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無名の薬包
北門を出て一里、六台目の荷車は街道沿いの倉庫へ入った。
ロッカの荷台から見張ると、箱は北方行きの大型馬車へ積み替えられている。書類上は空箱の返送だが、底板の下へ誓約原本が隠されていた。
倉庫の隅に、青瓶薬房と同じ印の古い薬包が落ちている。ミアが盗難記録に残した製造番号より八年前のものだった。
リオルが拾うと、包み紙の内側に薄い文字が浮かんだ。
《記憶固定剤。投与対象フィナ・セヴラン》
延命薬ではない。衰弱したフィナへ、何かを忘れさせないための薬が運ばれていた。
処方者名は削られているが、受領欄には地下牢班長の血印がある。拘束中の男が知らないとは言えない証拠だった。
リオルは薬包を握りしめ、能力を使わなかった。触れれば処方者を読めるかもしれない。しかしまた妹の記憶を失えば、何のために証拠を追うのかさえ消える。
今は紙そのものを持ち帰り、ミアと照合する。
大型馬車が北へ出発する前に、荷役人が一冊の薄い原簿を落とした。表紙には《鉱山扶養担保・児童》とある。
ニコの名が載る可能性が高い。
だが拾えば見つかる距離だった。リオルは原簿の留め紐だけを目で記憶し、馬車の行き先を選んだ。
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