薬師が覚えていた兄妹
ミアは十二年前、王立施療院の見習いだった。
地下牢への薬運びは、誰も引き受けたがらない仕事だった。陽の入らない階段、名を呼ばれない囚人、受領印だけを急かす看守。十五歳のミアは怖くて、いつも薬箱から目を上げられなかった。
それでも最下層の兄妹だけは覚えている。
兄は妹の分の水を残し、妹は兄の傷薬を自分の包帯へ隠した。二人とも助けてとは言わなかった。ただ、薬包の紐を捨てずに置いてほしいと頼んだ。
ミアは命令違反だと知りながら、赤や青の紐を選んで渡した。何に使うのかは聞かなかった。聞けば、答えを報告しなければならなくなるからだ。
やがて施療院から地下牢担当を外され、八年前にはフィナ死亡の知らせだけをガレスから受けた。自分が運んだ薬が足りなかったのだと、何度も夢に見た。
今、目の前にリオルがいる。頬は痩せ、声は掠れ、昔よりずっと静かな目をしていた。
謝罪の言葉は喉まで出たが、ミアは飲み込んだ。彼が必要としているのは、彼女の罪悪感を軽くする言葉ではない。
「薬の搬送記録は七年分あります。盗難扱いにされなかった荷も全部」
そう告げると、リオルは一度だけ深く頭を下げた。
ミアは初めて、過去を悔やむだけでなく、今から証人になれるのだと知った。
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