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みそびっちょ じょけじょけ  作者: 雨野 鉱
30/31

第一部 公現祭篇 その三十

fornax

30 姫と魔女「野守神」


「ごめんね待たせて」

 イラクビル王国首都バルハチ。というより都市を囲う第三区画壁を除き、原形をほとんどとどめていない、現在進行形の赤黒い廃墟。

 炸裂した炎の巨大カマドウマから生え出た白い冬虫夏草(ニグルム・ジンギベル)感電攻撃(トニトリウム)によって静止していたが、ようやく機能を回復し、動き出す。

 ウニュウニュウニョウニョン……

 しかし棘の攻撃はせず、互いに菌糸を伸ばしあい、大きな()実体(じつたい)を完成させていく。

「なんという、禍々しさ」「何してやがる!早く殺せ!!」

 紫の装束を纏う追放天皇オパビニアは聖盾(せいじゅん)アブラクザを手にしたままうっとりとしている。

「その宝具、(めい)は何と申す?」「んなこたぁどうだっていい!早く殺せって!」

 一方の石の書ヒルデガルトは取り乱している。聖矛(せいむ)ルミナリエとは違い、宙を落ち着かなく(ただよ)い、オパビニアに向かって怒鳴(どな)るのを止めない。

「銘?そうだね。ヤジウマフタリ」

 オパビニアとヒルデガルトの目の前には、口以外顔のパーツを消した銀面の少年。

 その少年は深紅の長袍衣装(チャンパオ)に身を包む。

 少年の名前は、永津(ながつ)真天(まそら)

 ただし今は名前を伏せて、ノンキンタン。


ノ津キン天ン:Lv10(???????)

 生命力:????????  魔力:??????????????????????????????

 攻撃力:500? 防御力:800? 

 敏捷性:60? 幸運値:25?

 魔法攻撃力: ―― 魔法防御力:―― 耐性:――


 名を伏せているのは目の前の二人を畏れているからではなく、


ノンキンタン:Lv10(渦魔導魔(アルス・マグナ)窯胴魔(マグヌス・オプス)窩惑宇間(プリマ・マテリア)

 生命力: ???????? 魔力:??????????????????????????????

 攻撃力:500? 防御力:800? 

 敏捷性:60? 幸運値:25?

 魔法攻撃力: ―― 魔法防御力:―― 耐性:――

 特殊スキル:命食典儀(オブラティオ)魔蛆生贄(ネフレンカ)


「始めよう」

 (はる)か後ろで自分の背中を見ている召喚者(しょうかんしゃ)の女二人のため。

黒刃(アカリ)ケカレチと」

 永津朱莉(ながつあかり)。ナガツマソラの双子の妹のため。

白刃(ハルネ)イヤシロチ」

 赤荻晴音(あかおぎはるね)。ナガツマソラの幼馴染のため。

「お前に()けられるかな?」

 扁平(へんぺい)なキノコの(かさ)のようになった巨大な()実体(じつたい)の上で、追放聖皇オパビニアは「ほう」と嘆息(たんそく)をつき、顔をほころばせながらナガツマソラの双刃剣ヤジウマフタリを見ている。

「その剣、(ちん)に似ておる」

「全然似てません」

 体を旋回(せんかい)して切り払う「菊水(きくすい)の構え」をとるノッペラボウのナガツマソラは深紅(しんく)のチャンパオの(すそ)を風ではためかせながらそっけなく返す。それに対し、声を立てず笑うオパビニア。

(材料が隕鉄ってだけでも凶悪なのに、こいつ、化け物みたいな量の魔力素を隕鉄に濃縮しやがった!やべぇ!しかも武器から意思を感じる!大精霊級の魔剣じゃねぇか!!)

 石の書ヒルデガルトは意思を持ちこの世に誕生して、初めての感覚を覚える。

(呼んでやがる!私を呼んでやがる!あの剣が「こっちへ来い」と呼んでやがる……私の中の魔力素が、鉱石精霊体(わたしそのもの)が、(おび)えてる?……これが、恐怖)

 ヒルデガルトの構成材質である鉱石(こうせき)から、水が染み出て血のごとく落ちる。

「そいつの魔剣(あれ)はヤバい!早く殺せ!」

 オパビニアに命じ続けるヒルデガルト。

無粋(ぶすい)な。付き合いは長いが、所詮は石ころよ)

 巨大(ファイナル)子実体(ステージ)を造り終えたオパビニアは目をいったん閉じてため息をつき、盾アブラクザを構える。瞼を開く。

 シュパンッ!!

 オパビニアの矛ルミナリエが空間ごと切り裂いてナガツマソラを斬る。

 シ~ン……

「「!」」

 右斜めの態勢でいるナガツマソラは動かない。動かないのにナガツマソラは斬られていない。空間が切り開かれる気配もない。

「〝それ〟は届かないよ」

 再び空間ごとルミナリエは切り裂こうとするが、裂け目は現れず、したがってナガツマソラは傷一つない。そして何よりナガツマソラは一歩も動いていない。

「なんで斬れない!?何をしやがった!!」

 石の書ヒルデガルトが叫ぶ。ノッペラボウの口がニヤリと笑みをつくる。

「魔法はどうやって使うのか分かる?」

「あ?何を今さら抜かしやがる!」

「まず使用したい魔法を意識する。次に詠唱、つまり使用する魔法の全体像を想像する。そして魔力素を体内循環させる。最後に魔法を発動する」

「そんなことぁ誰だって知ってんだよ餓鬼!!」

 キレる石の書と、ハッとする追放聖皇。

「気づいたようだね」

 ナガツマソラはオパビニアに向かって微笑む。「どういうことだ!?」とヒルデガルトはオパビニアに身をひるがえす。

「詠唱の後の魔力素循環、そこを遮断したか」

「おしい。その一つ前」

「!!」

(詠唱の前を、意思を断ち切ると?)

(できるわけねぇ!できるわけねぇ!そんなことができたらこの世の魔法使いは全て魔法が使えねぇじゃねぇか!)

傑出(けっしゅつ)しておるとは思っていたが、まさかそのようなことまでできるとは」

「一定の対象だけだけどね。その矛ルミナリエは①次元を切り開く場所をお前が決める。②切り開く地点をお前が矛に伝える。③矛が次元を切り開き、俺を斬る。俺のこの黒刃ケカレチは②つまりお前が矛に伝える意思を遮断することができる」

 ナガツマソラの手に握る双刃剣の黒刃の刃面には、幾重(いくえ)もの(あお)線条(せんじょう)が走っている。

「言うは易し行うは難し。意思の遮断など可能なのか?」

「そうだ!ありえねぇ!!口ではああ言っているだけで、別の奇術を使ってるに決まってる!」

 ジュクッ!!!ギョロギョロギョロギョロ。

「見えるんだよ。俺には」

 口以外のパーツがないノッペラボウは頭部全体に眼球をいくつも作って見せる。

「魔力素が」

「「……」」

「無機物有機物を問わず、魔力素は常に体外へと微量(びりょう)(こぼ)れ出ている。ちょうど人が生きているだけで熱エネルギーを放出しているのと同じように。そしてその零れ出る魔力素の量は、対象がどのような状態に置かれているかで変化する。寒ければ体内からの熱放出が少なく、暑ければ熱放出が多いように」

 眼球の一つが石の書ヒルデガルトを見る。それだけでもう、ヒルデガルトの鉱石(からだ)が震えあがる。

「誰でも何でもいい。誰かが意識し、魔法を詠唱するとき、俺はその零れ出る微弱な魔力素の量の変化、さらには魔力素対流(たいりゅう)の変化が見える。だから魔法を発動するタイミングと魔法系統を見逃さない。あとはこのケカレチに意思の疎通を遮断させる」

 ノッペラボウのバラバラに動いていた眼球の菫色の瞳が全て、オパビニアを見る。

「熱を無理やり体内に押し込むように、俺の魔力素を相手の体内に無理やり押し込むことで」

 対象こそ限定されるが、魔法使いに魔法を発動させない禁厭(まじない)を帯びた黒い刃、ケカレチ。

(魔法の因果律(いんがりつ)を断ち切る呪詛とはもはや最凶。意識から詠唱までの時間にずれが大きいほど、おそらく魔力素の漏洩量(ろうえいりょう)や対流は見破られる可能性が高まる。……つまりは)

 オパビニアがまばたきもせず、ノッペラボウの目を見つめる。複数浮かんでいた眼球はすべて跡形もなく消え、ナガツマソラは口を残し、ただのノッペラボウに戻る。

「そういうこと。プカプカと(ほこ)なんて浮かせていたんじゃ俺には永遠に傷一つ負わせられない。お前は空間を斬ろうなんて願わず、ただ矛を握り、俺に接近して、可能な限り素早く俺を切断する。それしかないんだよ。俺にケカレチの呪詛を発動させないようにするためには」

「……是非(ぜひ)もなし」

 現実を受け入れた追放聖皇が目を閉じる。

「んだとっ!?んな呪い()()ねぇだろ!!」

 未だ現実を受け入れられない石の書が叫び続ける。

「その想像力の欠如(けつじょ)がお前という存在の限界なんだよ。石頭(ヒルデガルト)ちゃん」

「くっ!」

 「雑魚(ざこ)は黙れ」という意味の言葉を残酷に翻訳するナガツマソラ。

 オパビニアが盾アブラクザを右手にもち、宙に浮く矛ルミナリエを左手に初めて掴む。瞼を開く。口を結んだまま笑みを浮かべる。

(矛と盾、朕の能力を上昇させる魔法の発動を同時には、止められまい。あとはただこの者の言う通り、斬るまで)

 矛から黄金の光が揺らめき出て、オパビニアを包む。盾から蛇を象る青と赤の光が流れ出て、オパビニアにまとわりつく。

「いざ尋常(じんじょう)に……」


オパビニア・アルスマグナ・メガテリウム Lv200(花夜叉)宝具補正付与。

 生命力:98000/100000 魔力:28000000/50000000

 攻撃力:9999999↑ 防御力:9999999↑ 敏捷性:999 幸運値:9999  

 魔法攻撃力:99999999↑ 魔法防御力:99999999↑ 耐性:闇属性

 特殊スキル:演武、演魔


 空気が、魔力素が張り詰める。

「勝負!」「火車!」

 声が噴き、オパビニアが消える。ナガツマソラも消える。

 ガキンッ!ギャギャンッ!!シュカンッ!ドゴドゴンッ!!

 縦横無尽(じゅうおうむじん)、三色の光と紅蓮の炎が二人の激しい剣戟(けんげき)軌跡(きせき)をいたるところに残す。どちらも尋常(じんじょう)ではない魔力と魔法を使い、速さを補い続ける。さらにさらに加速していく。

 ガキンッ!ズギャンッ!!シュカンッ!ドゴドゴンッ!!

(入り込める領域(りょういき)じゃねぇ!)

 石の書ヒルデガルトは直感する。二人の敏捷性の数値(パラメーター)は意味をなさない。すぐに風人族(エルフ)の領速に入る。

 シャキンッ!ギャギャンッ!!ガギガキンッ!ドゴドゴンッ!!

「「………」」

 花のオパビニアと火のナガツマソラ。

 ()み合う刃の残す軌跡を、首都バルハチの一番堅固(けんご)で高い第三区画壁(くかくへき)の上から見守る永津朱莉と赤荻晴音。オパビニアの音吐朗々花粉(シリンガ・フロリブンダ)による爆音を聞かされたものの怨源(おんげん)から離れていたため二人の鼓膜(こまく)はかろうじて破れずに済んだが、耳鳴りが消えない。

((ノンキンタン……))

 よってナガツマソラとオパビニアの激突音は聞こえていない。耳鳴り以外に、自身の心臓の鼓動(こどう)と、自分の心の声だけが全身に響きわたる。

((あれが……))

 ナガツマソラの亜人族の仲間四人がそう叫ぶことで、朱莉(あかり)晴音(はるね)も、チャンパオを着たノッペラボウがノンキンタンと呼ばれる人物だと認識している。

(お兄ちゃん?)(マソラ君なの?)

 けれど、そのあまりに非常識な強さと戦い方に慄然(りつぜん)としていて、面影に立つ少年(マソラ)の姿とどうしても重ならない。

都市(バルハチ)だけじゃない。王国(イラクビル)すら滅ぼしかねないあのでけぇ化け物花とクソ強ぇ兵隊花を、使い魔みてぇなベンジョコオロギを使って止めちまった……)

 大火流(アンタレス)カマドウマの上にたつノッペラボウの姿が、朱莉の脳裏に浮かぶ。

(それだけじゃない。ノンキンタン自身は切り刻まれても爆破されても即時再生する。しかも火属性魔法で審判花を中から焼いちゃった……どうなってるの……)

 (つる)で八つ裂きにされようともその肉片をつなぎ合わせ、燃える大車輪となって審判花(レフェレンダリ)センペル・アウグストスに襲い掛かるノッペラボウの姿が、晴音の脳裏に浮かぶ。

 ガキンッ!キンキンキンキンキンキンキンキンキンッ!!!!!!!シュパンッ!!

(宝石が機関(きかん)(じゅう)の弾みたいにノンキンタンを叩きのめしたと思ったらコピーして反撃。そしてなんだよあの雷攻撃。(ドラゴン)レベルでしかもあの規模……おかしいだろ……)

 太陽を初めて直視した時を思い出す朱莉。残像はなかなか目の中から消えてくれず、怖くて泣いた。

 それよりひどい残像をついさっき食らった。

(あの放電で、燃えるカマドウマを中から潰した寄生植物を一時的にだけど完全停止させてる。しかも同時に、花粉で汚染された空気まで浄化した……すごすぎ……)

 (しゅん)(まく)で自分の目を(おお)わずに使い魔アベルの閃光弾(せんこうだん)を初めて放った昔を思い出す晴音。

 意識を失い、落ちて、目が覚めて、最初に大きく深呼吸した時の清々しさ。

 それを思い出すほどの閃光をついさっき食らった。

 スパスパンッ!!ボボボボボッ!!!ガキガキンッ!!ギャギャオ――ンッ!!!!

 花と火、二人の斬撃(ざんげき)応酬(おうしゅう)が子実体の上で続く。一撃一撃が既に風人族(エルフ)の眼ですら追えない速度になる。敏捷性(びんしょうせい)は互いに風人族刎姫(モリガン)の領域に近づいている。

(チート植物使いのクソ聖皇は、クソチートの塊みてぇな(たて)(ほこ)を出しやがる。それなのに)

 次元を切り開いて近接し、しかも血肉を斬られれば魔力も削がれる刃ルミナリエを相手にしなければならない絶望感(ホープレス)

 そこから朱莉の胸の中で、在りし日のアルビジョワ迷宮が広がる。独りだけ犠牲にしてしまったことへの後悔(こうかい)が広がる。

 ただその〝独りぼっち〟は最後まで、絶望した様子を朱莉(いもうと)に見せなかった。

(全く(ひる)まない。怯むどころか、反則みたいな剣を出して、互角に渡り合ってる!)

 一切を呪詛まみれにし、しかも物理的にも破壊できる威力の光線を放つ盾アブラクザを相手にしなければならない絶望感(ナイトメア)

 そこから晴音の胸の中で、迷宮(アルビジョワ)魔物孕宮(モンスターハウス)が広がる。独りだけ部屋の中に残してしまったことへの憤怒(ふんぬ)が広がる。

 ただその〝独りぼっち〟は最後まで、絶望した様子を晴音(おさななじみ)に見せなかった。

 双刃剣を手に炎舞(えんぶ)する、チャンパオを着たノッペラボウのように。

(お兄ちゃん……)

 炎魔(イフリート)の白と黒の刃が鋭く回る。(はな)夜叉(やしゃ)の盾と矛はその一閃(いっせん)一閃(いっせん)(わざ)(さば)く。

(マソラ君……)

 炎魔(カグヅチ)独楽(こま)のように速く回る。耳鳴りが消えた召喚者二人の鼓膜(こまく)に、凄まじい()(うな)りが届く。

((あの、ノンキンタンは、やっぱり……))

 炎魔(ウリエル)(ファイア)を噴きながら(はげ)しく回る。刃風(はふう)に火炎が巻き付く。そして刃光に赤熱色を混ぜながら、地面を捨てる。花夜叉が全力で追う。

 スパスパンッ!!ボボボボボッ!!!ガキガキンッ!!ギャギャオ――ンッ!!!!

 元召喚者の、地下迷宮(アルビジョワ)で命を落としかけた炎魔(マソラ)は、自由自在に宙天(ちゅうてん)を炎で駆け抜け、飛び上がり、全てを()き回す。

 ガキィ――ンッ!

「「あっ!」」

 朱莉と晴音は思わず声を上げる。

 このおとぎ話のような異世界(パイガ)に迷い込んだことを初めて知った時よりも、驚く。

 刃が、

((折った!))

 先だけで、クルクルと舞う。

 追放聖皇オパビニアの聖矛ルミナリエの(やいば)がとうとう、折れる。

「ありえねぇ!ありえねぇんだよそんなことっ!!」

 風にあおられた蝶のように石の(ページ)をバタつかせながら、ヒルデガルトが激しく拒絶(きょぜつ)する。魂消(たまげ)たオパビニアは反射的に盾アブラクザを構え破壊光線を放つ。

 ドスンッ。ボシュ。

 のは、叶わなかった。

「残念。これが白刃(ハルネ)イヤシロチの力」

 そう言ったナガツマソラの握る双刃剣の白刃に初めて、深みのある蒼い線条が灯る。

「魔法を放つ術者の意識を遮断(しゃだん)するのが黒刃(アカリ)ケカレチ。それに対してこっちは、術者の魔力素体内(たいない)循環(じゅんかん)を暴走させる」

 ノッペラボウのマソラの顔面の中心に大きな眼球が一つだけ浮かび、グルグル目を回す。

「結果として魔道具である盾は魔法を発動する前に、発動に必要な魔力量どころか許容量を超えた魔力素が供給される。後はボンッ。ただの壊れた魔道具になる」

 〝一つ眼小僧〟の握る白い刃は、盾アブラクザもろともオパビニアの右腕を縦に割いている。

(そんな……それでは……)

 魔道具の存在を真っ向否定する禁厭(まじない)を帯びた白い刃。イヤシロチ。

「イヤシロチに斬られたくなければ俺に魔道具を当てちゃいけないってことだね。つまり宝具による接近戦は避けないといけない」

 回っていた一つ眼が止まる。(すみれ)(いろ)の瞳がオパビニアを直視する。

 ザシュンッ!!

 黒い刃がオパビニアの上半身を刎ね飛ばす。オパビニアの体半分が宙を舞う。

「でもそれだとケカレチの呪いから逃げられない。次元を切り裂く攻撃も呪詛まみれの光線も発動できない。ケカレチの呪いを避けるには接近戦しかない。でもそれだとイヤシロチが待ち構えていて~」

 オパビニアの下半身が膝から崩れる。上半身が音を立てて、白菌舞台(ニグルム・ジンギベル)に落ちる。

「要するにさ」

 ノッペラボウの顔面の眼球が消える。口だけに戻り、にっと頬をほころばす。

「どうにもならないってこと」

 双刃剣を振り、刃にこびりついた血を掃いながらナガツマソラが()めくくる。

「おほほ」

 落下して仰向(あおむ)けに倒れ、上半身だけになるオパビニア。張り詰めていた表情が消え、口辺(こうへん)に笑みが漂う。


オパビニア・アルスマグナ・メガテリウム Lv200(火の粉を祓う花夜叉)

 生命力:55/100000 魔力:217/50000000

 攻撃力:9999999 防御力:9999999 敏捷性:999 幸運値:9999  

 魔法攻撃力:99999999 魔法防御力:99999999 耐性:闇属性

 特殊スキル:演武、演魔


傑物(けつぶつ)を超えた、正真(しょうしん)正銘(しょうめい)魔神(ディアボロス)……)

「畜生!シトルス・オフィスナ……」

 錯乱した石の叫び。

 ドゴスンッ!!

 が、ナガツマソラがぶん投げた双刃剣が石の書を貫く。

(くち)()けて、腸見(はらわたみ)する、石榴(ざくろ)かな……「黙ってろカス」っていう意味の歌だね」

「か……は……」


石の書ヒルデガルト Lv100(意思を持つ魔道具。精霊前駆体)

 生命力:0/1000 魔力:0/300000

 攻撃力:1000 防御力:9999 敏捷性:99 幸運値:999  

 魔法攻撃力:99999 魔法防御力:99999 耐性:火属性、闇属性、光属性

 特殊スキル:神器召喚


 白刃イヤシロチで貫かれたヒルデガルトは間もなく事切れた。

(ちん)がよもや、魔術で劣り敗れるとは」

「これでおしまい?」

「奥の手はもはや使いきった。()めて(つか)わそう。何人も朕を殺すこと(あた)わず、封じる以外に手立てはなかった。それをヌシははじめて超越した」

「それは光栄」

「ここらでしばし、死んでみるとしよう」

 言って、オパビニアは目を閉じる。呼吸が浅くなる。そして止まる。


オパビニア・アルスマグナ・メガテリウム Lv200(火の粉を祓う花夜叉)

 生命力:0/100000 魔力:0/50000000

 攻撃力:9999999 防御力:9999999 敏捷性:999 幸運値:9999  

 魔法攻撃力:99999999 魔法防御力:99999999 耐性:闇属性

 特殊スキル:演武、演魔


 ナガツマソラは体から銀の蔓を伸ばし、石の書ヒルデガルトに突き刺さる双刃剣(ヤジウマフタリ)を回収する。ついでにヒルデガルトも。


石の書ヒルデガルト Lv100(意思を持つ魔道具。精霊前駆体)

 生命力:1?/1000 魔力:0/300000

 攻撃力:1000 防御力:9999 敏捷性:99 幸運値:999  

 魔法攻撃力:99999 魔法防御力:99999 耐性:火属性、闇属性、光属性

 特殊スキル:神器召喚


「?」

 目の前に持ってきた石の書の残骸のステータス変化にナガツマソラが気づく。0・1秒。


「ユノス・クリプトテニア」


 気づいて銀の蔓からナガツマソラが双刃剣を引き抜こうとした瞬間、オパビニアが呪文の詠唱を終える。0・4秒。

 自分の一瞬の油断に気づきナガツマソラが黒刃でオパビニアの首を()ねる。0・9秒。

 しかし、オパビニアの首も胴体も、幻のように霧散(むさん)する。1・0秒。

(花粉が、俺にステータスの幻影を見せた?)

 オパビニアの魔力素の流動を全力で追いかけるナガツマソラ。2・0秒。

「不死を追い求める朕にはやはり」

 南の第三区画壁から三十メートルの地点でナガツマソラが止まる。

「死は似合わぬ」

 〝奥の手〟を食らったナガツマソラが、唇を噛む。


オパビニア・アルスマグナ・メガテリウム Lv200(火の粉を祓う花夜叉)

 生命力:55/100000 魔力:217/50000000

 攻撃力:9999999 防御力:9999999 敏捷性:999 幸運値:9999  

 魔法攻撃力:99999999 魔法防御力:99999999 耐性:闇属性

 特殊スキル:演武、演魔


 少年の全身の感覚器官は、追放聖皇が既に四肢を回復させて召喚者の少女二人の背後にいることを察知する。

(朱莉と晴音を……)

 少女二人はたった今、高濃度の夢幻泡影花粉(ゲルソミノ・サンパギータ)を浴びて白眼を剥いている。

「死すべきはヌシである。ノンキンタン」

 オパビニアはナガツマソラと初めて対峙した時のように下品な笑みを浮かべている。しかし残されている魔力はごくわずかで、武器らしい武器はもはや持っていない。

(何としてもここから逃げ切る)

 オパビニアの目的は逃亡。

「そんな所に立って、何がしたいのかな?」

 唇から血を流すナガツマソラが怒気を抑えつつオパビニアに尋ねる。

「朕を見逃せ」

「断ったらどうするの?」

「おほほほ。〝ヌシ〟にはどうもせぬ。ただ朕とヌシは似た者どうし。この意味が解らぬヌシではあるまい」

 瞬間、黒い小さな渦のような闇が二つ展開して上から降り、朱莉と晴音の上半身を呑み込む。心霊写真のように二人は下半身だけそこに残したまま立っている。

「……くそ」

 アルス・マグナ。

 つまり収納魔法の使い手ベクターは、ナガツマソラの双子の妹と幼馴染を〝収納〟できる。オパビニアはそう暗示した。

「……」

 ビキキッ!!

 ノッペラボウの銀色の頭部全体に血管が浮き上がる。

「おほほほほほほ!理解できたか?この端女(はしため)どもは朕の(やみ)(かご)で永遠に()()らしてやる。朕好みの花を植え付けてな」

「それは止めろ」

 言って、ナガツマソラは再び剣を投げる姿勢をとる。左腕を前に、剣を握る右腕を後ろに引く。

「朕に命ずるとは無礼者め!そしてまたしても朕に刃を向けるか!アルス・マグナの亜空間は固有結界!朕の闇は朕以外に開くことはできぬ!朕を殺せば永遠に端女二人は手に入らぬ!そんなこともわからぬの……」

 ス。ボンッッ!!

 回転した双刃剣に斬られたナガツマソラの左腕が火を噴き、秒速12キロの速さで体から飛び去る。

「これが本当のロケットパンチ」

 ズシュッ!!

 推進力を得た左手は貫手(ぬきて)の形をとり、それがオパビニアの心臓に刺さる。

(何だと?)


【カマドウマ】

 〔満杯〕〔流転〕〔呪解〕〔〔充力〕〕〔渦魔導魔〕


 怒りを装っていた少年は浮かせた頭部(ノッペラボウ)の血管を鎮め、選択する。

 追放聖皇(オパビニア)の体内をナガツマソラの魔力素が一瞬にして(おか)す。

「おの……れぇ……」

 花の王オパビニアの意識が朦朧(もうろう)とし始める。しかしアルス・マグナとしての意地が、意識の消失を、死を、敗北を受け入れない。()()でも。

(かくなる上は)

 汚染されずに残る全ての魔力を使い、オパビニアは何とかして召喚者二名を道連れにしようと亜空間の中に朱莉と晴音を呑み込んでいく。

 二人が亜空間に呑み込まれる。そしてその亜空間が消える。

「お、ほほ、おほほ……ほほ……」


オパビニア・アルスマグナ・メガテリウム Lv200(火の粉を祓う花夜叉)

 生命力:0/100000 魔力: e^iπ/50000000

 攻撃力:9999999 防御力:9999999 敏捷性:999 幸運値:9999  

 魔法攻撃力:99999999 魔法防御力:99999999 耐性:闇属性

 特殊スキル:演武、演魔


 ナガツマソラの魔力素という猛毒で熱病のように浮かされながらオパビニアは膝をついて動けなくなる。そしてその傍に、銀翼の天使は舞い降りる。

「朕は、しブトいのだ……」

 銀の蔓を束ねた三層翼。オーロラのように虹色が流れる白磁の肌。

「そう思うよ」

 天使は銀翼でオパビニアを包み始める。

「朕を、食らうつモリカ」

 白磁の肌を虹が流れ、オパールのような輝きを放つ。

「最初からそのつもりだよ」

 翼に包まれる。その中心にいる少年の瞳は、菫色の妖しい輝きを増す。

「ほホほ。朕ヲ食らっタトこロであの二人は永久に汝の元へは戻ラヌ」

「それはどうだろうね」

 暗闇の中、二つの少年の眼だけが残る。

「な、ニ?」

「そもそもキミはさ、収納魔法は使えても、収納魔法が何かを知らないんだよ」

 オパビニアの全身に、オパビニアの忘れてしまった〝何か〟が走る。

(いた)み?(あつ)さ?(さむ)さ?(かゆ)さ?(うず)き?なんなのだこれは?)

「収納魔法は境界。〝こっち〟と〝そっち〟を(へだ)てる境界(きょうかい)なんだ」

(なんだ?全ての像が歪む。ゲルソミノ・サンパギータか?朕の花仔(かし)模倣(コピー)したのか?)

「隔てる境界には実のところ〝意思(いし)〟がある。その意思と一つになることが、収納魔法を真に知るということなんだよ。って言ってもわからないよね」

(体が薄れていく?崩れていく?花仔ユノス・クリプトテニアまで真似されたのか?分からぬ。何を申しておる?収納魔法の理解?……おのれ、おノれ、己)

「だから見せてあげる」

(憎い。憎い。憎……誰が?なぜ?ここはどこだ?(ちん)は誰だ?チン?なんだそれは?)

「これが俺の収納魔法の境界。その意思の名は」

(我は誰だ?ナガツ?そうだ。そうであった。我はナガツマソラ…………え?)


『『ノモリガミ』』


挿絵(By みてみん)


「うわっ!!」

 叫んだオパビニアはかっと目を見開く。

(どこだ、ここは)

 目の前には闇が広がっている。しかし目が慣れてくるとそこは漆黒(しっこく)の闇ではなく、微塵(みじん)の星々がある。漆黒は群青(ぐんじょう)に近い黒と焦茶(こげちゃ)に近い黒とが混ざっていて、そのうちにそれが夜空と樹木の織り成す闇だと理解する。

「どうなっておる」

 積もる落ち葉と土くれを体にくっつけたままオパビニアは上体を起こし、周囲をおもむろに確認する。風もなく、虫もいない。夜の静寂(しじま)だけがどこまでも広がっているように見える。

(ん?おおっ!寒い!人であった頃の感覚が戻っておるではないか!)

 ぞっとするほどの寒さにもかかわらず、懐かしさのあまり「ほほほ」と笑うオパビニア。


「こっちへ来い」


 その時、闇の中から声がするのをオパビニアは気づく。

 声のした方に体を向ける。ただしオパビニアがいくら目を()らしても、その闇の中には何者も認められない。声のする方は樹々の奥。完全に、漆黒の闇。

「こっちへ来い」

 そこからオパビニアを招く声が、止まらない。

「こっちへ来い」

 男とも、女とも、人とも、獣とも区別がつかない、不思議な声音。

(ちん)に出向けとは無礼者めが」

 それに一瞬たじろいだが、すぐに自分が魔法使いであることを思い出したオパビニアはまず、漆黒と自分とを隔てる樹木と藪をなぎ倒そうとする。しかし魔法の呪文も理論も一向に頭に浮かんでこない。

(なぜだ!?朕が(ほう)けたとでも言うのか!!)

 いらいらした気分に(さいな)まれるも、冷え切った空気が体の(しん)まで冷やしてくるせいで、それどころではなくなる。指がかじかむ。

「ええい!忌々(いまいま)しい!!」

 魔法を(あきら)め、オパビニアは立ち上がり、のしのしと歩き出す。ただし呼ぶ声のする方とは反対方向へ。

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」

(人の身であることは、なんと不便なことか)

 夜の山の獣道を、オパビニアはあえぎあえぎ、歩き続ける。途中で疲れて腰をおろせば、足元には枯れ葉と土に混ざり、獣の毛が落ちている。

(これは何の毛じゃ?見たことのない獣の毛が散乱しておる……)

 真冬のように寒いのに、葉の生い茂る森。

 燈明の一つもないのに、一寸先は見える森。

 獣も虫もいないのに、蠢く何かの気配を感じさせる森。

 逆説の塊のような、森。

(何と、気味の悪い場所じゃ)

 そして止むことのない呼び声。

「喧しい!」

 再び歩き出すオパビニア。声から、逆説の森から、逃げるように。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 肌を刺すような寒さにもかかわらず、オパビニアは既に滝のように汗を流している。

「痛っ!」

 踏んだ小枝が折れて一部が跳ね、オパビニアの顔に当たる。

「このような小さな枝まで朕を小馬鹿にするつもりか!」

 オパビニアにとってせっかく戻った五感だったが、既に鬱陶(うっとう)しい以外の何ものでもなくなっている。

(人とは何と矮小(わいしょう)(みじ)めであることか)

 ふとオパビニアは幼少時を思い出す。周囲からは常に兄弟姉妹と容姿・能力を比較され、乳母(うば)(いじ)められ、庭の草花以外に語る相手のいなかったか弱い自分を思い出す。泣いてばかりいた自分を思い出す。何も答えず、ただそこに咲く花々を思い出す。

(……)

 激しい痛みが心を走り、全身をかきむしりたい衝動に襲われる。

馬鹿馬鹿(ばかばか)しい!」

 吐き捨てるようにそう言った時、

 ホーウ。

 ミミズクの鳴く声が一度だけ響く。

「?」

 驚いたせいで過去の自分が心から掻き消えるオパビニア。黒々とした周囲を見渡す。

(声が、消えた)

 さっきまで自分を呼んでいた〝声〟がしない。

 ホーウ。

(鳥の声じゃ!)

 ミミズクの声と確信したそのオパビニアの目に、小さな燈明が飛び込む。

「!」

 それは民家の軒先にかかる提灯(ちょうちん)灯火(ともしび)だった。

「おお……」

 どこまで進んでいいのかわからず、どうしていいのか分からず、どうなっていいのか分からず、途方(とほう)()れていたオパビニアの(ほお)火照(ほて)る。心に()りが戻ってくる。

(これはしたり!)

 花の王は無邪気(むじゃき)な子供のように、まっしぐらに民家へと駆けて行った。

 そこは、茅葺(かやぶ)き屋根の古い民家だった。

(何やら煮炊(にた)きをしておる良い(にお)いまでする。これは幸いである)

 五感の復活はオパビニアに空腹(くうふく)も思い出させていた。

「もし!もし!(たれ)ぞおるか!おるならば早々にこの(とびら)を開けよ!」

 追放聖皇は扉の前で偉そうに怒鳴り、戸が開くのを待つ。

「あ、はい……」

 しばらくしてそっと木戸(きど)が横に動く。出てきたのは青白い顔をした白髪(しらが)の青年だった。

「早く開けよと申したであろう!なぜ急がぬ!?」

「すみません。……それで、何の御用(ごよう)でございましょうか?」

 (すみれ)(いろ)(かすり)浴衣(ゆかた)を着た、やせこけた青年がオパビニアに(たず)ねる。

(ちん)足腰(あしこし)が疲れた。汗もかいて体も冷えた。さらには腹も()いた。朕をここで休ませ、さらに馳走(ちそう)せよ!」

 図々しくもオパビニアは青年に命じる。既に幼き日の自分はそこにおらず、他人(ひと)の気持ちの分からない典型的(てんけいてき)な貴族に戻っている。

「……はい」

 青白い顔の男は困惑した表情を浮かべたまま、オパビニアを「どうぞ」と家の中に入れる。そのオパビニアは()(もの)(がお)でズカズカと屋内に入り、履物(はきもの)()がずに土間(どま)から(たたみ)に上がった。

(ちん)の座る椅子(いす)はどこか?」

「椅子?ここにはそんなもの、ありません」

 囲炉裏(いろり)の前に(ごう)(ぜん)と立つオパビニアの近くに、(から)湯飲(ゆの)みをもった男が正座する。

「なんという座り方をしておる」

 見下ろすオパビニアはようやくそのとき、浴衣の男が履物(はきもの)を脱いでいることに気づく。

「ここでは室内で履物を脱ぐ風習があるのか」

「え?ああ、はいそうです」

「ふん」

 長時間歩いたせいで足がむくんでいたオパビニアは(はな)()らしつつ、試しに履物を脱ぐ。爽快感(そうかいかん)が足を(ひた)す。それは満足だったが、男を真似して正座をするも、初めての経験で、膝から下がとにかく痛い。

「ああ。でしたら、(くず)したらいいですよ」

 青白い白髪(しらが)の青年は微笑みを浮かべて胡坐(あぐら)をかいてみせる。オパビニアもさっそく真似(まね)をする。

「うむ。背もたれはないが、これなら我慢(がまん)なるというもの」

 そう言って追放聖皇(オパビニア)は、男が湯飲みにいれてくれた(ぬる)めの白湯(さゆ)を奪うように受けとり、礼も言わず()み干す。さらにもう一杯、温めの白湯を呑み、「次はもっと熱いのをよこせ」と言って熱い白湯を所望した。


「して、(なんじ)は何者か?」

 汗で冷えた体が囲炉裏端(いろりばた)の火と白湯(さゆ)(あたた)まり始めたころ、オパビニアは男に尋ねた。

「え?(ぼく)ですか?」

「ボク?汝は下僕(げぼく)なのか?」

「あ、いえ……えっと、その」

「早く申せ。朕は待たされるのが嫌いである」

「すみません。僕は、()(もり)(はる)()と言います」

 青白い青年は弱弱しく自己紹介をする。外でケモノが遠く、鳴き始める。

「ふむ。ではノモリハルミ。ここはどこか申せ」

 グルルッ。ギグック。ケケッケ……

「ここは、山です。近くを川が流れています」

「ここが山の中など、そんなことは見ればわかる!どこにある山かと問うておる!ロンシャーンのどこか?ロンシャーンでなくば超大陸(アーキア)のどこの山か、朕に申せ!」

「すみません。僕はよく、知りません。ここが山だということしか」

 力なく白髪の青年は返答する。

 ガリリキ。ケケッケ。ギャロ。リリル……

「何?ではなぜ汝はここにいる?」

「分かりません。いつの間にか、ここにいて、こうしています」

 そう言う青年は魂が抜けたような表情で、ぼんやり囲炉裏の炎を見る。

判然(はんぜん)とせぬことを抜かすでない!」

「本当です。……気づいたらここにいたんです」

 言って、青年は(はい)に刺してある火箸(ひばし)を抜き、(たきぎ)の位置を整える。

 (はり)から()るされた自在(じざい)(かぎ)に再び掛けられた鉄瓶(てつびん)が白い湯気を(かす)かに上げ始める。

(たわ)けめ。もう良い……して、汝はここで何をしておる?」

「火の番をしています」

 青年は火箸を戻してオパビニアを見る。やせこけたその眼は炎のせいでキラキラ光っている。

「火の番?この(だん)をとるための火を守っておるというのか?」

「そうです」

 ケクック。ギャワロ。ギャワリリリ。ゲロ。ケケケケケケ……

「誰が汝にそれを命じた?」

 湯飲みの湯を(すす)りながら、オパビニアが問う。

「えっと、お(めん)です」

「は?今何と申した?」

「お面です」

 沈黙が訪れる。パチパチと木が小さく爆ぜる。ケモノの声が遠くで聞こえる。

 チチチチ。ギョロケ。テッククク。クックククル……

「お面が汝にここでこうせよと申したのか」

「はい」

 ふとその時、オパビニアは啓示に打たれたように理解する。

 白髪の青年の言う〝お面〟とは、〝仮面をかぶった何者か〟であるということを。

(この言葉足らずめ)

「なんの面であるかそれは?」

 湯気に当てられて久しぶりに鼻が(かゆ)くなったオパビニアは鼻をこすりながら啓示が正しいのか確かめる。

「サルです」

(さる)?」

「はい」

樹上(じゅじょう)で生活する、あの手の長い(けもの)の顔を()した仮面(かめん)をかぶっておる何者かが汝にここでこうしているよう命じている、ということか?」

「たぶん、はい。そうです」

 オパビニアの受けた啓示はどうやら当たっていた。

「なぜそやつは仮面をかぶって……この(たわ)けに分かるはずもないか。その猿面(さるめん)とはいつから一緒にいる?」

 知りたいことの核心(かくしん)になかなか迫れずイライラしながらも、多少は慣れたオパビニアは辛抱強く質問を続ける。

 ケケケケ。ギャワロ。リリリリ……

「ずっと前からです」

「ほう。で、そやつから何を言われた?ここで火の番をせよという命令以外に、だ」

 オパビニアにそう言われると、やせこけた青年はしばし黙り、考え込む素振りを見せる。

 シャシャ、シャシャシャ。シャウシャ。ルルシャルルシャ……

「えっと、悪いことをしたら死んだあと閻魔(えんま)様にお仕置きをされると、言われました」

「エンマサマ?カディシン教の教えにある(ぜん)光明(こうみょう)の神ミズラオリオのことか?」

「ミズラ?え?」

「何でもない。続けよ。ほかに何を聞かされた?」

「えっと、ご(はん)を残したり、(うそ)をついたり、湯浴(ゆあ)みをしないと、痛かったです」

 白髪の青年はそう言って自分の細い両腕をさすり始める。

「痛かった?なぜだ?」

「お(めん)は、僕を、動けないようにするからです」

 そう答えて青年は力なく微笑む。

「お前は、その猿面(さるめん)(やしな)われておるのか?」

「分かりません。でもお面のおかげで、生まれ変われました」

「生まれ変わる?」

「はい。お(めん)は言っていました。「(にい)さんは(かま)の中で生まれ変われる」と」

「兄さん?……ほかに猿面(さるめん)は何と言っていた?」

「「生まれ変わる前の(にい)さんは、(いもうと)(こわ)そうとした」と言っていました」

「お前はつまり、猿面の妹に危害(きがい)を加えようとしたのか?」

「分かりません。お面は僕の弟だと言っていましたが、それも分かりません」

「ええいくそっ!何を言っておるのか全くもって()せぬ!一から(つまび)らかに話して聞かせよ!」

「はい。ですから…………………………………………

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なので……………………

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………それから

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あと…

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

それで………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………………………………………………………きっと………………………

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれは

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………こわい……………

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………きもちいい……………………

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あかり………………

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………ほど………

………………………………………………………………………………………………………………………………………うまれかわり

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………もえる

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………やみ

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

挿絵(By みてみん)





 〝闇〟の名前は、永津(ながつ)(はる)()といった。

 〝闇〟には、十歳離れた双子の弟と妹がいた。

 〝闇〟は妹のことが好きだった。

無性(むしょう)に。果てしなく。入るならば眼に入れても痛くないくらいに。

 それはいつしか性愛(せいあい)感情(かんじょう)に変わり、妹が四歳から八歳までの間に、〝闇〟は内に()衝動(しょうどう)(おさ)えきれず、性的(せいてき)悪戯(いたずら)()り返すようになっていた。

 悪戯はいつまでも続くかに思えたが、ある時、〝闇〟の所業(おこない)は弟に見つかった。

〝闇〟は気が動転(どうてん)し、弟に手加減(てかげん)なしの暴力を振るった。その深刻な外傷がきっかけとなり、〝闇〟の妹への悪戯が両親に露見(ろけん)した。

 〝闇〟の母である永津(ながつ)芳子(よしこ)はその母、()(もり)()菜子(なこ)に事の次第を相談する。

そして〝闇〟の祖母は〝闇〟を引き取ることに決める。

 奥山に暮らす野守葉菜子は〝山姥(やまんば)〟だった。

 山姥。

 修験者(しゅげんじゃ)である山伏(やまぶし)と、人は言わない。山伏よりもその力を有難(ありがた)がられたから。

 祈祷師(きとうし)である(おが)み屋と人は言わない。拝み屋よりもその力を頼られていたから。

 山姥とは愛称であり敬称であり尊称。

 もともと、跡取(あとと)りのいない地主(じぬし)養子(ようし)として育った()菜子(なこ)は都会で薬学(やくがく)を学んだあと、養父母に()われ、若くして地元に戻り、彼らの土地と家を早くに()いだ。

 山姥。

 その正体は薬師(くすし)であり、要するに便利屋(なんでもや)

 森の動植物(いきもの)地質(ちしつ)に精通していった葉菜子は廃鉱山(はいこうざん)格子(こうし)(おり)(もう)け、拝み屋の怪しげな加持(かじ)祈祷(きとう)でどうにもならない重度の狐憑(きつねつ)き患者の薬物(やくぶつ)治療(ちりょう)()()っていた。

 山姥。

 便利屋というよりも、病院の院長。

 なお養父母の用意した娘婿(むこ)は葉菜子と子をなした後すぐに病死している。病死する直前に婿(むこ)()守家(もりけ)の金庫から有価(ゆうか)証券(しょうけん)を大量に持ち逃げしたが、〝都合(つごう)よく〟隣県の安宿で病死した。〝予定通り〟有価証券は無事に野守家に戻り、養父母は〝予定通り〟孫を大事に育てた。その孫こそ永津(ながつ)芳子(よしこ)だった。


 葉菜子の廃坑(はいこう)(おり)に、彼女の孫であり娘芳子(よしこ)の子である〝闇〟は預けられた。

 布団(ふとん)便器(べんき)湯浴(ゆあ)(たらい)綿手(わたて)ぬぐい、食器、ちゃぶ台、座布団、裸電球、鉱石(こうせき)ラジオ、書物(しょもつ)蓄音機(ちくおんき)

 陽光(ようこう)が差し込まないことと自由に(おり)から出られないこと以外は生活の保障が一応された空間で、〝(はるみ)〟の薬物治療が始まる。

 増女(ぞうおんな)の白い能面(のうめん)をつけた葉菜子は調合した薬を混ぜた食事を(はる)()に運ぶ。これにより治美は徐々(じょじょ)に記憶を消され、(おだ)やかな気性を獲得(かくとく)し、さらには性的不能(インポテンツ)へと近づいていく。

 山姥(はなこ)に治美が預けられて二年がたった。

 治美は二十歳(はたち)になっていた。治療(ちりょう)甲斐(かい)があり、美しいほど、(ほう)けている。

 ここで山姥である()菜子(なこ)の所に、治美の弟と妹が(むか)えられる。

 理由は永津一家を(おそ)った強盗(ごうとう)放火(ほうか)殺人(さつじん)事件(じけん)

 犯人(はんにん)の命令により自らの手で両親(りょうしん)を解体させられて心の(こわ)れた双子の男の子と、犯人に人質に取られその惨劇の場に居合わせた双子の女の子は、こうして治美の近くに再び来た。

 しかし当の治美はもちろん、弟も妹もそのことを知らない。

 事情を全て知っているのは山姥だけだった。

 山姥は(はる)()だけでなく治美の弟の治療(ケア)も始める。多忙(たぼう)になる。


 しかしほどなく、山姥(やまんば)は治美の弟を、(あきら)めた。


 治美の弟が回復(かいふく)不能(ふのう)なまでに壊れていると(さと)った()菜子(なこ)は方針を変える。

 見方を変えれば、あの子は自分よりも〝山姥(やまんば)〟に相応(ふさわ)しい――。

 すなわち、自分の(あと)()ぎにしようと彼女は(たくら)んだ。(すで)(よわい)(かさ)ね体の自由も()かなくなっている自分の代わりに、治美の面倒を見させようと考えた。

「これを」

 葉菜子から治美の弟に、(さる)能面(のうめん)が与えられる。

 心が壊れた代償に悪魔的(あくまてき)記憶力(きおくりょく)論理力(ろんりりょく)、そして機械的(きかいてき)冷静(れいせい)さと精密(せいみつ)さを備えた弟は山姥(はなこ)(ぼう)大量(だいりょう)の知識と経験をたちまち吸収し、かつて自分を虐待(ぎゃくたい)した兄であると知らされた(はる)()に対して何の報復(ほうふく)もせず、山姥の仕事を()いだ。


 しかし、治美の弟はもう一つ、心を壊した代償を得ていた。


 神のごとき美意識(びいしき)

 すなわち自然物を愛する彼の美的感覚は、「石」を最上(さいじょう)とみなした。

 「石」は望まない。

 「石」は欲しがらない。

 「石」は恨まない。

 「石」は恐れない。

 「石」はただそこにある。だからこそ美しい。

 人は「石」のようであるべきだ――。

 治美の弟はこうして、兄だけでなく山姥すらも「石」にしようとし始めた。

 鉱物毒。植物毒。菌毒。動物毒。

 それらを独自にブレンドした毒を治美の食事に盛る一方、山姥の食事にも毒を盛り始める。すべては、すべてを「石」に近づけるため。

 三年かけて(はる)()は、〝ただ〟の永津(ながつ)(はる)()になり、山姥(やまんば)は、〝ただ〟の()(もり)()菜子(なこ)になった。記憶を失い頭の(にぶ)った両者はすでに互いを認識できなくなっていた。

 永津治美に分かるのは、自分のところへ猿面(さるめん)が現れるということ。

 野守葉菜子に分かるのは、自分の(かたわ)らに男の子の(まご)がいるということ。

 「石」にはそれ以外、分からない。

 すべては〝(やみ)〟だった男の弟の、思惑(おもわく)(どお)りだった。


 しかし、「石」が夢見ることを、〝闇〟の弟は知らなかった。

 

 双子の兄妹(きょうだい)が引き取られて四年。

 その間に永津(ながつ)(はる)()猿面(さるめん)から様々な話を聞かされた。「石」を最上とする猿面の山や森の話は治美にとってあまりに美しかった。さらに能面は絵も(たく)みで、猿面の描く鳥や獣の描写(びょうしゃ)は生き生きとして、あまりにも魅力的(みりょくてき)だった。

 檻の中の壁に貼られる、渓谷の景色。

 森に生きるクマやキツネ、タヌキ、ムササビ、シカ、イノシシ、カエル、ヘビ、イワナ、アブ、ヒル、カミキリムシ、ザザムシ、……

 森に生えるキノコ。実る木の実、ウルイ、ウド、ミズナ、コシアブラ、タケノコ、コゴミ、ワラビ、ミツバ、ワサビ、ギョウジャニンニク、フキ、アザミ、……

 外を見たい――。

 猿面の投与する薬物(やくぶつ)によって去勢(きょせい)に近い状態にさらされていたとはいえ、彼の用意する食事は栄養のバランスもとれ、また健康面を案じた猿面(さるめん)から檻の中で運動を義務付けられていた治美の肉体は、決して弱ってはいなかった。

 外を見たい――!

 二十四歳の肉体は、()び付いた格子(こうし)(おり)の扉の(かぎ)を壊し、廃鉱山の外へと(こころ)を向かわせた。

 永津(ながつ)(はる)()が脱走した。

 かつての山姥(はなこ)なら仰天(ぎょうてん)して一も二もなく探し始める事態であったが、猿面は動じない。

 壊れた鍵をじっくり観察した後、予備(スペア)の鍵をポケットに入れ、猿面を外し、廃鉱(はいこう)を出て、()菜子(なこ)たちのいる茅葺(かやぶ)き屋根の家へといつも通りの表情で戻る。家の納屋(なや)にある業務用(ぎょうむよう)冷蔵庫(れいぞうこ)からシカの肉を取り出し、(はる)()の〝頭を冷やす部屋〟の準備をする。

 (しば)り上げる(ロープ)が納屋にないことに気づき家の中に取りに行ったとき弟は、兄の治美が家の中にいるのを知った。わずかに弟は驚いたが、「石」になっている治美と葉菜子はお互いのことが判らず、和やかに話している。弟は安心した。


 だが、妹は違った。


 葉菜子の投薬がうまくいき、両親を目の前で失ったトラウマを克服した妹はけれど、怯えた表情でずっと治美を見ていた。治美から受けたトラウマは心から消えていても、体は覚えていた。

 双子の少年は、(はる)()の弟は、猿面を外していた若き山姥(やまんば)は、この山に来て初めて、迷った。

 迷った末、弟は決断した。

 治美に刃を向け、家から出て行くよう(うなが)し、さらには〝目的地〟を教えた。


 その日の夜。

「こんばんは」

「ああ、これはこれは」

 冷え込みの強い炭焼き窯の前で暖を取る治美の前に、ザックを背負う弟が現れる。無論治美は〝それ〟が弟だとは気づかない。茅葺き屋根から自分を追い出した少年としか、「石」は知らない。

「お腹、()いていませんか?」

「はい。実はとてもお腹がすいています」

 弟はザックからタッパを二つ取り出す。

一つには()かれた白米(はくまい)が入っていて、もう一つにはシカ肉たっぷりのハヤシライスが入っている。ハヤシライスをかけた白米のタッパに木のスプーンを添え、弟は治美に渡す。

治美は礼を言って食べ始める。目の前の男が猿面(さるめん)を外している弟とは知らず、猿面に(しつけ)けられた通り、行儀(ぎょうぎ)よく、よく噛んで呑み込み、残さず全部食べる。

「ごちそうさまでした。本当にとてもおいしかったです」

「それはよかったです」

「こんなに良くしてもらって、何もお礼ができません。本当にすみません」

「気にしないでください」

 空になったタッパをザックにしまった弟はその後しばらく何も言わず治美とともに居る。治美は(かま)の火の(ぬく)もりや夜気の冷たさや冬の星座の一つ一つをじっくり味わい続けている。どれもこれも〝初めて〟で新鮮で美しくて夢のようだった。

「少し、話をしてもいいですか?」

 切り(そろ)えられ整然(せいぜん)と積み上げられたアカマツの原木(げんぼく)を見ていた弟が口を開き、ポツリと言う。

「はい。お話は大好きです。お願いします。何の話ですか?」

 屈託(くったく)のない笑顔を治美は浮かべる。

「「(いのち)」の話です」

 そう言って、弟は話し始める。

「あなたは、地獄(じごく)を知っていますか?」

「え?」

 (はる)()はドキリとする。一瞬窯が消え、森が消え、夜気が消え、星が消える。

廃鉱山(はいこうざん)格子(こうし)(おり)の中で、治美は何度も猿面から地獄の話をされている。

悪いこと、つまり猿面の言う通りにしないと地獄に落ちる。地獄の話を聞かされる時、猿面は治美が耳をふさげないように拘束(こうそく)()()め上げたり、想像力を(たくま)しくするために暗闇(くらやみ)に閉じ込めたりした。

「地獄は、怖いところだと、思います」

 笑顔が消え、震える治美の返答に対し何も言わず、弟は火を盛んにする(かま)(おだ)やかに見つめながら続けた。

「地獄にいるのは、鍛冶屋(かじや)です。地獄が燃えているのはそこが鍛冶場だからなんです」

 治美の背中に冷たい汗が伝う。

 鍛冶屋という言葉も、鍛冶場(かじば)という言葉も、恐怖とともに猿面から()りこまれている。

「鬼のやっていた罪人(ざいにん)(した)目玉(めだま)を引き抜く鉄火箸(やっとこ)(つち)は、鍛冶(かじ)の道具です」

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

「罪人の身体(からだ)を切り刻む手斧(ちょうな)に、身体を切り()(のこぎり)。地獄の、ありとあらゆる()め具は鍛冶屋の手で造られます」

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

「地獄の鬼は鍛冶師そのもの。燃え盛る火のせいで片目をやられた鍛冶師は一つ目の鬼というわけです」

「やめてください!!」

 耐えきれなくなった治美が両耳を手で(ふさ)ぎ、目をギュッと(つむ)る。

「はあ、はあ、はあ、はあ…………?」

 突如襲ってきた浮揚感(ふようかん)に気づき、治美は目を開ける。

「!」

 そこには、猿面(さるめん)がいた。驚いて逃げようとする治美はしかし、体が動かず、うつぶせに倒れこむものの、痛くもかゆくもない。

「ごめ、ごめんなさい……」

 ただ猿面が怖くて、治美は(あやま)る。

「よいしょっと」

 腰を上げた猿面は治美を、窯の火が見える位置まで静かに運び、横たわらせる。そして再び地面に腰を下ろす。

「ごめ……」

「命は産道(さんどう)を通ってあの世からこの世へ来ます」

「?」

「産道の奥、つまりお母さんの子宮(しきゅう)はあの世とこの世を結ぶんです」

 言って、猿面は治美の頭を、髪の毛をなでる。かつて味わったことのない幸福感(こうふくかん)が治美の全身を突き抜ける。治美の体の一部が、数年ぶりに(かた)くなり始める。

「はあ。ああぁ……」

「鍛冶場の火床(ほど)も子宮と一緒です。火床(ほど)はこの世界と異界をつなぐ境界(きょうかい)にして結界(けっかい)

 猿面は治美の(うで)をさすり、手に指をからませ、腰をなで、太ももをなでる。治美の一部はますます硬く、()()めていく。治美は苦しさを覚える。

「はぁあ、はぁあ、はぁあ……」

「結界を(ふう)じ、結界を自在に(あやつ)るのが鍛冶師(かじし)です。だから彼らを(かろ)んじれば」

 硬くなった治美の一部に猿面がとうとう、手を持っていく。

「祟りがある」

 猿面に触れられた瞬間、治美の体にすさまじい電流が走る。頭は真っ白になり、何も考えられなくなる。

「あああああぁぁぁ……」

「何が起きているのか、分かりますか?」

 分かるわけがない。

 菌類(きんるい)植物類(しょくぶつるい)から作り出した高濃度の勃起(ぼっき)不全(ふぜん)治療薬と覚醒(かくせい)薬は、シカ肉のハヤシライスとともに治美の体内に取り込まれ、かつてない快楽(かいらく)津波(つなみ)を治美に与えている。

 そんなことなど分かるわけがない。

「わか、りませ、ん……」

 よだれと声をこぼしながら、ただ治美は答える。

「かつて、家にある睡眠(すいみん)(やく)を飲ませて幼女(ようじょ)の体を(もてあそ)んだ(ケモノ)欲望(よくぼう)です」

 猿面(さるめん)の手は治美の体の一部を衣服から取り出し、怒張するそれを直に(つか)んで運動している。治美の感覚が一か所を残し消えていく。焼けていく炭のどこか甘いにおいも感じなくなる。

 多幸感が津波のように押し寄せ、治美は前後左右も、天地も分からなくなる。

「幼女の名前は朱莉(あかり)。あなたの妹です」

 同性だけに、快楽のツボがどこにあるのかを機械的(きかいてき)に知っている猿面はさらにそこを集中的に(こす)る。治美の天地が(くず)れる。時間も消える。全身の感覚がそこだけに集中し、何もかもがどうでもよくなる。

「あなたは自分の妹に欲情して、妹を壊そうとした最低(さいてい)人間(にんげん)です」

 治美のすべてが、一点に、達する。


「アアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 治美が全身を大きく痙攣(けいれん)させて()ぜる。快楽の絶頂(ぜっちょう)に達し、体はバラバラになり心が気化(きか)する。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 体は戻る。

 しかし今までの治療とは指向性(しこうせい)()(ぎゃく)禁忌(きんき)薬物(やくぶつ)はいつまでも快楽の余韻(よいん)を心にとどめる。治美の気化はとまらない。だが多少なりとも体を動かしたせいで肉体の自由は少しだけ取り戻りつつあった。

「……」

 そしてそれら全てを、猿面は夜気のように冷たく計算している。

「僕は、どうしたらいいのですか」

 頬を赤らめたままの治美が弱々しく尋ねる。

「生まれ変わればいいんです」

 とうに手の汚れを拭い、今は(はる)()の乱れた衣服(いふく)を優しく直す猿面(さるめん)は言う。

「目の前には火床(ほど)。つまりお母さんの子宮(しきゅう)があります。ここに戻って、もう一度生まれ変わればいいんです。人は何度でもやり直せます」

 猿面は、面を外す。波紋のような微笑を浮かべる少年がそこにいる。治美はわずかに驚いたけれど、久方ぶりに味わった快感がその重大性を(おき)の彼方へ流し去ってしまっている。

「子宮の中は、さっきよりもずっと気持ちいいですよ。兄さん」

 「さあ」と言って、軍手をつけた少年は移動し、窯の扉を開く。乾燥した熱気が噴きだしてくる。

「はあ、はあ………ふふ。ふふふ」

 面を外した少年の、昼間見たのとは異なる別人のような微笑(ほほえ)みの中に安らぎを見出し、先ほどの快楽の強すぎる余韻(よいん)を思い出した治美は(うじ)のように体を動かして窯の中に向かっていく。少年の与えた薬物と行為によって奪われた痛覚と温覚は、ウジの進みを止めることができない。

「とっても、明るいです」

 円形に近い卵型の窯の中まで入った治美は感想を漏らす。珪藻土を使って作られた、緩やかなドーム状の天井、コテで塗り固められ平らな横壁。高温で焼かれつつあるアカマツ。見ているうちに、治美の身体から汗が噴き出してくる。そして汗もすぐに飛ぶ。服が焼け、肌が燃え始める。

「そうですね」

 少年は窯の扉を静かに閉じる。ポケットから鍵を取り出して扉が決して空かないようにする。

『あの』

 体を焦がしながら、窯の中の治美は最期(さいご)、何年も前から気になっていたことを思い出して尋ねた。

「なんですか」

『あなたは、誰なのですか?』

「俺ですか?俺はあなたの弟です」

『ああ、そうですか』

「もうおやすみなさい。兄さん」

 軍手をとりながら弟は兄に言う。

『ありがとう…………マソラ』

 弟は一瞬固まったが、すぐに動き出す。ある樹木の根本に隠しておいた荷物を持って炭焼き小屋に戻ってくる。それは祖母の()菜子(なこ)がかつて用意した、兄治(はる)()の身分を証明する偽造(ぎぞう)遺留品(いりゅうひん)だった。

「生まれ変われるといいですね。兄さん」

 兄が山を脱走した場合の〝小道具〟はこうして、転生を望んだ男の身分証となった。


 …………ということです」

「!?」

 追放聖皇オパビニアは我に返る。

(何を見ていた!?何を見せられていた?)

 オパビニアの頬から顎へ、汗が伝い落ちる。囲炉裏の火は青く、火に当たっているにもかかわらず、オパビニアは強烈な冷気をそこから感じる。

「何を見せ……」

「僕です」

 宙を見るやせこけた青年。火だなには頭蓋骨が逆さにぶら下がっている。クマと、ヒト。

「……寒い」

「はい。切ってはいけない「木」を燃やしていますから」

 炉辺にいる白髪の青年は寂しそうに笑って青い火を見ている。その上にかかっていた鉄瓶は気づけば、土なべに変わっている。

「僕は生まれ変わりました」

「……」

「ここは弟の闇の中。僕はその管理人」

 囲炉裏の中心。アカマツの炭火の上にかけられた鉄鍋がグツグツと言う。(ふた)の端から煮汁(にじる)が噴きこぼれる。ついさっきオパビニアの食欲をくすぐったはずのその匂いはもう、不安しかもたらさない。

「そろそろできたようです」

 野守治美が蓋を取る。湯気が立ち上る味噌(みそ)()の鍋にお玉をいれ、手にした椀によそう。オパビニアの方へ差し出す。

丹念(たんねん)に仕分けしてしかもよく煮てあるので、とにかく〝柔らかい〟ですよ」

 目玉と指が椀に浮かぶ。指は人の男の親指と女の小指が混じっている。

「っ!」

 オパビニアが椀を払いのける。具とともに結婚指輪が畳の上に転がる。肩で息をするオパビニアはいてもたってもいられなくなり、必死の形相で立ち上がると、そのまま野守治美に背を向けて家を逃げ去ろうととする。

 ガタガタガタッ。

「?」

 木戸は明かない。押しても引いても横に引いても何をしてもびくともしない。

「ただちにここを開けよ!」

「もったいない。お父さんとお母さんが……」

 ()(もり)(はる)()は散らかった両親の残骸を拾い集めると、口に運んでいく。銀の指輪を薬指にはめながら、ゴリリゴリリと咀嚼する。

「うん、おいひい。骨まで柔らかい」

 「ほう」と息を吐き、とろんとした表情を野守治美は浮かべる。そのうっとりとした瞳の先には、掛け軸が一つ。歳月(さいげつ)が経ち黄ばんだ呼紙(こくし)の上、「(かい)」の赤黒い一字。(よだれ)(あと)がある。

「はあっ!はあっ!はあっ!」

 治美の行動に釘付けになるオパビニアはもう、生きた心地がしない。

 ボッ。

「!?」

 突如彼の背中を激痛が襲う。痛みに耐えて振り返ると、炎が壁のようになって控えている。戸が燃えている。壁が燃えている。

「なんだこれは!」

 オパビニアは四方八方を慌てて見回す。どこもかしこも赤い炎でなめ尽くされ、包まれている。

 ガッ。

 突然、強い力が(つる)のように、触手(しょくしゅ)のように、(ぎん)のように、巻き付く。

オパビニアは背後から野守治美に羽交い絞めにされている。

その野守治美は既に体中に火が回り、火達磨(ひだるま)になっている。

 紅蓮(ぐれん)の体。

 瞳だけが燃えず、(すみれ)(いろ)に光っている。

「どれだけ明るくしようとも」

 業火に巻き付かれて焼かれる激痛に耐えかね叫ぶオパビニアの口に、火達磨は右手のひらにあった両親の眼球の残り二つを無理やり喉奥まで押し込む。いきなりのことで動転するオパビニア。

 そしてすぐさま、オパビニアの口から退いた治美の右手の人差し指と中指がオパビニアの両目に突き入る。眼球が鋭い爪先で破裂し、そのまま脳を指でガリガリとほじられるオパビニアはもはや、声にならない悲鳴を上げながら、燃えていく。

「弟の闇は、誰にも照らせないのです」

 熱を逃さない炭焼き窯の中のような灼熱色の世界で、追放聖皇は遂に、燃えて果てた。



「おい晴音(はるね)、起きろ」

「……朱莉(あかり)ちゃん?」

「大丈夫か?」

「うん。……あっ、目が……って、アカリちゃん、その恰好(かっこう)何?」

「あ?」

「スカートにブラウスとか、どうしたの?顔の茨呪(タトゥー)も……」

「そういう自分を見たらいいんじゃね?男子の視線が集まるって嫌がってたデカい胸、セーターで隠れてるぜ」

「?……あ、ほんとだ。私、どうして制服(せいふく)着てるの!?両目が見えて、アベルの気配もないなんて……」

「分からねぇ。でもどうやら、昔の姿に戻ってるってことは確からしい」

「うん。…………ここ、どこ?」

「分からねぇ……けれど、すっごく見覚えがある」

「夜?それに木がたくさん。暗くて、寒くて、静かすぎる。……これが、夜の森」

「ああ。メチャクチャ怖ぇ。暗ぇのに、(やぶ)も、樹も、落ち葉も、獣の毛も、天の河も見える」

「ねぇ魔法で少し明るく……うそ、呪文とか思い出せない」

「魔法なんて、〝ここ〟じゃきっと役に立たねぇ。〝ここ〟は寒すぎて、心細すぎて、独りじゃなんもできねぇ場所なんだ」

「……ねぇ」

「体が、動けねぇな。こういうときってさ、見られてんだ。見えねぇ闇の中から、ケモノに」

「ケモノって何?」

「分からねぇ。夜の山の、森の奥は分からねぇ」


――こっちへ来い。


「「!?」」


朱莉(あかり)ちゃん今、聞こえたよね」

「……」

「朱莉ちゃん?」

「ああ、たぶん聞こえ……」


――こっちへ来い。


「「!!」」


――こっちへ来い。


「「………」」

 ホーウ。ホーウ。ホーウ。

 ウキキキ。ギェロゲ。ルルリ。ルイル。ギャワロ。ワリワリリ……


――こっちへ来い。


「はっ、はあっ、はあっ、はあ…………」

「え?ちょっと!朱莉ちゃん!?」

 ガガビャ。グルル。フフフ。ケッケ。ビガンク。ガッガッガッ……


――こっちへ来い。


「朱莉ちゃん!ダメだよ行っちゃ!!」

「はあっ!はあっ!はあっ!はあっ!」

 イギギギ。オノーホ。ルカヒ。ラビーナ。ゲソソ……


――こっちへ来い。


「朱莉ちゃん待って!待ってってば!」

「ウチは絶対(ぜったい)に行く!今度こそ〝そっち〟に行く!」

 フケンク。ササリ。ハメユノ。ラレワ……


――こっちへ来い。


「待って!!私も!私も一緒(いっしょ)に行く!」

「早く来い!!一緒に行くぞ!!」

 ロイーノ。アノーケア。アヨヨ……


――こっちへ来い。


「マソラ君!マソラ君っ!!マソラ君っ!!!」

「見つけてやる!絶対に見つけてやる!いるんだろお兄ちゃん!!」

 ゲロゲロ、ケケケケッ、ケック、ケコギョロ……


――こっちへ来い。


「「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、」」



――こっちへ来…………量子(りょうし)自殺点(じさつてん)への侵入(しんにゅう)確認(かくにん)素粒子(そりゅうし)分解(ぶんかい)後、魔力素変換(へんかん)実行(じっこう)


「「?」」

 ナガツマソラの闇の中。夜の山の森。すなわち『()(もり)(がみ)』。

獣道(けものみち)を外れて走った永津朱莉(ながつあかり)赤荻晴音(あかおぎはるね)の目の前が突如開ける。そしてそこに地面はなく、二人は切り立った(がけ)から真っ逆さまに落下を始める。0・0000秒。

「きゃああああっ!」

 そこへ。

「うああああっ!!」

 闇の主人がオパールのように、具現化(ぐげんか)する。

(暗がりから「こっちへ来い」って言われてホイホイ走っていくバカがどこにいるんだよ)

 闇の主人はため息をつく。0・0001秒。

(普通、灯火(きぼう)のある管理人(ハルミ)の家に行くでしょう。あの花屋の聖皇(せいおう)の方がまともだったね)

 燃え上がり火雲(かうん)を生む民家を、闇の主人は見てふむふむと(うなず)く。0・0009秒。

(ほんと、この二人はやっぱりぶっ飛んでる。バカ。超バカ。大バカ。ほんとバカ)

 闇の主人は両手を一つずつ使い、二人の(ほお)に触れる。

 朱莉の左半身に茨海の呪印(スピーネプリンチェプス)が浮かぶ。同時に晴音の右眼は使い魔アベルの心臓に変わり、眼帯がそれを隠す。二人の姿は召喚者に戻る。0・001秒。

(短い寿命(じゅみょう)純粋(じゅんすい)さを生贄(いけにえ)に、強さを得た双子の(バカ)。それと、眼球(めんたま)冷静(れいせい)さを生贄に、強さを得た幼馴染(バカ)

 闇の主人は続いて、二人の装備に触れる。研ぎ澄まされた手斧(ハチェット)に触れ、

(道はもはや将器(リーダー)しか残されていない、両親の忘れ形見(がたみ)

 使い()まれたモーニングスターに()れる。0・005秒。

(それと、もはや獅子(バーサーカー)でしかない、初恋の乙女(おんな)

 闇の主人は二人の(かばん)物色(ぶっしょく)する。「ゲットワイルド。やっぱりもう女を捨ててるね」とぼやいて閉じる。0・01秒。

(いばら)(から)めとられ、(とげ)に突き刺されて死ぬといい。人間とは結局、()()まった袋だよ)

 闇の主人は朱莉の(ほっぺ)を両手でつねってじゃんけんブルドックをする。0・02秒。

猛禽(もうきん)(つめ)(しん)臓腑(ぞうふ)を切り()かれて死ぬといい。袋は切り裂かれて血を()れ流すだけ)

 闇の主人は晴音の頬もつねり、「たてたてよこよこまるかいてチョン」。0・03秒。

(要するに薄幸(はっこう)の女が二人いた。(とり)を探して旅する(とり)(かご)のように、(あわ)れな二人がいた。ほんと……本当に腹が立つ。でも何に?何に腹が立つ?)

「………ふふ」

 闇の主人は正面から、

(そうだよね、それがヒトってものなのかな。やれやれ……)

 知っているようで知らない二人を強く抱きしめる。


 青々(あおあお)とした()いローズと甘いミント。

(俺なんかのせいで)

 パインとレモンの香り。

(お前たちを壊しちゃって)

 その二つを、二人を、

(本当にごめん)

 闇の主人は強く、強く抱きしめる。0・1秒。


「天の声さん聞こえる?魔力素変換は中止して」

 0・1002秒経過。

『了承。ただし現時点において素粒子分解が終了』

 0・1003秒経過。

「オッケー。これより二人の召喚者永津朱莉(ながつあかり)赤荻(あかおぎ)晴音(はるね)のサルベージを行う。ボーズ=アインシュタイン凝縮(ぎょうしゅく)解除(かいじょ)識別性(しきべつせい)の消失を解消。パウリ排他(はいた)(りつ)の回復によりフェルミオンとボゾンの識別が可能……生き変わっても死に変わっても尻ぬぐいばかりだね。俺の人生は」

 0・9994秒経過(けいか)

同意(どうい)

「余計なお世話だよ。それよりさ、封印されし言葉って一人の召喚者が複数(ふくすう)使うことは可能なの?」

 0・9995秒経過。

『理論上可能。ただし過去に類例(るいれい)なし』

 0・9996秒経過。

花屋(オパビニア)を取り込んだら彼の(こころ)にしまってあったんだ。彼は皇族(こうぞく)が召喚者に産ませた落とし(だね)だったみたい。その辺に転がっていそうな話だね。ステータスをいじくれた理由が分かったよ。それで、俺はこれから魔力素が霧散(むさん)して死ぬかもしれないけど、封印されし言葉の重ね掛け、さっそく自分の命で試してみるよ。……どう?」

 0・9998秒経過。

『封印されし言葉の入力を確認。カンダチ認証。香霧多知。花矛盾地。雷大蛇……』

 0・9999秒経過。

「わぉ。この〝(オドール)〟なら、あの図書館長(ジブリール)の〝(ヴィージオ)〟にも(おと)らないね。さて、聖皇(オファニエル)たちのつまらない発信機(くびわ)も取れたし、二人を戻そう」

 1・0000秒経過。

 崖下(がけした)の地面に激突(げきとつ)する前に、召喚者二人は『野守神(ナガツマソラ)』から消えた。





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