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治療を先に
少年の名はニコ、十二歳だった。
熱は高いが、肺に致命的な音はない。飢えと冷え、古い傷の化膿が重なっている。ミアは薬を量り、坑夫には温石を運ばせ、エマには湯冷ましを頼んだ。
リオルは木札へ触れたまま、浮かぶ契約文を読んだ。
父の借財、逃亡時の連帯担保、鉱山主の収監権。だが署名欄にある父親の血印は、別人のものを薄く重ねている。偽造を暴くには原本か、本人の血印が必要だった。
「今すぐ壊せないのですか」
ノルの問いに、リオルは頷く。
力で木札だけを砕いても、誓約院の原簿には債務者として残る。ニコが地上を歩けば再び捕らえられ、今度は脱走罪まで加えられる。
ミアは包帯を巻きながら言った。
「なら、この子が歩けるまでに原本を探しましょう」
期限は三日。熱が下がれば、薬房の床下へ隠し続ける方が危険になる。
リオルは復讐対象の名簿を思い浮かべた。ダリウス、イレーネ、ボルグ、セリウス、摂政アルヴェイン。誰も今すぐには届かない。
だがニコの契約を作った鉱山主は、ボルグ・アデンの管理下にいる可能性が高い。
十二年越しの復讐と、目の前の少年を救う仕事が、初めて同じ方向を向いた。
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