地上へ出ない理由
ガレスが確保していた横穴には、乾いた衣服と水、硬いパンが置かれていた。
囚人たちはむさぼらず、オルドが小さく割った分を順に口へ運ぶ。長く飢えた胃へ一度に入れれば命に関わると、坑夫が鉱山の経験から止めたからだ。
地上への出口は目前だった。夜明け前の荷捨て場へ通じ、そこから王都外壁までは歩いて半刻だという。
だがリオルはガレスの地図を見て首を横へ振った。
「外へ出れば追跡命令が出ます」
ノルの言葉に、リオルは地下牢の換気塔を指した。
「もう出ている」
先ほどから風向きが一定ではない。上階で複数の火炉が焚かれ、紙を燃やしている。彼らは脱走者を追う前に、処分命令と収監記録を消そうとしている。
逃げれば生き残れるかもしれない。だが地下牢で見つけた証拠は灰になり、少年の違法契約も、他の囚人の存在も再びなかったことにされる。
リオルはガレスへ、記録庫へ通じる道を尋ねた。
「戻るつもりか」
「原本を取る」
オルドが低く笑い、残ったパンを懐へしまった。
「外へ出るのは、それからでいい。印刷屋は原稿なしでは戦えん」
エマも数字の紙片を握り直す。ノルは迷った末、看守の外套を脱いで少年へ掛けた。
リオルは誰にも同行を命じなかった。それでも動ける者は立ち上がった。
復讐の最初の一歩は、敵を殺すことではなく、消される紙を一枚残すことになった。
王都の誰も気づかない小さな仕事だった。市場は開き、城門は交代し、貴族の馬車は走る。その足元で、十二年前の嘘が初めて灰になることを拒んだ。
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