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左手を隠す少年王
ユリス三世は、朝の署名を終えるたび左手を水へ浸した。
十四歳の手のひらには、王冠に似た火傷がある。摂政アルヴェインからは、王たる者が負う聖痕だと教えられていた。だが署名が少ない日は痛まず、意味も読ませてもらえない命令へ血印を押した日だけ、焼けるように疼く。
今朝の書類は王都地下施設の閉鎖命令だった。
《老朽化により収監者を移送。旧記録は衛生上の理由で焼却する》
「収監者は何人ですか」
ユリスが問うと、摂政付きの書記官は空欄を手で隠した。
「陛下がお心を煩わせることではございません」
王である自分に、王命の対象を知る権利がない。
署名を拒めば、左手の古傷が先に熱を持つ。即位の日に交わした誓約が、摂政への服従を王務として強いていた。
窓の外では、十六歳の反逆者を描いた人相書きが配られている。十二年前にも同じ顔を見たと、老書記が小声で話していた。
ユリスは羽根筆を置き、書類の端へ小さな染みを作った。偶然に見える三角形。母から教わった「内容未確認」の印だ。
大きな抵抗はできない。それでも、自分の署名が完全な同意ではなかった痕跡だけは残せる。
書記官が紙を持ち去ると、左手の火傷は赤黒く腫れていた。
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