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水汲み女の恐怖
清掃人の名はベルタ。五十を過ぎた小柄な女だった。
ガレスが共同井戸で待つと、彼女は空桶を置いて逃げようとした。追わずに帳簿の誤記だけを告げると、その場へ座り込んだ。
「盗みたくて盗んだんじゃない。孫を連れていくと言われたんだ」
井戸の石蓋を開けるところを、地下牢の監督官に見られていた。帳簿を渡せば孫の借財記録を消す、拒めば最下層へ送ると脅されたという。
リオルはベルタの孫の年齢を聞いた。九歳。
彼女は加害者ではなく、子どもを人質にされた被害者だった。
「監督官は次に何を求めた」
「青瓶薬房へ出入りする者の名前を、今夜渡せと」
リオルは偽の名簿を作らなかった。無関係な誰かの名を書けば、その者が捕らえられる危険がある。
代わりに自分の名だけを書いた。
リオル・セヴラン。死亡済み。
監督官がこの名簿を受け取れば、地下牢が隠してきた矛盾を自分の手で確認することになる。
ベルタと孫はミアの往診先へ移し、別々の経路で保護した。逃亡を強制せず、生活を続けられるよう近隣の洗濯仕事も手配する。
復讐の協力者を増やすためではない。脅しに使える人間を、敵の手から一人ずつ減らすためだった。
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