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ストーリー014 仲間たち

帰還した翌日、山田驍は自分の所属していた部隊の面々に帰還報告をする。そこには、これからともに死線をくぐってゆく多くの仲間たちの姿があった。同僚たちの死、昇進、様々な物を肌で感じつつ、山田驍は成長してゆく。

ストーリー014


八號手記 仲間たち


 駐屯地に帰還した翌日、あたらめて連隊本部に報告に上がった。連隊本部はもともとこの新見駐屯地が普通の都市だったころに市役所だった施設だ。新見市は(こちらの世界では)播磨はりま県の北西部に位置する都市で、周辺の集落を含めて数万人がかつては暮らしていた。青海おうみ県のほとんどが連邦軍の支配地域となってから、隣接するこの地域の住民には避難勧告が出された。子供やお年寄り、戦火を避けたい一般人は大坂おおさかを中心とする近畿地方に避難してしまった。


 今朝になってからも、街中、もとい駐屯地内で多くの人々を見かけるが、年ごろから壮年の元気そうな男女しか見当たらない。それもそのはず、皆さんすべて軍人だった(および軍御用達の商業施設の関係者)。軍服を着ずに、私服でいる非番の人たちもいるので、普通の都市のままに錯覚する。可愛らしい女性たちの私服姿は、男としてはとても心癒されるものなのだが、この人口比率はやはり不自然だ。ここがあくまで駐屯地であることをどことなく残念に感じる。


 本日は連隊長の北条大佐は他の用で動けないので、大隊長の米田少佐が報告会を仕切っていた。重要人物の帰還なためか、同じ大隊内の中隊長達も勢ぞろいしていて、大和一郎の所属する大隊の幹部が全員揃った格好だ。第2中隊の高梨大尉は昨晩目立っていたので、自分も顔を覚えているが、それ以外の人は、「あぁ、昨晩こんな人がいたなぁ」というおぼろげな記憶だった。少し気が焦る。そもそも大和中尉からしたら、皆顔なじみであるはずだ。



帝国軍  第11師団 第3連隊 第5大隊

     通し番号:110305(イチイチゼロサンゼロゴ)大隊  


隊員数  約900人


大隊長  米田藤吉よねだ・とうきち:階級/少佐


各中隊長 第1中隊 花山はなやま大尉(前作戦中に戦死)

     第2中隊 高梨雄一たかなし・ゆういち大尉(大和氏の上長)

     第3中隊 柿崎彦次郎かきざき・ひこじろう大尉

     第4中隊 桃瀬麗華ももせ・れいか大尉

     第5中隊 栗田彰くりた・あきら大尉



 自分は、同じく重要な帰還者のひとりでもあり、主席秘書とも言える真凜伍長と、第2秘書ではないかという勢いの塚原曹長を引き連れて報告会に臨んだ。緊張して赴いたが、皆いい人たちで、本当にアットホームだった。


 米田少佐(通称おやじさん)は一見してひょうきんな初老のサラリーマン

のような男性だった。自分と同じスタイリッシュな軍服を着ていなかったら、

新橋の線路下の飲み屋で飲んだくれていてもおかしくはない風貌だ。七三に分けられたこげ茶の頭髪に少し白髪が混じる。人中の目立つ猿顔、黒縁眼鏡の奥の人懐っこい目は、人にどこか安心感を与えた。


「大和中尉、ご苦労様。君と小此木伍長の報告こそが本題だが、まずは先に

大切なことをしておかないといけない。」

そう言うと米田少佐はやや神妙な顔で皆の顔を見回して語り始めた。

「今回の撤退は相当に厳しいものだった。我々は、敵の能力を見誤ったがために多くのものを失ってしまった。その一番が仲間の命だ。花山大尉を筆頭に、

失った第一中隊、第二中隊の隊員たちに今一度黙とうをささげたい。」

皆が目を閉じ、亡き人たちのことを思った。1分間が経ち、少佐は再び語りだす。

「その一方で、この厳しい戦いの中で、仲間のため、獅子奮迅の活躍をして無事に帰還してくれた隊員たちもいる。そのおかげで、多くの人間が明日への命と勇気をもらった。ここにいる大和中尉と小此木伍長に感謝したい。今日は彼らの英雄譚をぜひ披露してもらいたいのだが、その前に辞令だ。」


 そうか。多くの人が亡くなり、空いたポストに人を埋めていかなければならない。感傷に打ちのめされたその先に、組織の再構築をし、前に進んでいかなければならないのがリアルな戦場、リアルな軍事組織。身が引き締まった。

「大和一郎中尉、改め大尉、本日付で第一中隊の隊長に任ずる。また、小此木真凜伍長、改め軍曹、同じく本日付けで大和大尉の第一中隊麾下の第三小隊、第一分隊長に任ずる。塚原醍醐曹長、第二中隊より第一中隊に転属、第四小隊の小隊長代理に任ずる。」


 つまり、自分と真凜さんは1階級昇進した。そして亡くなった花山大尉の部隊でポストを引き継ぐ形となった。花山大尉は黙とうを捧げられた中での代表的な人物、第一中隊を率いる隊長だった。塚原曹長は昇進したわけではないが、彼も第一中隊にやってくる。人手不足の現状のもと、本来より一つ下の階級である曹長が小隊を率いる(正式ではないので代理する形だ)こともちょくちょくあるそうだ。


 この人事はかなり後になって、自分が山田驍であることを既に把握している人々によって、現場の混乱を避けるためにうまく考えられたものだったことに、自分は気付いた。大和大尉こと山田驍は以前と性質が変わっている・・・というのは深く付き合ってきた者達なら気付く点だ。ならば、現場を変えればいい。それでも山田驍を補佐する人物が必要だ。その補佐をする人間が当然ながらの小此木真凜と塚原醍醐の2名だったわけだ。


 皆からにこやかな笑顔と、割れんばかりの拍手が送られて空気が変わる。もはや上長ではなくなってしまった、同列の高梨大尉は、上長だった頃からどっぷりと大和氏のファンかプロデューサーさんだったのではないかと疑ってしまう。それぐらい彼のことを信頼して、彼を立てている感じがにじみ出ている。

「いやぁ、当然の人事ですよ。」

と周囲を巻き込む勢いで喜んでくれている。

「では、こちらから話すべきことも話したし、二人の伝説を披露してもらおうか。」

米田少佐も相好を崩して自分の役割を放り投げた。伝説って・・・ははは。


 あとは、本当に座談会だった。


 自分と真凜軍曹は連邦の1個中隊に執拗に追跡された一昨日~昨日までのいきさつを皆に披露した。もちろん、継承云々にかかわる話はできようもなかったが、(発現した)能力や、戦い、逃亡の流れなども含めて詳細に報告した。やはり少しやんちゃに話を盛っておいて正解だった。バッタバッタ切り倒してやった敵の一斉射撃。それぐらいの気勢はあってしかるべきだ。秘書塚原やプロデューサー高梨の合いの手もいい感じで、話は大層盛り上がった。


 いかにも猛将タイプの柿崎大尉は達磨の目のようなギョロギョロした目じりに、優しそうな笑い皺を作って話に聞き入っていた。栗田大尉は、名前通り栗の棘のように尖った髪をゆすって豪快に笑っていた。背は高くないが、がっしりと横幅のある体形をしている。彼も相当な猛将なのだろう。


挿絵(By みてみん)


 後方支援メインの中隊を率いる桃瀬大尉はワインレッドの髪色。ボブカットの綺麗な女性だった。同色の瞳が、好奇心いっぱいにこちらを見ている。彼女は可愛らしい自分の部下たち、小隊長?下士官?たちも数名連れていた。その中に、昨日自分の捻挫の治療をしてくれた木暮少尉もいた。桃瀬大尉を含む女性陣は、ダム湖に落ちる辺りからあとの我々二人のことに興味津々な様子だった。そんなつもりで話していないのに、自分たちの二日間はいつのまにか、「二人だけの逃避行」みたいな物語になってしまった。女性陣はなんだかうっとりとした目で自分や真凜さんを見ている。気のせいではなさそうだ。


 気づくと正午をとっくに回り、報告会は終了した。


 皆が解散し、小仕事のある塚原第二秘書とも別れて、主席秘書の真凜軍曹と二人っきりになった。

「お昼は何にしましょうか?」

軍曹が言う。存在するのかどうかわからないが、言ってみる。

「そうだな。饂飩(うどんなどはどうだろうか?」

ここでは隊長っぽくしゃべる。周囲の目もあるし、元の大和大尉らしくね。

讃岐さぬき饂飩の食堂がありますよ。行ってみましょう。」


あったんだ。ここにも。期待感でワクワクする。二人は「香川」と書かれた暖簾をくぐった。そうだった。こちらの行政区分では、香川県というものは存在しないで、四国丸々が「志乃国しのくに県」となっている。なので、「香川」という言葉もぼやっとした地名で、店名におしゃれ感で使われている。

それにしても香川~讃岐~饂飩、とそれぞれの単語としての言葉だけでなく、

つながりに至るまで、元の世界と共通する言葉や文化が存在しているなんて、どこまでもホーム感がある。


 さらに、ちゃんと想像通りのものが出てきた。「ごんぶと」でコシのある麺。自分は肉饂飩にしたので、たくさんの青葱と牛肉がつかった琥珀色のお出しも存分に楽しめた。軍曹の頼んだ釜玉饂飩もおいしそうだ。今度頼もう。

異世界に来たはずなのに、こうして普通に美味しい和食を楽しんでしまった。


 幸せ過ぎる食事を終えて、二人で食後の番茶を啜っている。今まで頑張ったご褒美かのように、優雅な午後の時間が流れている。とはいえ、異世界に放り込まれて、右も左もわからない状態。次に何をすればいいのか、仕事や生活の段取りもいまいち頭に湧いてこない。

「午後からはどうすればいいのかな?」

強そうな肩書が笑えるかわいい真凜軍曹に聞いてみた。

「小此木中佐との面談が15時から入っています。それまでは駐屯地内の散策です。大尉は能力の発現のお蔭で、一部記憶が失われている可能性があります。

明日からの業務に支障がないように、確認しておいた方がいいでしょう。」

二人で決めた「設定」を、声に出して再確認してくれた。にやっと笑うのがかわいい。


やはり主席秘書は優秀だ。小此木中佐は前々から聞いている通り、彼女の叔父だという。彼女に「どんな人?」と探りを入れると、「研究者タイプかな?」とざっくり答えてくれた。


こうして、いよいよ、自分は異世界転移後の自分のコーディネーターとも言える大恩人、小此木博文おこのぎ・ひろふみ氏(当時は中佐)と会うことになるのだった。




座談会(帰還報告)を終えた山田驍と小此木真凜。山田驍は今も「日本」にいるんだというホーム感も感じつつ、同時に異世界に来た不安も感じている状態だった。小此木博文おこのぎ・ひろふみ氏との面会は何をもたらしてくれるのだろうか?

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