若い看守の選択
若い看守は剣を構えたまま、鍵束を見つめていた。
胸章にはノル・ヘイズとある。二十歳を越えたばかりだろう。十二年前の事件には関われない年齢だった。
リオルは床へ三つの言葉を書いた。
「殺さない」「証人」「外へ」
班長は執行権を失ってもなお、腰の短剣へ手を伸ばした。ノルが先にその腕を押さえる。
「規則違反です。生存者は誓約院へ報告します」
「お前、自分の家族まで失いたいのか」
脅しの言葉に、ノルの指が止まった。
リオルは白い契約紙を拾い、裏面を見せた。看守の家族へ罰を及ぼす条項はない。班長が規則と思わせ、私的に従わせていたものだ。
浮かび上がった文をノルも読めたらしい。剣先がゆっくり下がる。
「俺は……何を証言すればいい」
リオルは自分を指し、次に開いた足枷を示した。最後に班長の血印が残る紙を渡す。
ノルは震える息を吐き、班長の両手へ拘束紐を巻いた。
廊下へ出ると、壁の向こうから複数の咳が聞こえた。最下層に囚人は自分だけだと教えられていたが、左右の通路には塞がれた扉が並んでいる。
脱出だけなら上へ向かえばいい。だが給餌停止の命令が一斉処分を意味するなら、ここを出たあと扉の向こうの者たちは死ぬ。
リオルは足を止めた。
フィナなら、置いていくなと言う。
彼はノルから鍵束を受け取り、最も近い扉へ差し込んだ。
鍵は三度引っかかった。錆を噛んだ錠へ肩を押しつけると、長く閉じていた空気が漏れた。腐臭ではない。人がまだ息をしている、湿った温度だった。
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