欠けた護送徽章
水路は膝の高さまで冷水が流れていた。
フィナの糸印は十歩ごとに残り、分岐では必ず青が出口側を示している。病んだ身体で何度ここを歩いたのか。リオルは考えず、先頭で足場を探した。
やがて格子の向こうに灯りが見えた。剣を持つ大柄な男が一人、待っている。
ノルが身構えるより先に、男は剣を床へ置いた。
「リオル・セヴランだな」
名はガレス・ノイン。王都衛兵の外套を着ているが、胸の護送徽章は右上が欠けていた。
「十二年前、あなたと妹君をここへ運んだ」
リオルの手が無意識に拳を作る。ガレスは逃げず、首元から欠けた金属片を取り出した。徽章の裏には、通常ない血印が刻まれている。
「護送命令の証人印だ。命令書には五人目の証人がいた。だが原本では、そいつの名だけ消された」
フィナは四年前、薬を運ぶ少女を通じてガレスへ糸を渡した。それ以来、彼は処分日が決まるまで水路を見張っていたという。
「なぜ八年前に出さなかった」
掠れた声で問うと、ガレスは頭を下げた。
「怖かった。家族を言い訳にした。妹君を助ける機会も失った」
謝罪で年月は戻らない。だが嘘をつかず、自分の弱さを罪として口にしたことだけは分かった。
リオルは徽章を受け取らなかった。
「持っていろ。公の場で、お前が出せ」
ガレスは顔を上げ、初めてまっすぐ頷いた。
背後の格子には新しい油が差されていた。四年間、使われるかも分からない出口を、彼は黙って手入れしていた。謝罪の価値は言葉ではなく、その時間で測るしかない。
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