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ストーリー013 リ・スタート?

ついに帝国軍陣営に無事な帰還を果たした大和一郎中尉こと山田驍と小此木真凜伍長。満開の桜の下、仲間たちから熱狂的な歓迎を受ける。

ストーリー013


七號手記 リ・スタート?


 ここは櫛名田ダムからみて斐伊川ひいかわの上流地域に開けた盆地、津山つやま盆地、その一番西の端にあたる新見にいみという地方都市だ。真凜まりんさんの説明では、一般人は避難し終えており、今は軍人や御用達の商業施設だけが残り、駐屯地に生まれ変わっている。自分が元いた世界の、岡山県の都市とは周囲の地形環境が多少異なるようだが、首都圏に住んでいた自分にははっきりとその違いを明言出来ない。とにかく、概算で40㎞近い道のりをほぼ丸一日をかけてここまで歩いてきた。秘密基地を後にして以降、今日一日を通して能力をほぼ使わなかったが、そんなことは関係ない。もう完全に電池切れで、棒のような足を引きずっている。


挿絵(By みてみん)


 それでも、自分たちを祝福している満開の夜桜、ソメイヨシノを見て、少し元気が出た。その下に居並ぶ帝国軍の隊員たちから歓声の声が上がる。本当に英雄扱いだ。元の世界ならば、芸能人にでもなった気分だ。周囲の熱気が凄すぎて大変だった。真凜まりんさんはというと、自分の少し前を歩き、皆に頭を下げつつ道を開けていく。まるで芸能人付きのマネージャーのようだ。正直見た目は彼女の方がアイドルみたいなんだけどなぁ。


 時刻は午後9時を回るころだったが、多くの人々が家々(宿舎?)から出てきて暖かく、いや暑苦しいぐらいに迎えてくれた。誰もが笑顔だった。いや、一部顔をくしゃくしゃにして泣いている人さえもいるのだ。ひとりの士官とひとりの下士官の帰還にしては大げさすぎる、と思った。


 駐屯地の本部に到着すると、これまた宿舎から飛んできた上官たちが笑顔で

迎えてくれた。自分のその時点での直上の上司、中隊長の高梨たかなし大尉、さらに上の大隊長、米田よねだ少佐、そして、連隊長、なおかつこの

駐屯地の監督者に当たる北条ほうじょう大佐など大和氏と組織上近い関係に当たる男性の士官だ。


 生き残った自分の(いや、もとの大和中尉の)部隊の隊員も押し寄せてきた。ここらあたりは感極まってほぼ皆泣いている。「良かったですぅ。無事で何よりですぅ。」意外と若い女性達もいて、先ほどの(自分がアイドルになる側の)バーチャルアイドル体験が蘇る。


 ひときわ目立ったのは、超大柄な自分の、いや大和一郎氏の右腕、塚原醍醐つかはら・だいご曹長だった。


「隊長、お疲れ様でした。」

 口の端に微笑みを湛えて静かに頭を下げる。自分に、いや大和氏に深い尊敬を抱いていることが分かる。押し寄せてきた無数の日本人たち(に違いない)の中には、鮮やかな髪色、目の色の人々もいる中で、塚原曹長の風貌はどちらかと言うと元いた世界の日本人に近い印象だった。髪と目の色は黒く、肌はやや浅黒い、元いた日本国で普段どこにでも見かけた肌色だった。それでも彼が目立っていたのはサイズ感と、やはり独特のオーラのようなものがあったからかも知れない。


一段落着いてから

「さっそく、帰還のお祝いしましょうよ!」


と周囲に言っているのは先ほどの高梨大尉だった。ライトブラウンの短髪に深い紺の瞳。一見爽やかな感じだが、髪色とモヒカンに近いシルエット、左のこめかみ辺りの剃り込みが目に入る。ファンキーだ。とてもいい奴に間違いないが、少しやんちゃな感じもする陽気な青年だった。


だが夜も更けてきていたのと、「さすがにお二人は疲れているんだから、明日にしようよ。」と言う他の士官たちがいたので、詳しい報告など踏まえて、お祝いは明日することとなった。


 実際、自分はダム湖に飛び込んだ際に足を捻挫していたらしく、その治療も必要だった。真凜さんと楽しく談笑しつつ帰ってきたのでそれほど意識していなかったのだが、ここまで何十キロも歩いて酷使したことで炎症が悪化していたらしい。今になって相当痛み出した。その治療も塚原曹長が手配してくれた。


挿絵(By みてみん)


 治療にやってきたのは木暮美香こぐれ・みか少尉という女性の技術士官だった。なんでも、真凜さんの高校時代の親友でもあるのだ。先ほど真凜さんとの世間話に出て来た人物がいきなり目の前にいて驚いた。彼女はいわゆる術師、回復役の兵種というわけだ。彼女はすでに変身を済ませていた。変身した時の真凜さん同様、ベールに包まれたような光を放ち、その耳は高い耳をしていたが、それ以外に身体的な特徴は見当たらなかった。彼女はモリビトという、ファンタジー作品でいうところのエルフに相当する姿に変身できる能力者だ。金髪で碧眼という彼女の元の性質もあってか、よりそのままのエルフ感がある。


 一度真凜伍長の変身を既に見ているだけに、見た目のインパクトは全くなかった。だが驚いたのは彼女の能力だった。彼女の両手からやや濃い金色の光が放出され、自分の傷めた左足首に0.5秒ほど降り注いだ。


気付くと、痛みも見た目の炎症も明らかに軽快・・・どころか完全消失した。


それはまさしくヒーリングと呼ぶものだった。


これは、とてつもなく、とてつもなく凄い。


「お大事にどうぞ。」と一応湿布も渡されたが、ほとんど必要ないだろう。

行為の女神感もあってか、「ありがとうございます。すっきりしました。」と蕩けてしまった。横にいた真凜さんがちょっぴり機嫌を損ねていたような気がする。自分も節操がない下品な野郎なのだろうか。反省しなければならない。


 宿舎への道を歩きながら、塚原曹長から色々と二人だけの撤退の事を質問された。何でもかんでも話すと正体がばれそうだし、照れくさい内容もあるし、喋れる内容のチョイスがとても難しかった。真凜さんも横に着いてきているので、何かと彼女が横からフォローを入れてくれた感じで助かった。塚原曹長とは先に別れ、真凜さんが最後まで大和氏の宿舎まで着いてきてくれた。


 大和氏の部屋にて、ようやく二人きりに戻れたので、彼女と今後の方針について話し合った。


 他の人たち目線で考えると、大和氏は戻ってきたが、かつてのような剣の達人ではなく、特殊な能力を使用する、異世界人山田に実は入れ替わっているのだ。入れ替わりを、他の人たちにいかに上手く伏せていくか?二人で頭を悩ませる。


 剣が使えなくなった理由として、「能力に覚醒した際に失った」「能力の使用のために剣技を控えないといけない」など、聞いた人がそこそこ納得できる理由を持たせたい。さらに、別の人間に入れ替わっていることがバレる一番のリスクは、過去のやり取りや習慣と現在との違いだと思う。大和一郎氏から「継承してくれ」と言われたとはいえ、それは思想の継承であって、彼の記憶を継承しているわけではない。


でもそれが逆にヒントとなった。


「能力に覚醒したせいで、一部、大和氏としての記憶が欠如している。そういうことにしてはどうだろう?そうすれば、剣が使えなくなった理由としても

上手く符合するでしょ。」

自分が発案すると、彼女も「それはいいわね。」と賛同してくれて、更に言った。

「じゃあ、その方向性で叔父さんにも相談しましょう。」

叔父さん?彼女の叔父である小此木博文おこのぎ・ひろぶみ中佐は連隊直属の参謀でもあり、特殊な仕事をしている部署の長でもあるらしい。

「それ以上の詳しいことは明日のお楽しみね。おやすみなさい。」

真凜伍長は楽しそうに去っていった。

自分は久しぶりに戻った態で、初めて大和氏の宿舎、部屋で眠りについた。


こうして本当に、大和一郎としての日常がスタートしたのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


おまけ


この世界の軍隊の階級、組織


指揮官    組織単位    組織人数


中将、少将  師団(連隊×4)   20000

准将     旅団(大隊×10)  10000

大佐     連隊(大隊×5)   5000

中佐、少佐  大隊(中隊×5)   1000

大尉     中隊(小隊×4)    200

中尉、少尉  小隊(分隊×5)    50

曹長、軍曹  分隊(班×2)     10

伍長     班           5


こちらの世界の組織とほぼ同じ形態をとっています。組織人数はやや多め。


大和一郎氏の官舎に戻り(入り?)、入れ替わりのことを、いかに伏せていくかを考えた山田驍と小此木真凜だったが、無事に考えもまとまってほっとする。そして翌日、ついに真凜伍長の叔父、小此木中佐に会いに行くことになる。

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