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知らない感情

昼下がりの街は、穏やかな空気に包まれていた。


 村を出たあと、補給のために立ち寄った小さな町。


 久しぶりに人の多い場所に来たせいか、どこか落ち着かない。


「意外と賑わってるね」


 隣でルークがのんびりと言う。


「そうね」


 短く返しながら、ルナは周囲を見渡した。


 人の気配。


 ざわめき。


 視線が、時折こちらに向く。


 ——面倒だ。


 そう思っていると。


「あ、ルーク!」


 明るい声が、後ろから響いた。


 振り返ると、一人の女性が駆け寄ってくる。


 栗色の髪を揺らしながら、嬉しそうに手を振っていた。


「やっぱりルークだ! 久しぶり!」


「……あれ?」


 ルークが少し驚いたように目を瞬かせる。


「もしかして、ミア?」


「そう! 覚えててくれたんだ!」


 ぱっと顔を輝かせる。


 自然な距離で、すぐ隣に並ぶ。


「元気にしてた?」


「うん、なんとかね」


 会話が、当たり前のように続く。


 その様子を、ルナは少し離れた場所から見ていた。


 ——誰。


 そんな疑問が浮かぶ。


 別に、関係ない。


 ルークに知り合いがいるのは当然だ。


 それなのに。


「この人は?」


 ミアがルナの方を見た。


 にこやかな笑顔。


 悪意はない。


「一緒に旅してるルナ」


 ルークが簡単に紹介する。


「へえ、そうなんだ!」


 興味深そうに近づいてくる。


「ルークと一緒ってことは、かなり強いんでしょ?」


「別に」


 そっけなく返す。


「またまた。ルークが一緒にいるってことは、ただ者じゃないよね」


 距離が近い。


 やたらと馴れ馴れしい。


 なのに、ルークは特に気にした様子もない。


「ミアは昔、同じ隊にいたんだ」


 補足するように言う。


「そうそう! よく一緒に依頼こなしてたよね」


 楽しそうに笑う。


 その表情は、どこか親しげで。


 ルナの胸の奥が、わずかにざわついた。


「ね、今時間ある?」


 ミアがルークの腕に軽く触れる。


「久しぶりだし、少し話そうよ」


「うーん……」


 ルークが少し考える。


 その間に、ルナは視線を逸らした。


 ——どうでもいい。


 別に、関係ない。


「ルナ、いいかな?」


 突然名前を呼ばれる。


「は?」


「少しだけ付き合ってもらっていい?」


「……好きにすれば」


 短く答える。


 それでいい。


 どうせ、自分には関係ない。


 そう思っていたのに。


 気づけば、三人で並んで歩いていた。


 ミアは楽しそうに話し続ける。


 昔の話。


 任務のこと。


 ルークのこと。


「ルークってさ、昔からそうだったよね」


「そうって?」


「無茶するところ」


 くすっと笑う。


「変わってないなあって思って」


「……そうかもね」


 ルークも苦笑する。


 自然なやりとり。


 まるで、長い時間を共有してきたみたいに。


 ——知らない。


 そんなルーク、知らない。


 胸の奥が、またざわつく。


 理由は分からない。


 ただ、落ち着かない。


「ねえ」


 ミアがふと振り返る。


「ルークのこと、ちゃんと見てあげてね」


「……は?」


 思わず、声が低くなる。


「この人、無茶するからさ」


 冗談めかして言う。


 でも、その言葉には少しだけ本気が混じっていた。


「分かってると思うけど」


 にこっと笑う。


「放っておくと危ないよ?」


 一瞬、言葉に詰まる。


 ——分かってる。


 そんなこと。


 言われなくても。


 でも。


「……別に、関係ないわ」


 そう答えるしかなかった。


 ミアは少しだけ驚いた顔をして、それから柔らかく笑った。


「そっか」


 それ以上は何も言わない。


 やがて、別れの時間が来る。


「またどこかで会えたらいいね」


「うん」


 ルークが頷く。


 ミアは手を振って去っていった。


 その背中が見えなくなってから。


 しばらく、沈黙が続いた。


「……知り合い、多いのね」


 ルナがぽつりと呟く。


「まあ、それなりに」


「そう」


 それ以上、続かない。


 何を言えばいいのか分からない。


 言う必要もない。


 なのに。


「……楽しそうだったわね」


 気づけば、そんな言葉が出ていた。


 ルークが少しだけ驚いたように振り返る。


「そう?」


「昔の話」


「ああ」


 少しだけ懐かしそうに笑う。


「色々あったからね」


 その表情が、また引っかかる。


 知らない顔。


 自分の知らない時間。


 胸の奥が、少しだけ締め付けられる。


「……別に」


 視線を逸らす。


「どうでもいいけど」


「そっか」


 ルークはそれ以上踏み込まない。


 それが、余計に落ち着かない。


 しばらく歩いて。


 ふと、ルークが口を開いた。


「ルナ」


「なに」


「さっき、ちょっと機嫌悪かった?」


 一瞬、足が止まりそうになる。


「……は?」


「なんとなく、そんな気がして」


 穏やかな声。


 いつもと変わらないはずなのに。


「気のせいよ」


 即答する。


「そう?」


「そうよ」


 それで終わり。


 そう思って、前を向く。


 でも。


 完全には誤魔化せなかった。


 さっきの感覚。


 あのざわつき。


 知らない感情。


 理解できない。


 なのに、消えない。


「……なによ、これ」


 小さく呟く。


 ルークには聞こえないくらいの声で。


 それでも。


 確かにそこにあるものを、否定することはできなかった。

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