を援護しようと、周囲の各兵種も必死で抗戦し始める。やがて騎兵を先頭に、高杉隊が少しずつ連邦軍、第6旅団の選抜軍を押し返し始める。体力的には辛い1時間と少しだったが、気力がけん引してくれて、何とか凌ぐことが出来た。連邦軍を台上から追いやることは出来なかったものの、砲兵隊には敵を近づけなかった。
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~タイムリミット~
昼を過ぎても、台上での戦いは続いていた。だが、お互いに体力の限界でもある。休息できた部隊に交代しては攻撃を実施しているものの、攻撃も単調で、漫然とした状況だ。戦闘が膠着している。
高槻は台上に居座った連邦軍を砲撃する機会を探ったりもしたが、相手も巧妙に動いで、そんな隙は与えない。やはりあれは、暗い中で意表を突いた攻撃だから成立したのだ。日中堂々とできる手などではない。
午後3時を回るころ、ついに連邦軍が諦めた。素早く台上の陣地を引き払うと、あっという間に後退していった。それどころか、大規模に陣形を変え始めた。いうなれば、占拠した平地の半分を放棄し、昨日の昼、戦闘が始まったころとよく似た陣構えに戻ったというべきだろうか。ただ、おそらくは帝国特戦隊を意識して、神楽の西半分に多くの兵数を置いて守りについている。連邦軍と帝国軍は、おそらく攻守が交代した形になるだろう。敵は撤退するだろうか?だが依然兵力ではあちらが上回っている。
敵味方関係なく、帝国特戦隊の到着を待つ状態になった。威力偵察を目的に単独行動してきた帝国特戦隊の1個中隊が本体よりも先に到着した。帝国特戦隊は遠目には大時代的な騎馬兵の群れだった。だが近くで観察してみると、鎧には防弾服のような繊維質の素材も使用しており、かつての戦国武者とは異なり、明らかに近代戦を想定しているようだった。鎧の下は紺色のいつもの制服だ。スーツ姿にも似ている。こういった服装こそがあらゆる天候や条件に一番柔軟に対応できる。長めの日本刀、御剣・改を装備している。それは『かなた』の国の近代軍、その騎兵部隊が備えたサーベルと形も機能的にもよく似ていた。白兵戦の部隊かと思っていたら、予想外に銃器もしっかりと携帯している。
「竜騎兵か。こいつはおったまげたな。」
独り言を言う高杉に、中隊の中央にいた女性士官が近寄ってきた。
「高杉少佐はおられるか?私は第一連隊の近衛だ。」
周囲がざわつく。「エースだ。」「近衛雪乃だ。」「雪女だ。」「馬鹿、本人に聞こえるぞ。」
第一連隊、第一大隊の長が直接やって来たようである。近衛雪乃少佐はドウジの能力者でもあり、今や帝国特戦隊を牽引する人物の一人だ。さらさらと流れる黒髪が平安時代のお姫様みたいに奥ゆかしいが、その冷徹なまでの戦いぶりは敵味方から「雪女」と畏れられるほどである。
「あー。私です。援護、感謝いたします。」
応える高杉。
「いや。気にしなくて結構。我らが存分に暴れますから、隊員をとにかく休めて下さい。」
そう言うと、雪女は颯爽と去って行った。




