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奪わずに写す
大型馬車は日没まで街道を進み、関所前の宿へ入った。
原簿を奪えば、翌朝には紛失が知られる。敵はニコの契約だけを別の場所へ移し、残る子どもたちの名も消すだろう。
リオルとロッカは、荷役人が食堂へ入るまで待った。
荷台の底板を外す鍵はない。だがロッカは九本の指で細い金具を操り、錠を壊さず開けた。
中には児童担保原簿と、白蝋で封じた契約束が二十七冊あった。
リオルはニコの頁を探し、署名と血印を確認する。父親の死亡日は借財契約より二か月前。死亡者が後から契約へ署名したことになっていた。
能力を使う条件は揃った。だがここで権利を戻せば、原簿の魔力痕から侵入が露見する。
オルドから借りた薄紙を頁へ重ね、炭で文字と血印の形を写す。ロッカは他の子ども二十六人分も写すべきだと言った。
「一人だけ消えれば、残りが埋め合わせに使われる」
二人は夜半まで、全頁を写した。
奪ったものはない。錠も封蝋も元どおりに戻す。だが敵だけが持っていた名前と数字は、もう二人の記憶と紙の上にも存在する。
馬車は何も失わないまま、独占していた秘密を失った。
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