第一部 公現祭篇 その二十七
バルザックの散歩用ステッキの握りには、
「私はあらゆる困難を打ち砕く」と刻まれていたという。
ぼくの杖には、「あらゆる困難がぼくを打ち砕く」とある。
共通しているのは、「あらゆる」というところだけだ。
フランツ・カフカ
27 プロジェクト K
ただいま俺は飛行中。乗り物は触手を生やしたドラゴン的なヤツ。
(まもなくバルハチに到着します!)
(さすが。速いね)
(ありがとうございますノンキンタン殿!!)
最高速度が音速の三倍に達する雷竜モチカによって、三十分足らずでバルハチ目前に迫る。
(イザベルとクリスティナも風除けありがとう)
(どうってことないわノンキンタン)
(ノンキンタン様のためならこれくらい全然平気です)
タコの触手に巻き付かれ、吸盤が身体に張り付いている風人族の姫君たちに礼を言う。振り落とされないためとはいえ二人の今の状態は絵的にアウトだけど、事は一刻を争うから四の五の言っている場合じゃない。
竜人族が生むマッハ3に対する風除けはエルフ二人の強力な風属性上級魔法じゃないとかなり厳しい。もしくは竜人族次期族長でモチカの弟ナユタの背中に今乗っているギュイエンヌの宿した風の大精霊フルングニルくらいしか耐えられない。
(ソフィー、大丈夫?)
(大丈夫で~す。ノンキンタン様にギュ~ッて抱き着いているので~平気で~す)
ドラゴンに生えている蛸足の中心人物がさらにメロンおっぱいを俺の背中にギュッとおしつけてくれる。じゃなくて、くる。蛸人族ソフィーの二本の触手はそれぞれ、ドラゴン姿のモチカの背に立つイザベルとクリスティナのために使用し、残りの二本はソフィー自身がモチカから振り落とされないためにモチカの背中に張り付けている。
(ソフィー。良かったら私の代わりに風除けにならない?そして私が代わりにノンキンタンの抱き枕になるわ)
(兄……ノンキンタン殿の抱き枕……)
(お姉ちゃんもモチカも集中して!じゃないと全員空中分解しちゃうんだから!)
(う、羨ましいなどと私は思っていないぞ!私は断じて羨ましいなどと思っていない!羨ま……)
(モチカ、そろそろ弟のナユタ君に合図を出して)
(あ、はい!分かりました!!)
鋭い鳴き声を聞いた炎竜のナユタに乗る鉱人族ギュイエンヌと元魔物コマッチモが先に降下していく。
(二人とも聞こえる?)
(くひひ!ノンキンタン様の麗しい声が骨振動で頭にジンジン響きます!それとあんパンおいしいです。アンコの甘味と微かな塩味が絶妙です。くひひひひっ!!!)
(キコエマス。ノンキンタンサマ。アンパンゴチソウサマデチタ)
昼飯を食べ損ねた二人はどう考えても気の毒だから、俺は亜空間から秘蔵アイテムのアンパンと瓶牛乳を二人分取り出し、出立する直前に渡しておいた。エリクサーの瓶に入っている牛乳を飲みながらかじるアンパンは最高だよね。良かった良かった。
(よし。二人の映像もよく見える。それじゃそっちは頼むね)
モチカの背にまたがる俺はそう伝えて、今度は首を百八十度捻転させる。ニコニコしているソフィーの額を確認する。
ギョロ。
額の中央が割れて、ソフィーの第三の目がこっちをギョロギョロ見ている。その虹色の瞳には、額に新たにできた目を覗きこむ銀色のノッペラボウが映りこんでいる。
(額の目、痛くない?)
(全然痛くないで~す。それよりこのままチューしてくださ~い)
(((あ?)))
女子三人の額の目がこっちを向く前に、超高速で俺は首を元に戻す。
今回のミッションに参加するモチカ、ソフィー、イザベル、クリスティナ、ギュイエンヌ、コマッチモには俺の組織片を移植してある。だいぶ前から俺の一部を植えさせてもらって魔獣化しているコマッチモはともかく、この移植で五人の女子の脳内の松果体を俺は改造し、俺の「目」にする。これで、離れていても五人とコマッチモがどういう状況にあるのか手に取るようにわかる。現場指揮官にはライブ映像が不可欠だ。それにしても、移植を嫌がられなくて良かった。
首都バルハチ上空。戦禍というよりも災禍の臭いがする。あと、変な香りも混ざっている。分析開始。エフェクタータンパク質を九種類確認。アデニル酸シクラーゼ抑制、カルシウムチャネル閉口……
(あれが花人族ね!ワシャワシャいるわ!)
(紫~青~……お花いっぱ~い)
(モチカお願い!もう少し高度を下げて!……花人族のステータスを確認!みんな聞いて!平均レベルは50!)
分析終了。花粉だけど人体に悪影響あり。別働のコマッチモとギュイエンヌも含め、解毒開始。コマッチモに連絡。ナユタ君に任務完了後すぐに離脱しろと伝えて。彼には俺の細胞を植えていないから解毒してあげられない。急いで。さて、
(ノンキンタン殿!奴らが密集しているあの場所が、おそらく地下墳墓プロティベロの出入り口だと思われます!)
(第三区画北か。分かった。じゃあいよいよだ。どこまで作戦通りに行けるかはわからないけれど、できるだけたくさんの人を助けるんだ!)
蛸人族の吸盤が力を消し、触手が風人族と竜人族から離れる。
速度を落とした竜人族の背中から風人族二人が飛び降り、蛸人族が飛び降りる。
(プロジェクト・コマッチモ!始めるよ!!)
((((((おうっ!))))))
最後に俺が飛び降りたのを確認し、モチカは所定の場所へと飛び去っていく。
プロジェクト・コマッチモ。
イラクビル王国首都バルハチは王城のある第一区画から順番に第二区画、第三区画と段々畑のように広がっている。
区画を隔てる隔壁は第一区画が一番低くて薄く、順を追って高くしかも分厚くなる。つまり第三区画が一番頑丈にできている。まあ、見方を変えると、第三区画壁は外からの侵入者を拒む対戦争用。第二区画壁は内乱を拒む治安用。第一区画壁は身分の平等を拒む政治用ということになる。ちなみに霊廟というか地下迷宮プロティベロは第三区画の北端にある。
面白いことに地下迷宮の近くだけ第一区画壁も第二区画壁も分厚くて高い。政治も治安も戦争もへったくれもなくて、ただ怖かったんだろうね。〝そこ〟にいる〝それ〟が。
そしてそこから今、〝花〟が溢れてきている。
「「噛み合え刃。裂帛の風斬は肉を絹のごとく裂く……」」
「アップバスト」「ダウンバースト」
双子の烈風と加速した刃が花人族の蔦を切りつくし、満身創痍の彼らを上空へ吹き飛ばす。
「お姉ちゃん呪文わざと間違えたでしょ!?」
「わざとじゃないわ。私の意識の高さと上向きの美乳が自然と呪文をアレンジさせたの」
上空から確認した限りでは予想通り、区画壁が人々の避難を妨害してしまっている。
だから区画壁は壊した方がいい。
とはいえ第三区画壁を壊してしまうとこのバルハチの首都防衛機能が失墜する。つまり一番外側の第三区画壁だけは残さないといけない。とはいえそれだと人々がバルハチの外に逃げるのは困難になる。外へと続く門は数が限られているからボトルネック状態になって、大混雑。そうこうするうちに花人族に襲われて食べられるか、おそらく種子を植え付けられて仲間にされる。
「ずるいっ!じゃあ私はダウンバスト!」
「どうやら今回は私の作戦勝ちね。それじゃバストサイズが下がったとノンキンタンに言っているようなものだわ」
「お姉ちゃんのバカ!!ノンキンタン様は私のスライムオッパイの方が好きだもん!」
そこで作戦の要になるのがソフィーだ。
ザシュッ!ジャラジャラジャラジャラ……
「つかまえた~」
クラーケンに変身できるソフィーは怪力の持ち主というだけじゃなくて、その体から粘液を出すことができる。そして粘液は、出し方によって泡状にすることも可能。泡は一定時間水を保っているため粘性と弾性をもつが、やがて乾燥とともに跡形もなく消失する。
人々の救出には、この泡を使う。
ミシミシミシッ。
「いっくよ~」
つまり花人族から避難しようとしている人々をこの泡の中へ誘導し、乾燥する前に泡ごと人を、ソフィーにバルハチの外へぶん投げてもらう。
ブオンッ!!!!!
「い~と~まきまき~」
確かにソフィーに投げられた衝撃でほとんどの人が気を失うだろうけれど、それは仕方がない。命があるだけ幸運だと割り切ってもらうしかない。きっと泡玉はヴァルキリースライムのコマッチモのように城外を出て跳ねて転がり、やがて砂漠の上で消滅するだろう。
バチッ!バチバチバチイイ……
そうなると問題になるのは、誰が泡まで無事に人々を避難誘導するか、だ。
もちろんそれはイザベルとクリスティナ、そしてモチカだ。
「ノンキンタン殿ご覧ください!これが私の実力です!!」
「ノンキンタン様~はじめますね~」
バルハチの第三区画の南に降り立ったイザベルとクリスティナは、第三区画を時計回りに移動して西地区に向かい、モチカは飛行しつつ反時計回りに第三区画の東地区に向かう。各々そこで花人族を殲滅しつつ人々を南地区へと誘導していく。そして第三区画南では第二区画壁を触手で壊しつつ泡を吐いたり捏ねたり泡玉をぶん投げたりするソフィーがいる。
(ノンキンタン様!こちらクリスティナです!敵はほとんど片付けました!)
思念とともに、クリスティナの視界を確認する。大斧によって花人族が全身を粉砕されて散らかっている。それでもわずかに動く蔦があれば姉のイザベルのフルーレが即座に切断する。さすがレベル84と85の双子姉妹。キレがいい。人間をウッドチッパーに押し込んだみたいだ。血まみれのグシャグシャ。
(了解。後はイザベルと一緒に人々の誘導に専念して!)
(任せてちょうだい!全員地獄の果てまで案内してあげるわ!)
(ちょっと何言っているのかわからないけれどとにかくソフィーの所へ頼む)
(ノンキンタン殿!こちらモチカです!東側も大方片付きました!)
映像も確認。黒い雪が降り積もっているのかと思ったら、全部煤だ。原料は花人族。レベル70の最強種族のもたらす一瞬の感電死により煤に転生。光に包まれた後に待っているのは、鎮魂の雷鳴。こっちも上出来。悪くない。
(了解。モチカも人々の誘導を頼む)
イザベル、クリスティナ、モチカ、ソフィーの視野を確認し、第三区画北の外、要するに区画壁の外側にいるギュイエンヌの視野を見る。
(ギュイエンヌ、順調?)
(くひひ!もちろんです。ノンキンタン様の魔力があれば四年くらい発動したままでいられます)
深呼吸を繰り返すギュイエンヌを中心に、空気が揺らぐ。
境風の幻罠フェイタアルマーナ。
すなわち風の大精霊のもつ極級魔法は、バルハチを中心とする半径十キロ圏内を蜃気楼で包む。要するに空気と魔力素の操作結界。蜃気楼が映すのはバルハチに沁みついた人々の日常の思念。これにより、バルハチは遠くから見る限り、聞く限りではいつもと変わらない。魔王領からも聖皇領からも平穏無事の砂漠の要塞が映っているだけになる。泡に包まれる悲鳴も瓦礫の崩れる音も三つ目の女子たちの暴れる音も聞こえない。大精霊によって弄られた空気が景色も音も編集してしまう。
魔法フェイタアルマーナ。
消費魔力がエルフ二人の合体技「モリガン召喚」以上だけど、俺の魔柩を使えばそれは何とかなる。ただギュイエンヌの精神的負荷がちょっと心配だ。「四年くらい発動したまま」なんて言われて「そうかいオッツー。じゃあ頼むね」というわけにもいかない。ただでさえ変な娘だからこれ以上変人になったら色々困る。
それと今、確実に避難民がバルハチから脱出している。つまりアントピウス聖皇国の応援はいずれ来る。
けれどこの極幻蜃気楼のせいでそれはだいぶ遅れるだろう。でも魔王側からの襲撃のリスクは下げられるはずだ。何せついさっきまで都市ごとひっくり返したような大騒動が起こっていたのに、突然、日常を取り戻した要塞だ。「自分たちを罠に誘き出そうといるんじゃないか」と疑って、迂闊に近づこうなんて思うはずがない。ロンシャーン噴火によって流れ出たマグマが冷え固まったばかりで、見晴らしの良すぎる溶岩台地を越えてまで。
精霊に頼った蜃気楼。
まあでも実際これは、覗き魔放使いの図書館長対策。あの人、興奮するとうっかり口滑らせて誰に何を喋るか分からないから面倒だし、手を打つのはしょうがない。本当のところ、余計な情報を周囲に漏らす前にこの手で目を抉り抜いて魔獣にしたいけれど仕方がない。〝生前〟にお世話になったからそれは止めておこう。深くかかわらないのが吉だ。
おや?花、花、花、と。
やっぱり分厚い壁があるとはいえ霊廟の近くだからよじ登ってでも来るよね。
(コマッチモ。上から客が〝落花〟してくる。ギュイエンヌを守って)
(マカセテクダサイ)
レベル60超えのスライム最凶種の目の前には、城壁をよじ登って降りてきた花人族が七十三体。
ポニョン……ズムンッ!
ヴァルキリースライムは形を変える。メタモルフォーズ。
(ヨロコンデ、オアイテシマス)
ギュイエンヌの第三の目を通して俺は見る。
鉱人族の傍には、胸甲を装備した鬼人族の戦士が立つ。
鬼人族。
ただしその姿にはアレンジが加わり、太い腕の本数は六本。そして、
刺突切断剣。巨大広刃剣。三日月長柄斧。断切曲刀。逆手貫通剣。万能鉾槍。
コマッチモすべての剛腕に異なる武器を持つ。
圧迫感が波動のように周囲へ広がる。ゾクゾクする。コマッチモ、まるで阿修羅だね。
ミシシシシシ……
密度変換で武器の形状部分のゲルはたちまち固化。
モース硬度は少なく見積もっても9。
つまり模倣武器はすべて、岩石の掘削に耐えられるレベルの堅さ。
ロンシャーンの件でさらに成長したんだ。さすがコマッチモ。転んでもただでは起きない真面目勤勉努力家タイプだよね。まあコマッチモはスライムだから転ばないか。……ありゃ?
ヒュウウ……
今度はコマッチモの第三の目でギュイエンヌを確認する。
蜃気楼を発生させているギュイエンヌの背中に背後霊のようなものがぼんやり浮かぶ。
ちょっと、ぼんやりじゃなくて結構濃くなってきたよ?
わお。ギュイエンヌに魔力を渡しすぎたせいかな?
なんとサプライズで風の大精霊フルングニル様が具現化。これは完全に予想外です。
「草木は火を嫌いますゆえ」
そのフルングニルの合図で阿修羅の武器周囲の空気が圧縮されていく。
なるほど。すごいね、大精霊様。〝それ〟は思いつかなかった。
周囲との熱の出入りがない条件で空気を圧縮すれば、空気内の原子の動きは速くなる。
速いは熱い。つまり空気の温度は上昇する。
ボワッ!!!
すなわち急な断熱圧縮の結果、阿修羅の武器に大焔が灯る。
(素敵だ。フルングニルにコマッチモ。二人の燃えるような真剣会話をみんなに聞かせてあげて)
顎を引き身を屈めた阿修羅が、地を踏み砕いて消える。炎が追いかけるように走る。
ズドズドズドズドズドズドズドズドズドンッ!!!!
ゴオオオオオオオオオ――……
燃える阿修羅に対してあまりに非力な花人族はなす術なく切り刻まれ、嗚咽のような悲鳴を上げてただ燃え散る。阿修羅っていうより不動明王みたいでカックイイ。コマッチモ。
(〝三人〟とも大丈夫そうだね。でも油断しないで。もう少しの間、頑張って)
コマッチモとギュイエンヌ、それと風の大精霊に声をかけ、俺は再びバルハチ内部の女子四人に視点を切り替える。
ふむ……避難誘導はもう少しかかりそうだ。
ならこっちももう少し時間を稼ぐかな。
さてさて……。
敵は何人かなぁ。気になるよね。
誰が主犯かなぁ。気になるよね。
何が目的かなぁ。気になるよね。
誰が標的かなぁ。気になるよね。
どこまで知ってんのかなぁ。気になるよね。
ねぇ、花の王様。
キミはいつ、どこから、どのタイミングで出てくるのかなぁ?
(ノンキンタン!こちらイザベル!クリスティナと一緒に西側の避難誘導が終了したわ!)
隠れているとろくなことにならないよ。
(ノンキンタン殿!こちらはモチカ!東側も民の避難が終了いたしました!)
自分だけは安全な場所にいる。
それは裏を返すと、自分の五感で情報を得られないということ。
(ノンキンタン様~、アワアワでみんなを全部~投げました~)
ドゴオオ――ンッ!!
(ついでに壁を投げてみました~)
地下迷宮入り口に巨岩がぶつかり、崩壊する。土煙が収まって咲く、血の花々。蔓がウネウネと瀕死を訴えている。もう緑色の人生はお終いにしてお眠り。憐れなセルロースたち。
(ストライクね)(ホールインワン!)(当たぁーりぃーっ!)
安全地帯に隠れたまま、出入口を塞がれちゃった裸の王様。
王様の末路は所詮道化。
早く出てこないと大変なことになっちゃうよぉ?
(みんなありがとう………ん?)
うふふ。
ようやく出てくる気になったか。
(四人とも警戒して!デカブツのお出ましだ!!)
「「「「!!」」」」
ドゴオオオオオオンッ!!
バギバギバギバギバギバギバゴンッ!!!!
首都バルハチの大地が盛り上がり、めくりあがる。
敷き詰められた重く厚い石を砕き破って巨大な緑の蔓が次々に出現する。
その幾重もの蔓は予想通りイザベル、クリスティナ、モチカに狙いを定め、猛然と容赦なく襲い掛かる。
「せあっ!」「はあっ!」「とあっ!」
それを三人の斬撃と魔法攻撃が迎え撃つ。けれど押し寄せる緑の蔓はどれもこれも丸太以上に太く繊維密度が高いらしい。なかなか裁ち切れない。焼き千切れない。ゆえに猛攻がひたすら三人に押し寄せる。
(とにかくソフィーの所に集まれ!ソフィーはそのままの姿で迎撃を!)
「「「「了解!!」」」」
な~んちゃって。
四人に任せっぱなしじゃ、俺も王様と変わらない。
俺がそんなことするわけない。
だいぶ温まって来たし、材料もいい感じにそろった。
勘も掴めてきたし、相手は同じ〝蔓〟仲間だ。デカブツは俺が相手するとしよう。
おっと~、デカブツの本体もいよいよ出てくるかな?
(コマッチモとギュイエンヌ!二人の場所はちょっとヤバイ!狙われないと思うけれど念のため壁からもっと離れて!)
本体だけかな?格好をつけて、真打も登場しそう。
どれどれ。札付きのワルの顔を拝みましょっと。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル……
第三区画、といっても都市バルハチの北部にある地下迷宮プロティベロ。
その迷宮を崩し、代わりに巨大な植物体が茎らしきものを展開する。
茎。よく見たらそれは蔓の集合体。絡まり合って、ミミズがのたうってるみたい。と思ったらそこから枝みたいなのを周囲に伸ばしぃの、先端は地面に突き刺さって……あら、本体が逆に地面からすっこ抜けた。根っこ、見せちゃうの?変なの~。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ギシュギシュギシュギシュギシュギシュギシュギシュ……
なんか不思議な形だね。クモの真似?
じゃないね。ザトウムシみたいだ。
都市バルハチの半分くらいの面積を、ドーム球場の屋根を支えるケーブルみたいに覆う、複数の肢。それは蔓を無数に集め絡めて、太く大きく造られている。
そしてザトウムシさながら、その立派な肢に対して小さすぎる本体。とはいっても大きさ的には第一区画の三分の一を押しつぶすくらいはありそう。
ごめんね。小さすぎるなんて言って。
肢がクソ長くてデカすぎるんだよ。
で、案の定、肢を模した蔓の集合体は、本体を支えてゆっくりと南へ移動を始める。
植物なのに動くのはやっぱり反則だと思うし、何といっても見た目が気持ち悪いね。
本体登場と同時に北の第二区画壁はほぼほぼ崩れちゃったから、その瓦礫を蔓でぶっ飛ばしながらザトウムシは前進。残すは北面第一区画壁。
ドゴドゴドゴドゴンッ!!
それも難なく破壊。イザベル、クリスティナ、モチカ、ソフィー四人の額の目全てがザトウムシの全貌を確認する。
グッジュ!
うわぁ、ザトウムシの天辺に蕾作り始めちゃったよ。あそこから花が咲くの?
シュルシュルシュルウシュル……
植物体は南への移動と、余った蔓を使った女子四人への牽制攻撃を続ける。そして第一区画の中心つまり王城に至るまでに花芽を形成する。
花芽はまもなく色を変え、緑から紫の蕾となり、そして、
パァ……。
ゆっくりと大輪の白花を咲かせる。そこは紫じゃないんだ。まあいいや。
んで、その中には唐草模様をあしらった貴族的衣装を纏う中性的な顔の男ありけり。たぶん男。水ぶくれした男。模様と衣類の色の組合せがすごい。イエローの唐草にピンク服。ウォーターブルーの口紅。全部トーンが高すぎてセンスを欠片も感じない。
衣装は滑稽。それでいて演出はザトウムシに大輪の花。
大晦日の紅白歌合戦のトリを飾る演歌歌手みたい。あの舞台装置、いくらかかるんだろう。……あっ、蔓の攻撃がようやく止まった。
マイクはちゃんと持った?何を歌うのかな?♪私アホよねぇ……♪
「汝らか」
「「「「……」」」」
小高い丘の上の王城に鎮座した巨大花の中、やっぱり貴族を連想させる甲高い男の声が女子四人に響く。
なんだ、歌わないのか。残念。
でもよく響く声だね。ああ、そうか。
その被っているスカーレットの冠が魔道具で、拡声器みたいな効果があるんだね、きっと。
なんて感心している場合じゃない。舞台装置、舞台装置っと……
「朕の花僕どもを焼き屠り、さらには朕をたぶらかそうとしたのは」
「「「「……」」」」
(ノンキンタン様!朕朕朕朕ってなんかこの人、変態みたいです!!)
「「「「……」」」」
(はっ!?閃いたわ!ノンキンタンのカ朕カ朕のお朕朕!)
「「「「……」」」」
(ふざけたことを言っている場合か!それにノンキンタン殿の、カチンカチンとか……いかん!想像してしまった!私は何という淫らな女なのだ!これではイザベルと同レベルに堕してしまったことになるではないか!!だいたいノンキンタン殿は私の兄上という設定で……)
「「「「……」」」」
(お花の中の人~眉毛なくて~エラ張ってて~ハコフグさんみた~い)
俺が言うのもなんだけど、四人とも。ちょっと心静かにしてください。
「しかし朕の懐はガドシェフ海よりも深い。汝らごとき下賤の者の蛮行を咎めはせぬ。それどころか褒めて遣わそう。花僕とはいえ一騎当千の強者たちをこれほど滅却したのだ。可憐な徒花たちよ」
((((可憐……))))
女子四人が鎮まる。心の声が一つになる。
可憐とか言われて四人ともメッチャ喜んでる。俺がいかに四人をないがしろにしているのかがよく分かって胸が痛くなってきた。それと四人のハニートラップ対策は喫緊の課題であることもよく分かった。ハコフグ。ありがとう。
「であるならば、今度は朕自らが花兵を指揮して見せようぞ」
花の男の服色が突如変わる。冠も口紅も含めて、何もかも紫色に変わる。
「朕の名はオパビニア・アルスマグナ・メガテリウム。災花の神皇なり」
……。
アルス・マグナ……収納魔法の使い手だったんだね。
……。
なルホど。
オマエモ、ベクターカ。
兵隊さンノ隠し場所がようヤク分かっタ。
……。
全部腑に落ちたよ。
自分から手の内を教えてくれてありがとう。花屋のチンチンおじさん。
「重き花、疾き花、軽き花たちよ」
白い大輪の花に走る脈という脈が赤く染まる。
「薫り高き狂闇よりここに顕現することを、朕が命ずる」
血赤色の脈が明るく鋭く明滅する。
(四人ともよく聞いて!これからオパビニアは精鋭部隊を召喚してくる。おでこにくっつけた俺の「目」を通じて相手のステータスを見せるから、相性のいい敵と戦ってほしい!)
「「「「了解!!」」」」
(「重き花」ってきっと体重のことよ。それならクリスティナが相手をすればいいと思うの)
(なんでよ!私、重くないもん!)
(それは嘘ね。ソフィーが「陸の上だと胸重くて肩凝る~」と嘆いている時に「私も重いから凝る」と張り合っているのを私はちゃんと盗み見ているのよ)
(違うもん!それはおっぱいの話!体重とは違うもん!)
亜空間から次々に武装した花人族が出てくる。
まずは重き花……分厚い装甲の鎧に大楯と鉤爪槍。
ステータス確認。
花人族重装歩兵ソクラテア・エクソルザ。レベル65。
(いやしかしクリスティナ、あなたの最近の焼き芋の摂取量は度を越しているように見受けられるのだが)
(うっ!なんでそのことを……でもでもっ!お姉ちゃんほど食べてないもん!だいたいなんでお姉ちゃんはあんなに食べているのに太らないの!おかしいよ絶対!)
亜空間から出てきた別の花人族は蚤のように飛び跳ねて四人のもとに素早く迫る。両手の獲物は波刀剣。おそらくは疾き花。
花人族突撃兵ウルティカ・サンバルジーナ。レベル65。
(ふふ。ようやく姉の偉大さに気づいたようね。実のところ私はあなたの姉であると同時に伝説の大食風人族。胃袋に亜空間「ベツバラ」をもっているのよ。たぶん)
(そうであったのか。フードファイターエルフ。なんと恐ろしい響きだ)
(そんなの絶対に嘘!お姉ちゃんだけいつもズルい!)
空を飛翔する花人族。つまり軽き花。獲物はバラバラだけど、いずれも射程武器。
花人族飛行兵ケセラン・パサラン。やっぱりレベル65。
(焼き芋大好き~。ノンキンタン様とまた半分こ~)
ピタ。
(((……なんつった今?)))
風人族二名。竜人族一名。ここにきて突然ステータスが急上昇する。
(さあ来たよ。全部やっつけたらみんなで焼き芋食べよ)
「「「「よっしゃあ!!」」」」
蛸人族一名も人間に姿を戻し、女子四人は好敵手めがけて大地を、宙を、空を駆けていく。
ふう。危うく女子三人が敵に回るところだった。内乱回避成功。
で、俺の相手はあの朕朕の立つ巨大花。ステータス確認っと。
審判花センペル・アウグストス。レベル150。
(コマッチモ。ギュイエンヌ。炎竜君を呼んで大丈夫だよ)
やれやれ。何が審判花だ。
茎も花弁も蔓も含めて全体的に品がないし、醸す臭いもしつこくて甘ったるくて嫌いだ。
(すぐ終わらせるから)
準備も終わったし、花屋は上から目線でウザッたいし、ついでに光属性の魔導書も読み終えた。
さっさと片付けるとしますか。
lUNAE LUMEN
Alere flammam.




