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触れそうで、触れない

祭りの喧騒は、少しずつ遠ざかっていた。


 街の外れ。


 灯りもまばらになり、静けさが戻ってくる。


「……やっと静かになったわね」


 ルナが小さく息を吐く。


「さっきまでが賑やかすぎたね」


 ルークが苦笑する。


 それでも、その声はどこか楽しそうだった。


 少しの間、並んで歩く。


 足音だけが、静かに響く。


「……」


 不意に、ルナが立ち止まった。


「どうした?」


「……いや」


 言いかけて、やめる。


 さっきから、妙に落ち着かない。


 原因は分かっている。


 手。


 さっきまで繋いでいた感触が、まだ残っている。


 意識するなと思うほど、意識してしまう。


「……なんでもないわ」


 そう言って歩き出そうとした瞬間。


 足元の石に軽くつまずいた。


「——っ」


 バランスが崩れる。


 その体を、すぐに支えられる。


「大丈夫?」


 ルークの腕。


 距離が、一気に近くなる。


「……問題ないわ」


 そう言いながらも、


 離れるタイミングを少しだけ見失う。


 近い。


 やけに近い。


 呼吸が、わずかにかかる距離。


「……」


 ルークも、動かない。


 ただ、支えたまま。


 目が合う。


 いつもと同じはずの目。


 なのに、なぜか逸らせない。


 時間が、ゆっくりになる。


 心臓の音が、やけに大きい。


「……ルナ」


 名前を呼ばれる。


 低く、少しだけ柔らかい声。


 その響きに、胸が強く跳ねる。


「……なに」


 かろうじて返す。


 声が、少しだけ掠れる。


 ルークは少しだけ迷うようにして、


 それでも、視線は外さない。


 距離が、ほんの少しだけ縮まる。


「……っ」


 気づいたときには、


 もう逃げるタイミングはなかった。


 あと、少しで触れる。


 本当に、ほんの少しで——


 その瞬間。


「——花火だ!」


 遠くから、誰かの声が響いた。


 次の瞬間、夜空に光が弾ける。


 大きな音。


 一瞬だけ、現実に引き戻される。


「……っ」


 ルナが反射的に一歩引く。


 距離が、元に戻る。


 さっきまでの空気が、嘘みたいに消える。


「……」


 言葉が出ない。


 何を言えばいいのか分からない。


 ただ、さっきの距離だけが頭に残っている。


「……悪かったわ」


 思わず口をつく。


「え?」


「いや、その……」


 言葉が続かない。


 何に対して謝っているのか、自分でも分からない。


 ルークは少しだけ驚いた顔をして、


 それから小さく笑った。


「謝らなくていいよ」


 いつもの声。


 でも、どこか少しだけ違う。


「……そう」


 短く返す。


 それ以上、踏み込めない。


 さっきの続きに戻る勇気が、なかった。


 再び歩き出す。


 今度は、少しだけ距離を空けて。


 でも。


 完全には離れない。


「……さっきの」


 ルークがぽつりと呟く。


「忘れていい?」


 一瞬、足が止まりそうになる。


「……好きにして」


 そっけなく返す。


 でも。


 内心は、全然違った。


 ——忘れないで。


 そんな言葉が、喉まで出かかる。


 それでも、言えない。


「……そっか」


 ルークはそれ以上言わなかった。


 夜空に、また花火が上がる。


 光が一瞬、二人を照らす。


 そのとき。


 ほんの少しだけ、


 さっきと同じ距離に戻りたいと思った。


 でも。


 もう一度近づくには、


 ほんの少しだけ勇気が足りなかった。


 だから——


 何も言わないまま、


 ただ隣を歩くことしかできなかった。


 触れそうで、触れない距離のまま。

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