7覚醒(1)
その一振りは、あまりにも軽かった…。
それは今でも覚えている。
怒りも憎しみも、悲しみも無かった。
その記憶は喪失感だけを与え、
私の感情をぐちゃぐちゃにした。
そう、ぐちゃぐちゃに…。
テレポート先は、これまた真っ暗であった。
だが、今見ている視界に彼女は既視感を感じる。上手く発動したようだ。
しかし、これでテレポートの使用回数は上限に達してしまった。もう後戻りすることは出来ないのである。
突っ立っていては敵の格好の的になってしまうので、ひとまず近くにある柱の裏に身を潜め、周囲を確認することにした。
先程戦闘したばかりであるにもかかわらず、あたりは静寂と化し、異様な雰囲気である。
水の音が滴り、時折木が鳴る音がする。なんの変哲もない空間。しかし、なにかがいる、それは確かである。
そして何よりも心臓を突き刺すようなオーラ。あまりにも刺激が強い。
迅速な行動なしには、1号を救うことができないのはわかっていたが、相手の位置が把握できていない以上むやみに姿を晒すわけにはいかなかった。
その場その場で瞬時に的確な判断をする必要がある。
(どうしよう。ただでさえ、彼には隙がないのに位置がわからないから手のつけようがないよ。)
「隠れてこそこそしてるだけじゃこちらも退屈だ。」
最初から分かっていたとでも言いたげな声で言う。
(位置がばれていたか。この男は感知能力にも優れているのか?)
疑問が生まれるのも当然だ。ひとには多かれ少なかれ魔力というものが存在する。魔力の波長をほぼ完璧に消していたはずだが、彼は最初から気づいていたというわけだ。
「出てきなよ。じゃないとこちらから来てあなたを灰にするよ。私のほうが強いんだ。そのくらい簡単なことさ。」
交渉に応じるほかない、と考え彼女は柱の裏から顔を出す。と同時に照明がすべて点灯した。
すぐさまあたりを見回して一号がいる場所を探る。
が、どこを見ても彼女の姿はない。
「仲間を見捨てて逃げたっていうのに、また来るなんて。君みたいな奴は本当に気に食わない。」
金色の髪をいじりながら男は続けて言った。
「でも、怯えすに再び私のところにきたその小さな勇気は認めてやろう。」
なんという上から目線であろうか。だがいま彼は私を舐めている。このタイミングで一号の場所を聞くしかない。
「一号は何処にいる。」
落ち着いた声で男に尋ねる。
すると男はくすりと笑った。何がおかしいのだろうか。
そして彼の次の言葉を聞いて絶望することになる。
「ああ、彼女か。なかなかよかったよ。君が逃げたあと、2号の居場所を彼女に問い詰めて見たんだ。」
彼の狂気の混じった声が空間全体に響き渡る。
「でも彼女、お前に教える気はないって言うからさ。仕方ないから、無理やり吐かせることにしたんだ。拷問をしてね。」
絶望だけではない。抑えつけることができない怒り、憎しみ、悲しみ。様々な感情が互いに喧嘩をして何とは説明できない究極的な感情が湧き上がってくる。
「あの時間は実によかったよ。まず体を縛って吐くまで叩こうとしたんだけど、それでも言おうとしないからもっている刃物で手をさくっと――」
鎌が強く反応している。1号にした仕打ちを平然と語ることに感情を抑えきれず、2号はその鎌で彼が言い終わる前に斬りかかった。
鎌と剣がぶつかり、金属と金属があたる鈍い音がする。互角、といったところだろうか。
「話の途中でいきなり攻撃するなんて酷いじゃないか。」
彼の表情にはまだ余裕がある。鎌で直接攻撃するする方法は通用しないようだ。
少しの時間剣と鎌を交えたあと、二人とも一歩引いて相手の様子を見る。
暫くの沈黙の末、男が警戒態勢を崩して口を開いた。
「そうそう、彼女は死んでないよ。殺さないでおいたんだ。逃げたとはいいつつ来ると思っていたからね。君が。」
「なら1号は何処にいる。教えろ。」
気持ちが高ぶっているとは思えないほど冷静な声で尋ねる。
男の口元が緩む。そして彼は横にある紐を引っ張った。すると、天井から縛られた一号が降りてくるではないか。
ただ、先の戦闘で負った傷以外に右腕に致命傷を負っている。さっき男が言っていたように拷問でついた傷だろう。
説得ができない以上力ずくで行くしかない。と考え、足を少し動かすも
「ああ、彼女のほうに近づくなよ。近づいた瞬間に首を切り落とす。」
と牽制されてしまった。
「彼女を助けるならまずは俺を倒すことだな。」
相変わらずの余裕の表情。舐められたものだ。だが、今の私の剣の腕では物理攻撃はあまり効果がない。どうすればよいものかと考える。
その時、脳内に一つのスキルが浮かび上がる。名前自体は聞いたこともないが、なぜか発動方法がわかる。まさか、この鎌の力だというのだろうか。
ゆっくりと考えている暇はない。とりあえず試してみよう。
「スキル、刈り取りを発動!」
といい、魔法式を展開し、男に向かって放った。
「なにをしているんだ、不発じゃないか。結局その程度なのか?」
見える。透明な何かがうねうねと彼の体へ向かっていく。ゆっくりと。そして入っていく。
体の中へと。
「なにもしないようなら私からいかせてもらうぞ。」
そういって彼は笑いまた白く弾丸のような物体を生み出し発射しようとした瞬間、彼は苦しそうな叫び声を上げ、悶絶する。
「ぐはっ…。貴様何をした!なぜ貴様のような分際で、私を凌駕できるというのだ!」
「わからない?文字通り刈り取ったのよ。あなたの生の部分をね。」
スキル刈り取り。文字通り生の領域を取り除く。そんなに難しい話ではない。この武器はスキル武器で、無を放ち相手の体の中に入る。そして相手の一部を刈り取り、無に置き換えそれは後に死となる。
今回は心臓を標的にして放ち、一部を刈り取らせてもらった。ただそれは物理的なものではないので、即死攻撃というわけではない。ライフポイントを削るような感じだ。
なぜ移動系スキルしか使えない私が使えるのかは謎だが、理由など考えていてもしょうがない。とりあえず使える。そういうことだ。
「そしてこれは…自分自身にも…使うことができるのよ!!!スキル刈り取りを発動!」
自分自身にスキルを放った途端、猛烈な苦しみと痛みが襲ってくる。
(消去の代償はこんなにも重いものなのか…。)
極度の苦しみと痛みで意識を失いそうになる。だが、こんなところであきらめるわけにはいかない。
(諦めるわけには…行けないんだ!!)
と言い聞かせ、なんとか耐えきることができた。そして未だに悶え苦しんでいる男めがけて鎌を思い切りふる。男は咄嗟に横にある剣をとり防ぐ。
(剣術の腕が格段に上がっている?!なぜだ。…まさかトラウマを克服したとでも言うのか。)
そう彼女は自分にスキルを放ち、トラウマという負の部分までをも刈り取ったのだ。しかし、それはすべて鎌の力によるものというわけではない。彼女の勇気、覚悟が彼女を変える力を与えたのだ。
「わかっているとは思うけど、あなたの残っている命は少ない。降参したほうが身のためだと思うけど。」
「誰が黙って死ぬか。私はそんな事するバカではない。どうせ死ぬんだ、お前ごと道連れにしてやるさ。」
(なにか手を打たなければ…。なにか手を…)
内心私は焦っていた、彼女が戻ってくることはわかっていたが覚醒するのは想定外だ。ただのスキルは通用しない。タイムマジックで時を止めるしかない。
「タイムマジック!」
そういって指を鳴らし、時を止める。
だが、
彼女には通用しなかった。
へとへとですಠ﹏ಠ




