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印刷工の帰還
オルドの古い印刷工房は、十二年前から扉を閉ざしたままだった。
看板は割れ、窓には板が打たれている。だが地下の活字庫は無事で、弟子だった男が税だけを払い続けていた。
「親方が戻るかもしれないと思って」
今は四十歳になった元弟子が、錆びた鍵を差し出す。オルドは礼を言わず、まず印刷機の油を確認した。長い年月を感情だけで埋めず、動かすために必要な仕事を始める。
ここを新しい拠点にはしない。印刷した紙は即日別の場所へ運び、工房へ証拠を残さない。
最初に刷るのは告発文ではなく、二十七人の照会票だった。
《次の名を知る者は、処罰を恐れず所在のみ知らせてほしい》
犯罪や鉱山の名を出さず、家族を探す文章にする。王都のパン屋、洗濯場、施療所へ一枚ずつ置く。
リオルの名も復讐相手の名も印刷しない。紙を読んだ者が危険人物として捕らえられないためだ。
印刷機が十二年ぶりに音を立てる。
オルドは一枚目のずれを確認し、二枚目から圧を調整した。百枚を急いで刷るより、読める十枚を確実に届ける。
消された名前が、活字となって王都の生活へ戻り始めた。
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