十三回目の鐘
鎖に浮かんだ文字は、古い誓約文だった。
拘束対象リオル・セヴラン。刑期は王命が尽きるまで。食事と治療を保証し、証人二名の立会いなく生命を奪わない――そう刻まれている。
十二年間、食事は腐りかけの粥だけだった。治療など一度もない。証人の名は黒く塗り潰されている。
違反された契約が、なぜ今になって見えるのか。リオルが指を触れると、文字の下に別の文が滲んだ。
《保証不履行。拘束権の移転が可能です》
意味を考える前に、遠くで鐘が鳴った。
一度、二度。王都の朝を告げる十二打が、厚い岩盤を震わせる。いつもならそれで終わる。
だが今日は、長い沈黙のあとにもう一度鳴った。
十三回目。
フィナは生前、あの鐘が鳴る夜だけ薬を飲まなかった。看守が増え、廊下の奥を誰かが通り、翌朝には必ず新しい血の跡があったからだ。
リオルは紫の糸を解いた。十三個の結び目が三組。その間に白い糸が一本ずつ挟まれている。
「鐘を数えていたのか」
妹は牢の中から、秘密の審問が行われた日を記録していた。
靴音が再び近づく。今度は一人ではない。鉄扉の覗き窓が開き、白い蝋で封じた紙が差し込まれた。
「本日をもって給餌契約を破棄する。血印を押せ」
紙面には、死を自ら望んだと認める一文があった。
リオルは笑わず、怒鳴らず、差し出された針を見た。
怒りを見せれば、彼らは怯えたふりをして暴力を正当化する。必要なのは感情ではなく、相手が隠したがる一行を見つけることだった。
「その契約、原本を読ませろ」
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