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九指の運び屋
日暮れ前、青瓶薬房へ空の薬箱が届いた。
蓋の裏に《荷は受けた。送り主が死人なら、代金は墓で受け取る》と書かれている。九指のロッカからの返事だった。
指定場所は南市場の共同焼却炉。リオルは一人で向かおうとしたが、ミアが煤除けの外套を渡した。
「患者を一人で歩かせる薬師はいません」
同行したのはガレスではなくノルだった。若い看守が自分の意思で地下牢の外へ出て、最初に担う仕事でもある。
焼却炉の裏には、左手を手袋で隠した小柄な男が立っていた。
「白い蝋をどこで手に入れた」
「地下牢だ」
リオルが名を告げると、ロッカは笑わなかった。逃げ道を一度確認し、紙袋の蝋を灯りへ透かした。
「俺は荷を運ぶ。中身は聞かない」
「では、運んだ日と場所だけ聞く」
ロッカは沈黙した。依頼主を売らないという掟と、荷の記録を語ることは同じではない。
「十二年前から月に一度。ベルト鉱山の倉庫から王立施療院、そこから地下へ。帰りの箱には署名済みの紙が入っていた」
リオルは彼を捕らえず、証言契約を迫らなかった。
代わりに次の荷を頼む。地下牢帳簿の写し一部を、王都外の印刷所へ。
ロッカは長く考え、紙袋を懐へ入れた。
「運賃は、届けたあとだ」
(次話へ)




