十二年目の朝
地下に朝は来ない。それでもリオルは、天井から落ちる水滴の間隔で一日の始まりを知った。
百まで数えて、眠ったままの右脚を石床へ下ろす。鉄輪に擦られた足首は、もう痛みより冷たさの方が強い。向かいの牢には、八年前から誰もいない。
「起きたぞ、フィナ」
返事の代わりに、水滴が三つ落ちた。
妹が最後に横たわっていた場所には、ほつれた毛布だけが残されている。看守は遺体も衣服も持ち去ったが、毛布の縁に縫い込まれた細い糸までは調べなかった。
赤、青、黄、白、緑、紫、黒。
七色の糸は飾りではない。暗闇でも指先で判別できるよう、結び目の数が違っていた。フィナは死ぬ前の三年間、薬包の紐や看守服のほつれを集め、何かを記録していた。
リオルは赤い糸の結び目をなぞった。四つ、二つ、また四つ。日付だと気づいたのは昨日だった。
牢の外で靴音が止まる。
「死亡確認は明朝だ。今日で給餌を終える」
扉越しの声は、こちらへ聞かせるためのものだった。
王国の記録では、リオル・セヴランは十二年前に処刑されている。地下でさらに一人死んでも、訂正される紙はない。
だが彼は毛布から七色の糸を抜き、一本ずつ左手首へ巻いた。
「悪いが、明朝の名簿には載らない」
立ち上がると、錆びた鎖の奥で、今まで見えなかった文字が淡く浮かんだ。
それは幻ではなかった。光は濡れた床にも映り、鎖から鉄輪、壁の留め具へ伸びていく。十二年もの間、ただの錆だと思っていた線が、細かな文章へ変わっていた。
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