燃える記録庫
水路から記録庫へ上がる梯子は、火炉の裏へ続いていた。
鉄蓋を押し上げると、焦げた羊皮紙の匂いが喉へ刺さる。棚から抜かれた帳簿が床へ積まれ、看守二人が油を撒いていた。
ガレスが一人を無言で取り押さえ、ノルがもう一人の退路を塞ぐ。リオルは燃えかけた束を外套で叩き、火を消した。
帳簿の表紙には《最下層給餌記録》とある。中を開くと、毎日三食と治療薬を支給したことになっていた。実際に届いた粥は一日一度。薬は月に二包だけだった。
差額はどこへ消えたのか。
エマが支出印を確かめる。
「王都西区の施療院を経由しています。けれど、この番号は医療費ではなく鉱山輸送費です」
地下牢の予算が、北方鉱山へ流されている。
リオルは帳簿へ触れた。虚偽記録の文字が剥がれ、その下から実際の受領量が浮かぶ。だが全てを戻そうとした瞬間、頭からフィナの笑い声が消えかけた。
慌てて手を離す。
力で一度に暴けば、妹を覚えている自分そのものがなくなる。
「写すんだ」
オルドが煤だらけの紙を広げた。能力に頼らず、人の手で一行ずつ残す。エマが数字を読み、ノルが扉を見張り、ガレスが油樽を遠ざける。
リオルも筆を取った。
消された十二年を取り戻すには、同じだけ地道な手が必要だった。
燃え残った紙を一枚ずつ拾うたび、地下で消された人間の時間が、わずかに形を取り戻していった。
外では怒号が増えている。それでも筆を急がせれば数字を誤る。エマが一行ずつ読み、オルドが復唱し、リオルが原本と照合した。正しい記録は速さより確かさを求めた。
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