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名前を返す仕事
元織工リゼット・マーンの家族は、染色工房街の外れに残っていた。
夫は五年前に病死し、娘のクララが小さな織機を守っている。ミアが診療を装って訪ね、エマが古い税台帳から住所を照合した。
クララは母が犯罪者だったという通知しか受け取っていない。罪状も収監先も、遺体の行方も知らなかった。
リオルは姿を見せず、隣家の物置から話を聞いた。今ここで地下牢の全てを告げれば、彼女は監視対象になる。
オルドが短い確認書を作った。
《リゼット・マーンは冬月十二日まで王都地下施設で生存していた。目撃者三名》
犯罪の有無には触れず、生きていた事実だけを書く。クララは紙を何度も読み、母の名を指でなぞった。
「少なくとも、誰にも知られず消えたんじゃないんですね」
その言葉に、リオルはフィナの名簿を思った。
敵一人を倒すより先に、死者一人の存在を家族へ返す。それは復讐としては遠回りに見える。だが王国が最も恐れるのは、消したはずの名前同士がつながることだ。
帰路、エマはクララから受け取った母の古い雇用証を見せた。署名者はボルグ・アデン。
強制労働契約へ続く最初の原本が、名を返したことでこちらへ来た。
(次話へ)




