遠き君へ、不定形な手を
久々の設定回。こういう話は避けたいけど避けて通れないのが現実……。
取り敢えず依頼の内容と依頼を受けたことをロード達に伝えた。
「えーと、かいつまんで説明するとだな……あー、何処かに連れ去られた彼らのお姫様を救い出せる奴を捜してるらしい。探されてるのが多分テラロッサの親戚っぽいから取り敢えず受けておいた」
『本当にかいつまんだね……まあ、取り敢えず彼らの目的は理解できたよ』
「とはいえ、本当に大丈夫か?ライチ。アイツらに変な場所に連行されたりとか」
……無いとも言い切れないのが悲しい。住んでる場所が全く違うし、ヒトデ達は何やら俺のことを仲間だと思っているらしいので空にお持ち帰りは割とありそうなのだ。
そうなれば全力で抵抗する、と伝えておいた。多分逃げられないだろうけど。最悪自害をすればリスポーンできる。自分にダークボールを当てるだけの簡単な作業だ。
「星のお姫様ですか……」
「誰かにずっと閉じ込められてるらしいし、俺以外に助けられるかどうかは分からないから、助けられるならと思ってさ……」
「……」
じーっとロードは俺のことを見つめた。その顔は悩みと葛藤をじっくり煮込んだような様子で、何やら彼女の中で大きな選択を迫られているらしいということは想像に容易かった。
ロードはしばらく腕組みをしながら俺とヒトデ達の間に視線を行ったり来たりさせていたが、遂にロードの中で考えが纏まったらしく、重々しい唇を開いた。
「……えーと、相手のお姫様に……手を出しちゃ駄目ですよ?」
「……?そりゃあ出さないさ。怪我させたら間違いなく俺は極刑だろうしな」
「そ、そういう事じゃなくてですね……」
どういうことだ?何やらロードは顔を赤くしながらもじもじしてるし、メルトリアスは俺に背中を向けた。レオニダスなんて片手で額を覆って天を仰いでいる。
困惑する俺を前に、ロードは何やら言葉を探しているらしく握った両手を呟きに合わせて振りながら焦っていた。
「え、えーと……あの、その……」
「……ん?」
「……ちゃ、ちゃんと帰って来るようにって事です!」
「おう?絶対に帰ってくるから安心しててくれよ」
『ああ、また日和りましたねロード様』
「う、うるさいです!……これはライチさんが悪いんです!」
え、俺かよ。何か不味いことを言ったのか?手を出すって……そんなことできるわけ無いだろ。どう考えたって格上の相手にそもそもダメージを与えられるのかという問題もあるが、他人に暴力を振るうことは絶対に無いぞ。
取り敢えず俺が悪いらしいので謝っておく。ロード達に話が伝わったことを察したらしいボスヒトデが、一歩前に歩み出て話し掛けてきた。
『ライチ様……試練を受けていただけるとの事で、その内容についてのお話がございます』
「あ、その前にどうして俺に王位とやらの継承権があるのか教えてくれるか?俺からすると偶然というか突然も突然なんだが……」
『ああ、そうでございましたか。それでは先にその話を致しましょう』
慇懃に一礼をしたボスヒトデが、星形の体を俺に向けてゆっくりと語りだした。
『ライチ様、失礼ですが今の種族に進化なさられる際に、星の一族になる選択肢がありましたでしょうか?』
「星の一族……?進化の時の……あ」
俺がこのルーン・ライヴスに進化する時に、他の選択肢が確かにあった。その中に一つ……星の名前を持つ者が居たな。
『スターゲイザー』
あれか……もしかしてこのルートに進んでいれば、いずれ彼らのように進化していたのかもしれない。空高く舞う破滅の星……取り敢えず星とついているからには、彼等の親戚という判定なのだろう。
何かしらでスターゲイザーになる条件は満たしていたのだろうが、それを無視した結果こんな状況になるとは思いもよらなかった。俺にまさかと思う点があったことを読み取ったボスヒトデは嗄れた声を絞り出した。
『しかし、ライチ様。貴方様は我々の一族になることを望まなかった。その代わりに貴方様は、新たな可能性の芽に姿を変えたのです。この世の誰も知らない……唯一無二の特異点に』
「え……そういうことなのか?」
あのとき俺は元々二つの選択肢が与えられていた。星になるか、元素の亡霊になるか。そのどちらもを、俺は選ばなかった。代わりに提示されていたユニーク……特異個体になることを選択したのだ。これがどのような作用をもたらしたのかは不明だが、結果として俺は星の王子になりうる進化ルートを選択したようだ。
ルーン・ライヴスの進化ルートに『星の王子』があるのか……。次か、その次かわからないがそういうことなのだろう。
この進化を選んだ時点で……もとよりどこか昔で何かを満たした事がこのイベントのフラグなのか。『星の王子』への進化条件は間違いなく試練のクリア……即ちスピカ・レトリックの救出だろう。
俺はどうやら、頑張ればこのヒトデ達の親玉になれるようだ。
解き明かされた衝撃の事実に目を白黒させていると、ボスヒトデが畳み掛けるように言った。
『我々星の一族は、暗き夜の世界を照らすためにこの世に生を受けております。……しかし、星というものは星雲があれば無限に生まれてくるもの。星が生まれることは確かに喜ばしいです。夜を照らし、星座となり、世界中に魔力を降りそそがせる事ができます』
「魔力って空から降ってたのか……」
『そうでございます。我々は世界を照らし、生命の躍動の源である魔力を生み出しているのです』
「な、成る程……」
彼らは空に住み、夜を照らしながら世界に魔力――MPを降り注がせていたようだ。正直いきなり世界規模どころか宇宙規模に話が広がったせいで理解が追い付かない。MPが自動回復するのは、彼らが空から降下させた魔力を取り込んでいるからなんだな……。
衝撃の事実を語ったボスヒトデは声を落とし、しめやかに語った。
『しかし、数が多すぎれば統率も取れず、輝く場所を失った星が真昼に輝いてしまったり、夜が昼のように明るくなってしまいます。その為に【星の王】と【星の女王】が我々を率いて夜の空を間引き、適切な空を保っていたのです』
「……今ではそれが出来ていない、と」
『その通りでございます。今代の王と女王が寿命を終えて亡くなってしまわれた時、次代の女王であるスピカ様は姿を消してしまわれた。王に他の子息は居らず、姫であるスピカ様の王子も定まっていない状況が空の上で続きました』
なんとなく、話が見えてきた。ボスヒトデの傍らに控えているヒトデ達はがっくりと肩を落としている。かなり空は深刻な状況なんだな。以前砂漠で見上げた星空は荘厳で綺麗そのものだったが、確かに天の川のようになっていて星が多かったかもしれない。それがまた綺麗なのだが、彼らにとっては問題だという。
『他にも、【王位】を継承する資格を持つ者が偶然途絶えてしまった不幸が重なり、夜空は混迷を極めています。増える星達、乱れる星座、見つからない姫……そうして我々――【黄道十二星座】は決意したのです。新たな王子を求めて地上を探そう、と』
「その王子になりうるのが……」
『ライチ様、貴方でございます』
ヤバい。思ったより状況が切迫している。このままだと真面目に王子にされてしまいそうだ。空にある星の中に継承権を持ってるやつは居ないのか、と聞いてみたが首を横に振られてしまった。そもそも王位を継承できるのは特異個体……つまるところユニークだけらしい。それらから生まれた個体が野生のユニークと星を成し……と空の上ではそんな風な政治が行われていたようだ。
一時は特異個体が多かったらしく、王子や姫を決めるための決闘や舞踏会が行われていたらしいが、今はそんな余裕が無いらしい。
ついでに彼らボスヒトデは『黄道十二星座』という夜空でも特にメジャーな星達の集まり――簡単に言うと官僚とかエリートって感じらしい。
試しにボスヒトデの名前を聞いてみたら、相変わらず渋い声で『アルデバランと言います』と言われた。滅茶苦茶有名じゃないか!他にもその後ろの星が『アイン』、『エルナト』、『カストル』、『サダルメリク』と有名どころが続いた。俺が事件の全容を掴むのと同時に通知が走り、クエスト画面が表示された。
【特殊な条件を満たした為、イベントクエストが発生しました】
【イベントクエスト名:『星に願いを掛けるなら』】
【クエスト達成条件:『郷愁』のスピカ・レトリックの救出成功】
【クエスト失敗条件:『郷愁』のスピカ・レトリックの救出が達成できなくなる】
【報酬:星の王位、『郷愁』のスピカ・レトリック、特殊な進化先の解放、夜空の支配権】
【クエスト内容:消えた星空の姫、スピカ・レトリックを探しだし、夜空に帰してあげよう。
きらきら星に、貴方はどんな願いを込めるの?】
【推奨レベル:35】
【注意:受注条件を満たしていないプレイヤーは受注できません】
ヤバいな……本当にヤバい。クエストだけ受けて、なんとかスピカを救出したら報酬を貰わず颯爽と去ろうとしたのだが……そもそもクエストがエグすぎる。一人専用でこの推奨レベルかよ。
しかも報酬……小脇に抱えてお持ち帰りされること間違いなしだ。今すぐこの場から駆け出したい気分マックスだが、逃げられるならとっくの昔にやっている。しかし、これをクリアすればvariant rhetoricの尻尾を掴めるかもしれないし、これを逃せば次に機会があるか分からない。
それに……たった一人で何処かに閉じ込められているというスピカを放って置くのは――俺の流儀に反する。一人の少女が元々居た場所から消えて、何処かに拐われてしまっているのだ。俺一人の利益や感情のために、誰かが苦しんでいるのを見過ごしたりなんて出来ない。
何より、苦しむ少女を無視して手に入れた平穏なんて――糞食らえだ。
……俺も俺で、お人好しなんだな。自分自身に少し呆れて、ボスヒトデもといアルデバランに声をかけた。
「取り敢えず、そっちの状況は理解した。……力になれるか分からないし、予め言っておくと俺は王子になるつもりなんて無い。けど、俺は困ってる奴を見過ごすのが苦手でね。手を貸そう」
【クエストを受注しました】
あー、やってしまった。勢いと優しさと正義感で取り返しのつかないことをやらかしてしまったかもしれない。だが、不思議と後悔はない……まあ、後悔というのはいつも後ろから迫ってくるものだから、今すぐ後悔はしないんだろうが。
心配そうにこちらを見上げるロードに肩を竦めた。昨日の今日で、またまた面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。
俺の言葉を聞いたアルデバラン達黄道十二星座達は感動しているのか、あぁ、と声を漏らしながら地面に膝をついていた。……やめてくれよ、その反応後が凄い怖い。俺は一応言ったからね?王子になるつもりはないって。クエスト報酬に『スピカ・レトリック』って書いてあるけど、もう俺は『ロード・トラヴィスタナ』をゲットしてしまっている。容量オーバーだ。
……まあ、ロードの方はなんやかんやで貸し一つに変換してしまったが。それはさておき、この状況はどうしたものか……。
「ら、ライチさん……何が起きてるんですか?」
「はっはっは!訳が分からんぞ!」
「右に同じく」
「俺にも訳がわからない……」
『説明を求むよ』
そうだよなぁ、謎のヒトデが仲間を捕まえようとしていたのを止めたら紆余曲折を経てクエストを受け持つとか、紆余曲折ありすぎだろって感じだ。説明するにも話が多いし、アルデバラン達は嬉しさに男泣きしている。マジで止めてくれ、君たちが状況をカオスにしてるんだぞ?
取り敢えず依頼の内容を……いや、その前に星の成り立ちから――
「ぅわぁぁぁぁ!!!」
「ひぃぃぃ!!何だこいつらっ!?」
「えーっと?どなたか説明を頼めるかしら?」
タイミング最悪かよ。このタイミングでカルナ達三人が纏めてログインしてきやがった。実はこいつら裏で指し合わせてたんじゃないかって位のタイミングだ。説明する相手が増えた……。しかもこいつらには【貴き星の迎合】から話さねばなるまい。
「えーっとだな、まず昨日の晩――」
『ぉぉぉぉ!!アルデバラン、これで我々は安泰だぞ!』
『まさか引き受けて頂けるとは……このアルデバラン、涙を禁じ得ませぬ……!』
『スピカ姫、待っていてくだされ……!』
「こ、怖いですね」
「煩いな……まるで竜巻だ」
『カエルの大合唱じゃない?』
「コスタぁぁぁ!!怖いよぉぉ!!何あれ!?」
「俺も分かんないよぉ!!」
「ヒトデ?石?近未来なヒトデ?何にせよ固そうね……殴り甲斐があるわ……」
あー、もう滅茶苦茶だよ。星達は泣いてるし、ロード達は若干引いてる。シエラとコスタはギャーギャー叫んでる……絶叫コスタは珍しいな。カルナは相変わらずの冷静さなのだが、顔が笑顔だ。こいつこの状況で戦うことを考えてやがる……生粋の馬鹿だ。
一瞬で地獄と化した墓地を鎮圧するのに必要な労力を計算して、俺は大きくため息を吐いた。
本編で語らなかった設定ですが、
星の光が『破滅』の呪いを押さえ込んでいるが、星が唯一眠りに付く十三週間目だけは押さえられないので月紅が起きる。
魔力はあらゆる生命の源だが、多すぎると接種した者の肉体を作り替えて『魔物』を産み出してしまう。
と、この世界は星由来の物が意外に多いです。というか、魔法的な物は大体星が原因だったりします。当然、魔力で体を形作っているライチは、星の光で体を作っているのと同義です。
シエラのような幽霊や、精霊についてはそれから少し逸れた存在で、降り注いだ魔力が変質したり肉体と意識に定着することによって(長い上にあんまり為にならないのでカット)
今回あまり話が進まなかった代わりに、ちょっとだけ設定爆弾を落としますね。
ワールドボスは全部で5体だが、本当はもっと数が多かった……なんてことはない。
逆である。本来ならもっと数が少なかった。そこは『彼』の技量不足といってもいい。
スピカを除いたワールドボスは自分の正体を知っている。知っているからこそ世界を恨み、世界を堕落させようと目論み、青のキャンバスで一人涙を流しているのだ。
己が生まれた意味が、『こんなものなのか』と絶望しながら。




