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ストーリー040 優秀な砲兵(天王台の戦い③)

帝国戦闘記録などより 優秀な砲兵(天王台の戦い③)


~お釈迦にした理由~


 敵の攻撃が止んでいる。「あんな一瞬」と思っていたが、時刻は午前2時を回る。優に1時間以上もの間、一時攻勢に出て、その後守勢に回る・・・と言った感じでなんとか乗り切ったのだ。ところで、その間、こちら第2連隊、第1大隊は火力を一切使わなかった。周囲では双方向に火力の応酬がなされていたのに、だ。


「あの、大隊長。」


「ん?なんだ高槻。」


「うちは結局何も撃ちませんでしたけれど、いいんですか?」

 火力を何も使用しなかったことに高槻は疑問を呈する。


「ああ。今は必要ない。弓で十分だったろうが。」

 水分補給をしながら高杉が答える。確かにそうだった。弓だけで何とか凌げていた。


「でも、こちらも銃撃をしておいた方が、相手にはプレッシャーになったのではないですか?」


「それは違うな。このろくに見えない暗闇の中、しかも下から見えづらい台地の上に我々は居る。こちらの状況が分からない方が相手にとっては不気味なのさ。」


「火力を用いることで、銃兵の数や位置を晒すことになるとお考えですか?」


「それも半分あるが、この地形を最大限に利用したい。だから切り札は取ってあるんだ。高槻よう・・」


「何ですか?」


「お前たちは既に3門も大砲をダメにしているが、一体どういう経緯だった?」


「1門は谷に落としました。あとの2門は演習で撃ちすぎて、砲身がやられました。まだ冷却や煤払いの重要性を分かっていなかったんです。」


「結構。大砲など、いずれまた手に入るだろう。だが、優秀な砲兵は育てるのに時間がかかる。」


「隊長・・・」

 こういうところがズルいと高槻は思う。見ていないようでいて、しっかり部下の事を見ている。


「超高度な一点砲撃をお願いすることになるぞ。覚悟はいいか?」


「お任せください。」

 いつもより張りのあるいい声が出た気がする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~支えきれませんね~


 第2大隊が善戦している頃、台地の下の平地が広がる辺りでは、第3大隊が激しい攻防を繰り広げていた。こちらは平らなところにいるので、地理的なアドバンテージが全く存在しない。そして、隣に陣を張るのは第4連隊の部隊なので、正直なところあまり様子が分からない。「友軍だ」「仲間だ」というレベルの認識だ。だから、呼吸を合わせての連携などは無理だし、「相手が(第4連隊が)頑張っているから、うちらも頑張らなくちゃ。」という義務感で何とか戦線を維持している。とても苦しい戦いを強いられている。背後では第4大隊、第5大隊が松風山から向かってくる第6旅団の各部隊と戦闘中である。全体的に見ると、帝国軍側は、平地で左右から挟み込まれた形になっていて、このまま放置していて良い状況とは言えない。


挿絵(By みてみん)


 しかも、西側から攻撃を加える第6旅団は、十分に有り余った兵力を2つに分けて、交代で波状攻撃をかけて来る構えだ。これでは時間が長引けば、どんどんこちらの第4大隊、第5大隊は疲れ果てて、追い込まれていくことに違いない。兵力差を利用した実に巧妙な戦術だ。


 東側の第7旅団は、第2大隊(高杉隊)に2個大隊をぶつけて台地上の占領を図るも、失敗に終わった。こちらは兵力的にもあまり差がないが、本来は奇襲によって大きな成果を上げるはずであった。ところが、足音を鋭敏に感知する能力者がいたおかげで、全く意味を成さなかった。とはいえ、勝っている兵力で帝国軍の側面に回り込むことは可能である。第7旅団に随行してきた第6旅団、第10大隊が翁(おきな)山方向に進軍しており、第4連隊はこのままでは包囲される危険が出て来た。


「このままでは我が軍は総崩れしかねないな。」

 地図上に碁石を並べて高杉は唸っている。


「騎兵の突撃などで間を抜けられたら、無防備な背後から攻撃されますし。」

 ゴリゴリに米粒が固くなったおにぎりを齧りながら高槻が言う。


「もう、無理だな。」


「支えきれませんね。」


「西田(にしだ)さんは何を考えているのかな?」


 西田大佐は第2連隊の連隊長である中年男性だ。熱い男だが、全体が見えていない可能性がある。第1大隊を実質率いる格好で、第4大隊、第5大隊を神楽(かぐら)の台地上から援護している。先ほどからかなりの銃撃音が響いている。本拠地は台地上に置きつつも、かなり下まで下がって直接に戦っているのではないだろうか?それのおかげで第4大隊、第5大隊は多少助かるだろうが、敵は強かだ。


「西田さんは目の前の事に全力で頑張っているんじゃないですかね。」


「最終的な展望もなく、ただ頑張ってみました。というのが一番まずい。」


「それは頑張ったつもり、という奴では?」


「ああ、そうだとも。だが、これは戦争だ。ちゃんと展望を持ってもらわないと。皆の命がかかっている。」


「具申しますか。」


「もちろんだ。」

 高杉はネコマタの斥候を一人呼ぶと、サラサラと書いた書面を持たせて、第1大隊に走らせた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~天王台・中央放棄~


 西田大佐は全体が見えていない時があるが、良い点もいくつもある。人の意見を素直に受け入れるのだ。今もとりあえず、弓兵部隊に指示を与えて攻撃命令を出しつつ、高杉からの書面に目を通す。「高杉に言われるまで、その考えはなかったな。」そう言ったが迷いは一切ないようで、決断は早かった。彼は第4連隊の影山大佐にもすぐさま伝令を飛ばし、翁山に引き上げるように勧めた。


 午前3時、再び連邦軍の攻撃が開始される。それを受ける帝国軍。実際こうやって見ると、常に相手の攻撃に応対し、守りに入っている帝国軍である。であれば、最初から平地など捨てて、砦に籠ってガチガチに守っていれば良かったのだ。


 東側の第7旅団の各部隊は先ほどまで攻撃をしていた部隊が休憩を取ったうえで再度攻撃をしてきている様子だが、西側の第6旅団は先ほど後方で見ていた4大隊、4000が100%チャージされた感じで攻めかかってくる。途中交代で入ってきたサッカー選手のように、体力が漲って、有り余っている。それを受ける帝国軍、第2連隊の第4大隊、第5大隊は瀕死の様相だ。残念ながら、かなりの被害を被りつつある。でも耐えるのだ。この時間帯を耐えれば、休憩することだって可能なのだ。


 攻撃はおおよそ1時間程度続いた。


 高槻のまさに懸念した通りで、平地では騎兵が活躍しやすい。突撃を食らっては陣形が分断され、横や後方から攻撃されることもあった。それでも何とか大隊レベルでの崩壊は避けられたようだ。


 第4連隊も、一番東側に位置する第1大隊がなんとか別動隊、連邦軍第6旅団の第10大隊を上から抑え込むことに成功して、他の大隊が翁山へ向けて後退するのを支援する土台を作った。ほぼ捨て身の果敢な攻撃を繰り返したため、ここでも多くの犠牲者が出たが仕方がない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~水平砲撃~


 そんな中、高杉隊への再攻撃も始まり、激しさを増している。引き続き、台地の縁を城壁に見立てて守りを固めているが、次々に守りが破られ始める。こちらの攻撃の弱さを見て、敵も旧来の武器、剣や弩弓(ボウガンのようなものだ)を手に攻め込んでくる。伝令が本営にいる高杉や高槻らの元に走り込む。


「左右の侵入を防ぐことには成功しましたが、その隙に中央が突破されました。」

 お約束のように矢が一本刺さっている。


「ご苦労、治療してもらってこい。」

 高杉は言うと、別の隊員に前方へ伝令に行かせる。


 しばらくすると高杉隊はすっと左右に移動し、中央は丸裸になった。やや東側が明るくなった空のもと、色でどちらの軍勢化が識別可能になってきた。紺色が主体の帝国軍、深緑色が主体の連邦軍。中央は緑だ。


「俯角2・・・。全砲門角度」

 高槻の確認、微調整。


 きゅるきゅるきゅる。砲身の角度が下げられる。


「角度良し」

 応じる砲術隊員たち。


「てーーーーっ」


 ドンドンドンドン!!!!


 低い光の弾道が連邦軍を薙ぎ倒す。そして台地の縁に着弾。


 ドバンッ!!ズズ~~ン!!ズズ~~~ン!!


 縁から零れ落ちる連邦軍の兵士、その下の登りくる兵士を巻き添えにして転がり落ちてゆく。そして切り取られて残された台地上の連邦軍兵士たちは行き場を失う。


「白兵、総攻撃!」

 高らかなラッパとともに、御剣や槍などを持った隊員が襲い掛かる。弓の弦もしなる。


 ウオオオオ~~


 正面からの砲撃後の左右からの挟撃。孤立した連邦軍の兵士達に抗戦能力はろくに残っていない。


 高杉隊は30分以上耐えたが、決着はわずか5分ほどだった。台の下は既に混乱を極めている様子だった。仕掛けた側の連邦軍は負傷者が多すぎて、台地の上への侵攻を続けられる状態にない。再び台地の縁から離れるとそこで体勢を立て直している様子だった。どうやら第二波も防ぎきることが出来た様子だ。


 落ち着いている間に、高杉は陣地をやや東に移した。他の大隊が登って来て、これから台地の上は大所帯になる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~占領することのみ~


 やがて、西側の第6旅団が攻撃部隊入れ替えのために後退してゆくと、東側の部隊も静かになる。もはやだれでも理解できることだが、たまに打ち上げられる照明弾は東西の部隊が呼応するための合図として使われている。


 照明弾が上がる。帝国軍の隊員達も「おっ。(敵の)後退の信号の方だ。」と分かるようになった。そのチャンスを生かして、第4連隊の諸部隊は北の翁山へ、第2連隊の諸部隊は南の神楽へ、中央の平地を完全に放棄して、それぞれ高台へ移動した。


 朝もやの中、連邦軍は再度の攻撃を仕掛けるために前進する。ところが先ほどまで多くの帝国軍がいた平地は今や無人と化していた。わずかに平地の端から高台に上がろうとする帝国軍の隊員を見かけるが、この距離では追いつきそうにない。


 敵を逃がした。


 「完膚なきまでに打ちのめすつもりが・・」

 第6旅団の将、郭奕は独り言を言って歯ぎしりする。


 向こうから劉勝率いる第7旅団の軍勢が迫ってきて、間抜けにも合流する。仏頂面の劉勝が馬に乗って寄って来ては、郭奕を睨みつけた。

 

 連邦軍は全ての平地を占領することに関してのみ、成功を収めた。


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