青瓶薬房
店の扉には《青瓶薬房・夜明け前も診療》と手書きの札が下がっていた。
ガレスが三度、間を置いて二度叩く。内側の閂が外れ、短い黒髪の女が顔を出した。薬師の白衣は袖をまくり、指先に乾いた薬草の色が染みている。
「急患は何人――」
女の視線がリオルで止まった。
「リオル、様?」
ミア・テルゼ。かつて地下牢へ薬包を運んでいた少女は、二十四歳になっていた。リオルが覚えているのは、重い薬箱を両腕で抱え、看守へ怯えながらもフィナへ水を多めに渡した姿だ。
再会の言葉を交わす前に、ミアは少年の呼吸を確かめた。
「奥へ。話は治療しながら聞きます」
店の床下には、貧民街の患者を泊める六床の小部屋があった。坑夫とエマもそこで診察を受ける。ミアは誰が囚人で誰が看守かを問わず、まず湯と薄い薬粥を配った。
班長だけは入口近くへ座らせ、ガレスが見張る。
少年の木札を見た瞬間、ミアの顔が固まった。
「この契約番号、うちから盗まれた薬の搬送票と同じです」
地下牢の給餌費、北方鉱山、そして薬房から消えた荷。別々に見えた数字が一本の線へ近づく。
リオルは白い蝋の包みを卓上へ置いた。
ミアはそれを見ず、先に少年の冷えた手を温めた。
「証拠は逃げません。人は、今助けないと消えます」
その順番を、リオルは忘れないよう胸へ刻んだ。
(次話へ)




