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ストーリー030 上石見・般若間の戦い②

帝国戦闘記録 上石見・般若間の戦い②


~帝国軍の追撃~


 和弓の第3斉射が終わり、ほぼ無力化した連邦軍に、帝国軍が白兵主体で襲い掛かった。その直撃を食らったのは第7大隊後方、全第8大隊と第9大隊の前方にいた各部隊だった。とくに第8大隊に関しては、銃火器による被害も多かった。第8大隊の位置に組み込まれた連邦軍本営の人員は一定数がが即座に命を落とした。帝国軍は本営の位置をしっかりと把握しており、火線もそこに集中したのだ。引き続き銃火器による第2斉射もなされる。火線に入らない領域では白兵戦闘が主軸となりつつある。乱戦になると、個々の射撃に関しては高度な技量が求められる。銃を持つ隊員は慎重にサポートに徹してゆく。


挿絵(By みてみん)


 本営項道栄は落馬の際に頭部を打って一瞬だけ意識を失ったものの、正気を取り戻すと、果敢に手に持つ2丁の小銃を帝国兵に向けて発砲した。パン。パパン。射程の短い銃だ。相手が離れていては効果もないだろうが、乱戦状態ですぐ目の前に帝国軍の隊員がいる。銃弾を受けて、帝国軍の白兵戦専門の隊員が倒れる。


ぐはっ。


次はその中心にいる桃瀬麗華ももせ・れいか大尉に向けた。


パン。


銃弾はややそれて、桃瀬大尉の左わき腹辺りを掠る。


あぐっ。


 桃瀬は苦悶の表情を見せたが、それでも前衛向けの装甲を着用しており、ドウジに変身していることから防御力も向上している。ダメージは小さい。そのまま恐れずに突っ込んでくる。


「畜生、この化け物め!!」


 項道栄は再び銃口を桃瀬に向けるが、右斜め前に飛び、今度は左斜め前へ、俊敏な動作で距離を詰めるため、射線が定まらない。相手の剣先が届きそうな距離まで、発砲を出来なかった。


「うおおお!」パァン!!


 発砲しようとした腕を桃瀬の御剣みつるぎが下から切り上げる。


 ぐはあ。


 脇の下あたりからの大量出血と共に膝をついた項道栄の肩を桃瀬の御剣が上から切りつけた。午前8時15分、開戦当初から帝国軍本営の特殊任務に選抜されていた桃瀬大尉は、敵の総指揮官である項道栄を自ら討ち取って、その死亡を確認した。その他、本営の騎馬兵の多くの死因は馬からの転落による頭部の損傷などだったが、多数の銃弾や矢を一度に受けたことによるショック死に近いものも多かった。連邦軍本営付近の生き残った兵士たちは、一部の抵抗を除き、街道の北側の木々の中へ逃走しはじめた。


 連邦軍の本営を含む第8大隊は被害の中心にあり、開戦からわずかの時間で事実上壊滅した。      



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~先頭の名将~


 第8大隊の壊滅の裏で、しぶとく抵抗する部隊も中には存在した。第7大隊は大隊長の孔融こう・ゆう少佐が即座に北側の森に退避し、多くがそれに追随した。先頭の位置にあり、伏兵による攻撃の集中が第7大隊の後ろ半分に集中していたことも理由とはなろう。さらに連邦軍にとって幸運なことに、北側の森の一部にはかつて果樹園として使われ、開けている場所があった。ここを通る際には丸裸になるが、彼らが撤退する際には帝国軍と距離があったため、追撃を免れた。


 ふたつの元果樹園の合間に木々の深く生い茂った場所があった。ここを拠点にして、追ってくる帝国軍が開けた場所を移動するところを逆に狙撃することも可能だった。一旦追われて逃げてきただけにバタついて、しっかりと態勢を整えるのに手間取ってはいるが、無防備な帝国兵を狙い撃つことぐらいはできる。果樹園に足を踏み入れた帝国軍の隊員は狙い撃たれた。散発的な銃声が森の中に木霊する。


 圧倒的なアドバンテージを得たかに見える帝国軍にとって、それは想定外の状況に違いなかった。そして孔融の判断は正しかったに違いない。彼と彼の部下たちは激しい奇襲による被害を最小限に食い止めることにも成功している。2個中隊の約400程度は戦闘可能な無傷の状態で連れてくることが出来た。果樹園に挟まれた深い森を利用することで、帝国軍は主に東西のの2方向からしか接近することが出来ずにいる。


 果樹園を通って直線的に接近しようとすると目立つため、狙い撃ちされてしまう。帝国軍は今度はその脇の森の中を回り込んで接近してくるしかない。帝国軍の柿崎、栗田両大尉やそれに付き従う者の多くは、白兵主体の戦士タイプが多いのか、強引に攻めてくる傾向にある。それに比べて孔融の部隊はバランス型のため、柔軟に対処できる。銃や弩弓(連邦軍もそれなりに弓を使う)、槍など、とにかく長物で守りに徹する。銃を主体とした近代軍を目指しているとはいえ、こういった過去の武器も使用しないとやっていけない。


 帝国軍側の記録から見ると、第5大隊の第3、第5中隊の隊長、柿崎、栗田両大尉は当初孔融攻略に相当な苦戦を強いられていたようだった。


「ここで踏ん張り、頃合いを見てうまく退けば、被害もこれ以上は増えなくて済む。」


 趨勢としての負けを認めつつ、孔融は冷静に手持ちの兵力の運用を続けていた。それでも、後方支援、遠距離攻撃の帝国軍、第5連隊の第4中隊が到着すると、形勢が逆転し始めた。第4中隊は桃瀬大尉が本営の守備や特命のために隊を離れているので、代理として補給担当でもある成瀬なるせ中尉が中隊長代理をしていた。彼は果樹園の広さや性状を確認すると、決死の作戦に出る。それは、連邦軍の布陣のすぐ脇に位置するうねを経由して、一気に接近戦を仕掛けるというものだった。成瀬は何人かの水筒を回収して目の前に模型を作り出すと、部下たちに説明する。


「見て見ろ。われわれが通る畝が敵の真横ならば、それは丸裸の状態だ。死にに行くようなものだ。」


「だが逆に、あまりにも離れてしまった場合を想定してくれ。敵からどう見えるか?」

そう言うと彼は、部下の一人に並べた水筒の列を横からのぞき込ませた。


「あ、確かに。間が透けて見えますね。」


「うむ。そうだ。ならば、すぐそばから斜めに見たらどうだ?」


「本当だ、水筒が重なって死角になります。」


「そういうことだ。だから我々は、彼らの布陣しているすぐ外側の畝を伝って、彼らに接近する。」


折しも、東側の栗田大尉の部隊が攻撃をかけていたタイミングを、伝令として飛び回っていた如月准尉が伝えに来てくれた。それが完全な好機となった。また、成瀬が今し方部下たちに説明した通りだ。人間の背丈を超える程度の葡萄ぶどうの木は畝を選んで移動すれば、格好の目隠しとなる。


 孔融らは東南西から半包囲状態で攻撃され、抵抗は厳しくなった。そもそも後ろに隣接していた連邦軍の第8大隊は今や霧散したも同然。孔融以下の第7大隊は、孤立無援の状態だ。現れた帝国軍の第4中隊はバランス型の部隊のようで、懐に入り込んだうえに弓や銃による攻撃も仕掛けてくる。気が付くと、小隊長、中隊長クラスの士官が標的としてあちこちから狙われ、倒れていく。一気に旗色が悪くなってきた。もはや崩壊も時間の問題だった。


 バラバラと纏まりもなく逃走が開始されると、より被害者は増えていった。本来このような敵前逃亡のようなことは規律違反だが、連邦軍ではそういったことを統率しきれていない。もはや1人のお供もいない状態で、孔融は森の中に坐した。その姿はまるで帝国の茶人か、歌を詠みあげる文人のようでもあった。自分が捕まることで、相手にとっては大きな手柄とはなるが、その分、より多くの味方が逃げてくれればよい、そう戦略的に考えての事だ。


 帝国軍はついに、孔融と対面した。午前9時00分、連邦軍第7大隊、大隊長の孔融少佐は武器を捨て、帝国軍に投降した。彼の奮戦はとても評価される。惜しむならば、第8大隊がすでに壊滅していたために、孤立無援となり、帝国軍に半包囲されてしまったことが彼の不運であった。このような状況で活路を見出すなど、どんな名将にも不可能なことである。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~ならば行くしかないっしょ~


第7大隊の中で、2個大隊は孔融と共に抵抗を続けていたが、その多くは潰走、その後より森の奥に逃げて、最終的には般若山麓方面に向かった者たちが多かった。果樹園での戦いが決着すると残った者たちは奥の果樹園を抜けて深い森の中を進む。第7大隊のうち第3中隊は果樹園脇の戦闘で予想外に矢の被害を受けてしまい、けが人を抱えてボロボロの状況だ。それでも一部の小隊長や分隊長が兵達を叱咤しながら、北西方向に組織的に退却する。


 第4中隊は、士官が見当たらない。小隊長クラスも下手したら全員命を落としたと思われる。運よく生き残った黄大黄こう・だいおう曹長は一番上の階級として気合を入れ直した。まだ今年で24。軍隊的には何とも言えないが、一般社会では限りなく若造だろう。だが、彼が今や指揮官なのだからしっかり考えて、全体の行動を決定しないといけない。


 連邦軍の意地を見せて、しぶとく戦うべきか?


 それとも早期に降伏をするべきか?


 幸い回復術師の若い女性を伴って逃走しているので、多少の無理は効くだろう。前者を取ろうと考えていた。


 腕には自信がある。見た目にはコンプレックス。オレンジゴールドに脱色した前髪を掻き上げる。本来はからすのような黒髪だが、化学薬品で脱色できることを何年か前に発見した。発泡性のオキシなんとかってやつを髪に馴染ませてしばらく放置すると、いい感じに色が抜けるのだ。あとは毛や地肌が荒れるので、羊毛の油で保湿、ケアする。正しく門外非出の機密情報なのだ。今は誰にも教える気はないが、いずれこの技術をもとに髪染めを連邦内に広く流行らせるのだ。


 『こなた』の世界では倭人にしろ中華圏にしろ、鮮やかな目や髪の色に恵まれた者も多数存在している。彼らはその美しい恩恵を周囲からもてはやされ、異性からも多分に興味をそそられる祝福された存在だ。そういった恩恵のない地味な見た目の者達は生まれながらに劣勢だ。テクニックで戦っていくしかない。そんな同志たちの支えになるのだ。


「なぁ、宋伍長、これからどうする?」

 二つ下の階級である彼女、回復術師に聞いてみる。


「それを考えるのがあなたの仕事でしょう?もうあなた以上の階級の人はいないんですから。」


 宋紅花そう・こうか伍長は紫色の長い髪に纏わりついた蜘蛛の巣を払ってつんけん答えた。あれ?至って怖い反応だった。こういう態度、なんと表現するのだろう。ツンドラ系?ツンデレ系?


「あ、ま、まぁ、そういう事なんだけどね。周囲の意見も聞いておこうと思って。」

びっくりして、タジタジになってしまう。


「自分の意見を持たない男性は嫌いです。」


 あちゃ~。真っ向から拒絶されている気もするが、叱咤してくれてるのかも知れない。黄大黄は前向きだ。そんな彼のことをバカ扱いした者もいたが、気にしない。あんな奴のことは。宋紅花とか言う回復術師はこちらを見ようともせず、ただ森の中を進んでいく。


「俺としてはだな。本隊を見つけて合流することを第一目標に行動する。その前に敵に発見され場合、相手が少なければ交戦、多ければ降伏。それが現実的な判断だが、どうだろうか?」


ふうっ。ため息をつくと彼女は言った。

「数ではなく、相手の力量で判断するべきです。」


能天気な彼も、さすがに馬鹿にされたと考えて、気分を害した。

「戦場では、頭数も相手の力量とやらに含まれると思うが、どうかな?」


「なるほど。曹長の言う事も一理ありますね。」


 意外にも素直に、彼女が感心した様子が伺えた。お、いい手応えじゃないか?!調子に乗って更に何かを言おうとした時に、茂みを掻き分けて帝国の将校が現れた。毬栗いがぐりのような頭に、どっしりとした体格、実に狂暴そうな風貌だ。額を嫌な汗が伝うのが分かる。黄大黄もリアルに戦場を生き抜いてきた戦士だ。肌で感じる何かがある。ドクドクと頸動脈が波打ち、危険信号を鳴らし始めた。


 手に持つ武器に目が釘付けになった。


 なんだあれは?


 ポセイドンが持っている三俣の槍とも少し違う、独特な形状の長い槍だ。例えるならば、西遊記の沙悟浄が持つ槍の刃の中央部分から、もう一つの刃がまっすぐに突き出て伸びている。そんな風に見て取れた。「十文字槍」という、倭国で少し前に考案された武器であることは後から知り得た。


 名は知らずとも、未知の武器の見た目に少し怖気づく。


 相手はまだ一人。討ち取れば大手柄。しかし、自身の中の何かが危険信号を発している。こちらは手負いの者も含めて7名、経験の浅い兵も3人。そこそこ2人、あとは回復術師の彼女と黄大黄しかいない。その計算から導かれた決断は意外なものだった。


「ここは俺が食い止める。皆、逃げるんだ。」


 だがさらに意外なことが起こった。


「私も残ります。他の総員は退却しなさい。これは命令です。」


 彼女が周りに告げると他の兵はすごすごと退却して行った。その有様を、帝国の将校は静かに見守っていた。


「私が必要だからつれてきたんでしょ?」

 彼女は初めて、ほんの少しだけこちらに笑って見せた。


 ならば行くしかないっしょ。黄大黄は奮起した。

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