第53話: 一点への収束
ミラは机の上の紙を一度ぜんぶ片づけた。空けた面に、四つの写しを間を空けて並べた。
新しいものはない。この数か月で読み終えたものを、もう一度出した。
「一度、並べてみたいものがありました」ミラは言った。
一つ目は、金の帳面。
ロシュという名の売り手。売り手は人でなく山の名で、十一年、公示のきっかり二割で買い続けた作られた数字だった。公の場で裁きは済んでいる。
「この横領は、家が継がれた年から続いています」ミラは言った。「先代さまが亡くなった年です。十一年前から一度も途切れていません」
「家を継いだ年から、抜き始めた」レオが言った。
「家の金を抜けるのは、家の上に立つ人だけです」ミラは言った。
二つ目は、氏の届けの写し。
「お嬢さまの紙です」ミラは言った。「家の控えが教区の届けより四日早い。中身を先に決めてから届けた記録でした」
「血の並びを作り直す紙でしたね」
「先代さまの子がいたら、継いだ人の代は通りません」ミラは言った。「だからわたしを消し、代わりの子を前へ出した。消すことと立てることは、同じ年から始まった仕事です」
三つ目は、雑費の写し。
三月三日の白き花。二ソル。十年前から今年まで十一年、同じ日に同じ額。店名も届け先も書かせていない一行だ。
「悼みを隠す理由は、ふつうはありません」ミラは言った。「病で亡くなった人の命日に花を手向けるのは、隠すことではないからです」
「隠したのは、花ではなく」
「死の形です」ミラは言った。「何を悼んでいるかが知れたら困る悼みでした。病ではない死を知っていた人が、その花を隠した」
四つ目は、教育費の巻。
年二十四リーヴル。令嬢の相場より高い額を、無能と呼ばれた拾い子に十一年。
「使い捨ての手に職は持たせません」ミラは言った。「読み書き、算、帳簿の手ほどき、律の本。これは生き延びさせるための費えです」
「生き延びさせたい子が、いた」
「盛らせた人の家の中で」ミラは言った。「その人に気づかれないように、十一年かけて育てました。奥さまは先代さまの娘を、そうやって隠してきました」
四枚が机の上に並んでいた。
ミラは少し黙って、四つを見渡した。
金を追えば金の中で閉じた。血を追えば血の中で閉じた。花は花の中に、教育費は教育費の中に立っていた。四つの帳面を、ミラは別々に読んできた。
「並べてみて分かりました」ミラは言った。
「四つとも、先代さまの死から始まっていますね」レオが言った。
「先代さまが亡くなった年です」ミラは言った。「横領は家を継いだから始まりました。血の書き替えは、先代さまの子を消すための仕事です。花は亡くなった翌年から立ちました。教育費はわたしがこの家に戻った年から続いています」
起きた順は少しずつ違う。けれど、四つの先にあるものは一つだった。
「先代さまの死です」ミラは言った。「昨日、二文字を置きました。毒殺です」
ミラは指で四枚を順に示した。
「毒殺と、簒奪」ミラは言った。「先代さまが盛られて亡くなり、家が奪われた。横領も、偽の血も、隠された花も、教育費も、ぜんぶその一つから出ています」
「一つから」
「一つです」ミラは言った。「盛らせなければ、家は継がれず、金は抜かれず、子は消されず、花もこの費えも置かれる理由がありませんでした」
手がわずかに震えた。四枚の紙がかすかに揺れた。
四つの綻びだと思っていた。別々の帳面に別々の形で立ち、一つずつ追いかけて一つずつ帳尻を出してきた。
「四つの綻びは、四つではありませんでした」ミラは言った。「一つの綻びが、十一年かけて四つに枝を出しただけでした」
ミラは四枚から手を離し、自分の指を見た。
十一年、この家の帳面を書いてきた。自分にかかった費えさえ自分の手で記した。四つとも、この指が書いた数字だ。
盗みの帳面を書いていたのは、追放の日に知った。
それが先代さまを盛った人の帳面でもあったと知ったのは、今日だった。
「わたしは十一年、この一つの勘定を書いていました」ミラは言った。「金の科目も、血の科目も、花も費えも、みなこの勘定の中の行でした。一つの勘定だと知らずに、一行ずつ、十一年」
声は静かだった。震えたのは指だけだった。
「証すには」レオが訊いた。
「まだ足りません」ミラは言った。「四つが一つに閉じるのは、わたしの読みです。紙がそう書いてくれているわけではありません」
紙にあるのはそれぞれの数だけだ。金はいくら、日付はいつ、名は誰。四つを一つに束ねて読んだのは、ミラの目だった。
読みを証拠にするには、もう一手が要る。
「盛らせた手を紙で名指すには」ミラは言った。「この四枚だけでは足りません」
「あと二つ」レオは言った。「薬の出元を動かせない形で押さえることと、家を継いだ経緯を紙で一本にすること。その二つが揃えば、監査院へ持ち込めます」
「揃うまでに」
「日がかかります」レオは言った。「外の紙は、わたしの名で動かせます。ただし、紙が届くのを待つ日が要ります」
ミラは四枚を机の上に戻した。束ねず、並べたまま。
一つずつは、前から手にあった紙だ。合わない数字を見つけて一つずつ追いかけ、一つずつ読んできた。十一年ぶんの帳面を、ずっと一つずつ。
四つの帳尻が一つの根に集まった日が、今日だった。
根は十一年前の三月にある。先代さまが亡くなった月。花が毎年そこへ向かう月。
四枚の紙は、閉じた勘定の形を取っていた。ただし、勘定を閉じる印は押されていない。
その印は、この机の上では押せなかった。




