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GGTR;私の死体の中に、他人の明日が息づいている  作者: 阿川佳代志
奇妙な出来事の始まり、偉大な科学者の始まり
3/12

1;2... - !エナジードリンクとコカ・コーラ!

よく晴れた、凍てつくような朝だった。


文京区の小さな公園は、昨日の名残の霜に覆われ、青白く澄んだ空の下でまどろんでいた。裸の桜の枝が老人の手の甲の血管のように天へと伸び、公園の中心にある池には薄く氷の膜が張っている。二、三組の年金暮らしの夫婦が豆粒のような小型犬を散歩させていた。オーバーサイズのセーターを着た女子高生がベンチに座り、スケッチブックに何かを描いている。都会の喧噪は遠くに霞んでいるが、ここ、古びた街灯と木々のあいだでは、その騒音さえどこか礼儀正しく感じられた。まるで東京が、ほんの束の間、叫ぶのをやめることにしたかのように。


記憶は飲料の自販機の前に立ち、普通の人間が株価速報を読むときのような集中力で缶の列を眺めながら、考え深げに顎を撫でていた。


「もう五分も選んでるよ」洋子が、暖を取るようにその場で軽く跳ねながら言う。彼女はあのだぼっとした袖を下ろした灰がかったベージュのジャケットに飾りベルトをつけ、ニット帽の下からはターコイズブルーのメッシュがのぞいている。「エナジードリンクなんて三種類しかないじゃん」


「四種類だ」記憶は振り返らずに訂正した。「新入荷だ。タウリンとガラナエキス入り。これで状況は一変する」


「缶の色が変わるだけでしょ」


「人間の運命における缶の色の重要性を、君は過小評価している」彼はついにボタンを押した。自動販売機が快い低音を立て、まず一本、それから二枚目の硬貨で二本目が、取り出し口に鈍い音を立てて落ちてくる。「はい」


彼は洋子にコーラを手渡した。瓶入りのものだ。彼女はどうしても瓶しか受けつけなかった。アルミ缶のコーラは「諦めた味がする」からだという。


「ありがと」彼女は両手で瓶を受け取り、冷たいガラスで手のひらを温めながら言った。「記憶くん、エナジードリンクちょっと控えたほうがいいよ。頭が爆発するって」


記憶はプルタブを指で鳴らし、一口飲んでうっとりと目を細めた。


「心配いらない。起こりうる最悪の事態は、俺がさらに天才になることだ。それはプラスでしかない」


「手が震える天才なんて見たことないけど」


「それは君の調査不足だ」


二人は去年の落ち葉が散り敷いた並木道を歩き出した。枝葉を透過した陽光が、アスファルトの上に震える影を描いている。記憶は大股で、缶を振り回しながら歩き、風のたびに緑の着物風浴衣がはためくものだから、通りすがりの人々がわずかな困惑とともに横目で見ていく。洋子はその横をちょこまかと、彼の一歩に二歩を合わせてついてきた。


「記憶くん」池のそばに差しかかったとき、彼女が言った。「静羽に謝らなきゃだめだよ。覚えてる?」


「覚えてる、覚えてるよ」彼は顔をしかめ、もう一口飲んだ。「毎回言うなよ、な?」


「だって自分から絶対にやらないから言ってるんだよ」洋子はため息をつき、その息が白い靄になった。「昨日、泣きながら飛び出したんだよ。気づいてた?」


記憶は黙り込んだ。気づいていた。何もかも気づいていた。時計のひびも、夢月の目に浮かんだ涙も、彼女が肩をドア枠にぶつけたことも。ただ、それをどうすればいいのか、まるで見当がつかなかっただけだ。


二人はベンチの前で足を止めた。洋子は足を抱えるように座り、コーラを一口含む。記憶は立ったまま、池を見つめていた。


「ねえ」洋子は静かに言い、その声は突然、より柔らかく、温かくなった。「私、すごく願ってるんだ。記憶くんと静羽が、本当の意味で仲良くなってくれたらいいなって」


「仲良くしてるだろ」


「してないよ。記憶くんは彼女を我慢してて、彼女は記憶くんが怖い。それは『仲良くしてる』とは言わないんだよ」


記憶は軽い驚きとともに彼女を振り返った。洋子がこれほど率直に話すことはめったにない。彼女はいつも批判を冗談かお菓子の差し入れに包んでしまう。けれど今は、ベンチに座り、その鮮やかな青い瞳で彼を見上げている。その視線の奥に、今まで気づかなかったものがあるのを感じた。子供っぽい愛着でも、友達としての気遣いでもない。


もっと、大人びた何か。


「昨日の静羽、すごく驚いてた」洋子は続ける。「最初は、記憶くんの機械の装置にね。彼女、誰も見てないと思って、こっそり図面をじっくり見てるんだよ。実験が始まったときなんて、ちょっと笑ってた。記憶くんは見てなかっただろうけど、私は見てた」


「それで?」記憶は肩をすくめたが、なぜか喉が乾いていた。


「それで、記憶くんだけが変わり者じゃないってことだよ、レイ」彼女は今日初めて彼を名前で呼び、それはほとんど平手打ちのように響いた。「自分だけが何かから逃げてると思う? 自分の機械の後ろに隠れてるのは自分だけだって? 静羽は話さないんだよ。まったく。どうしてか、一度でも聞いた?」


記憶は口を開いた。閉じた。また開いた。


「ぼくは……」彼は言葉に詰まった。


洋子はまっすぐに見つめ続けている。彼女の指の中で、ガラスの瓶は手の温もりで温まり、表面に結露が浮かんでいた。目の下の泣きぼくろが、睫毛と一緒にほんの少し震える。


「記憶くんは、いい人だよ。本当に。でも、時々、自分の天才に忙しすぎて、まわりの人が見えてないんだよ。いるんだよ、ちゃんと。みんな本物で、みんな怖がってるんだよ」


静寂が訪れた。


遠くで犬が一度吠えた。ベンチの女子高生がスケッチブックのページをめくる。池の氷が静かに鳴った——ひとりでに、なんの理由もなく。


記憶は洋子の隣に腰を下ろした。近すぎず、かといって反対の端でもない距離に。エナジードリンクの缶を肘掛けに置き、両手の指を組んだ。


「今日はなんだか……」彼は言葉を探すように手をくるりと回す。「真面目だな。なんかあったのか?」


洋子は視線をそらした。もう一口飲む。それから微笑んだが、その笑顔はいつもほど明るくはなく、むしろ考え込んでいるようだった。


「ただ……」彼女はためらった。「時々思うんだ。私、みんなのことを、ちょっとだけ違う風に覚えてる気がする。実際にあったこととは、違う風に」


記憶の動きが止まった。


「どういう意味だ?」


「わかんない」彼女は肩をすくめて笑ったが、その笑いは少し緊張していた。「バカみたいな話なんだけどね。頭の中の絵が、時々、なんていうか……二重に見えるんだ。ほら、アンテナがずれた古いテレビみたいに。何かをすごくはっきり覚えてるのに、次の瞬間——パッ!——それが本当だったか、夢だったか、わからなくなるの」


記憶の中で、何かがきゅっと締めつけられる。昨日の実験を思い出していた。施設の廊下。ひとつの記憶のふたつのバージョン。どちらも等しく本物だと感じられた。


「具体的に、何を覚えてるんだ?」彼は声の平静を保とうと努めながら尋ねた。


「だから、くだらないことだって」洋子はぱっと顔を輝かせ、手を振って立ち上がりながら、記憶の肩をポンと叩いた。


「で、今日はどこに行くんだっけ? なにも聞いてないよ!」


記憶は目を瞬き、硬直から逃れるように勢いよく立ち上がった。エナジードリンクが倒れそうになり、彼はすんでのところで缶をつかむ。


「ああ、そうだ! そうだった!」彼は咳払いをし、背筋を伸ばして芝居がかったポーズを取った。「我が愛すべき助手よ! 今日という日、我々は、おそらく新たなる知識と発見の入り口に立っている! なぜなら、これよりロシアから来た科学者と会いに行くからだ!」


洋子は驚いて眉を上げた。


「スマホには『今日は笑いに行く』って書いてたけど」


「だからそうだろ」記憶は肩をすくめ、にやりと笑った。「相手はロシア人だ。仕方ないだろ」


「ほんと、手がつけられないね」洋子は目を丸くしたが、口元が笑みにぴくりと動く。「それから、マフラー忘れてる」


「忘れてない。主義として巻かないだけだ」


「一月に? 東京で?」


「天才は凍えない」


「天才は馬鹿だよ」洋子は自分の首に巻いていたスペアのマフラー——例の、子供っぽいペンギンの絵がついたもの——をほどき、彼の手に押しつけた。「巻いて。で、行こう。ロシアの科学者を待たせちゃだめだよ。もっと謎めいた人になっちゃうから」


記憶はマフラーを見た。それから洋子を。それからもう一度マフラーを見た。


「わかった」彼はぶつぶつ言いながら、マフラーを首に巻きつけた。「だがこれは、ペンギンが俺の瞳の色に合うからだ」


「まったく合ってないけど」


「俺の想像のなかでは、完璧に合っている」

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