ストーリー020 最弱にして最強
スローライフを引き続き堪能する山田驍。のどかな田園。快い仲間たち。それらを感じて決意を新たにする山田驍だった。だが、楽しく農耕作業を終えたその時、山田驍は侵入者の存在を察知する。
十四號手記 最弱にして最強
~空飛ぶトレイと共に~
農耕業務も訓練も、うちの中隊はうまく進んでいるようだ。そして想像通り、自分は過密スケジュールの多忙な日々を過ごしている。
ここしばらくの各隊のシフトは以下の通りとなっている。
本日 明日 明後日
第1小隊 非番 農耕 農耕
第2小隊 訓練 非番 農耕
第3小隊 農耕 訓練 非番
第4小隊 農耕 農耕 訓練
自分は午前中、第2小隊の訓練を見てきた。自分が能力開発(特訓)で使用している怪しい弓道場とは異なり、しっかりときれいな弓道場で和弓の訓練が実施されていた。銃火器が戦線に登場し始めて、その影は薄くなりつつあるが、それでも射程の長さや特殊な地形、夜襲での有利さなどこれからも十分活用できる可能性を秘めている。
とはいえ、「記憶喪失」している大和大尉は弓道の技能もまるっきり失われている。ということにしている。視察というより、前田少尉が気を回して自分につけてくれたかわいい女性隊員が基本から教えてくれるので、一から学習しているところだ。
割と身についたとは思う。加賀軍曹というその女性はとても優秀で、教えるのもうまい。栗色の髪はサイドのポニーテールで纏められて元気な印象を与えるが、知性的なトパーズ色の目の色が違う印象も与えている。なんというか、とても人の興味を引き寄せる女性だ。そんなしょうもない観察ばかりして、自分は訓練の邪魔になっているだけだった!お邪魔してすみませんでした。それでも弓道場内では「ごくろう。ごくろう。」偉そうに皆に目線を送りながら、出口を目指す。誰も見えなくなると、恥ずかしさで顔を真っ赤にして逃げるように走り去る。ひ~っ。やっぱりカッコ悪すぎるう~。こんなインチキ隊長、嫌だ~。
早々に視察を切り上げ、午前中の余った時間は事務作業を進めることにする。訓練の方は、第2小隊の前田少尉や加賀軍曹ら下士官たちがしっかりやってくれるだろう。どこら辺からの目線か、もはや全く分からないが。
昼過ぎに街で女性をナンパをしている橘少尉を見かけた。がんばれ~。本日の第1小隊は非番だ。遅い昼食を讃岐饂飩「香川」でさらっと済ませると、自分は鉄のトレイに足を乗せた。このトレイも行きつけの「香川」で使わなくなったものを頂戴して再利用?しているのだ。宙に浮いた鉄のトレイが自分を乗せたまま低空を滑り、その速度を上げていく。まるで空飛ぶスケートボードか孫悟空の乗る筋斗雲かと言った感じで。街中を滑空する姿は、今や連隊内の名物になりつつある。この滑空に女の子を誘ったら、ナンパに成功する確率はかなり上がるんじゃないだろうか?「どう?僕と一緒に春風に挨拶してみないか?」なんて。と一瞬も二瞬も不埒なことも考えてしまった。
新見から上石見までは16kmほどもあり、歩いていくと何時間もかかってしまう。今日の農耕担当である第3小隊、第4小隊は朝6時に出発したが、作業を開始できるのは9時ごろからだろう。なかなかの苦行だ。自分も歩行訓練代わりに歩いていくこともあるが、今日は時間がないので空飛ぶトレイで時短だ。午後は農耕をいっぱい手伝ってあげたい。自分の能力を存分に発揮できる。
暖かくなってきたとはいえ、4月の空気が高速で自分の体にたたきつけられると冷える。冬のコートを着込んでばっちり防寒対策だ。ついに『かなた』では一度も乗らなかったが、バイクでかっ飛ばすって、こんな感じなのかな。そう想像した。体感で時速80km、心地よいスピードに身をゆだねて、気づくと上石見の集落が見えてきた。
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~楽園へ連れていく決意~
のどかな美しい集落。周囲に豊かな耕作地が広がっている。冬野菜や麦の畑、そして集落や川に近い中央には蓮華が咲く田んぼが田植えの時を待っている。塚原曹長率いる第4小隊は冬野菜の収穫や水車小屋の点検などをしていて問題なさそうだ。水車小屋の周りには色とりどりの花が咲いている。花の世話をしている者もいる。隊員曰く、故花山大尉が主導的に育てていたそうだ。戦時こそ心の豊かさが大切なんだと本人が言っていたようだ。
一方の第3小隊は荒れ地を開墾中で、かなり苦戦しているようだった。作業に没頭していた様子で、土汚れた額に汗を滲ませながら、茶屋中尉が振り向いた。きめ細やかな金髪も埃塗れだが、誠実な彼の働きぶりを証明する勲章だ。
「ご苦労様。なかなか大変なところを頑張っているじゃないか。」
とトレイを下りて労った。
「ここは川から水も引きやすいですし、やりがいは十分にあります。故花山隊長も、ぜひ新田開発用にとおっしゃってましたので。」
どこかいいとこのお坊ちゃん、という言葉がぴったりの中尉が爽やかに笑う。
「大和隊長~、大変ですよぉ。大きな石がごろごろしていて。」
二人の会話を聞いて、真凜軍曹が近づいてきた。作業着としてパーカーとパンツ姿、頭の上の麦わら帽子、白地に青線のリボンも清々しく似合っている。よし、いっちょう手伝ってやるか。腕まくりをして気合を入れる。
大きな鉄製の鍬を持つと、念じた。ほぼ重さを感じない、子供の玩具みたいな手応えになった。ひーひー言いながら耕す隊員たちを横目にガスガスと固い地肌を耕していく。我ながら、『かなた』のトラクターを彷彿とさせる働きぶりだと思う。隊員たちや、鋤を引いている牛さえも、その姿に気づき、目を丸くしている。
「大和隊長は『今日から俺は農耕無双』とでも名前を変えた方がいいかも知れませんね。」
と「からかい上手の小此木軍曹」が言う。
「そんな恥ずかしいの、勘弁してくれよー。もはや名前でもないしー。」
自分が情けない声を上げると、隊員から爆笑の渦が巻き起こった。
思えば他の中隊から横滑りしてきた自分たちだったが、こうして新しい隊ともうまくなじめているようだ。真凜軍曹や塚原曹長の人間性も信頼できるが、
受け入れ側の皆も気持ちのいい人達ばかりでよかった。いくら戦時下でも、こんな人達を簡単に死なせたくはないと本気で思った。
昨晩の叔父さんの言葉が蘇る。
「覚悟をもって勝利を目指すしかないんだ。」
その言葉が一瞬、胃の腑の奥に、重くのしかかってくる。でも、『こなた』に来た自分は一味違う。ふっと笑うと爽やかな青空を見上げた。雲雀が高い声でさえずっている。
自分は大和一郎を継承したのだ。剣も弓も銃もうまく使えず、まさしく最弱の継承者。だけれども自分にはこの圧倒的な能力が備わっている。この能力を研ぎ澄まして、いずれ本物の彼を超えていかなければならない。いや、必ず超えて見せる。
「最弱にして最強」
そんな存在になるのだと、誰に言うでもなく心に刻んだ。加えて、『こなた』の多くの人間に接して、自分の中に生まれ始めた思いがある。必ずや一人でも多くの仲間と一緒に、この戦乱を生き抜きたい。この能力で、必ずや皆を本物の楽園に連れていく。花咲き、光溢れる、地上の楽園、「和」の国に。
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~ザ・異能バトル~
午後いっぱい、農耕業務に汗を流した。午後3時頃からは第4小隊も新田開発のほうに合流してくれたので、作業は更に順調に進んだ。この調子ならば、田植えのシーズンに間に合いそうだな。石が多いのがどこまでも邪魔だが、力自慢の塚原曹長らガタイの良い面々、頭に角を生やした能力者の女性隊員。彼らが手際よく運んでいく。あれは確かドウジという鬼神に変身できる能力者だな。変身時に筋力アップが可能だそうだ。
同じ第5大隊のなかで最も強力なドウジの能力者は、第4中隊の隊長、桃瀬大尉らしい。輸送関連の任務で我ら第1中隊もお世話になることが多いので、ちょくちょく顔も合わせるが、彼女自身も剛腕の荷物持ちだったわけか。ちなみに彼女らドウジは男性、女性問わず標的とした仲間の筋力アップをすることも可能だ。筋力アップのバフをかけることが出来るなんて、ゲームの強キャラ、便利キャラのようだ。バフをかけられた状態の仲間たちは彼女らドウジと同様に一定の時間、剛腕になる。この状態を「カバネ」と呼ぶ。凶悪ゾンビアニメとかに出てくる強力な「屍」を想像したが、漢字が違った。「姓」の方だ。彼女ら女神の眷属となることからこの言葉が当てられている。「氏」「姓」・・・昔授業でやったな。
4月の陽は長い。まだ日没前だが、既に6時を回った。これから駐屯地に帰還すると9時前後になってしまう。各々が夜間に出来ることも相当限られてしまうな。この後、自主練したり、勉強したり、トレーニングしたり、色々詰め込んでいる隊員も多いからな。皆がバタバタと片付けや帰り支度を始めた頃、自分はおかしな気配に気付いた。
それは先ほど第4小隊が作業をしていた水車小屋のあたりだった。今は無人のはずのそこに人の気配。いや、鉄の気配を感じる。あれは、なんだ?自分には馴染みのない形状だったせいもある。農具か生活道具の一つか何かかな?と一旦見過ごしそうになった。一番近いもので言えば、鉈だ。それでも刃渡り50cmもある鉈が存在するだろうか?どう考えても殺傷力を持った何かに違いない。
「どうしたんですか?大和隊長?」
すぐそばで自らの分隊の点呼を取り終わった真凜軍曹が気にしてくれた。
「どうやら、忘れ物をしてしまったみたいなんだ。ちょっと取ってくるよ。」
自分はそう答えたが、菫色の瞳が真顔でじっと見ている。そしてやがて言った。
「無茶しないでくださいね。これ、奏さんから預かっていたのですけれど、万が一のために持っておいてください。」
そう言って、自分に棒状の鉄の塊を3本手渡した。
「これは?」
「棒手裏剣というものです。本来は柄の部分をつまんで相手に投射します。ですが、隊長ならば、いつものアレでもっと有効な攻撃が生み出せるでしょ?」
なるほど、護身用に持たせてくれるのか。ありがたい。
「ありがとう。あとで飛んで追いかけるから、皆は先に帰還してほしい。」
「はい。了解しました。」
自分は腰のベルトに棒手裏剣を挟み込むと、水車小屋を目指して奔った、もとい、トレイに乗って低空飛行した。水車小屋から納屋が並ぶ区域への小径。およそ数百m程、川に沿った小径を小柄な影が走っている。それは通常の人間の速度ではなかった。アフリカに生息する狩りが上手なネコ科の動物たち。豹やチーターといった俊敏なネコ科を思わせる動きだった。だがこちらも負けてはいない。高速で飛ぶトレイの上で体のバランスを取っている。速度はこちらが上だ。斜め後ろから相手に近づき、ついには10mの距離にまで迫った。
その自分に、何と相手は気付いた。緑色の目が怪しい光を放って、後方に迫るこちらを振り返った。それは怒りとも警戒ともとれる烈火の如き視線だった。シャキンッ。腰にぶら下げていた獣の革で出来た鞘から、鋭利な山刀を抜き放った。彼女は、納屋を背にして山刀を構え、こちらを睨んでいる。そう、女性だった。派手なメイプルカラーの髪と翡翠色の瞳。やや小柄だが均整の取れた体つき。まだ少女と言えるような可愛らしく整った顔。こんな状況でもなければ、鼻の下を伸ばして近寄っていきそうな相手だった。
メイプル色の髪の毛の上には、同じ色の猫耳がぴくぴくと動いている。「ネコマタ」か?当然ながら奏さんを思い出す。緑色の連邦軍の軍服とアンバランスな猫耳。あちら側にも同じ系統の能力者がいたということか。
「おやおや、驚いたねぇ。どんなインチキだい?」
見た目に反してふてぶてしい言葉遣いだった。イン↘チ↗キ↘みたいな、外国人っぽいイントネーションも入っているが、ちゃんと聞き取れる言葉だった。
「ここで何をしている?」
「死人に言うとでも?」
妖艶に笑い、舌なめずりをした動きが攻撃の契機となった。
フッ
消えた?のは相手の気配であって、気付くと至近距離に翡翠色の瞳が迫っていた。まるで空間を縮められたかのような現象だと思った。達人の武術。
「ウラ~~~!!!」
山刀の鋭い斬撃が真横から襲い掛かる。
ギンッ!!!
空中に突如現れた鉄の杭が斬撃を食い止める。まるで堅固な構造物の一部であるかのように、空中に停止したそれは、激しい斬撃にもわずかに位置がぶれただけ。微塵もその場を譲らない。」
「ホワ?ングラァ~~~!!」
相手は訳の分からない言葉で怒り散らす。その場を占拠した棒手裏剣から飛び戻り、先ほどの位置で構え直す。
彼女の左手がポケットの忘れ物でも探るような動きを見せて・・・ヒュンッ!!危ない!!チャキーン!!
高速で迫る投げ刀を棒手裏剣が回転しながら弾き飛ばした。
ヒュンヒュンヒュンヒュン。まるで扇風機か風力発電の羽のように空中で棒手裏剣が回り続ける。
自分は敢えてしばらくそれを続けた。投げ刀なんて、無効だ。そう相手に思い知らすためだ。
優に10秒はそれを続け、やがて止める。
先程の斬撃を止めた1本、回転を止めた1本、そして腰から抜いた3本目。
全ての切っ先を相手に向ける。
さあ、反撃だ!!
「飛翔せよ、敵を貫け!」
シュシュシュン!!
高速の棒手裏剣が相手の胴を狙い撃つ。先ほどの投げ刀など目じゃない。
感覚、時速400㎞。ほとんど銃撃。
バスバスバスッ!!
何とか攻撃を避けた彼女の背後の納屋、その木材の壁に物凄い轟音を立てて、手裏剣たちは深々と突き刺さる。常人を超えたスピードで彼女が直撃を避けた・・訳ではない。ハナから自分が急所に当たらないようにしたのだ。またしても自分は覚悟の甘さを実感する。それでも、左の外腿と両腕に鮮血が散り、相手の戦意は地に落ちたらしい。
「我がもとに参れ」
棒手裏剣たちを壁から引き離して、また自分の近くに呼び寄せる。自分の近くで宙に固定され、相手に切っ先を向けた棒手裏剣たち。次の攻撃準備も整っている状況だ。圧倒的な異能の力。この光景を見ている人がいたならば、どちらが悪役か分からないだろう。だが自分は単に、自分たちの勢力圏に侵入した斥候、スパイを排除しようとしているだけなのだ。とてつもない脅威に晒されているのはこちらなのだ。
チッ。
舌を鳴らすと、彼女はシュっと飛び上がり、納屋の屋根から、奥の木の枝、そして次々に飛び移りながら、視界から消えていった。その後も、彼女の所持する山刀が遠ざかっていくことを探査能力で確認した。それは間違いなく連邦の勢力圏のある西の方角で、彼女が退却したことを意味していた。ほっと息をつき、棒手裏剣たちを回収する。流石に追跡する気力も残っていなかった。恐怖と緊張感から解き放たれたときに、もう一つの気配が動いた。
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~永遠に刻まれたもの~
納屋の影から、女性らしいシルエットが分離した。右手に美しいカービン銃を携えている。
「もう。本当に、何かあったらどうするつもりだったのよ?」
呆れた声で微笑む。真凜さんだった。あの猫女と戦っているうちに追いついたみたいだ。自分は彼女の俊敏さや勘の良さにも驚いたが、なにより、自分のために全てを投げうって来てくれたことに感動していた。
「そんなこと言って。最悪、援護してくれようとしていたんでしょ?」
気持ちとは裏腹に、照れ隠しで少しひねくれたことを言ってしまった。
「まぁ、そうだけどさ・・・だから、そんな私にご褒美をください。」
え?いきなり、ちゅ、ちゅ、ちゅーとか、とか??こ、心の準備が。何か思い違いをして、無言でもじもじしていた自分を真凜さんは胡乱な目で見ている。そして足元を指さす。そこには先ほど自分が乗ってきたトレイがある。
「あぁ。空を飛んでみたいの?」
「飛んでみたい!!」真凜さんの目が、菫色の鋼玉のように輝いた。
陽が完全に沈み、上弦の月がその輪郭をくっきりと浮き立たせた。彼女と初めて会ったあの日から、月齢が1周した。夜風は春から夏に向けて暖かくなっては来ているが、高速で飛翔する体には凍てつくほど冷たい。
「大丈夫?寒くない??」
自分は、背中にくっついている人に聞く。
「平気、とっても気持ちいい!!」
そう言うと、彼女の額が、自分の項に乗せられたのを感じる。うん。自分も少しも寒くない。『かなた』で、彼女とバイクの二人乗りをしたら、きっとこんな感じなんだろうな。そう思った。
このままどこまでも飛んでいたい。そう思ったが、やがて部隊の仲間たちの行軍が見えてきて、あっけなく二人の時間は終わった。
でもその時間は永遠に心に刻まれた。
自分と一緒に、初めて空を飛んだのは、彼女だった。
そして、その事実を知っているのも、彼女と自分だけなのだから。
上石見に侵入していたのは、連邦の斥候だった。その斥候は帝国軍で言うところの如月奏准尉を連想させる「ネコマタ」の能力者だった。何とかこれを撃退した山田驍。それを見守っていた小此木真凜。二人は永遠の想い出を心に刻むのだった。




