ストーリー038 過去を引きずる者達(天王台の戦い①)
帝国戦闘記録などより 過去を引きずる者達(天王台の戦い①)
~活躍できなかった、ふたりの将軍~
山田驍が異世界転移して間もなくのころ、連邦軍・青海方面軍の中で、最も意気盛んな旅団は第7旅団だった。、かつて帝国軍が前線の一つとして確保していた駐屯地、横田を占領し、最も南側から、帝国軍第11師団に圧力をかける。そんな第7旅団、それを率いる劉勝准将は過去の失態を引きずって焦っている様子だ。行軍が遅くて、歴史的な決戦に遅参したのだ。
第一次戦場ヶ原の戦い
遡ること2年前、斐伊川の下流の平野部、かつて塩冶原という名前だったその場所で、結集した帝国軍を連邦軍・青海方面軍は散々に打ち破った。当時はまだ、青海方面軍などという名前は付いていなかった。だが、この戦いに勝利し、青海県の実効支配が進む中で、「青海方面軍」の名前が本国より与えられ、帝国領内に根を張る3番目の方面軍となった。その戦いで活躍したのは上位の旅団5つと第8旅団、そして方面軍の長である文官、バヤン総督の直属部隊を兼ねている第10旅団だった。
その時に活躍できなかった挽回をするために、第7旅団は執拗に帝国軍第11師団を追い回して、青海県の南東に隣接する播磨県に迫っている。同じく活躍しそびれた第6旅団もまた、江府を拠点として、南東の真庭を目指す。その途中にある天王台と呼ばれる低い山稜が、連邦軍と帝国軍の決戦の場となろうとしている。
5月1日だと記録されている。その山稜のなかで出来る限り高い位置を取ろうと、連邦軍と帝国軍はそれぞれ別々の場所を目標として進軍、展開した。連邦軍は奥田谷と、西側の隘路である小松谷に挟まれた松風山に、帝国軍は奥田谷を挟んで東に位置する翁山を中心に布陣する。谷はそこそこ深く、正攻法を選択するならば、上方の平たい土地や山裾を進んで相手の陣に接近して、本営を叩くのがいいだろう。谷を渡り、相手に迫るのはかなりのリスクだ。
第6旅団を率いる郭奕准将は、援軍に駆け付けてくれた劉勝らを大歓迎してくれた。今回は後方の旅団は積極的に支援してくれない。東や北の各方面に帝国軍の残存戦力があるため、青海からも思うがままに派兵することが出来ないのだそうだ。そんな向かい風の中、共通の敵と対峙している第7旅団が援軍を出してくれたおかげで、かなり有利な状況になったに違いない。
「ご協力感謝します。正直なところ帝国軍の1万ごとき、我ら単独でも問題ないかとも思いました。ですが、帝国特戦隊もこちらに向かっておるとの情報を得ておりまして、雑魚どもにあまり時間をかけたくはないのです。」
少し虚勢を張って郭奕が言うと、劉勝はなんだか気分を悪くしたようにも見える。
「そんなに帝国特戦隊が怖いならば、初めから江府の防衛にでも努めておけばよかったでしょう。今更何を仰るか?」
「あ、もちろんそれで済むならば、そうしたかったですよ。でもね、うちも戦場ヶ原の戦いに間に合わなかった戦犯組。ここいらで手土産の一つでも作っておかないと、もう後がないんです。」
青海方面軍の総督バヤンは部下を厳しく採点評価する性質がある。正直に心の内を打ち明けると、同じ境遇の劉勝も同情してくれたのか、態度が柔和に戻った。
「まぁ、お互い大変ですな。」
二人とも沈黙する。
「それでですね。図面を見ていただきたいのですが。」
郭奕は一呼吸おいてから言うと、天王台周辺の図面を拡げて見せる。そこには現在の敵味方の布陣も書き込まれている。
「何だかこちらの布陣に無駄が多いように思われますな。」
「そうなんです。こちらは丘陵の上の狭い土地に閉じ込められ、相手に囲まれるような格好になってしまいました。」
確かにこちら側は戦闘に参加できない位置に幾つかの部隊が『仕方なく』配置されている。第6旅団の一部もそうだが、援軍に駆け付けた劉勝ら第7旅団の部隊が主に該当している。
「小松谷は峻険で、行軍にも時間がかかりました。だから、奥田谷を登り切る最短ルートで進軍すれば良かったのです。そうすれば、今とは全く違う形で相対することが来たはずです。」
「でもそうすると、敵に上から頭を押さえられるリスクも高かったでしょう。そうならなかっただけ良かったと思うべきです。」
ふにゃふにゃと中途半端な理論派の郭奕は、俺様豪胆タイプの劉勝を苛つかせる。
「今更言っても仕方ないかも知れないのですが、戦いは常にリスクを負ってやるもの。時に『賭け』に出るべきです。」
「おおお。流石は飛ぶ鳥を落とす勢いの劉勝将軍。ここはひとつ、お手並みを拝見したいと思いまして・・・」
まるで馬鹿にしている敵にいうようなセリフだ。
チッ
劉勝は心の中で舌打ちした。
性格的に合わない郭奕との会話をすればするほど、劉勝は気分がマイナスになる。慇懃無礼な奴だ。となる。生真面目な七三分けと、独逸式の片眼鏡を右眼にしていて、地味な顔立ちに似合わずお洒落な身なりをしている。郭奕は確か偉大な父親、今は亡き連邦最高の戦略家の息子ではなかったか?観察している劉勝の目と郭奕の目が合った。
「将軍には、この『神楽』と呼ばれる台地の南側を抜けて、敵の背後に回り込んでもらいたいのです。これが成功すれば、我らは敵の第2連隊を殲滅することも可能でしょう。」
郭奕は地図を指で指し示して言う。
は?なんで援軍に来たものがそこまで骨を折らなければならない?だが、大見得を切ったのは劉勝だ。
「い・・いいでしょう。ただ、十分な援護はしてください。これは決死隊ですよ。」
「もちろんです。前面の各大隊に攻撃命令を出しておきます。その隙に宜しくお願いいたします。」
郭奕は片眼鏡を人差し指と中指でずり上げた。
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~無謀な作戦~
午前10時、連邦軍の第6旅団は帝国軍に攻撃を開始した。主に南側の部隊が活発で、その数も多く、帝国軍の第2連隊は押され始める。うち第4大隊、第5大隊は天王台特有の平坦な高原地帯をまっすぐ東に進んでくる連邦軍の攻撃を受けていたが、兵力差も、火力差もある。後方の第1大隊、第2大隊にも支援要請が出た。第2大隊は高原地帯の南側に一段高くなっている『神楽」と呼ばれる山並みの上から、その動きを見下ろしている。第2大隊を率いる高杉少佐は横にいる女性士官、高槻ほのか大尉に声を掛ける。
「何だか一斉に仕掛けて来たな。命知らずというか、無謀というか。」
「こちらは火力が圧倒的に足りていないですか舐められているのかも知れません。連邦軍に弓は馬鹿にされています。」
和弓は有効射程の長い強力な武器だが、攻撃力に関しては銃に遠く及ばない。和弓も銃も使えるようになるまでには、修練が必要だ。ならば、弓を習得する時間を銃を習得する時間に充てたほうが効率的だが、第11師団には十分な銃が行き渡ってはいない。訓練用の銃ですら不足している。未だに帝国軍内は弓兵で満ち溢れている。『ドウジ』や『カバネ』が撃てば、威力も上乗せできるので、『かなた』の世界よりは今後も使える可能性を秘めているが。
「それにしても無謀な作戦だとは思わんか?うちは翁山と神楽の2つの高地を既に抑えているから、本来、攻めるには相当な勇気を必要とする。深入りすると、北側の第4連隊とうち(第2連隊)に挟まれる格好になるからな。」
「でも、そんなことを言っていたら、敵はなにも攻撃できないじゃないですか?」
「現にうちだって今まで全く動けていない。相手が松風山と神楽の2つの高地を既に抑えているために、有効な攻め方を考えられていないのだ。」
「確かにそうですね。間の平坦な高原を抜けようとすると、左右から攻撃される危険性があります。まぁ、こちらは無理して攻めていく必要もないのでしょうけど。」
「うん。こちらは援軍が来るまでに崩れないことが大事だ。相手はそれを知っていて焦っているのかも知れないな。」
「きっとそうですよ。それまでに何としてもここで決着をつけなければならない。」
「なるほど。相手の気持ちになってみて、最善の目標は何だと思う?」
「はい。やはり神楽の奪取がカギになってくるでしょう。今我々が陣取っているこの場所も、敵が占領すると大変な脅威です。」
「支援要請があるが、尚のこと、ここを離れるわけにはいかんな。」
「周囲にも警戒すべきです。」
「よし。背後に回られたりしたら大変だ。周囲に斥候を放て。」
「了解しました。」
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~発見された!~
ブツブツ文句を言いながら、劉勝は進軍する編隊の中ほどにいる。これが相手に発覚しなければ歴史的な勝利に貢献できるのは間違いない。だが、あまりにも敵に近すぎる。索敵などに引っかかりはしないだろうか?こちらはヤマネコという能力者の斥候を後方支援中心の部隊である第2旅団から借り受けている。だが、帝国軍にも数は多くないが、同様の能力者がいるとの情報も得ている。そういった存在があるおかげで、伏兵や奇襲などの戦術が使いづらい状況になってきている。
「昔はよかったなぁ。アッと驚くような戦術をいつか披露するのだと思って入隊したのだ。西蔵で敵を欺いて背後に回った時は、胸がすくような思いがしたものだ。」
過去の栄光に縋ったまま、変わりゆく時代についてゆけない。それではただのダメな中高年なのだが、俺様劉勝は反省も自己研鑽もしない。
「将軍の御高名は西蔵の七年戦争で轟いておりますからな。」
名もなき、ただのお伽衆(暇つぶしの話し相手)にしかなっていない大佐が劉勝をヨイショする。同列でも、別動隊を与えられて新見侵攻に備えている項道栄は出世株だ。いずれ准将に昇進することもあるだろう。今横にいる彼にはそれは永遠にないかも知れない。
「奴ら、先方部隊は何をもたもたしておる。西蔵の山道はこんなに緩やかな農道ではなかったぞ。」
「少し発破をかけて参ります。このままでは帝国軍の援軍が到着してしまいますな。」
「その通りだ。よろしく頼む。」
「はっ。」
見せ場を与えられた大佐は意気揚々と馬で隊列を追い越して行った。
・・・・
名もなき大佐が500mばかり進むと、先頭から3番目の中隊で何か怪綺談のようなものが持ち上がっている。中隊長とヤマネコの斥候が話している。そのおかげで進軍がここで止まっている。
「どうした?一体何があった?」
大佐は中隊長の大尉と思しき中級ぐらいの将校に質問する。
「あ、こちらの斥候が蝶のような羽で空を飛ぶ帝国軍の斥候に遭遇したそうです。」
「帝国軍のモリビトのようでしたが、低空飛行が出来る奴で、谷を越える際に引き離されて逃げられました。」
その斥候の彼女も言い添えた。
「ということは、我らのことを報告されたという事か。それはまずいな。」
大佐が懸念を示したとほぼ同時だった、敵影を発見したとの報告だった。双眼鏡で覗いて愕然とする。北側の山稜に大砲が何門かこちらを向いているのが見える。
ドンドンドンッ。
花火の音に聞こえなくもない。だが、
ズドーーーン。バリバリバリバリ。
進軍してきた農道の脇のスギの木を薙ぎ倒した。砲撃だ。
近い。
「後退だ!!通常の歩行で後退せよ!!」
大佐はそう大尉に伝えると馬で走り出した。その後も砲撃は間欠的に劉勝の軍を襲った。砲撃の回数が増すごとに被弾地点が近づいてくる。だが、速やかに撤退したことが良かった。大佐の伝令のおかげで、大きな被害は生じなかったが、何もできないまま、劉勝はもとの陣地に戻る羽目にあう。劉勝から第6旅団の郭奕に伝令が伝わったのは午後2時を回るころで、その時刻を境に連邦軍の正面攻撃は中止され、高原に静寂が訪れる。戦いの1日目はこうしてあっけなく幕を閉じた。




