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ストーリー022 迫りくる戦禍

山田驍は単身、連邦軍の斥候と交戦に至った。問題なく斥候を退けた彼だったが、来る決戦が近づくにつれ、不穏な空気を肌で感じ始める。

十五號手記 迫りくる戦禍


~先日の遭遇戦について~


 自分は久しぶりに「能力開発部」を訪れた。能力開発部の人達には常々会っている。ほぼ毎日のように能力開発しているので、叔父さんの顔も見飽きているし、奏さんとも2日に1回は顔を合わせている状況だ。

 だが今日は勝手が違う。二人にどうしても相談したいことがあったので、午前中に部屋を訪れた。先ほど米田少佐にも報告した、昨日のネコマタみたいな連邦の斥候の事を相談しなければ。


 昨日は真凜さんと一緒にほんの短い間、空中散歩をご一緒したが、すぐに仲間たちの行軍に追いついた。その後、能力の使い過ぎで疲労した自分は、情けなくも、その晩の能力開発をお休みしていたのだ。


「すみません。昨日は勝手に休んでしまって。それも関係している話になるのですが、連邦軍の能力者と戦いました。」


自分は昨日の異能バトルのことを二人に話した。


 久しぶりの応接セット。初めて真凜さんとここに来て、能力の話を聞いて以来かも知れない。それ以降はずっとあの弓道場に行っているものなぁ。妙な懐かしさを感じる。


「そうか。なかなかの手練れのようだね。まずは無事でよかった。真凜もそうだけれど、君も無茶をするねぇ。能力の使い方にも慣れてきているようだから、滅多なことはないと思うけれど、能力切れは怖い。発動時間と作業内容を考えて、計画的にやらないとダメだよ。」


叔父さんに釘を刺された。


「タケル君は、私と全く同じタイプの能力者だと見たのよね。」


奏さんが興味も含めて、敵の事を聞いてきた。


「はい。見た目もさることながら、性質的にも間違いなく、そうではないかと。」


「変身した際の速度、身体能力の向上とかいったことかしら?」


「間違いありません。能力を発動していなければ、高速の攻撃にやられていたところです。」


横で聞いていた叔父さんが説明するように言った。

「おそらくそれは奏さんと同じタイプ。こちらではネコマタと呼ぶが、あちらではヤマネコと呼ばれている者たちだ。連邦は結構な数、この能力者たちを抱えている。」


「彼女らのような存在が飛び回っていたら、こちらの情報は筒抜けですね。」


「そうなんだ。我々帝国軍は兵力で負け、火力で負け、情報力でも下手したら負けかねない。」


帝国軍も情報収集力はある。忍者の子孫みたいな人達も頑張っているし、奏さんたち、ネコマタも、当然ながらその一翼を担っているのだ。だが、その頭数が連邦軍ほど潤沢ではない。昨日のように、連邦軍にはもう上石見かみいわみの辺りまで嗅ぎつけられて、哨戒されている。近く侵攻があってもおかしくはない状況だ。


叔父さんも奏さんも少し考え込むしぐさをする。


 自分は部屋の隅に目をやった。先日、接近戦を想定した能力開発で相手をした人形が置かれていた。昨日、ナイスタイミングで真凜さんが渡してくれた棒手裏剣は、この時には使いこなせなかった武器だったことを思い出した。

手持無沙汰の自分はその人形の腕を上げたり下げたりして遊んでいる。骨格が鋼鉄製だから動かせる。

それを見た叔父さんが「ティンときた!」と言った。


何かを閃いたらしい。そしてにやりと笑うと、我々二人、とくに自分に向けて言った。


「なんで今まで思いつかなかったんだろう。うまくいけば優秀な斥候を量産できるし、塚原君の修練の相手にももってこいだ。タケル君、ドールマスターになる覚悟はあるかい?」


ドールマスター?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~報告会の前に~


 相変わらずゆったりとした日々が過ぎていた。農耕、事務作業、特訓、訓練の視察もとい訓練の邪魔(汗)というか個人レッスン。だが先日の不穏な事件に象徴されるように、刻一刻、戦禍は近づいている。ここは紛れもない戦地なのだ。

 2年前の正暦1798年「明照3年」、我が国は、地球連邦による領土侵略を許した。正暦1800年「明照5年」の現在、泥沼の戦況の中、その膠着した戦線のひとつに自分は異世界『かなた』より転移、そして参戦している。


 自分は合間の時間を使って、よく本を読んだ。この世界『こなた』の基本的なことについて。『かなた』の世界といささか異なる地理、歴史、政治、文化など、まるで社会科全般に近い。「記憶喪失」という設定によって、色々なことをお目こぼししてもらっているが、それに甘えてばかりはいられない。『こなた』のことをしっかり身につけ、それを土台に特殊能力だけでなく広範囲に自分の能力を高めていかねば、貢献もままならない。


 社会科分野の中で、士官として一番重要と感じたのはやはり地理だ。地理、地形を知り尽くし、戦略、戦術にフル活用していかなければならない。今自分は西日本の地図を広げてそれに見入っている。今日は我が中隊の報告会を予定しているが、まだ面子の全員が揃わないので、お勉強中。


 横にいる橘少尉らが一緒に地図を覗き込んで、現在の戦況を一緒に確認している。自分たちのいる新見にいみという地方都市、転じて駐屯地は中国地方の内陸部に存在する。かすかな『かなた』の記憶をたどれば、それは概ね同様の位置に存在した。そして近隣の都市、真庭まにわ津山つやまといった都市(同様に今は駐屯地)も、二つの世界に共通して存在している。ただし、厳密な位置関係は異なっている気がする。


挿絵(By みてみん)


地図を見ながら橘少尉が解説してくれる。

「真庭は新見の北東30kmほどの位置に当たりますね。津山はこちら、新見の

東南東50kmほどの位置です。真庭から見ると、津山は南東40kmといったところです。」

 この直角三角形を取り囲むようにした三角地帯が津山盆地。『かなた』の日本にはここまで広大な盆地はこの辺りには存在しなかったはずだ。しっかりと頭に叩き込んでおかなければならない。

「上石見のように無人化された集落も広大な津山盆地に点在しています。」

「津山は第11師団の本部があるんだったっけ?」

「そうですね。津山は敵からはやや離れた安全な位置ですから、補給基地でもあり、本部が置かれ、師団最強の第1連隊がいますね。」

「師団最強?」

「ええ、とくに選抜された隊員は帝国特戦隊と呼ばれて尊敬を集めています。」

「仰々しい名前だね。どんな部隊なの?」

「騎馬兵でもありながら、銃も装備している竜騎兵と言うやつです。スピードと攻撃力。特殊な装甲も身に着けていて防御面も改善されている。なかなかのチート集団ですよ。」

「ふーん。確かにそれは敵にとっても脅威だ。」地図に目を戻す。

 津山盆地は、『こなた』の世界では中国地方の東部、「播磨はりま」県のなかで北西部の位置だ。青海おうみ県の南東部と山地を境目として隣接している。これらの山々は『かなた』の中国山地よりもなだらかな地形が多く、敵が侵攻しやすいようだ。


 とくに比較的峻険な新見周辺と異なり、真庭はより頻繁に連邦の攻撃にさらされている。


「こうやってみると、真庭はかなり敵の近くに位置しているんだね。」


「そうですね。真庭から北西に向かうと連邦の勢力圏になります。距離にして約30km、天王台てんのうだいという丘陵地帯を抜けた先に、青海県の江府こうふという都市がありますが、そこは既に地球連邦の拠点です。」

塚原軍曹も退屈しているのか、話に入ってきた。


「連邦軍の青海方面軍、第6旅団が駐屯地にしているんだっけ。」


「その通りです。なので、現状のところ真庭が我が師団の最前線とも言えます。」


「真庭は第2、第4連隊の計1万も兵力がいるけれども、妥当という訳か。」


「本当はもっといて欲しいぐらいです。第6旅団の兵力も約1万で拮抗していますが、江府は各地との交通の便が良く、青海周辺から江府へも、その先の江府から真庭へも大軍を動かしやすい地理的環境です。」


「援軍も想定しなければならないと?」


「はい。実際に先の天王台での戦いの際にも、後方の旅団が支援に来たので、

相当に苦戦したようです。こういった時には、こちらも津山の第1連隊が救援に駆け付けます。」


 とても苦しい現在の戦力状況だ。第11師団は各連隊を単独の軍団として、連邦のそれぞれの旅団に2方向で当たらせている格好だ。第2、第4連隊の計1万が江府の第6旅団1万と睨み合っており、我ら第3連隊の約5千弱が横田の第7旅団1万と睨み合っている。青海と播磨、二つの県の境目がさながら国境線のような状況と化している。


「こうやって数だけを見ると、我ら第3連隊のほうが冷遇されているかのように思えるけど、地理的条件を見ると話は変わってくることが分かったよ。」

そう言うと、橘少尉も塚原曹長も頷いた。


 援軍を引き連れた第6旅団が真庭を狙ってくることを常に想定していなければならない。もっと大軍で攻めてきたらどうするのだろうか。青海方面軍は全軍では約10万いる訳だ。


 そして、もう一つの問題を自分は気にしている。見通しの良い天王台などで対峙すると、銃火器の数の差も不利である。海軍が物資の輸送を必死で頑張ってくれているようだが、それでも内陸部のこちら、津山盆地までなかなか銃火器や火薬が回らない。負傷者がある程度出ることは覚悟して、白兵戦と弓矢中心でしのぎ、あとは回復術師を多く配備するぐらいしか、今の第11師団内で出来ることはない。


 そうこうしているうちに、茶屋中尉や小此木軍曹ら第3小隊の面々がやってきて、面子が揃った。遅まきながら、報告会が始まった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~戦線は動き始める~


 真庭に駐屯していた当時の第2、第4連隊の大変さは言うまでもない。それでもこちら第3連隊も倍の兵力と睨み合っているので大変だったのだ。我が連隊としては誰かに助けてほしいが、どこにもそんな余裕はない状況なのだ。津山の第1連隊が力を貸してくれることがあるかも知れないが、それは最後のカードだ。


 まずは自分たちで何とか結果を出さないといけない。


 本当に、旗色の悪い将棋を指しているような状況だ。まさしく手詰まりに近い。こちら側から積極的に動けない状況の中で、先方、地球連邦がついに動いた。嫌な予想通り、援軍を引き入れて増員した第6旅団が真庭に進攻する事態が発生する。4月も終わりに差し掛かった、雲の多い日だった。


 自分は連隊本部にて会議に出席していた。


 連邦側の援軍はなんと、横田にいるはずの第7旅団の一部だというのだ。

一部といっても半数以上、6大隊の約6000が横田から江府へ抜ける山道を通り、真庭付近に現れたのは一昨日の事だった。中一日置いて本日、天王原に第6旅団に第7旅団の一部を合わせた16000の連邦軍が現れ、第2、第4連隊1万と交戦状態に入ったとのことだ。


「舐められたものだな。我々に対しては残り4000で十分ということなのだろう。」

元々いた1万から引き算するとそうなる。連隊長の北条大佐が無表情で髭を扱く。秘めた怒りのようなものが見えて、怖い。


 ただ、相手の目線で見れば舐められて仕方がない。今は播磨県、新見の駐屯地に我々は居るが、元々は青海県の月山富田がっさん・とだに拠点があり、そこから追いやられて、さらに県南部の横田に至り、ついにはそこも追いやられ、青海県を完全に手放して、新見に逃げてきたのだ。それは苦難の撤退の記録だった。一般人同行という足枷もあったが、隊員たちは自らの不甲斐なさを悔いているようだ。


そして、先の横田防衛戦に失敗し、実は大和一郎という逸材を失ってもいる。

(幹部達は知っている。下手をすると敵の一部にも・・・?)

攻撃を仕掛ければ、どこまでも引いていく。そんな弱腰の部隊に見えているに違いない。

「悔しいが、青海方面軍のなかでも今最も波に乗っているのが第7旅団に違いない。士気も充実しているだろう。」

渋い顔で大佐が付け足す。対して我らが第3連隊の士気など、ぎりぎり保たれている状況だ。大和一郎を生きていることにしておいて本当に正解だったと後に思った。


「そうすると、真庭の両連隊も危うい状況ですね。兵力、士気ともに

相手方が十分に上回るでしょうから。」

援軍を送った方が良さそうと匂わせる発言なのか?我が第5大隊の仲間、高梨大尉だった。

「では、我々はどうすれば良いと考える?」

上長である米田少佐が策を求めた。

「例えば、こちらは連隊を上げて横田に攻め寄せるのはどうでしょう?そうすれば、第7旅団は自陣地の防衛のために援軍を引き上げるのではないでしょうか?」

予想の少し上を行く、攻撃的な策だった。自分は目を見張った。高梨大尉やるではないか。自分以外の士官たちのなかにも、うんうん頷いたり、目を輝かせていたり、好意的な反応も見られる。しかし、それに否定的な反応を示す人も多かった。

「それは甘くないかな?こちらが全軍でかかっても敵は横田を十分守れる公算なのだ。敵は十分な防御を施して準備しているという情報もある。」

米田少佐が懸念を示した。

「私も、その作戦は危険ではないかと思います。青海周辺には手の空いている旅団がいます。彼らが救援に駆け付けることも想定しなければなりません。」

同じく大隊の仲間、桃瀬大尉だった。


 先の撤退の失敗もトラウマになっているかも知れない。慎重派が多いのは致し方ない。他の士官達もお互いに顔を見合わせて頭を悩ませる。話が止まってしまった。


「ですが、何の策もないままに、守ってばかりもつまらないですな。」

ドスの効いた声で発言したのは、第4大隊の隊長、鞍馬くらま少佐だった。高く通った鼻とからすの羽を思わせる黒髪がワックスで軽やかに固められている。40前後か?細身でやや小柄な男前だった。見た目も相まって、烏天狗とあだ名される彼の部隊は迅速で攻撃力も高い。


そうは言っても・・・弱腰な空気が漂っている。


「ならば、こちらも兵力を減らして様子を見ましょう。」


そう言ったのは叔父さんこと、小此木中佐だった。意図のはっきりしない発言に皆が疑問の視線を送る。中佐は続ける。


「こちらも普通に真庭へ援軍を送るのです。それで天王原の戦いも拮抗しましょう。そして、ここからが狙いなのです。寡兵とみれば、敵は新見に攻めてくるかもしれません。横田をこちらから攻めて思惑通り反撃を食らうぐらいなら、思い切ってこの新見を丸裸にして、むしろ誘い出せばいいのです。そうですね。せいぜい2大隊残せば十分。」

「敵がそれに乗れば、か。乗るかな?」

と北条大佐が疑問を示した。

「乗らなければそれでもよし。ですが、乗ってくれば、こちらに引き込んで戦えます。」

小此木中佐は胸を張った。

「それに大和大尉の能力、それを見ることに、特に興味がありますな。」

にやっと笑う叔父さんに急に名指しされて驚いた。

「敵はこちらのダークホースの存在を知らずに突っ込んでくると。」

米田少佐もなんだか悪い顔をしている。

「楽しみですね、米田少佐。」

「そうですな、小此木中佐。」

ふっふっふ。二人は悪者コンビの様に笑う。近くにいた鞍馬少佐らも苦笑している。駐屯地内でも自分の能力はここ最近、大変目立っているようなので、今更遠慮しても仕方ない。

「特訓の成果を出して、必ずや戦局を有利に導いてみせます。」

と自分は頭を下げつつ大見え切った。周囲の人達からも緊張の解けた笑いや拍手が沸き起こった。


その様子を見て、北条大佐が纏めに入った。

「では、第1~第3大隊までは真庭に援軍に向かうように。明朝、0900時に新見を発ち、真庭に向かえ。第4、第5大隊は引き続き新見で待機。横田からの侵攻に備えよ。」


 こうして、再び敵軍の半数の設定、4000対2000弱になって相手を待ち構えることになった。元々は10000対5000弱であったので、比率を元に戻した格好だ。


 そしてそらからしばらくして、5月に入り、小此木中佐らの狙い通り、連邦軍の新見侵攻が開始される。のちに「上石見・般若間の戦い」と歴史に刻まれるその戦いで、自分、山田驍はついに本格的な初陣を飾ることになるのだった。



会議の末、戦略の骨子は定まった。新見残留組となった第3連隊の第4、第5大隊は歴史的戦い、「上石見・般若間の戦い」に身を投じることになる。それは山田驍にとっても初陣と呼べるものであった。


お詫び 第20話との整合性から、本文を一部修正しました。棒手裏剣に関する本文記載が変更されています。すみませんでした。

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