22/60
見えない包囲
その夜、薬房の周囲から巡回兵が消えた。
安全になったのではない。表通りの靴音がなくなった代わりに、裏路地の窓が三つ閉じたままになり、向かいの屋根に新しい煙突掃除人が座っている。
「監視へ切り替えましたね」
ノルが小窓の隙間から確認した。
敵は薬房へ踏み込まない。患者を巻き込めば騒ぎになり、死者扱いのリオルが見つかる危険もある。中から誰が出るかを見て、証拠の行き先だけを潰すつもりだ。
ミアは普段どおり往診の籠を用意した。帳簿は入れず、本物の薬だけを詰める。
「監視されても患者は待てません」
止めれば薬房の信用と日常が壊れる。敵が望む混乱を、自分たちで作る必要はない。
リオルは床下の六人を二組に分けた。動けない者は残し、オルドとエマは診療助手に変装する。班長は外へ出さない。
陽動ではなく、全て本物の仕事として動く。薬を届け、患者を診て、その途中で死者名簿の姓と家族を尋ねる。
復讐のためだけに王都を止めれば、無関係な民が代価を払う。
包囲の中でもパン屋は火を入れ、井戸番は水を汲み、薬師は往診へ出る。その流れへ紛れることが、今のリオルたちの盾だった。
(次話へ)




