ストーリー016 能力の正体
最初は半信半疑で「能力開発部」を訪れた山田驍だったが、小此木中佐との面談では2つの世界の事、能力の事、様々なことを理解できる貴重な時間となるのだった。
ストーリー016
十號手記 能力の正体
~能力の分類~
「もちろんです。一緒に戦いましょう。」
そう躊躇うことなく答えた自分に、叔父さんは喜んで手を差し出した。自分はその手とがっちり握手した。思ったよりも肉厚な頼もしい手だった。
「ありがとう。これで我が国に新たな希望が生まれた。」
叔父さんは相好を崩した。真凜さんも奏さんも嬉しそうだった。
「でも、国の希望なんて少し大袈裟ですよ。すぐに力を使い果たして、結局真凜さんに助けられて帰ってきたんですから。」
自分は苦笑しつつ謙遜した。
「いいんだ。所詮能力とはそういうもの。だから能力を使えるものも、
使えないものも、皆で補い合って戦うんだ。私だってショボい能力者の端くれとしてそう自分を戒めている。」
叔父さんは鷹揚に答えた。
「タケル君、折角だから叔父さんに色々教えてもらおうよ。」
横から真凜さんが言う。自分は能力のことについて色々と尋ねてみた。
『こなた』には古来から、「能力」「ちから」と呼ばれる神秘的な現象が存在してきた。「能力」は、この世界『こなた』でも一般的な仕事の能力や運動能力などにも使われる言葉だが、『かなた』の世界で言うところの、超常的な異能のことを指すこともある。敢えて区別もされていないことから、それがいかに一般的なものであるかが伺える。
大きく分けると2つのタイプに分けられる。
まずは、その人に与えられた変身、古い言葉では現身というものがあり、変身した際に発揮できる異能がある、というタイプ。真凜さんのタマヒメ化や木暮少尉のモリビト化、奏さんのネコマタ化などの変身だ。発揮される異能は、モリビトの回復術のように変身した状態で行える異能、タマヒメの水中浮遊のように体全体や周囲の環境に影響を及ぼす異能、ネコマタの身体能力アップのように個人の能力が向上する異能など様々だ。
女性に高確率で発現する能力で、遺伝的には母から娘に引き継がれる。まれに男性でも、母親の能力を引き継ぐ者が存在する。ただ、男性の発現率は女性に比べると極めて低いとされるし、特殊な条件下で起こることが明らかになってきている。
もうひとつは変身することなく、ノーマルな人間のまま異能を発揮するタイプ。これはまた極めて特殊な例で、自分の能力がそれに当たるらしい。こちらのタイプの男女比は同じぐらいと考えられているが正確性はない。あまりに希少でなおかつ、ほとんど役に立たない地味な能力も含まれるから、今までまともに統計がとられてもいないという訳だ。
近年、科学技術の進歩とともに、これらの能力を科学的に解明しようという
試みが各国の様々な組織でなされているとのこと。叔父さんこと小此木中佐は、帝国軍の中で極秘裏にその研究を進めている「能力開発部」の部長を兼任してもいるそうだ。良かった。変な宗教とかじゃなくて。
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~科学的に考えると~
「正直なところ、モリビトの回復術、解毒術に関しては、ほとんど解明されていない。相当に高度な物質移動、変換などが関わている。今のところは、その程度の理解しかできない。」
叔父さんはそう言った。それもそうだ。自分はあのえげつない捻挫、おそらく靱帯損傷?をものの0.5秒で治した木暮少尉の回復術を思い出した。実にあれは神秘だった。それに比べると、物理現象としてのタマヒメの水中浮遊や、自分の能力は割と単純に説明が出来そうだ。自分は洞穴の中での真凜さんの変身について言及した。
「真凜さんが変身したときに思いましたが、これは『疎水性』だって。」
叔父さんは目を丸くして、
「まさしく私が考えていたのと同じだよ。」
と言った。そうなのだ。水の申し子と見せかけて、あの異能は人間が魚みたいに鰓が生えて水棲のものになる訳ではないのだ。
「やはり、タケル君は科学技術の進んだ世界から来ているから、理解が深い。
そのうちこちらが教えてもらうことも増えるかもしれないな。」
叔父さんはこちらに予告するとも、自分を納得させるとも言えるようなことを言う。
タマヒメは帝国の人々から最も称賛される能力者集団のひとつともいえる。その名前の由来は古事記に出てくる豊玉姫とその姪にあたる玉依姫、二柱の海の女神がモチーフとされる。この二柱の神様は自分の出身世界『かなた』と同じく『こなた』でも存在している。ギリシャ神話のアフロディーテとも共通点が指摘される美の女神だ。そのような格式高い由来の名で呼ばれていることからも、想像に難くない。
海洋国家である日本においてはその能力が古くから重宝され、タマヒメの女性で海洋関係の仕事に就く人は多い。古くは海女などの漁師業や、船頭として軍船、輸送船を率いる立場の女性も多くいたそうである。現在もそれらの産業、職種の担い手に多くのタマヒメがいる。軍隊の中では、当然海軍が中心的な活躍の場だ。溺れたトラウマで能力が何年もの間使えなかった真凜さんは特殊な例で、ほとんどのタマヒメたちは海軍で大活躍し、その主力となりつつある。近年、異例のスピードで海軍の師団長、少将に昇進した若いタマヒメもいるそうだ。
今いる4人の中では既に共通認識になったが、真凜さんは思春期に溺れた経験でひとたび能力を失った。そして、自分の出現によって限定的に能力を取り戻した。叔父さんはそこに再びメスを入れたくなったらしい。
「真凜ちゃんの変身を、もう一度見せてもらってもいいかな?」
と振ってくる。自分と真凜さんは座っている場所を左右入れ替えた。自分の左手と彼女の右手が繋ぎやすくするには、自分が右側、彼女が左側になるように座ると自然だ。手を繋ぎ、彼女が念を込めると眩い光が満ち、タマヒメ真凜が出現した。叔父さんは満足そうにうなづき、変身を解除するように指示した。
元に戻ったところで、今度は先ほどの座席順に座り直し、引き続き叔父さんの指示で、自分の右手と彼女の左手を繋いで変身に挑戦してみた。彼女から眩い光が発せられたが、切れかけの蛍光灯のように一瞬光っては消え、また光っては消え、を繰り返している。手を握る彼女の握力が強まる。ふんばって、ようやく変身することが出来た。手を離すと、やはり途端に元に戻る。
「へぇ。意外。」
と彼女自身も驚いている。左右で効果に違いがあるとは思っていなかった。そして、手を離した状態で彼女はかわいい眉間にしわが刻まれるぐらい力を入れるが・・・
変身することはできなかった。
「まだしばらくは、能力の完全復活までリハビリが必要だね。」
叔父さんも若干残念そうに言った。
「それに、人前でそうそう手を繋ぐわけにもいかない事情がある。風紀上もあまり好ましいとは言い難いが、大和大尉はそもそも既婚者だ。」
「は?」「え?」自分と真凜さん。我々二人の目が点になった。それは確かに問題だ。というか全くの盲点だった。大和大尉である自分があまり真凜さんとベタベタしていると、不倫とみなされるのか。その辺りの道徳観は、2つの世界で全く変わりない様子だった。目立たないようにやっていくのが大変だ。大和一郎、若いのに。確か同い年の27歳。なんで独身のままいてくれなかったのか~(怒・涙目)
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~アクセラレーター~
ところで、今まで放置してきたが、自分の能力は一体何だろうか?叔父さんに問うた。
「君の能力は至極単純なものだ。単純明快だが、それを成すことが単純な訳ではない。むしろ、超困難な話だ。分かるかい?鉄塊を浮遊させるということの意味を。」
「重力を取り去るということでしょうか?」
「さすがはタケル君だ。一言で片づけるとそうなる。だが考えてもみてくれ。
実は目の前の不動の物体にしても、地球という天体に張り付いて回転しているんだ。その回転力が重力の一部ともいえるが、それ以外の応力だってあるだろう?それを器用に、重力だけを取り出して、それを無効にする。実に繊細な行為だ。君を表現するなら、それは加速度調停者、アクセラレーターだ。」
まるで雷に打たれたような衝撃を受けた。アクセラレーター、自分が?でも言われてみれば確かにそうだ。地球の動きである自転、公転、そういった他の条件には一切タッチせずに、まるで演算式を差分として引くかのように、それだけを調整するのだ。「重力の枷を解き放て」と命じながらね。
「しかもなんで鉄なんだろうね?さっき叔父さんが言ったけれど、科学技術の進んだタケル君の『かなた』なら、ヒントとかあるんじゃない?」
真凜さんが指摘する。
自分は考えながら、ほぼ飲み切りそうな、冷めた紅茶の入ったティーカップの底を見た。鉄分を含んだ茶渋が底の方に沈んでいる。
午後の柔らかな光が室内を温めている。ティーカップから視線を室内に戻した。その光景は、かつて高校の教室にだらだらと残った、放課後のおしゃべりの一部を思い出させる。懐かしい親友の声が蘇る。テストが近かったのか、妙に学術的な話だった。
「驍の質問は、鉄が宇宙にたくさん存在しているのはなぜか?だよね。理由はちゃんとあるよ。原子核が対称的で、大きさ的にも最も安定している元素なんだってね。だから、この宇宙はその核の分裂や融合を繰り返した先に、全て鉄原子に落ち着いていく。そんな仮説もあるぐらいなんだ。だから存在比が増えていくのは当然なんだそうだよ。」
自分はその台詞をほぼそのままなぞった。
「ほんとうにすごい。その分裂や融合については想像もつかないけれど、
タケル君の世界『かなた』も、君自身や君の親しい人物も、さすがとしか言いようがない!」
叔父さんは興奮のあまり立ち上がり、両手を広げて称賛した。一方の自分はまた軽い頭痛を起こして頭を押さえた。親しい人物、誰だっけ??真凜さんが背中をさすってくれている。叔父さんと奏さんもそれに気づき、でも先ほどよりは落ち着いてその様子を見ていた。
「タケル君も別の意味でリハビリが必要かもしれないね。少しずつでいい。
君は能力を使うことで、過去の出来事と向き合えるようになるんじゃないかな?」
その叔父さんの一言でその場の〆になったようだ。日が傾いていることに、今更に気が付いた。それだけ濃厚な時間だった。叔父さんと如月さんの二人にお礼を言って、能力開発部をあとにすることにした。
去り際に、唐突に叔父さんが言う。
「そうだ。いやな仕事を押し付けることになるかも知れないが、奥さんや塚原曹長にはタケル君自身から事実を伝えてくれないか?」
何となく叔父さんに対する絶大な信頼感からか、「はい。」と答えてしまったが、あとから落ち着いて考えてみると、とんだ貧乏くじだと思った。
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~剣豪同士の約束~
その日の夜は高梨大尉主催の、大和一郎帰還祝いの席となった。酔いが回ってきて、無遠慮な絡みも多くなる。女性陣からはまた、櫛名田ダムのあたりの話を聞かれる。今度は小隊長時代の元部下たちだ。女子たちってこういうの、好きだな~。とほほ。いい加減やめてほしいが、こちらも酔っているので、気分良く同じ話を繰り返している。紙芝居屋にでもなった気分だ。彼女たちは元小此木班の一員。つまりは自分の部下でも、真凜さんの部下でもあるし、特別サービスだ。これからは隣の中隊になってしまう訳だが、何かしらでまたお世話になることだろうし。
逃げ出すための方便として、ある程度話をしたところでトイレに向かった。そこで同じくほろ酔いの塚原曹長と一緒になった。隣に立って連れションする。
「お疲れ様です。また随分としつこかったですね。」
別席から横眼で見ていたのか塚原も苦笑している。
「本当だよ。入れ代わり立ち代わり、勘弁してくれと思うね。」
二人とも声を出して笑った。
「ところで明日の夕刻、久しぶりにどうですか?」
そう言って、塚原曹長は眉毛をぴくぴくと動かすと、剣を振るしぐさを左手だけでエアーでやって見せた。そうか、剣道の立ち合い稽古か。
「わかった。いいだろう。業務終わりの18時過ぎにしようか?」
今の会話での親近感もあり、酔った勢いでさらっと言ってしまった。
「了解です。では第三武道場を押さえておきますので。では。」
塚原の巨大な背中が去っていくのを見ながら、今更に不安な気持ちになった。
「小学校以来、剣道やってないな」と過去をを思い出した。相手は現役の軍人。少なくともかなりの腕だろう。自分は果たして、生きて無事でいられるのだろうか?
小此木中佐との面談後の帰還祝いの席で、また女性隊員から櫛名田ダムの話をいろいろと聞かれる。面倒くさくなってトイレに立った山田驍。そこで会った塚原醍醐と意気投合し、剣道の立ち合い稽古をすることになるのだが・・・?




