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ストーリー029  上石見・般若間の戦い①

ストーリー029 


帝国戦闘記録 上石見・般若間の戦い①


~連邦軍の動き~


 丁小虎てい・しょうこたち斥候からの報告を受けて満足がいったのか、軍団長の項道栄こう・どうえいは膝をたたいた。敵の斥候との交戦について根掘り葉掘り聞かれるかと、丁小虎は心配していたが、杞憂だった。項道栄はむしろ、敵の斥候の行動パターンから、帝国軍の位置を推測したようだ。


「よし、帝国軍はまだ上石見の集落近隣にいるようだ。速攻で森を抜けるぞ。あるいはあちらが森に入る前に、こちらが森に潜んで攻撃するのもいい。いずれにせよ早がけだ。」


 ほかの者たちも同様に考えたようだし、一晩休んだおかげで、今度の早がけには不満が出ない。森に帝国軍が潜んでいないことが確認できたわけだし。


 孔融こう・ゆう少佐率いる第7大隊を先頭に、森の中央を割って伸びる奥出雲街道をどんどん進軍していく。続く第8大隊も森に入っていく。軍団の本営はここにいる。項道栄や丁小虎ら斥候もこの位置で進軍に加わっている。次いで第9大隊。最後が先の戦いでの欠員も多い、楊許昌よう・きょしょう中佐率いる第10大隊の順だ。欠員が多いとはいえ、大隊長の楊許昌だけでなく、馬季常ば・きじょう馬幼常ば・ようじょう兄弟など将校の能力としても高い人物が揃っているので、万が一の守りともなる。


 第8大隊の中、本営の行軍に混ざり、丁小虎も徒歩で行軍している。斥候としての任務も解かれたので、今は軍団長である項道栄を護衛する形である。先ほどの帝国軍の斥候、忍者との戦いで思いのほか消耗したので、いったんノーマルな人間に戻った。

あと短時間なら変身は可能なのだが、有事の際のために体力はとっておこう。腰に下げた山刀を一度鞘から半分抜き出し、そこに映り込む自分の目を見た。よし、大丈夫。山刀を鞘に納める。


 とはいえ、自分たちがしっかり調べた飯森の中、街道周辺だから、特に脅威はないだろうとの自信もある。夜に感じていた不気味さとは打って変わって、光が差し込む朝の森は気持ちいい。ヤマネコになれから、先ほどのような夜間の哨戒任務が多いわけだが、夜目が効く訳でも、日光を避けて生きているわけでもない。人間として、暗いところで長時間活動するのはストレスだった。まるで宿泊した行楽地での朝のお散歩のように気分が解放された。先ほどの疲れを癒すように深呼吸すると、丁小虎は歩き出した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~迎え撃つ帝国軍~


 朝日が飯森いいもりを照らし始め、幹と幹、枝と枝の間から象牙色の光の帯が差し込む。帝国軍の大和一郎(山田驍)大尉は連邦軍の動きを察知し、連隊長、北条一大佐に報告した。5月3日の午前6時前後と記録されている。それをもとに、帝国軍は待機していた般若参道から飯森に入り、約400~500m北上、荻窪おぎくぼと呼ばれる、街道がやや落ち込み、湾曲している地点の周辺に至り、街道の南側に兵を伏せた。連邦の行軍は続いており、おそらく午前7時辺りには荻窪に敵の本営が到着する計算だ。


 帝国軍は森の中に長細く兵を配置して、本営の位置もやや中央に移動した。本営付近や西側を担当する第4大隊に銃火器を集中配備して決戦に備える。



  連邦軍       帝国軍


  3,900        1,789 


  項道栄 大佐    北条一 大佐


  第7旅団       第11師団 第3連隊

  うち第7~10大隊   うち第4大隊、第5大隊


  銃火器 200門    銃火器 50門 間接攻撃主体:和弓



「最左翼は我々が担当したかったです。」

上司である鞍馬少佐に対して、九条大尉は物怖じせずに不服を申し立てた。敵の隊列は長く伸びている。こちらは少数なので、隊列が短い。奇襲が発覚してからは、両翼がもっとも危険にさらされることを覚悟しなければならない。逆に言うと、最も功績が讃えれれる場所でもある。


「君ほどではないが、堀川君もしっかりやるべきことをやってくれるだろう。」

リップサービスも込めて鞍馬は宥める。


「堀川大尉も実力者です。ただ私のように能力を使って部下たちの防御力を高めたりは出来ませんから・・・。」

別に功名心から言っている訳でもないようだ。彼女なりに、より多くの隊員たちの生存を考えているらしい。


「我々は本営を守るのも仕事だし、それ以上に重要な目標もある。」

情熱的すぎる部下に頭を痛めつつ、鞍馬は応えた。山田君が・・・おっといかん。大和大尉らが言うように、このチャンスに敵の哨戒能力を奪い去りたい。


「小此木中佐と大和大尉は、敵のヤマネコを排除することで最も効果的に連邦軍を弱体化できると考えているんでしたよね。それほどまでに重要視しているという訳ですね。」


「そうだ。ヤマネコを排除することが、本作戦においても、この先においても差を分けてくる。私もその意見に賛成だ。なので、本作戦での『最上』は彼らをすべて撃破もしくは捕縛することにある。」


「でもどうやって彼らの存在を把握できるのですか。次々行軍してくるなかで、ヤマネコ達を探し出すことなど、本当に可能なのでしょうか?変身していなければ、ただの女性にしか見えませんよ。」


「それが可能なんだそうだ。携行している武器に特徴があるとか大和大尉は言っていた。そして通常時、それを持ったヤマネコは敵の本営にいる。」


 九条大尉はすぐ右にいる大和大尉や北条大佐らの方に目を向けた。


「鉄の濃集を感知することができる、でしたっけ。凄い能力ですよね。その武器が目の前に来れば、敵本営もヤマネコも目の前にいるという訳ですね。」


「あぁ、だから彼を信じよう。」


 何とか納得してくれたようだ。九条は桃瀬大尉と同じ「ドウジ」の能力者でもある。敵との遭遇時刻が近づいたので、彼女は念じて、変身した。豪奢な縦巻きロールの上の二本の角には、杉と柏の小枝をくっつけて偽装完了。その恰好はこの緊張感とアンバランスで笑えてしまう。彼女は仮装大賞のような恰好のまま持ち場に戻った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~一斉攻撃~ 


 いよいよだ。足音が近づいてくる。鞍馬は生唾を飲み込む。息を殺して、連邦軍が進んでいくのを見ている。どんどん連邦軍が目の前を通り過ぎていく。こちらの藪の中から見て、街道は少し落ち込んでいるので、自分たちの足元に相手の頭部があるぐらいの位置関係になる。


 まだだ、敵の、連邦軍の本営が来るのはまだだ。


 ほんの5~6分のことなのに、まるで永遠のように長く感じる。自分の呼吸、心臓の音が耳の鼓膜を叩いてやまない。


 そのときだった。しゃがんでいた山田がすっと立ち上がり、右腕を前に指し示した。その手の指し示し方は古の預言者のようでもあった。瞬時に、山田のすぐそばにいる銃兵たちが立ち上がり、一斉に発砲した。


 その数、おおよそ30門。


 ババババババ~~ン。


 耳をつんざく咆哮が木々に木霊する。


「うわ~~」

「ヒヒーン」

倒れ込む人や馬、馬にひかれて横転する荷馬車。


だがそこに容赦なく、矢の雨が降り注ぐ。


シュンシュン。シュンシュンシュン。トストストスッ。


銃声を合図とした帝国軍のありとあらゆる部隊から和弓が放たれる。


シュンシュンシュン。トストストストスッ。


第2波が放たれる。


「ぐあっ」

「うおおお~」

連邦軍の前方3大隊、第7~9大隊の随所で悲鳴が上がる。


挿絵(By みてみん)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~丁小虎の捕縛~


 基本5列縦隊で行軍していた連邦軍は行軍の右側、すなわち南側を歩いていた兵士の戦闘能力をほとんど一瞬で失った。だが、あまりの被害の大きさに、既にどの列が、ということすらなかった。質の悪いことに、どうやって判別されたのか、本営を最初の銃撃が襲った。そこで本営の多くの人間が戦闘不能に陥った。銃撃の際に、総指揮官である項道栄も落馬して意識を失っているように見える。


 しつこく和弓の第3斉射が襲い来る。


 ザクザク、ドスッ。

 荷馬車にも矢の雨が降り注ぐ。


 荷馬車を盾に身を守っている丁小虎は怒りと悔しさを心に灯し、ヤマネコに変身した。「お前ら、私についてきな!」同じく荷馬車に身を隠していたほかの兵たちに命令する。小虎はこう見えて立派に将校、少尉なのだから、彼ら一般兵や下士官に命令してもよかろう。一番に身を躍らせると、帝国軍の潜む南側の森を目指して奔る。


 だがそこに、帝国軍の一般兵が立ちふさがった。手に標準装備の日本刀を掲げている。体格の良い男性2名だが、そのぐらい問題ない。「能力」の使えない男性兵など、木偶でくに等しいわ。


「おらぁ~」


 自慢の山刀で右下からひとりに切り上げる。が、日本刀で受け止められる。


 ぐっ、なんて馬鹿力だ。


 男はおおよそ人間のものと思えない力で山刀を押し返してくる。刃渡りの長い日本刀が自らの額に迫ってくる。日本刀は頑丈で重い。自分の山刀が手頃な長さの鉈だとしたら、相手の鉈は刃渡り80cmもある狂気の鉈だ。ガチガチと刃の合わさる音はまるで自分を威嚇して襲い掛かる怪物のようだ。


 畜生。畜生。畜生。


 半泣きになりそうな気持を押さえて、すぐさま飛びのき、間合いを作る。が、今度はもう一人が物凄い速さの袈裟切りで左斜め前から襲い掛かってくる。


 ひいっ。


 また飛ぶ。


 と今度は先ほどの怪力野郎が左下から切り上げてくる。


 半歩位置をずらして、躱したものの、前髪を一束散髪されてしまった。


 今度はもう一人が突きを放つ。速い。そんな大剣をよくも軽々と。


 飛びのいたものの、転がり、尻もちをつく。


 いたたた。


 怪力野郎の八双からの切り下ろしを回避して、木の枝に飛び乗る。


 妙にぎらぎらと輝く男たちの目と目線が合う。そうか、こいつらはバッファリングされているのか。「ドウジ」に強化された「カバネ」。金髪の縦巻きロールがその後ろに発見できた。金髪の額のやや上、前髪の辺りに慎ましくもはっきり突き出た二本の角。あいつが親玉か。その角に木の小枝を括りつけている。ふざけているのか?


 縦巻きロールに敵意を向けたその瞬間、自らの脇を黒いからすが通り抜けた。


 え?烏?人?


 爆速のヤマネコ。その自分が、そんな通常の人間に死角を取られるなど。背後から切りつけられそうな気配を感じて、地面に飛び降りる。たが、木の枝を使った遠心力を使って、その人間が同時に地面に着陸する。


 え?嘘!!


 あまりにも間合いが近かったので、空いている左手で掌打を放つ。


 その手を取られて、フワッと宙に浮かされた。


 地面にたたきつけられた痛みに苦悶する。気が付くと体力切れ。変身が解けていた。涙で滲んだ風景の向こう側に烏みたいな黒髪の中年男がいる。帝国軍の、将校・・・?先ほどの縦巻きロールも近づいてくる。おそらく黒髪の中年男に頭髪をひっつかまれて、トスッと延髄に手刀を食らった。闇に落ちていく。フワッとやられた謎の技。それが合気道というものだと知るのは随分後になってからだった。


 丁小虎の上石見・般若間の戦いに関しての記憶はそこで終了した。

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