ストーリー024 開かれる戦端
昨日撮影した二人の写真ににやける山田驍。だが、事は急を要していた。ついに地球連邦軍が動き始める。会議の場で、かつての撤退の経験を活かし、山田驍は超積極的な策を提案する。
十七號手記 開かれる戦端
~写真ににやけている場合ではない~
「本当、死亡フラグだからやめてほしいよ。」
自分は昨日と同じことを、ぶつぶつと独り言で言いながらも、顔はにやけきって、写真に見入っていた。真凜さんと写真撮影をした翌日。出来上がった写真を受け取って、自分のデスクで見ている。
真凜さんのいる第3小隊は農耕の担当だから、今日はまた上石見にいる。駐屯地に残っている自分が昼休みに写真館に寄って、出来上がりを受け取ってきたのだ。
椅子に座ったワンピースの真凜さんと立っている自分の写真。
『かなた』で昔見た、おじいちゃん、おばあちゃんの若かりし頃の写真と同じ構図だが、そこにいる二人の弾けるような笑顔と佇まいが現代的で、プリクラっぽくも思えた。横ピース。ラフな姿勢から放たれる悪戯っぽい視線。何か書き込んだりしようかな?ふふっ。やはり白黒の写真は折角の彼女の髪や目、服の色などをすべて灰色に塗りつぶしてしまっており、本当に勿体ない。本来ならばそこには様々な美しい青の色彩があるのだ。
それでも彼女の愛らしく、どこまでも元気を与えてくれる表情を見ていると、心が熱くなる。
「ネガはあるさかい、いつでも焼き増ししたるで。」
そう写真館のおやじはそんなことを言っていたが、お宝をさっさと欲しかった。お互いが持っておく用と、万が一の保存用、合計3枚現像してもらった。午後は農耕の手伝いに行くので、上石見にいる彼女に渡すかどうか迷っている。公私混同のようなことにならないかな?六つ切りサイズの写真だから、とりあえず郵便封筒にそれぞれ入れて、そのひとつを持っていくことにした。
「タケル君。」
宿舎を出ようとして、女性に呼び止められた。その名前で呼ぶことからして想定できたが、声の主は奏さんだった。
「緊急会議よ。皆訓練も業務も引き上げて、士官達には招集がかかっているわ。」
ということは、上石見行きも急遽中止だ。
「ありがとう。会議室にこのまま向かっていいのかな?」
「ええ。私は他の士官たちも集めて来るわ。」
そう言うと、ネコマタ化して屋根の上に飛び上がると、そのまま屋根から屋根へ、軽々飛び移りながら遠ざかっていった。
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~驚異的な進軍~
会議室には緊張と興奮が混じった独特な空気が渦巻いていた。連隊長の北条大佐、米田少佐、鞍馬少佐の両大隊長、その他の士官達が集まってくる。自分は入室が少し遅い方だった。すぐ隣に、ぱたぱたと大急ぎで入ってきて隣に座った人物がいる。叔父さんだった。黙って会釈する。小隊長の中には戻ってきていないものも多い。うちの第3小隊などは上石見にいるし、その他の部隊でも農耕などで新見を離れている部隊やその部隊長もいるから当然だろう。
現作戦というか策略の発案者ともいえる叔父さんこと小此木中佐は、いつになく気合の籠った眼で周囲を見渡した。彼と目の合った北条大佐が頷くと、それを合図に概要を説明しはじめた。
「皆ご苦労。諜報部の得た情報によると、横田に残留していた連邦軍の第7旅団、第7~10大隊の計4000が横田を発ち、全軍でこちらに進攻しているものと思われる。」
1大隊が1000人の計算なのでちょうど人員的にも間違いなさそうだ。
「敵は横田を完全に空にした訳ですか?」
「一応、月山富田にいる第9旅団が後詰めを出しているとの情報もある。ただ、せいぜい1大隊程度とのことだ。」
敵は戦力に恵まれている。でも今こちらに向かっているのは当初の予想通り、第7旅団の戦力のみだ。地球連邦は旅団同士の折り合いがそれほど良くないように、帝国軍からも分析されている。面子を重視して、出来る限り他に頼らず、自分のところだけで何でも処理しようとするのだ。
それはこちらにとって都合がよい。
こちらの倍数いるとはいえ、その4000人を片付ければ今回の作戦は成功なのだ。全軍を追い散らせばいい。あとは寡兵となった2000人弱の隊員でそれをどう実現するかだ。だが、少し耳を疑う情報が追加される。
「彼らは今朝がた早くに横田を発ち、その進軍速度から、般若山麓には早ければ今晩中にも到着する見込みだ。」
話を聞いている士官たちの中から、どよめきが起こった。横田から般若山麓までは峠を越えて、ゆうに30kmはある。尋常な行軍ではない。
「通常2日ほどかけて来る距離でしょう?無茶だ。」そんな声も聞こえてくる。
「静粛に!」少し苛ついた鞍馬少佐が皆を窘める。
「敵は最小限の兵糧を用意し、電撃戦を試みているものと思われる。武器、火薬類は十分に携帯しているものの、これは主に銃器。食料担当の輜重隊や大砲らしき重量物が見当たらない。計算された行軍でもある。」
少佐は補足説明した。
食料が尽きたら、撤退するのかもしれない。その場合でも2~3日は持ちこたえなければならない。それに関係して、まずいことが気になった。自分は手を上げ発言した。
「上石見には昨年の収穫の一部が保管されたままになっています。そこを取られると敵の兵糧不足が解消され、まさに敵の思うつぼです。」
故花山大尉をはじめとする皆のお蔭で、昨年の秋には多くの実りを得ていた。そして隠し倉庫に米などの穀物がたんまりあることが既に認知されていた。そういえば先日のヤマネコの斥候。それを調べに来ていたのだろうか?彼らは現地調達も視野に?ふとそんなことも頭によぎる。
「なんでもっと早いうちに輸送しておかなかったのか?」
米田少佐は少し怒った。
「すみませんでした。輸送を訓練に取り込むか?などということを段取りしているうちに、急な展開になってしまいました。」
「まぁいい。今これから動けば、少なくとも上石見にはこちらが先に到着する。相手に兵糧が渡ることはない。」
米田少佐は少し語気をやわらげた。
「しかし、そうすると、上石見にて敵を迎え撃つことになりますね。陣地としては、小高い畑や牧草地を相手の陣地にされて、こちらが不利になります。」
鞍馬少佐が懸念を示した。
「それもそうだ。これはおそらく、やりづらい状況になるな。」
北条大佐も天井を見上げて考え込む。未だ弓矢が使われる昨今の戦場に銃がより多く参入するようになり、陣地の高低差によるアドバンテージがより大きくなりつつある。
「確かにまずいですな。やはりさっさと兵糧を新見に引き上げ、新見で迎え撃つべきでした。そうすれば、上石見のような地形の問題も解消で来たはずですよね。」自分の考えを改めた米田少佐も顎をしゃくる。
いや、違う。これはこちらの好機でもある。
そう自分は確信を得た。
「今回の一戦に今上石見にある兵糧を使いつつ、さらに先に進みませんか?上石見の兵糧を使う前提ならば、こちらも、上石見までは一切の食料を携帯せず、最速で進軍することが可能です。」
北条大佐や鞍馬少佐だけでなく、周囲の全方位の視線が自分に集中した。
「敵を野戦で叩くと?」
米田少佐が横から確認を入れる。
「はい。敵の兵力と銃火器の多さを考えると、上石見はもとより、新見での市街戦も有利ではありません。むしろ、山野での会戦が効果的と考えます。」
自分は図面を拡げた。
「飯森」
般若と上白石の間に広がる豊かな森林だ。かつて真凜さんと自分、二人きりで櫛名田堰提から帰還した際に通った場所だ。中央に通る奥出雲街道が西北西の横田から東南東の上白石へと直線的に繋がっている。新緑の萌える広葉樹と草花。美しい景色を汚すのは心苦しいが、身を隠すには十分だ。
「連邦軍の進軍は間違いなくこの奥出雲街道伝いとなるでしょう。そこに奇襲をかけます。もちろん詳細な作戦は相手の動きを見て、柔軟に設定するのがいいでしょう。」
「飯森か。悪くはないな。」
米田少佐も頷く。
「あの、宜しいですか?」
今度は叔父さんこと小此木中佐が手を挙げた。そして自分を援護してくれる。
「彼、大和大尉の能力を発揮するにも、抜群の環境です。彼の能力で敵を欺き、翻弄することが十分に可能であると私も考えます。」
そうだ。今までやってきたことは単なる剣の飛翔だけではない。自分の可能性を試す時が来た。自分が、皆が、帝国が生き残りをかけて戦うのだ。研ぎ澄ました能力全てを捧げよう。
静かに聞いていた北条大佐が口を開いた。
「よかろう。大和大尉、君に賭けてみる。君が新たに得たという力の片鱗、見せてみよ。」
「はい。必ずや帝国に勝利を!」
おおおお!!歓声。そこに居る人間たちの熱気が沸き上がる。
皆が鎮まるまで聞き届けた鞍馬少佐が号令をかける。
「給仕兵は先行して上石見に向かえ。現地で調達した兵糧、食材で糧食を準備せよ。上石見周辺の部隊に早馬で伝令、そのまま上石見に待機し、全軍の集結に合流せよ。勝機は我らにあり。全軍、出撃!」
「了解!!」
再びの熱気が会議室を揺るがさんばかりに発せられた。
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~試作品と共に~
叔父さんと一緒に会議室から出ると、奏さんと遭遇した。
「中佐、大和大尉のための例の試作品の修理が出来上がっているみたいですね。」
「うむ。現地までは輸送専門の人たちにお願いしておこう。」
軽量に仕上げようと努力したが、その「試作品」は意外に重量がかさばり、生身の人間では何体も運ぶのに苦労する。当然自分が今能力を使えば簡単なのだが・・・
「大和大尉は上石見での集結まで、できる限り能力の使用は控えるように」
と叔父さんから釘を刺されてしまっている。
「桃瀬大尉にお願いしてきますね。」
自分は素直に従った。
第4中隊に向かうと、鬼女のような姿に変身した桃瀬大尉やその他の隊員がいる。彼女たちの能力は「ドウジ」。とうてい女性とは思えない(男性でもありえないレベルの)ものすごい怪力で運搬業務をこなしている。彼女らの見た目は昔話に出てくる赤鬼、青鬼のようで、呼び名の由来もいわゆる鬼族、「童子」から来ているそうだ。酒呑童子だとか、そんな感じの強い鬼キャラいたよな。彼女ら、お酒も強いのだろうか?
彼女らは変身そのもので自身の体力が著しく向上するだけでなく、仲間を強化することも可能だ。彼女らの強化能力で戦闘能力の底上げを得られた他の隊員たち「姓」も、まさしく狂戦士並みに強力な存在だ。
こちらに気付いて、桃瀬大尉が手を振って寄ってくる。
「大和隊長、お疲れ様。何か用かしら?」
「例の試作品を5体、運んできてほしいんです。お願いできますか?」
「了解。どんな風に動くか私もとても楽しみだわ。」
桃瀬大尉も能力開発部とは浅からぬ関係で、先日その試作品を既に見てしまっている。彼女は試作品と戦ったりはしていないが、別の能力開発で一緒に研鑽している時に、運び込まれた試作品を偶然見たのだ。ただ運用したところを見るのは、本日の実戦が初めてとなりそうだ。
「前より軽量化したけど、それでも重たいことに変わりないです。すみませんが、よろしく。」
「なぁに、この程度、たった5体。へっちゃらですよ。」
そう言って形の良い胸をドンと叩いた。
自分の中隊に戻ると、橘少尉、前田少尉、塚原曹長の3小隊長以下、皆揃っているようだった。点呼も完了した。
「総員、進軍開始。まずは上石見で第3小隊と合流する。」
「りょうかいっ」
若い元気な声が幾つも合わさって帰ってくる。
さあっ。いざ出陣だ。
作戦は決まった。帝国軍は連邦軍を野戦で迎え撃つと決めた。そこには山田驍の能力に対しての期待が込められている。試作品たち、仲間たちと共に、山田驍は出陣する。




