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ストーリー019 超人塚原

叔父さんこと小此木中佐による山田驍の能力開発は続いている。藁人形を的としての剣の射出に関しては文句なしの結果だった。それに満足した叔父さんは、実際の人間を的とした射出実験の実施を目論む。

十三號手記 超人塚原


~非人道的過ぎます~


「それぐらいなら、対『人』もいけるんじゃないかと。」

そう言うと。叔父さんはニヤッと笑って塚原曹長を見た。


「え?私?」

塚原曹長も戸惑っていたが、叔父さんは何でもないことのように言う。

「だから言ったじゃないか。常人ならばどうしようもない、とね。でも超人ならばそれは可能なんじゃないかい?」

無茶苦茶な理論だった。周りもはっと気づく。

「危ないでしょう?大けがでもしたらどうするのよ?」

「やりすぎですよ。いくら戦時中でも非人道的過ぎます。」

真凜さんと奏さんが次々に非難の声を上げる。

「まぁ、まぁ、本人の意思次第だから。強制するつもりはないし。どうする?塚原君。ひょっとして君ならば、乗り越えられるんじゃないかと思って。」


今の恐るべき攻撃を見せておいてから対人実験とは、人の心とかないんか?


だが、言外に曹長のことを特別な存在と認めているわけでもある。誇り高い曹長が釣られる可能性もそれなりにあるかも知れない。十秒、二十秒、重苦しい沈黙が射場の板の間を押しつぶしそうに思えた。

「いいでしょう。やってみましょう。」

ついに曹長が言った。おめでとうございます!見事な一本釣りでした。


陽が落ちて周囲が暗くなり始める。それに合わせて、弓道場の周囲には背の高いガス灯が灯り始めた。夜間訓練も可能な秘密訓練施設のようだ。ボロボロだと思っていたが、存外に力を入れているらしい。的場の中央辺り。藁人形の前あたりに、塚原曹長が立っている。右手には御剣みつるぎとは違うとても長い日本刀が握られている。


「塚原曹長の剣、珍しいわね。ほかの人が持っているものと違うんじゃない?」

真凜さんも気になったか、奏さんに聞いている。

斬馬刀ざんばとうというものらしいわ。塚原さんの特殊兵装ね。」

奏さんも詳しい。

「ふーん。そうか。私のアレクサンドルと同じように、申請したのね、きっと。」

 自分も待ちの状態でいるので、二人の話をぼーっと聞いていた。でも、曹長はすごいな。あんな巨大な日本刀を扱うなんて。まさしく伝説の狂戦士きょうせんし→【英】バーサーカー、【独】ベルセルクのようだ。

「準備はいいか~い?」

狼の遠吠えみたいに叔父さんが張り上げた声が弓道場全体に響き渡る。

「いつでもどうぞ~!」

曹長も声を張り上げて吠え返してきた。


 よし。自分はまた精神を集中させた。今度はグラディウスでも御剣みつるぎでもない西洋風の細い剣を選んだ。細い刀身とバラのつるが巻き付いたかのような美しい飾りのつばが特徴的だ。エストックとかいうやつだったっけ?

そいつを一本、宙に持ち上げる。さすがに緊張する。


 無我夢中で真凜さんを助けたあの日、先ほどの藁人形を相手にした時とは全く違う。生身の、しかも何の脅威も恨みもない相手をめがけて、凶刃を射出するのだ。生唾を飲み込み、下っ腹の丹田たんでんに力を入れる。


 「行きます。」と宣言すると同時に射出した。


 シュンッ。


 かろうじて見えるレベルの高速で、エストックが曹長を襲う。曹長は微動だにしない。刺さる!と声を上げそうになった瞬間、曹長はわずかに踏み込み、巨大な斬馬刀をひらりとなびかせた。

 

 チュインッ。


 微かな火花が散った。


 弾かれ、撓んだエストックは、弾性力を運動力に変え、くるくると宙を舞う。曹長の完全勝利だった。自分はあまりに美しいその武芸、その余韻に言葉を失った。他の皆も、同じだった。


 1秒ほどの沈黙。


 エストックは宙を舞う。くるくると回転しながら、ついに矢道の地面にぐさっと突き刺さった。


 途端、弾けるように、全員が手をたたき、この素晴らしいナイトショーを讃えた。

「すごい。」「すごいわ。」

真凜さんと奏さんはお互い手を取り合って跳ねている。

「すっげーーー。」

攻撃を仕掛けた張本人である自分も興奮して叫んでいる。

「いやあ、素晴らしい。塚原君の腕はまさに国士無双だ。」

叔父さんも大喜び。


 間違いない。これがオリンピック競技ならば完全に金メダルに違いない。なんだか自然と皆がお互いにハイタッチしたり声を掛け合ったりして成功を祝った。そんな熱狂がしばしこの場を支配した。的場にいた曹長も戻ってきて、少し恥ずかしそうに笑みをこぼすと頭を掻いた。曹長は照れ屋さんなのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~気合が足りないよ~


そこでこの場はお開きになるのかな?と思ったが、今日は違った。

「塚原君は素晴らしかった。今後も帝国のため、しっかりと鍛錬をしてください。」

叔父さんは真面目な顔になると言った。

「ありがとうございます。精進します。」

曹長も嬉しそうだ。

「ところが。」

少し神妙な顔になった叔父さんは自分に向き直った。

「タケル君に関しては、正直まだまだ改良の余地があるとは思う。」

 予想もしなかった言葉に、自分はもとよりその場の全員が驚いた。一体何が?自分の狼狽するさまを横目に、叔父さんは少し口の端に笑みを出すと塚原曹長に向き直って聞いた。

「塚原君は、手ごたえとしてどうだった?さっきの一撃は重いものだったかい?」

曹長は手の感覚を思い出すかのように右手で左手を触るようにしていたが、

「そうですね。特に普通に飛んできたものを弾いた。そんな手ごたえでしたかね。」

そう感覚的な記憶を絞り出した。叔父さんは頷くと再び自分を見て、

「もう一度どれか武器を浮かせてもらってもいいかな。」

と言った。

 自分は手近にあったグラディウスを1本、今までのように1mくらいの高さに浮かせた。それを確認して「ちょっとそのままで待っててね。」と言うと、叔父さんは足元の御剣を1本拾い上げ、浮いているグラディウスに近づいた。叔父さんはグラディウスが横に見える位置に立つと、両手で御剣を頭の上に構えた。いわゆる八双の構えというやつだった。なかなか堂に入る構えだ。


 刹那、叔父さんが御剣を振り下ろした。


 ガキン!強烈な刃と刃のぶつかり合う音が射場の壁や天井にこだまする。


 みんな驚いてその光景に吸い込まれる。だが自分はそれだけでなく、自分の浮かせたグラディウスに大きな力がかかるのを感じた。当然だ。そして、叩き落とされまいと、より力を込めた。叔父さんも真っ赤な顔をしてその力と我慢比べしている。御剣の刃の中央あたりがグラディウスの刃と押し合い、ギチギチと摩擦音を出している。

 

 十字に交差するグラディウスと御剣、それはまるで帝国の領土を侵略して居座る連邦軍とそれを必死で叩き伏せようとしている帝国軍の姿のようにも見えた。十秒ほど叔父さんは渾身の力を込めてグラディウスを上から沈めようと頑張っていたが、ついには諦めて、苦しそうに呼吸した。グラディウスは一瞬ほんの少し沈められたが、自分の使役力が押し返し、最後には勝利した。


叔父さんはグラディウスからすっと離れると、御剣を床に置き、肩で息をした。

「大丈夫ですか?中佐?」奏さんが叔父さんにそっと寄り添った。

やっと息を整えた叔父さんは最後に深呼吸すると、それでも息を切らしながら、

「まぁ、こっ、こんなわけで、きみがっ、君が念じている状態の鉄塊は非常にタフなんだ。

げほっ。げほっ。分かるかい?」

今度はかわいい姪っ子の真凜さんも心配そうに叔父さんに寄ってきた。両手に花だ。叔父さんも大変な目に合ったので、当然の報酬ですね。


でも迫力ある実演のお蔭で、自分は叔父さんの言わんとすることが読めてきた。

「タケル君は射出をした後で、モノがまっすぐに飛ぶよう念じているよね。先ほどの藁人形の時は目標に当たる瞬間までそれを念じていたよね?今回は途中で能力を引き上げていないか?」

「確かに言われたとおりです。目標に接近したところで、あとはなるに任せています。そこまでくればあとは惰性でほぼ直進、そのまま当たりますからね。」

その自分の考えを聞いて叔父さんはさらに言う。

「タケル君は物理法則を理解しているから、ある意味センス良い手抜きみたいなものだ。だがそれにより、威力も物足りなくなる。下手をすると戦場で目的を果たせないことにもなりかねん。」


「塚原曹長に当たることを考えて多少怖気づきました。威力を落とそうとして思考している訳ではないのですが。人に突き刺すのって、本当に生々しくて、怖いんです。僕自身にとっては、能力を投影したまま相手にぶつけることは、手に持った剣で直接切りつけるのと差がないのだと思います。」

本音が出て来た。

「感性が繊細なんだな。でも、君はもう軍人なんだ。大和隊長の遺志を継ぐのではなかったのかい?」

叔父さんの言い方は少し意地が悪い。

「すみません。」

自分はそう言うしかなかった。反省会の様相だ。

「タケル君の配慮だって正しかったと思います。それに、タケル君は元の世界では一般人。なかなかすぐには切り替わらないと思います。」

奏さんが自分を援護してくれている。でも本気で闘う覚悟のようなものが自分には足りていない気がして反省する。塚原曹長の男気を買って、こちらも覚悟を持つべきだった。

「叔父さん、厳しいよぅ。タケル君はちゃんといい仕事してましたよ。」

真凜さんは自分に甘々だった。

「まぁ、タケル君は優しいからね。手法を少し見直さないといけないな。」

さすがに叔父さんも折れ始めた。

「何事も経験ですから、繰り返しやってみることも大事なんじゃないでしょうか?」

至って冷静に塚原曹長も言う。すごいや、こんな実験に使われておいて。世界最強のモルモットではないだろうか。

「そうだな。塚原君の言うとおりだ。また条件を整えて再チャレンジと行こうか。」

それで今度こそお開きとなった。


 いつものように真凜さんと宿舎の手前で分かれて、明日からはシフト制のスローライフだ。スローライフだけど、忙しく時間に追われる自分が想像された。各部隊を見て回ったり、手伝ったり、事務作業をしたり、特訓したり。本当にどこの世界にいても仕事に追われている。なんだか滑稽に思う。今日もよく眠れそうだ。



同席した女性陣から激しい非難を浴びつつも実施された叔父さんの実験。だがその結果は塚原曹長の圧勝に終わった。その一因としても考えられるのが、山田驍の能力の使い方だった。叔父さんにそれを解説され、山田驍は自分の覚悟が未だ十分でないことを思い知る。

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