2;0... - !現実!
白い光。
最初はただの白い光。朝もやのようにぼんやりと、やわらかい。それから輪郭。窓の長方形。右側の点滴。誰かの髪——灰がかった亜麻色に、ターコイズブルーのメッシュ。
匂い。病院の匂い——消毒液、糊のきいたシーツ、それにかすかな、不安を呼び覚ます何か。
音。モニターの規則的な電子音。どこか遠くの廊下を歩く足音。
記憶は目を開けた。
「あっ! あっ! あっ!」洋子が椅子の上で飛び跳ね、危うく荷物の入ったバッグをひっくり返しそうになる。「記憶くん! 起きた! やっと!」
彼女は彼に飛びつき、強く、とても強く抱きしめた。あまりに強く、肋骨が痛んだ——確か、折れていたはずのあの肋骨だ。
「しっ、しっ、ちび、絞め殺す気か」彼はしゃがれ声で言った。
洋子はすぐに身を離した。顔がぱっと赤くなる。
「ごめん! ごめんね、ただ……すごく怖かった! ずっと寝たままで、お医者さんも何も言ってくれなくて、私、記憶くんが……その……」
「生きてる、生きてるよ」記憶は顔をしかめ、起き上がろうとした。身体はしぶしぶ従ったが、明らかに壊れてはいなかった。「ここはどこだ?」
「聖ルカ病院」洋子は彼の背中に枕をあてがい直した。「昨日の夕方、運ばれてきたんだよ」
「昨日……」彼は眉をひそめた。「どのくらい意識がなかった?」
「ほぼ丸一日。お医者さんは過労と軽い脳震盪だって。大したことないけど、あっちを怖がらせたんだよ」
記憶は手を顔に持っていき、慎重に額に触れた。指が滑らかな肌を探る。包帯もない。傷跡もない。こびりついた血も。彼はもう一度、もっと丁寧に指を這わせた。何もない。
「血がない」彼は呟いた。「傷もだ」
洋子は小首をかしげた。
「どういうこと? 血が出てたの?」
「いや……」記憶は眉をひそめ、散らばろうとする思考をかき集めようとした。「意識を失う前、俺は血まみれだった。ここに」彼は額を示した。「流れてた。俺、『これって血か?』って聞いて、それから倒れたんだ」
「え?」洋子は心底困惑した顔で彼を見つめた。「ばかな記憶くん。記憶くん、愛波さんを探して廊下を走り回ってるときに、ただバタンって倒れたんだよ。私、カンファレンスホールのドアのところで見つけたんだから。床に倒れてて、紙みたいに真っ青で、爆発がどうとか、うわ言を言ってた」
記憶は固まった。
「廊下で?」
「そうだよ。警備の人が救急車まで運んでくれたんだから」
「じゃあ……」彼は唾を飲み込んだ。急に喉が乾く。「爆発は?」
洋子は視線をそらした。その微笑みがかすんだ。
「ああ、うん……爆発」彼女は静かに言った。「まあ……爆発はあったよ。上の方の階で。幸い、誰も怪我しなかった。みんな無事だよ。機材と、いくつかの部屋がやられただけで。ビルはしばらく改装で閉鎖だって。ガス管のトラブルだとか、空調システムだとか。まだ正確にはわかってないみたい」
記憶は彼女の言葉を聞きながら、内側で冷たいものが大きくなっていくのを感じた。外から——一月の窓から——来る寒さじゃない。別のものだ。深奥の冷たさ。
「そうか」彼はかろうじて聞こえる声で言った。
そしてそのとき、記憶の中で一枚の絵が閃いた。屋上。煙。炎。そして彼女——愛波——不自然な姿勢でコンクリートの上に横たわり、腕はねじ曲がり、ピンクの髪は血で固まっている。その両眼——見開かれ、動かず、どこも見ていない。
記憶は素早く洋子に向き直った。
「久沙さんは? 無事なのか?」
洋子はまばたきした。
「うん、もちろん……学会が終わってすぐに発ったんだよ。結局、記憶くん謝れなかったね。私、言ったよね、『彼女を探して、探して』って。なのに記憶くんは……」彼女はため息をつき、首を振った。「いつも台無しにするんだから、記憶くんは」
彼は答えなかった。
彼は窓の外を見ていた。ガラスの向こうには雲が流れている——普通の、ふわふわした、夕日に照らされた雲。街は自分の生活を生きていた。橋の上を車が走る。モノレールが高架を滑っていく。すべてが正常だった。すべてがあるべき通りだった。
ただひとつを除いて。
彼は死んだ愛波を覚えていた。
彼は額の血を覚えていた。
破壊された屋上で闇が自分を包んだのを覚えていた。
そして、あの言葉を覚えていた。「すべては、違うものになる」。
───
数時間後、彼は退院した。医者は深刻なものは何も見つけられず、洋子は先に帰らなければならなかった。祖母から電話があり、夕食の支度を手伝ってほしいと言われたのだ。彼女はポットにお茶を、それから餅を二パック残し、彼の頬にチュッとキスをして、明日はラボに行くと約束しながら走り去った。
記憶は一人で病院を出た。
夜の東京が、冷たい風と無数の灯りで彼を迎えた。通りはもう人で溢れている。家路を急ぐ者、バーへ向かう者、ただ凍てつくような澄んだ空気を楽しみながら散歩する者。すべてが普通だった。あまりに普通すぎる。
彼は浴衣のポケットに両手を突っ込み、バス停へと歩いた。頭の中では昨日の断片がぐるぐる回っている。
廊下での衝突。床に散らばった書類。彼女の冷たい声。「あんたが誰かなんて、どうでもいいの」。
学会。口論。自分の声。「タイムマシン? ひどく子供じみてる」。怒りに満ちた彼女の視線。
屋上。対話。彼女の微笑——短く、不意の、本物の笑み。
彼女のささやき。「すべては、違うものになる」。
爆発。血。闇。
「これはいったい、何を意味するんだ?」青信号で通りを渡りながら、彼は考えていた。「まさかこれが偽りの記憶だっていうのか? あの街の人たちと同じような? 施設の廊下のときと同じ? 洋子のときと同じ?」
彼は自分の装置を思い出した。メモリーエラー。輪郭の不整合。外部干渉の可能性、ゼロ。
「ならば、異常は内部にある。俺の中に。俺の頭の中に。でも、どっちが本物なんだ? 俺は実際にはどこにいた——屋上か、廊下か? そしてなぜ洋子はあることを言い、俺は別のことを覚えている? それに彼女の言葉……『すべては、違うものになる』……まさか彼女は知っていたのか? まさか彼女は……」
彼は歩道の真ん中で、はたと立ち止まった。
「いや、違う」彼は自分自身にささやいた。「何かのたわ言だ。そんなはずがない。タイムトラベルは不可能だ。それは科学的事実だ。公理だ」
しかし内側では、すでに何かが罅割れていた。彼の世界観を支えていたまさにその公理が、夢月の時計のガラスと同じように、罅割れたのだ。
彼はバス停に近づいた。バスはまだ来ていない。彼は時刻表の柱のそばに立ち、前を見ていたが、通りも、人も、ネオンも見えていなかった。見えているのは、ただ何度も何度も再生される映像だけ。屋上から開くドア、ピンクの髪、コンクリートの上の血。
それから彼は、何とはなしに左を向いた。
ただ、なんとなく。
偶然に。
そして世界が止まった。
十メートル先に、彼女が立っていた。
愛波久沙。
生きている。
長いピンクの髪は無造作なポニーテールにまとめられ、見覚えのない紺色のコートを着ている。手にはコーヒーのカップを持ち、スマートフォンに目を落としていたが——彼の視線を感じて、顔を上げた。
視線が合う。
一秒。
二秒。
三秒。
「久沙……さん」記憶は息を漏らした。声が裏切って震える。
愛波は目を細めた。そのピンクの瞳——永遠に閉じられているのを見た、あの瞳——が、かろうじて隠した苛立ちとともに彼を見つめている。
「また、あなた」彼女は言った。ぞんざいに。冷たく。まるで屋上での会話などなかったかのように。まるで彼に微笑みかけなかったかのように。まるで、今や彼を内側から焼いているあの言葉をささやかなかったかのように。
「あ……え……ぼくは……」記憶は口を開けたり閉じたりした。言葉を文にまとめることができない。
彼女は生きていた。
彼女は無事だった。
だが、彼を見る目は見知らぬ者へのものだった。
敵を見る目だった。
自分の学会を台無しにしただけの人間を見る目だった——ただそれだけ。
そして記憶は、一月の冷たい空の下、バス停に立ち、生まれて初めて本当の恐怖を知った。爆発でもない。血でもない。死でもない。
自分がもはや、どちらの現実が本物なのか、まったくわからなくなっているという事実に対して。




