遅れた告白
夕焼けが、空を赤く染めていた。
高台の上。
風が静かに吹き抜ける。
隣には、ルークがいる。
何も特別なことはない。
ただ、並んで立っているだけ。
それなのに、妙に落ち着かない。
「……静かだな」
ルークがぽつりと呟く。
「そうね」
短く返す。
それ以上、言葉は続かない。
沈黙が流れる。
でも、それは嫌なものじゃない。
むしろ——
心地いいとすら思ってしまう。
「……なあ、ルナ」
ルークがゆっくりと口を開く。
「なに」
「ひとつ、聞いてもいい?」
「内容によるわ」
少しだけ警戒するように返す。
ルークは苦笑した。
「そんな構えなくてもいいよ」
「ならさっさと言いなさい」
視線は合わせない。
でも、意識は完全に向いていた。
「俺さ」
少しだけ、間が空く。
言葉を選んでいるのが分かる。
「最初に会ったとき、放っておけないって言ったよね」
「……ええ」
覚えている。
忘れるはずがない。
「今も、それは変わってない」
穏やかな声。
でも、その奥にあるものは、前とは違っていた。
「でもさ」
少しだけ、息を吸う。
「それだけじゃないって、気づいた」
ルナの心臓が、わずかに跳ねる。
嫌な予感じゃない。
でも、落ち着かない。
「君がいないと、落ち着かない」
はっきりとした言葉。
逃げ道のない言い方。
「隣にいるのが当たり前になってて」
少しだけ笑う。
「それがなくなるの、嫌だなって思った」
ルナは何も言えない。
ただ、じっと聞くことしかできない。
「……たぶん」
ルークが、ゆっくりと続ける。
「これ、そういうことなんだと思う」
夕焼けの光が、横顔を照らす。
真っ直ぐで、迷いのない表情。
「ルナのこと、好きだ」
その言葉が、静かに落ちた。
風の音だけが響く。
時間が、少しだけ止まった気がした。
「……」
ルナは、何も言えなかった。
分かっていた。
こうなることは。
でも。
いざ言葉にされると、思っていたよりもずっと——
重い。
そして、温かい。
「……遅い」
ようやく出た言葉は、それだった。
ルークが少し驚いた顔をする。
「え?」
「気づくのが遅いって言ってるのよ」
視線を逸らしたまま言う。
心臓の音が、うるさい。
「……そっか」
ルークは苦笑した。
「ごめん」
「謝らないで」
すぐに返す。
「別に、嫌じゃないわ」
小さく、付け加える。
それが精一杯だった。
沈黙。
でも、さっきまでとは違う。
少しだけ、近い。
「……私も」
ルナが、ゆっくりと口を開く。
言葉を選ぶように。
でも、逃げないように。
「あなたがいないと、困る」
あのときと同じ言葉。
でも、意味はもう違う。
「……それだけじゃない」
小さく息を吸う。
そして。
「好きよ」
短く、はっきりと。
言い切った。
その瞬間、胸の奥がすっと軽くなる。
隠していたものが、全部外に出た気がした。
「……そっか」
ルークが、優しく笑う。
それだけで、十分だった。
言葉はいらない。
もう、分かっているから。
風が吹く。
夕焼けが、少しずつ色を変えていく。
その中で、二人は並んで立っていた。
今度は、少しだけ距離が近い。
触れそうで、触れない距離。
でも——
もう、離れることはない。
孤独だった魔導士は、
初めて“隣にいたい”と思える相手を見つけた。
そして。
優しすぎる剣士は、
初めて“離したくない”と思える存在を手に入れた。
それはきっと、これからも続いていく。
少し不器用で、
でも、確かに繋がったままの関係が。




