抜け落ちた三日
最初の扉の向こうにいたのは、白髪の老人だった。
痩せた腕には商人組合の古い焼印があり、壁一面へ数字が刻まれている。老人は光を避けるように目を細め、リオルの顔を見て息を止めた。
「セヴラン家の坊ちゃんか」
十二年ぶりに家名を呼ばれた。
老人はオルド・バシュと名乗った。禁じられた裁判記録を印刷した罪で、九年前に収監されたという。
「あんたの裁判も刷った。いや、刷ろうとした。原版を作った翌朝、文章が全部変わっていた」
リオルは声が戻らないため、床へ日付を書く。十二年前の処刑日。その前後に何があったのか。
オルドは壁の数字を指した。
「処刑は冬月十八日。だが地下へ運ばれたのは十五日だ」
三日の差がある。
リオルの記憶では、仲間たちに捕らえられた夜の次に、処刑台の下を通って牢へ運ばれた。間に三日あったという感覚がない。
思い出そうとすると、こめかみに焼けるような痛みが走った。白い部屋、妹の泣き声、五つの影。そこから先だけが黒く塞がれている。
オルドは毛布の七色の糸を見ると、紫の結び目を一つ解いた。
「印刷工は紙だけじゃなく、糸の符丁も使う。これは日付じゃない。搬入された原版の番号だ」
フィナは牢の中で、外から運ばれる文書を追っていた。
リオルは三日分の空白を胸へ押し込み、次の扉へ向かった。今は思い出すより、生きた証人を増やす方が先だった。
オルドは壁から小さな石片を拾った。数字を刻んだ道具だという。証拠は紙だけではない。誰がどんな暗闇で記録を残したかも、いずれ必要になる。
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