20/60
一人目の死者名簿
エマは地下牢から写した四人の名を、薬房の粗末な帳面へ清書した。
死亡した一人はリゼット・マーン、元織工。空の牢に残された食器の名は、ハル、デニス、サラ。姓も年齢も分からない。
「これでは公的記録になりません」
ノルが悔しそうに言う。
「だから調べる」とオルドが答えた。「名が半分なら、半分から始める」
リオルはフィナの名を五人目に書こうとして、筆を止めた。死亡日を正確に書けない。地下に暦はなく、鐘と給餌回数から推測した日しかないからだ。
曖昧なまま書けば、後で全体の信用を崩される。
七色の糸を広げると、赤の結び目の中に、他より固い箇所があった。解くと、薬包の薄紙が針ほど細く巻かれている。
そこにはフィナ自身の字で、日付と一文が書かれていた。
《今日から兄さんには、私が眠っていると伝えて》
リオルは紙を閉じた。
妹は死ぬ直前まで、兄が力を失わないよう、自分の死を遅れて伝える手配をしていた。
帳面には感情を書かず、確認できた日付だけを記した。
フィナ・セヴラン。二十歳。死亡確認、冬月四日。
死者名簿の最初の一頁が、ようやく埋まった。
(次話へ)




